アシュクロフト対表現の自由連合裁判(Ashcroft v. Free Speech Coalition)とは、2002年にアメリカ合衆国連邦最高裁判所が、絵やCGなどで作られた「バーチャル児童ポルノ」規制は表現の自由を規定する合衆国憲法修正第1条に反しており、違憲と判決した裁判である。
概要
1996年にアメリカで絵やCGで作られた児童ポルノ禁止法が制定されると、アメリカのポルノ業界団体の「表現の自由連合」や、ヌード画家のジム・ギングリッチなどがこの法律が違憲だとして当時の司法長官のジョン・アシュクロフトを相手取り訴訟を起こした。
一審のカリフォルニア北部地区連邦地方裁判所は合憲判決だったが、二審の第9巡回区控訴裁判所では違憲判決となり、連邦最高裁判所に回されることとなったが、連邦最高裁は二審判決を支持し、判事9人の内6対3で違憲判決を下した。
裁判
最高裁ではウィリアム・レンキスト、ジョン・ポール・スティーブンス、サンドラ・デイ・オコナー、アントニン・スカリア、アンソニー・ケネディ、デイヴィッド・スーター、クラレンス・トーマス、ルース・ベイダー・ギンズバーグ、スティーブン・ブライヤーの9人の判事による審理が行われた。この内、スティーブンス、ケネディ、スーター、トーマス、ギンズバーグ、ブライヤーが違憲を支持し、レンキスト、オコナー、スカリアが合憲を支持した。
保守派のケネディー判事も違憲を支持しており、彼が法廷意見(判決文)を執筆し4名がそれに同意したことで5名による多数意見となった。
また、保守派の中でも最も保守の傾向が強く強硬派とされるトーマス判事もこの裁判では違憲を支持しているが、法廷意見には同意せず独自の意見を執筆している。
判決文の要旨
判決文の中では以下のことが述べられている。
- 未成年者である17歳が性的に明白な行為を行っている絵は、全ての場合においてコミュニティ基準に反するものではないこと。
- 表現物に接した人の感情を不快にさせるという理由で、表現活動を禁止することはできないこと。
- 判例は実在の子供を用いて作られた性的素材のみを禁止しており、バーチャル児童ポルノ(Virtual child pornography)を用いて代替的に表現活動を行う正当性を認めていること。
- バーチャル児童ポルノと児童性的虐待には本質的な関連性(intrinsically related)がないこと。
- 成人向けの性的表現は、子供の保護を理由に禁止することは出来ないこと。
- 無害な物を、悪用される可能性を理由に禁止することはできないこと。
- 正当な表現は、不法な表現に似ていることを理由に、不法にはならないこと。
- 不法な表現が処罰を免れることで社会に与える害よりも、正当な表現が消えることで社会に与える害の方が上回ること。
- 過去の実写作品において出演者が18歳以上であることを証明することは多くの場合において非常に難しく、またCGなど実写ではない手段で表現された性的素材はそもそも年齢がないため、被告が自身の無罪を証明し主張するための機会が不当に奪われていること。
- それらの理由によりバーチャル児童ポルノ規制は違憲であること。
この文書には法的拘束力が存在し、実際にこの判決を先例としていくつかの表現の自由を争う裁判で無罪判決が出た。
関連項目
- 0
- 0pt