概要
金沢カレーとは、カレー2.0の火付け役である。
石川県金沢市を発祥とする独自の特徴を持ったカレーの総称で、2000年代にゴーゴーカレーが流行したことで全国的に有名になった、ご当地B級グルメの一つである。
主な特徴
特別な調味料を使うことで生み出される「濃厚で粘度の高いルー」が最大の特徴。それも店によって独自にアレンジしているため味は大きく異なっている。
また通常のカツカレーと違い、カツにソースが掛かっていたりキャベツが添えられているが、これは金沢カレーの元祖レシピが「カレーライス+とんかつ定食」から生まれたためである。
一般的にはカツカレーとしてのスタイルが認知されているが、別に限定はされていない。トッピングのないプレーンカレーもあれば、エビフライやソーセージなどカツ以外も提供されている。福神漬けやラッキョウを提供している店もあるなど、カレーとして普通に様々なスタイルで提供されている。
名称
上述の特徴を持ったカレーの歴史は半世紀以上あるが、それを金沢カレーと呼ぶようになったのは最近。これは2000年代に流行したゴーゴーカレーの功績が非常に大きいことは間違いないだろう。
ただし上述の特徴を持たないカレーを金沢カレーと呼んでいるケースも普通にあり、例えば地元・佃食品の「佃の金沢カレー」は、金沢カレーという名称の初出とする説もあるほど初期から名乗っている。
2000年代は全国でご当地B級グルメが流行した時代でもあり、多くの「地域名+料理名」という名称が頻出した。そのため金沢カレーという名称の初出についても諸説あり確定はしていない。
食べ方
独自の特徴があるとは言えカレーに過ぎず、食べ方にもスタイルなどない。
一部のメディアで「ライスとルー、キャベツを全部混ぜて食べる」と紹介された例もあるが、少なくとも地元金沢でそのような食べ方が定着したことは一切ない。むしろカレーを混ぜて食べるという行為自体、行儀が悪いと嫌う人が多いのは石川金沢/金沢カレーも同じであるので注意されたし。
なおスタイルとまでは言わないが、味が濃く粘度も高いためルーが強くなりがちであるため、普通のカレーよりもライス多め(ルー少なめ)のバランスで食べると、より美味しく味わえるだろう。
歴史
2013年に地元TV局HABで放送された「北陸食遺産スペシャル」と、2018年にチャンカレが公式サイト上で公開した「金沢カレーの歴史」をもとに紹介していく。
【1955年頃】
鉄道弘済会が現在の金沢駅東口付近に、レストラン「ニューカナザワ」を開業する。この店のカレーは普通の洋風カレーだったようで、金沢カレーの直接の起源というわけではないが、この店のシェフたちが後に老舗金沢カレー店の創業者になる。その歴史を語るには欠かせない店であろう。
【1961年】
ニューカナザワの洋食部門チーフであった田中吉和氏が独立し『洋食タナカ』を創業、「どろり濃厚ルー+とんかつ定食」という、金沢カレーの原型となるレシピを考案し、地元で大人気となる。その味と人気に驚いたニューカナザワ時代の同僚である今度忠氏に、田中氏はその「元祖レシピ」を教えたという。
【1964年】
ニューカナザワの和食部門より野村幸男氏が独立し『インデアン』を創業。しかし独立して最初の店である金劇ビル地下の店舗は極めて狭く、ここで和食の複数メニューを提供するのは不可能と判断。前述の今度氏をシェフに招聘してカレー専門店としており、元祖レシピが伝わる。
【1965年頃】
洋食タナカでカレーが大人気になるあまり、ほぼカレー専門店へと姿を変える。この時、店名も「カレーライスのタナカ」に改称している模様。
【1966年】
ニューカナザワより宮島幸雄氏が独立し『キッチン・ユキ』を創業。開店前後には田中氏や今度氏が応援に駆けつけており、そこで元祖レシピが伝わる。
【1971年】
タナカの常連客であり地元金融機関に勤めるサラリーマンだった岡田隆氏が、田中氏に対して協業を持ちかける。岡田氏は脱サラし『ターバン』を創業。田中氏は共同経営者としてターバンの取締役に就任し、自らの店であるタナカを『ターバンカレー高岡町店』に改称する。
また当時タナカの支援に入っていた今度氏が、田中氏の元を離れ弟を創業者として「洋食アルバ」を開業。数年後には自らカレー専門店『カレーの市民アルバ』を開業している。
【????年】
ニューカナザワで修行していた高田義数氏が、実家の定食屋『大黒屋』に戻る。また後に店を『うどん亭 大黒屋』に改称している。(時期などの詳細は不明)
【1973年】
田中氏がターバン取締役を辞任。自身の店であるターバン高岡町店を野々市に移転し、翌年には『タナカのターバン』に改称して開店。
【1996年】
岡田氏が「ターバン」の商標を取得し、田中氏に対してターバンの名称を利用しないよう通知。これに伴い田中氏は自身の店を『カレーのチャンピオン』に改称する。(詳細はこちらに別記)
【2003年】
岡田氏のターバンで修業した宮森氏が独立し『ゴーゴーカレー』を創業。当時の「ご当地B級グルメブーム」もあり金沢カレーという名称と合わせて、東京で大流行した。
元祖たる店舗
カレーのチャンピオン
地元金沢で最も人気がありチャンカレと呼ばれ愛される、金沢カレーの「元祖」を名乗る店。
カレー専門店で、フランチャイズやライセンシーを含めて北陸を中心に各地域へ展開しており、その店舗数は2019年現在なんと日本5位である(と言っても40店舗に満たないが)
店舗ごとに一部メニューが安価になるサービスタイムを設定しており、特に本店では営業時間の殆どが対象となるため多くのファンが集まる。関連楽曲『カナザワカレー』の歌詞「サービスタイムはやっぱLカツ」は、本店でサービスタイムにLサイズのカツカレーが安くなる所からきているわけだ。
元祖たる店舗「洋食タナカ」は1961年創業。そこから「カレーライスのタナカ」、「ターバンカレー高岡町店」、「タナカのターバン」と名称変更を経て、1996年に現在のチャンカレとなった歴史を持つ。
創業者の田中氏はいくつもの名門洋食店で修行し、また複数の店で料理長を勤めた経歴を持つ名シェフ。独立後には自らの店で「どろり濃厚ルー+とんかつ定食」という元祖レシピを考案した、正に金沢カレーの生みの親たる人物であった。
インデアンカレー
カレーだけでなくスパゲッティやオムライスなども提供している、昔ながらの洋食レストラン。金沢富山に3店舗と茨城にも店があるほか、長野にもルーを提供している店がある模様。
なお同名の店が関西や北海道などにあるが、いずれも無関係。大百科に記事があるのも別の店である。
創業当時はカレーのみ提供しており、これが金沢初のカレー専門店とか。また飲食店としてフランチャイズ制を取り入れたのも金沢初。更には北陸で有名な「やさたま(野菜玉子)カレー」の初出でもあるなど、革新的な取り組みをいくつも行っていたという。(いずれも諸説あり)
創業者の野村氏が倒れたときに会社を解散し直営店を閉鎖していた(弟がルーの製造を引き継いだためフランチャイズ店は運営していた)時期があるため、地元でも世代によってはその歴史を知らない人も多いが、今は「金沢カレーの源流」を名乗って直営店舗も復活している。
キッチン・ユキ
レトロで落ち着いた雰囲気の、昔から地元で老若男女に愛される人気の洋食レストラン。
カレー以外の洋食も提供していることから地元でも系譜にあると知らない人も多かったが、現在は「金沢ブラックカレー」を名乗っており、金沢カレーの店の一つとしても認知されている。
本店と支店「浪漫」の2店舗経営。
浪漫は北陸自動車道、徳光PAそばの通称「車遊館」内にあるため、車で金沢/石川を観光される方にも訪問しやすい店……だったのだが、この施設の管理会社が倒産したこともあり現在閉鎖している模様。
創業者の宮島氏は、ニューカナザワ以前から田中氏と同じ店に勤めていた名シェフ。ニューカナザワでも田中氏とは親友としてライバルとしても切磋琢磨していた仲であり、田中氏同様に仕事を趣味とするような職人気質の男だったとか。
カレーの市民アルバ
老舗の中でも金沢から最も遠い小松に本店を構える店。地元の雄・ゴジラ松井が星稜高校時代に鳴和店へ通ったことで知られている。県内に数店舗と、フランチャイズ(KGF)の店が首都圏にある。
ネットで公式サイトが見つかる秋葉原が本店のアルバは、このKGFが運営している店。KGFの(元)親会社は大手商社の加賀電子で、当時の社長と今度氏とが高校時代の先輩後輩という間柄であったことから、今度氏がアルバを発展させたいと相談したことでKGFが設立されたという。
創業者の今度氏は、ニューカナザワで同僚たちに愛された名脇役。田中氏から直接元祖レシピを教わった唯一の人物とも言われている。タナカやインデアン、ユキの創業を支援して自らの店も創業し、チャンカレが大人気となった際にはルー製造の工場長も務めるなど、元祖たる店たちに大きく関わっていた。
うどん亭大黒屋
金沢市長土塀に店を構える定食屋。
地元でも金沢カレーの店とは知られておらず、また名乗ってもいないが、ここで提供されるカレーは紛れも無くその特徴を受け継いでいる。カレーうどんも出汁で伸ばしていない濃厚なルーで味わえる。
単独店であるため地元以外で味わえないのが残念だが、もしレトルトなどで金沢カレーのルーが手に入ったら一度うどんにかけてみると、雰囲気だけでも楽しめるのではないだろうか。
大黒屋は金沢カレーより古い歴史を持つ老舗の定食屋。日本に洋食文化が伝わりだした頃に、金沢でいち早く洋食を取り入れた店とされる。その跡継ぎである高田氏も修行のためニューカナザワで働いており、最初は喫茶部門にてウェイターを勤め、田中氏の独立後には洋食部門に異動して宮島氏に師事した。
元祖からの派生店舗
カレーハウス・ターバン
【派生元:洋食タナカ】
1971年創業と派生の中でも最も長い歴史を持ち、金沢ではチャンカレと並んでその名を知らない人はいないほどの有名店。更に近年はゴーゴーカレーの師匠筋としても知られており、北陸新幹線が開通したこともあって観光客も多く訪れている。
創業当時は田中氏(洋食タナカ)との共同経営であるため派生というより直系だったが、数年後に田中氏が辞任したことで元祖レシピは継承していないためこちらに記載。それでも長年に渡り独自の味を守り続けた老舗店の一つである。
てきさす
【派生元:インデアン】
金沢市の中心部を縦断する道路「金石街道」に店を構える洋食屋。金沢カレーを名乗っていないことから地元民にも系譜とは知られていないが、実はインデアンのフランチャイズ1号店が独立した店。移転せず同じ場所で営業し続けているという意味では最も長い歴史を持つ。
ゴールドカレー
【派生元:チャンカレ】
石川県庁近くにあったチャンカレのフランチャイズが独立した店。有名ホテルで修業したシェフを招聘したり、原材料を地元石川の名産で揃える、同じ金沢グルメのハントンライスと組み合わせる、大食いチャレンジ賞金額を日本一にするなど様々な展開を行っている。
房’sキッチン
【派生元:ユキ】
金沢駅西口からほぼ一直線、入江という町にある洋食店。こちらも金沢カレーの店とは名乗っていないが、ユキで40年務めたシェフが独立して創業した店であるとのこと。
ゴーゴーカレー
【派生元:ターバン】
金沢カレーという存在と名称を日本に広めた火付け役。むしろ代名詞ないしブランドの創始者とも言える程の立役者であり、今更ここで語るまでもない超有名店である。
カレーハウス・ジャン
【派生元:ターバン】
チャンカレ本店のすぐ近くに店を構え、そのあまりの近さから開店当時は地元で「ターバンの系列でチャンカレに喧嘩を売りにいった刺客だ」という噂も流れていた。漫画本を大量においてあり、サラリーマンや近くの大学生などからの人気を得ている。
その他の店舗
井筒屋
石川県内はもちろん富山福井からも若者が集まる北陸一の繁華街「竪町」の端に店を構える定食屋。明治創業と長い歴史を持つ和食店ある。
カレーも和風の要素が強く金沢カレーらしさは無いのだが、日本で洋食が広まりだした時代、金沢でいち早く洋食のテイストを取り入れた大黒屋から色々と洋食について学んだという繋がりから、金沢カレーの系譜として語られたことがあるためここに記載。
キュアメイドカフェ
秋葉原にあるメイド喫茶。実はメイド喫茶の元祖たる歴史を持つ店だとか。
競合店とは違い、清楚でロングスカートなヴィクトリアンスタイルのメイド服。内装や調度品も上品で、日本紅茶協会から「おいしい紅茶の店」と認定されているなど、その中身は良い意味で普通の喫茶店。
金沢カレーが流行する前からそのメニューにある「チャンピオンカツカレー」は、その名の通りチャンカレからルーを仕入れているとのことで、こちらに記載。
金澤8キッチン
金沢カレーとほぼ同じく半世紀以上の歴史を持ち、地元で知らぬ人はいない「8番らーめん」チェーンを始めとした数多くの外食産業を手がける地元企業「ハチバン」が経営するフードコート。
ここで「能登豚カツ金澤カレー」という金沢カレースタイルのカレーを提供しているほか、そのレトルトとなる「なんでやろ?カレー」も発売。2018年には金沢カレー協会にも加盟した。
アパ社長カレー
女性社長の顔を様々な広告媒体で利用することが有名な「アパホテル」。
実は金沢創業の会社であり、その繋がりからから金沢カレースタイルのカレー店を複数展開しているほか、同名のレトルトも販売している。2018年には金沢カレー協会に加盟した。
権利関係
金沢カレーには、例えば宇都宮餃子における宇都宮餃子会のような、ブランドや商標を管理する組織が存在しない。(2014年には金沢カレーのブランド力や知名度の向上と発展を目指すとして「金沢カレー協会」が設立され様々な取り組みを行っているが、あくまで一部の店舗などによる任意団体である)
そのため金沢カレーの特徴自体も定義が曖昧だったり、その特徴を全く持たない商品が金沢カレーを名乗っていたりする。商標なども取得されておらず、名称の初出についても諸説あり確定していない。そして公式サイト上でチャンカレとターバンの両方が元祖を名乗っていたりするのであった。
※チャンカレとターバンによる商標問題その他については本筋と外れるため『こちらに記載する』
関連動画
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関連商品
関連項目とリンク
- カレー
- 料理の一覧
- カレーのチャンピオン
- ゴーゴーカレー
- カレーの市民アルバ
- カレー2.0
- ハントンライス
- ひろゆき(ゴーゴーカレー好き)
- カナザワカレー(楽曲)
- 「日本のカレーライス」を熱愛する米国人記者が語る『ゴーゴーカレーNY店』
- 金沢カレー協会
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