イージス艦とは、イージスシステムを搭載した艦船のことである。
イージスシステム
イージスシステムとは、対空戦闘を重視して開発された戦闘システムのことである。
名前の由来は、ギリシャ神話の神ゼウスが娘に与えた盾の名前から。
そもそものきっかけは太平洋戦争時の日本軍によるアメリカ艦隊に対しての特攻攻撃が発端となっている。どれだけ濃密な火器を備えた防空艦を周囲に配置しても少なからず空母に損害を受けたアメリカ海軍は、航空機がジェット化され、ミサイルという高速かつ誘導能力をもつ攻撃手段に対抗する方法を模索していたものの、あまり効果的なものを作り出せずにいた。タイフォン・システム計画もあったが1950年代後半の技術力ではあまりにも高望みすぎて挫折してしまうほか、このころのアメリカ海軍の防空能力の不安は1970年代近くまで続くことになる。
冷戦時代とき同じくして、空母の保有数で劣るソ連軍はアメリカ海軍の空母機動部隊に対して空中発射型の対艦ミサイル飽和攻撃…ようするに雨あられと対艦ミサイルを放つ方法…で対抗しようとしていた。オケアン70演習と呼ばれるソ連軍の演習で90秒間に100発という膨大な数のミサイルが発射されたことが知れると、アメリカ海軍は対応を迫られることなる。
この当時のアメリカ海軍艦艇では、対空ミサイルで防御するにも、ミサイル誘導装置(イルミネーター)の数=同時発射できるミサイルの数というわけで、いくら大型艦にミサイルを何発積もうとも、同時に撃てるミサイルが3~4発程度では何十発単位で発射されるミサイルに対応することは難しかった。また日本海軍との戦いで効果を発揮したCIC(戦闘指揮センター)も人力では対応が間に合わないことも明らかになっていた。
このソ連軍のミサイル飽和攻撃に対抗するべく、アメリカ海軍のウェイン・マイヤー提督らの官民合同チームが作り出したのが、イージス(AEGIS)システムだった。
システムは以下の機能から成り立つ。
- SPY-1レーダーと呼ばれるフェイズドアレイ・レーダー(艦橋にある板状の構造物がそれ)などのセンサーシステム
- 最後にだけ誘導を行えばよいスタンダード・ミサイル等の垂直発射型ミサイルと誘導装置などの兵装
- 上記二つを集約・運用する高度な情報処理装置を備えたコンピュータシステム(AWS)
※AWSも総称であり、C&D、WCS、FCS、ADSなどなど複数のシステムで構成される
つまり、簡単な説明だがSPY-1レーダーで全周警戒を行い、多数のミサイルを察知したら速やかな脅威判定を行い、優先して対処しなければならないミサイルに対して垂直発射型のミサイルを方向だけ指示して発射。発射したミサイルを最終段階だけ誘導する。その間にも続々とこちらのミサイルを撃ち続け、実際のミサイル誘導数を倍以上に増やす…というのを可能とした。
このような、探知能力、兵装、情報処理能力(脅威判定、データリンク)能力をそなえたのがイージス艦の特徴である。
特に対空戦闘において今までの艦艇を大きく上回る数、128以上の目標を探知・追跡し、12の対空目標に対して同時攻撃することが可能となった。もちろん対艦ミサイルだけではなく潜水艦など複数の脅威に対して同時に対処もできる。
上記のような複数脅威に対する高速対応を可能にするのは、従来までの兵装、あるいはレーダーなど単機能による独立したシステムを、イージス・システムのコアであるAWSなどによって集中管理を可能としたシステム艦へと移行したためである。このような複数システムを包括するシステム、つまりシステム・オブ・システムズへと移行させたところに
マイヤー提督ら開発チームの着眼点の素晴らしさがある。
さらにこのAWSはシステムそのものの拡張及びバージョンアップも可能にしたことにより、長距離弾道ミサイルなどのミサイル防衛(BMD)も改造を行うことで対応することが出来るなど、その発展性は高く維持されている。
そのためエレクトロニクス、特にコンピューター技術が軍事分野より民生分野のほうがより開発スピードが速い現在、イージス・システムも例外ではなく、積極的にCOTOS(民間技術導入)を行っており、現在のイージスシステムの最新バージョン、ベースライン7以降からは分散コンピューティングも取り入れた形となっている。
ちなみに開発チームのリーダーだったマイヤー提督(2009年9月1日死去)はこのような先進的なイージス・システムの立案、開発、テスト、イージス艦の建造を主導し、そのシステム工学に対する高い見識、洞察力、プロジェクトマネージメント、官民共同によるチーム参加者全員に対する統率力、議会などに対する政治力などに卓越した能力を発揮したことにより「アメリカ海軍が生んだ最高の戦闘システムエンジニア」とも呼ばれた。
「リッコーバー(提督)がいなくとも海軍は潜水艦に原子力を獲得したであろう。しかしながら、もしマイヤーがいなければ、艦隊にイージス艦はなかったであろう」と高く評価されており、「イージスの父」とも呼ばれている。
通算100隻目のイージスシステム搭載艦、アーレイ・バーク級駆逐艦DDG-108に提督の名前「Wayne E. Meyer」が冠された。
ただしイージスシステムは高性能であると同時に高価なシステムでもあるため(500億円ぐらい)、導入されている海軍は一部の国にとどまっている。また、実際に"使える"システムにするためにはかなりの経験を積まないといけないらしい。海上自衛隊でも初のイージス艦「こんごう」を導入した際にかなり手間取ったらしい。
イージス艦、イージス・システムのバージョン
アメリカ本国ではタイコンデロガ級巡洋艦、アーレイ・バーク級駆逐艦がイージス・システムを搭載している。
アーレイ・バーク級駆逐艦に至っては70隻も建造されているため、搭載システム・バージョン、あるいは船体など建造時期などによって機能の違いがある。
わかりやすく言うと、船体のバージョンが「フライト」。イージス・システムのバージョンが「ベースライン」となる。(マイナーバージョンアップとしてベースライン× バージョン、あるいはフェーズI、II、IIIなど呼称される場合もある)
フライトIが基本型。装備を一部改良したのがフライトII、ヘリ搭載・運用能力を付加したのがフライトII-Aとなる(この他VLSの搭載・構成数にも違いがあるが細かいので省略する)。
ベースラインも同様で、ベースライン1(すでに退役)から現行のベースライン7まで存在するが説明が細かくなる一方なのでWikipediaなどを参考にしてください…。
イージス艦に対する誤解
某隣国のミサイル問題などによって知名度は飛躍的に上がっていると思われる。
しかし、このことからイージス艦=弾道ミサイルが撃墜できる船、又は何でもできる無敵艦のように思っている人も少なくない。
このことは、間違いであり、弾道ミサイルを撃墜できるのはSM-3(スタンダートミサイル)などを搭載した一部の艦艇にとどまっている。また、対空戦闘は非常に得意であるが、対艦対潜戦闘能力は、一般的な艦艇と比べてもさほど差はないといえる。(データリンクなどを活用すればイージス艦のほうが有利ではある)
また、よく勘違いされるがイージス艦とはイージスシステムを搭載した艦艇であって、防空能力に特化した艦艇をイージス艦というわけではない。よって、他の海軍、ロシアや中国などが配備している防空能力に特化した艦艇をイージス艦、あるいは"ミニ・イージス"艦と呼ぶのは正しいとはいえない。
各国のイージス艦
- アメリカ
タイコンデロガ級
世界初のイージスシステム搭載ミサイル巡洋艦。ただし予算やらなにやらの都合上でスプルーアンス級駆逐艦の船体をベースに建造されたため、上部構造物が大きくトップヘビーな感がある。27隻(米海軍の巡洋艦としては最多)建造されたが、VLSを採用していない初期型5隻(ベースライン1搭載型)は既に退役している。他はベースライン2、3、4を搭載。4搭載型は5・フェーズ3相当へとアップデートされているといわれる。
アーレイ・バーク級
イージスシステム搭載ミサイル駆逐艦(DDG)。アメリカ海軍駆逐艦として70隻あまりが建造されるという標準艦艇となった。日本および韓国のイージス艦のベースともなっている。ベースラインは4~7(建造時期によって異なる)。
- 日本
こんごう型
アメリカ海軍以外に最初にイージスシステムを導入した艦で 4隻が建造された。司令部機能を持たせたため、ベースとなったアーレイ・バーク級より上部構造物が大型化。タイコンデロガ級に匹敵する大きさに。イージスシステムのベースラインは「ちょうかい」を除いてベースライン4(ベースラインJ1とも)、「ちょうかい」のみベースライン5である。就役後、「こんごう」「みょうこう」以下順次弾道ミサイル防衛(BMD)能力を付与する改修を実施。2010年に終了した。
あたご型
こんごう型よりさらに大型化した艦として2隻建造。フライト2-Aに準じているがタイコンデロガ級を超えるほどの大きさとなっている。こんごう型ではなかったヘリの運用能力(格納庫等)も付与された。ベースラインは最新の7.1J。弾道ミサイル追尾はできるが、迎撃任務には対応しておらず、平成24年度予算概算要求にBMD能力付与が盛り込まれている。
- スペイン
アルバロ・デ・バサン級
アーレイ・バーク級をベースにしたこんごう型とは異なり、イージスシステムを搭載しつつも艦のレイアウトなどを見直し、一回り小さい船体にまとめたイージス艦。ヘリの運用能力もあるが、トップヘビーでもあるという指摘も受けている。6隻中4隻が建造済み。ベースラインは7。
- ノルウェー
フリチョフ・ナンセン級
アルデロ・デ・バサン級をベースにステルス形状を導入。あわせて簡略化したイージスシステムを搭載。乗員も少なく抑えられている。イージスシステム搭載しつつステルス形状を持ち合わせた形は独特。5隻中3隻が建造済み。
- 韓国
世宗大王級
こんごう型、あたご型同様アーレイ・バーク級をベースに建造された。ただし韓国海軍の他艦艇とのバランスもあってか、日米のイージス艦に比べるとかなりの重武装となっている(つまり、1隻に数多くの任務を持たせるしかないということの裏返し)。またその装備もかなり寄せ集め感が強く、一部の電子装備や兵装が欧州系のものや国産のミサイルなどで組み合わされている。ベースラインは7。
当初、3隻建造後追加で3隻の計6隻の建造を予定していたものの、後に計画変更。3隻のみで建造は終了することとなった。同型艦は2番艦「栗谷李珥」が2011年6月配備。3番艦「西厓柳成龍」が2012年8月配備予定である。
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読み:イージスカン
初版作成日: 09/01/27 17:59 ◆ 最終更新日: 12/05/01 13:29
編集内容についての説明/コメント: 韓国のイージス艦情報を更新。
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