概要
剣道具を身につけ、竹刀を用いて一対一で打突しあう「運動競技種目 (スポーツ)」と見られがちだが、稽古を続けることによって心身を鍛練し人間形成を目指す「武道」である。この点は、全日本剣道連盟の公式サイトでもとても強調されている。
礼節を非常に重んじるのが特徴。試合中に相手や審判に対し非礼な行為 (有名なものでは勝利後のガッツポーズ) があれば即座に一本の取り消しや反則などの厳しい罰則が下されたり、剣道場に出入りする際は必ず一礼を行うという常識があったりする。正座や座礼は基本の構え以上に基本であり、絶対に欠かせない。昇段審査においては、着装 (剣道着・袴・防具の着用の正しさ) も非常に重視される。
剣道具などの道具を乱雑に扱わないことも常識とされる。道具の扱いに関してはタブーがとても多い。たとえば、床に置いた竹刀をうっかり足でまたいでものすごい剣幕で怒られる、というのは剣道初心者にありがちな光景。防具の付け外しも、必ず正座 (垂が付けにくい場合は膝立ちも可) で行い、立ってやってはいけない。
現在は日本のみならず、海外にも広まっており、世界大会も開催されている。全世界の剣道を統括する国際剣道連盟に加盟している国と地域は47にものぼる (2006年現在)。
単に剣道といえば、ほとんどの場合全日本剣道連盟 (全剣連) の制度や稽古法にのっとったものを指すので、以降の記述も全剣連の剣道に沿って記述する。
このほか、全剣連から分離独立して出来た日本剣道協会という団体もあり、体当たり・足払い・組み打ち (要は竹刀を手放して取っ組み合い) といった肉弾戦が認められている、段級位制度が異なり小学生でも実力さえあれば高段の取得が可能など、全剣連の剣道とは異なる部分がある。ただし、日本剣道協会の活動範囲は東京都練馬区周辺の限られた範囲に限定されており、意識せずに全剣連以外の剣道に出会う機会はそうそうない。
着衣と防具
試合
- 試合をする場所は基本的に板張りの床で、一辺を9mまたは11mの正方形または長方形の中で行われる。
- 選手は剣道着と袴、防具を着用し、竹刀を用いて相手の面、胴、小手、突き垂れ(面のアゴの下からのびた部分。ただし中学生以下は危険なので突きは禁止)のいずれかに「有効打突」すれば一本となる。
- 試合時間は5分で、その時間内に先に二本先取した者が勝ちとなる。
- 一方の選手が一本を取り、それで試合時間が終了した場は、取った者を勝ちとする。時間内に決まらなかった場合は延長を行うことになる。
- 団体戦では、上記のルールを基にし、5人または3人で試合を行う。勝者の数でチームの勝敗を決定する場合と、勝ち抜き戦の2種類がある。
有効打突の条件
「有効打突」と認められるには、ただ打突するだけでなく、以下の条件を満たさなければならない。
- 気勢が十分であること
発声も非常に重要。ただし、たとえば面を打ったら「メーン」と言わければならないと思っている人も多いが、不当なものでなければ別のかけ声でもかまわない。 - 残心があること
残心とは、一撃を決めたあとも心身ともに油断しないこと。剣道においては、相手から反撃あっても返すことができる姿勢と心構えを崩さないことである。 - 姿勢が適正であること
- 刃筋が正しいこと
刃筋とは、竹刀の軌道と刃に相当する部分の向きのこと。つまり、もし刀だったらちゃんと刃が当たって切れている刃筋でなければならない。
逆に、以下の条件のいずれかにあてはまる場合は有効打突は成立しない。
- 有効打突が両者同時に起こった場合。(相打ち)
- 打突された側の剣先が相手の上体前面に付いており、気勢と姿勢が十分であると判断した場合。
反則
以下の行為をした場合は反則となる。反則は2回で相手側に一本となる。
- 相手や審査員に無礼な態度をとったとき
- 竹刀を落としたとき
- 場外に出た時、また相手を不当に場外に出したとき
- 不当な鍔競り合いをおこなった場合 - これが最も起こりやすい反則で、この場合審判から「分かれ」の指示を受ける
- 指定された以外の用具を使用した場合 - 竹刀は重量や長さの規定が厳しく、これに関して反則が起こることが多い
かつてのテレビ番組『トリビアの泉』により「勝者のガッツポーズ禁止」が有名となったが、これは試合規則において明確に禁止されているわけではなく、「打突後に有効を必要以上に誇示」もしくは「相手に対しての非礼」と見なされ、審判の裁量によって罰則が下されるものである。また、反則ではなく、ガッツポーズの寸前に取った一本の取り消しとなることが多い。
段級位制
剣道には、技術的力量を示すために、六級から一級、初段から八段までの段級位が設けられている。支部によっては、非公式の級位として十級から七級が設けられている場合もある。
段級 | 受審条件 | 備考 |
---|---|---|
六級 | なし | 二級以下は主に小学生や、初心者の中学生が取る 高校生以上が受審する機会は初心者であっても基本的にない |
五級 | なし | |
四級 | なし | |
三級 | なし | |
二級 | 小学六年生以上 | |
一級 | 小学六年生以上 | 小学生が取れるのはここまで |
初段 | 満13歳以上の一級受有者 | 2011年度より受審条件が改定 (中二→満13歳) |
二段 | 初段受有後、一年以上修業 | 中学生が取れるのはここまで |
三段 | 二段受有後、二年以上修業 | 高校生が取れるのはここまで |
四段 | 三段受有後、三年以上修業 | 浪人していない大学生が取れるのはここまで |
五段 | 四段受有後、四年以上修業 | |
六段 | 五段受有後、五年以上修業 | ここより上は合格しただけで剣道専門誌に名前が掲載される |
七段 | 六段受有後、六年以上修業 | 合格率8%前後 |
八段 | 46歳以上で七段受有後十年以上 | 剣道における最高段位、合格率1%以下 |
二段から七段は、ひとつ下の段位を受有してから、その段位の数と同じだけの年数の修行を重ねないと次の段位審査を受けることができない。例えば、四段を目指すは、三段を受有してから三年間修行を積まないと、四段の審査を受けることができない。また、最高位である八段のみ、七段合格から十年間の修行を要する。
段位をとることはもちろん容易ではないが、特に六段より上への合格は非常に難しく、七段の合格率は8%、八段に至っては1%と限られる。少なくとも三十年以上は鍛錬を重ねてきた七段の先生方が百人受験しても、そのうちの一人しか合格できないということである。事実、八段戦(八段者のみの大会)参戦者の平均年齢は約58歳である。 優れた剣道家でも、生涯を通じて挑戦し続けたもののとうとう届かないまま亡くなった、ということもままある。
かつては九段、十段が存在していたが、2000年の制度改定に伴い廃止されている。ただし、廃止前に取得した九段・十段は無くならない。
オリンピック競技にならない理由
剣道は、オリンピック参加を長年求められ続けていながらも悉く拒否している。これには、
- 剣道は武道であって、勝ち負けを競うのが主目的ではない。そのため、現在のオリンピック柔道のようにスポーツ競技化 (カラー道着の導入や試合至上主義化) されるのを嫌がっている。
- 「有効打突」の条件が抽象的かつ複雑で、審判に委ねられる裁量がとても大きいため、誤審騒ぎでエラいことになるのが目に見えている。ちなみにフェンシングでは電気審判機が広く利用される。
をはじめとして、さまざまな理由がある。ちなみに 1. に関しては、スポーツ化された柔道をあえて「JUDO」と表記し、武道としての柔道と区別する人も少なくない。
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関連項目
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