アージュン(ARJUN)とは、インド陸軍がグダグダと悠久の時を経て創り出した国産(?)第3世代(?)戦車である。名前の由来はインド神話の叙事詩「マハーバーラタ」の主人公、英雄アルジュナから。その(悪い意味で)特徴的な性能から「砂漠のフェラーリ」の異名を持つ。
概要
インドはずっと旧ソ連製のT-72を大量に装備し、パキスタンとの戦闘には特に不安は無かったのだが、さすがに老朽化が進んできたため、1980年代半ばに、無謀にも国産戦車「アージュン」の開発を思い立つ。しかし、2006年までかかって未熟な試作車が5両できただけであった。
やむを得ず、インド国防省はT-72の改良型であるT-90を調達することに決め、700両を輸入し、さらにインド国内でのライセンス生産も開始している。
その後インドは、アージュンの重量を50tに抑え、部品の大半をインド国内で調達するアージュン2を作り、国営企業に利権を持つ政治家たちがインド陸軍に無理やり押し付けている。
もっともインドはヒマラヤ山脈のおかげでチャイナとの戦車戦を考える必要がなく、手持ちの戦車戦力(122両のアージュン、2418両のT-72M1、1100両のT-90S、その他約1100両[1])をすべてパキスタン方面のゲリラ浸透を警戒する任務に投入できる。戦車部隊にとって真の強敵が存在しないインドはこれから時間をかけて戦車の完全国産を目指すことだろう。
開発
インド陸軍は、それまで主力であったヴィジャンタMBT(イギリスのヴィッカースMBT Mk.1のライセンス生産版。ちなみにヴィッカースMBTはイギリス陸軍では採用されず、インドとクウェートのみが採用した2世代MBT)を代替する戦車の開発を1974年にスタートさせた。
当初の性能は、戦闘重量55トン級、120ミリ級の主砲、複合装甲を装備、1500馬力級のガスタービン・エンジン…が要求されていた。しかし当時のインド国内ではこのような性能の戦車は実現不能で、結局1980年代に海外メーカーの技術を導入、1984年になってやっと最初のプロトタイプを公開した。主砲はイギリスの技術を導入したため120ミリのライフル砲を装備、エンジンやトランスミッションについては暫定的なもので、複合装甲も取り付けられていなかった。プロトタイプは1987年までに10輌が作られ、アージュンマークⅠと命名された。[2]
そして開発開始から実に22年が経過した1996年についに正式採用!。
しかし初期生産車両32両の調達に2年を要するという相変わらずの亀の歩みであった。
そしてその性能は!?
なんだかんだ言って戦車大国のイギリス(本当に大丈夫か?)と西ドイツ(完成した頃には統一してたけど)の技術提供を受けた機体。両国のチャレンジャー1とレオパルド2の影響を強く受けた設計になっている。
- 車体
特にドイツ技術の影響が強く、レオパルド2A4以前のタイプや90式に似たシルエットを持つ。しかし車体前部にT-72を思わせる三角の水切り板が付いており、車体後部にはドラム缶型の外部燃料タンクを搭載できる等、ロシア系技術も取り入れているあたりがインドらしい。装甲には独自開発した複合装甲「カンチャン・アーマー」を搭載。その実力は未知数である。未知数なのである。…しかし、耐弾試験においてどうも自車の主砲射撃1発にさえ耐えられなかったとかなんとか。
戦車兵「初めての国産複合装甲とかおっかねえよ…」
ちなみに「カンチャン」とはヒンドゥー語で「金」を意味する言葉だとか。これじゃ金どころかただの鉛だよ!※なお最近2A46 125mm砲やL44 120mm砲のAPFSDS弾やHEAT弾に耐えたという噂が出回っているが、裏付けが取れず信憑性は低い。本当だとしても120mm級砲弾に耐えることは3世代MBTの必須条件なので自慢にならないのでは…
また、西側第3世代戦車の多くは砲塔後部のバスルに設けられた弾薬庫の上面に、万が一弾薬が誘爆しても爆圧を上部から逃がして車体・乗員への被害を最小限に抑えるブローオフパネルを備えているが、ロシア製技術も取り入れているアージュンには搭載されていない。その為、前述の装甲性能と相まって被弾したら一発アウトになる可能性がある。あのXK-2ですら初弾には耐えるのに。
- 機動力
要求性能では1500馬力のガスタービンという大それたものだったが当然やっぱり無理でした。しょうがないのでV型12気筒空冷ディーゼルエンジンの開発に取り組むもこれまた無理。もうどうしようもないのでドイツMTU社製、MB838Ka-501V型10気筒液冷ターボチャージド・ディーゼルエンジンを搭載(レオパルド2と同じ)。要求には一歩届かなかったものの1400馬力を誇り、履帯や変速機もドイツ製で手堅くまとめた。そのお陰で、舗装路では72km/hの快速を発揮する事が出来る。(そんな恵まれた環境がどれほどあるのか…)その代わりに砂漠地帯での運用には難があるようだ。※インドの西側には広大なタール砂漠が広がっています。
というか中国・パキスタン国境付近での運用は事実上不可能という衝撃の事実が発覚。しかしアージュンの想定運用地帯はパキスタン国境に隣し、タール砂漠から丘陵地帯、ジャングルまで擁するラージャスターン州である。(お前は何を言ってるんだ)
戦車小隊長「俺達は一体どこで戦うんだ……?」
重量も要求をオーバーして58,5tに達したが、西側のM1エイブラムスやチャレンジャー1/2に比べれば軽い軽い!DRDO「ロシア戦車と比べてはいけない(戒め)。」 - 火器
そろそろ「あれ? ドイツ技術ばっかじゃん」とお思いの読者もいるだろう。アージュンはチャレンジャー1/2に習い、主砲にヴィッカーズ社製55口径120mmライフル砲(!?)をライセンス生産した物を装備。HESH(粘着榴弾)はもとより、なんとイスラエル製砲口発射式対戦車ミサイル「LAHAT」の運用能力を備えている。DRDO「120mmライフル砲弾の生産が終了? 聞こえんなぁ~ホジホジ。」
レーザー測定器、弾道コンピューター、赤外線映像装置、パノラマ照準器等の射撃統制装置は頑張って国産化。DRDO「砂漠の高温でイカれる? 機械に頼るな!」主砲命中精度は800~1200m先の固定・移動目標に命中させられる(え?できて当然だって?)。・・・行進間射撃時?知らんな(ぼそ
副兵装としてキューポラにNSVT 12,7mm重機関銃、主砲同軸機銃にPKT 7,62mm機関銃を搭載。
どちらもロシア系の物である。
とまぁ、どっかの国の試作戦車みたいに性能以前の問題を数多く抱えてるにも関わらず、正式採用してしまった。(中途半端に国産に拘るから……)しかし、ようやく日の目を見たアージュンには悲劇の運命が待ち受けていたのだった。
アルジュナの苦行
そもそもここまで失敗だらけのアージュン。完成にこぎつけられたのは奇跡のようなものだった。
しかし、それは奇跡でもなんでもなく予定調和のものであった。
そもそもこのアージュン。インド政府とDRDO(インド国防研究開発機構)が陸軍の反対を押し切り、ゴリ押しで開発・生産したものだったのだ。
インド陸軍は自分達では満足に国産戦車を開発できるだけの技術を持っていない事を承知しており、現実的に安価・軽量で堅実なロシア製戦車を導入すべきという意見を持っていた。しかし、インド政府とDRDOは「国産YO! 国産YO! 性能? んなもの後からついてくZEY!」と妙に強気でアージュン計画を始動。数々の苦難を乗り越え、なんとか完成してみれば貧弱なインドの交通インフラでは58,5tの重量ですら危うく、更にアージュンを輸送できるトランスポーターがない(現在開発中。完成時期? さぁ?)。一体どうしろと。止めに宿敵たるパキスタンはウクライナ製のT-80UD「ベリョーザ」やその改良型T-84、中国と共同開発したMBT-2000「アル・ハリド」を導入しており、これらの第3世代・準第3世代戦車に対して既に太刀打ちできなくなっていた。
あんまりにもノンビリしていたら開発中に時代遅れになってしまったのである。
日本と違い有力な同盟国がなく、仮想敵国とも陸続きである国がそもそも悠長に国産に拘る余裕など無かったのだ(そもそもパーツの60%を輸入に頼っている戦車を国産と呼べるのか……?あのXK-2ですら一応国産なのに)
「いい加減現実を見ろ!」と陸軍の悲痛な訴えにより、2000年に念願のロシア戦車T-90Sを導入し、ノックダウン生産権を獲得。アージュンを払いのけるかのようにインド陸軍主力戦車の座に付いた。(陸軍「助かったぜ…」)2006年にはT-90Sのライセンス生産版「ビシュマ」の生産も開始された為、陸軍はアージュン計124両の限定生産を許可したが、改良型、戦車回収型、架橋戦車型、対空戦車型といった派生型の開発は全てキャンセルされた。唯一、車体を流用した自走砲型「ビーム」の開発が進められたが、搭載予定だったG5 155mm榴弾砲の製造元である南アフリカのデネル社の贈収賄スキャンダルが発覚し、取り消された。
このままならただの不遇な戦車で終わるはずだったが……
純粋な行為の実行者
このように性能・信頼性共にひたすら微妙なアージュン。
しかし元凶生みの親のインド政府とDRDOはメンツと権益惜しさに「失敗作」とは決して認めず、あまつさえ陸軍が「T-90Sと比較して低性能だったらいらん!」と言ってるのに無理やり配備をゴリ押しし、そのお情けとも言える比較試験(DRDO曰く「厳粛な評価試験」)すらロビー活動でアージュン有利に改ざんしてしまったのだ。
またDRDOは2002年にEX戦車「カルナ」なる物も発表しており、こちらはT-72M1の車体にT-90Sのエンジンを搭載し、アージュンの物を小改造した砲塔を持つ堅実な設計である。しかし既にT-90Sを採用していた陸軍は「これ以上変なもん増やすな!」とこのプランを一蹴。元々アージュンが失敗した時の保険のようで、DRDOにとっても本命ではなかったようである。
陸軍「既にこの上なく失敗してるだろ!」
……とまぁ、こんな醜態にも関わらず2010年5月、改良型アージュンMk.2の開発決定および124両の追加生産が決定するという謎の現象が発生。
陸軍「いらねぇと言ってるだろぉぉぉ!!!」
流石に問題を認識してはいるのか同年8月、国防相とDRDOは50t級の新型軽量戦車の開発にも取り組んでいると発表。完成には7~8年を要するとのこと(なぜそっちを先に作らない)。
陸軍「……桁ひとつ足りないんじゃないの?」
……と思いきや、DRDOは発表を撤回し、新型戦車はアージュンタイプの改良型にすることを決定。一説には合わせて1000両ほどの大量生産を目論んでいるとのこと。
陸軍「やらせはせん! やらせはせんぞぉぉぉ!!!」
余談
余談だが、インド陸軍が日本へ90式戦車の購入を打診したらしいとの情報がある。詳細は90式戦車の記事を参照してもらいたいが、基本的なスペックを上げると、
と、当初の要求を全てを満たしており、まさにインドが真に求めていた戦車と言えるだろう。
だが、残念ながら我が国は現在武器禁輸の政策を取っているため、インドへの輸出は実現していない。しかし、最近の国内情勢を考えると、我が国の防衛政策はより積極的なものへと変わってきており、武器輸出三原則の見直しも進められているため、近い将来インドの大地を90式戦車が走る日が来る……かもしれない。
英雄、再び…
そして2014年。バカな…早すぎる…完成したアージュンMk.2が首都ニューデリーの国防展覧会でお披露目された。その性能は……
- イスラエル製の全周囲レーザー警戒システムにRWS(無人銃座)、スモークディスチャージャーだと思った?残念!81mm迫撃砲でした! で市街戦・非対称戦能力の大幅な向上。
- 国産爆発反応装甲を装備。コンタークト5にクリソツだが多分気のせい。
- 120mmライフル砲は……え? そのまま? いやいや、断熱材で強度アップに追加の照準装置で精度アゲアゲですよぅ! え? そういう問題じゃない?
- ハンターキラー能力とブローオフパネルを追加! (え? 今まで無かったの……?)
- 価格は600万ドル!
T-90「え?(100~140万ドル)」
M1A1HA「HAHAHA!(430万ドル ※国内に限り)」
90式「ホ、ホラ僕よりは安いし……(8億円)」 - 重量は67トン! 陸軍「」(気を失っている)。国境付近での運用は絶望的なレベルに。国防ドクトリンに真っ向から喧嘩を売る国産戦車って……
- 機動性は不明だが公開走行でまっすぐ走れなかったという噂が。
……続報を待て!
関連動画
「まさか、ニコ動どころかYoutubeにさえアージュンの動画が輸入されていないなんて…」
↓
???「ないなら挙げればいいのよ!」
関連商品
関連コミュニティ
関連項目
- 軍事関連項目一覧 / 軍用車両の一覧
- AFV / 戦車
- インド
- T-90
- XK-2 ←海の向こうの極東で生まれた兄弟?
- レオパルド2 / M1エイブラムス / チャレンジャー / 90式戦車 ←こっちはホントの第3世代戦車たち
脚注
- *Russia is ready to share T-14 Armata tank technologies with India to develop new MBT 2023.2.15
- *「新・世界の主力戦車カタログ」 清谷信一:編 アリアドネ企画 2011 pp.82-83
- 7
- 0pt