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(左176)こんごう型4番艦「ちょうかい」(右178)あたご型2番艦「あしがら」

イージス艦とは、巡洋艦駆逐艦という軍艦の分類とは異なり、「イージスシステム」を搭載した艦艇に対する総称である。
搭載した艦の分類によっては「イージス巡洋艦」「イージス駆逐艦」と呼ばれることもある。

概要

イージスシステムは正式にはイージス武器システムAWSAegis Weapon System Mk.7、システムの構成については後述)と呼ばれ、「ソ連ミサイル爆撃機群による飽和攻撃からいかにして空母機動部隊を守るか」という問いに対して米海軍が出した解答である。

AWSはそれまで米海軍が運用していた艦載防ミサイルシステム(TALOS、TERRIER、TARTAR)に対して、リアクションタイム(敵をレーダーで捕捉してから迎撃ミサイルを発射するまでの時間)の短縮、同時対処数の増加という面で大きく進歩させることに成功した。これによってAWS搭載艦は自艦のみならず他の(本来防護すべき空母揚陸艦等)にもエリア提供できるようになり、ここに来てようやく米海軍は「艦隊の防」を成立させることが可になった。

実際にはAWSのみがイージス艦に搭載されることはなく、他の脅威(船舶潜水艦)にも対処できるように艦砲魚雷などの兵装をAWSに接続したACSAEGIS Combat Systemイージス戦闘システム)がイージス艦には搭載される。

AWSコンピュータを基盤に据えたシステムなのでシステムを書き換えることで新しい任務の追加が可になっており、実際一部のイージス艦にはBMD弾道ミサイル防衛)任務が追加されている。

イージスシステムの誕生

イージス以前の艦隊防空

イージスシステム誕生のきっかけは太平洋戦争時まで遡る。
日本海軍との間の苛空母機動部隊同士の戦などを繰り広げた結果、アメリカ海軍レーダー搭載ピケット艦+CIC戦闘揮所)の組み合せによる濃密な艦隊防を手に入れていた。しかし戦争末期日本海軍による艦隊に対する特攻攻撃において少なからず損を受けることがあった。最後までパイロットが操縦する航空機レーダー、対火器をかいくぐり艦艇に損を与えることが出来ることもあったのだ。これに対応すべくイギリス海軍は艦隊防ミサイル分け「フェアリー・ストゥッジ」、アメリカ海軍は個艦防衛ミサイルの始祖「KAN リトルジョー」を開発。高速飛翔体をもって艦隊防体制を整えるというものであったが、いずれも射程は10km程度で手動照準一致式誘導方式であり、窮余の一策の域を出なかった。

終戦後、航空機ジェット化され、ミサイルという高速かつ誘導をもつ攻撃手段が確立されるだけでなく、核兵器まで実用化されることとなるとアメリカ海軍は艦隊防に不安を抱くことになる。
艦隊防のための空母を中心とした輪形を作っても艦が集中していても核兵器によりすべてダメージを受けてしまう。かといって遠距離航空機ミサイルを迎撃するためにレーダーピケット艦など遠くに配置しレーダー捜索エリアを広げてしまうと、お互いの艦との距離が開き対火器による火力が足りなくなってしまう。ついでにWW2時代、レーダーなどの情報人力透明なアクリボードプロットするというCICでの防揮のやり方では高速で変化する状況に対応できないことは明らかだった。

イージスの開発[1]

アメリカ海軍1950年代から防ミサイルとして3TミサイルシステムタロスTALOSテリアTERRIER、ターターTARTAR)を開発、運用していたが、将来予想される脅威にはとても対応できるものではないことを認識していた。

まず1958年から多機高性レーダーSPG-59を中核とする対空ミサイルシステムタイフォン(TYPHON戦闘システム」の開発を開始した。1963年からミサイル実験ノートンサウンドに搭載して試験を開始したものの、満足のいく性が得られず、1965年に計画が中止された。

続いて米海軍1969年原子力ミサイル巡洋艦カリフォルニアCGN-36)の建造を開始した。新開発のターターDを中核として各種レーダーや武装を統合する計画だったがプロジェクトは大幅に遅延し、1974年の就役直前になっても試験・評価が了しなかった。

これら2つの失敗例を踏まえて、イージス・システムの開発は時間をかけて段階的に行われている。まず1963年近代的艦載ミサイルシステムASMSAdvanced Surface Missile System)計画が開始された。コンセプトや運用要の策定を行い、1969年ASMSAEGIS称、1970年に「イージスウェイン E マイヤー大佐プロジェクトマネージャーに据え、大佐の強リーダーシップのもとにシステム開発が進められた。

1979年に1番艦の建造を開始、1983年イージス搭載1番艦タイコンデロガCG-47)が就役した。大佐プロジェクトマネージャーに就任してから13年が経過していた。

イージスの父、マイヤー提督

開発チームリーダーだったマイヤー提督2009年9月1日死去)はこのような先進的なイージスシステムの立案、開発テスト、イージス艦の建造を導し、そのシステム工学に対する高い見識、洞察プロジェクトマネージメント、官民共同によるチーム参加者全員に対する統率議会などに対する政治などに卓越したを発揮したことによりアメリカ海軍が生んだ最高の戦闘システムエンジニアとも呼ばれた。

彼を称して「リッコーバー提督)がいなくとも海軍潜水艦原子力を獲得したであろう。しかしながら、もしマイヤーがいなければ、艦隊にイージス艦はなかったであろう」と高く評価されており、イージスとも呼ばれている。

通算100のイージスシステム搭載艦、アーレイ・バーク級駆逐艦DDG-108には提督名前Wayne E. Meyer」が冠された。

イージスシステム

AWS(AEGIS Weapon System)

イージス戦闘システムACS,AEGIS Combat System)の中核を成しており、対戦闘を受け持つ。以下のシステムで構成されている。

AWS事前設定された条件に基づいてSPY-1により域の全ての標を捜索、探知、追尾し、標の脅威評価・各標への武器割り当て・武器のスケジューリングを行い、標を攻撃する。スタンダードミサイルも発射後はSPY-1によって追尾され中間誘導が行われる。MFCSは終末段階でのみ使用されるため、MFCSの専有時間は最小限に抑えられ、結果としてMFCSの装備数をえる迎撃ミサイルを同時に管制できるようになっている。

ACS(AEGIS Combat System)

ACSは対戦闘システムであるAWSを核として対水上標(艦砲ハープーン)、対水中標(魚雷、VLS発射アスロック)の戦闘システムもC&Dで管制することにより、艦隊への各種脅威に対応する。米海軍のイージス艦であればTWCSTOMAHAWK Weapon Control System)も接続され、陸上への精密攻撃が付加される。

イージス艦はリンク11/14を介して僚艦のNTDS(戦術情報システム)に脅威分析結果を送ることができるので、イージス・システムを持たない艦もその恩恵を受けられる。また、リンク4を使用してF-14の要撃管制を行なうこともできる。[2]

イージスシステムのバージョンとその拡張・発展

イージス艦は長期間にわたって大量に建造されているため、ベースラインと呼ばれる搭載システムバージョンによって機の違いがある。

タイコンデロガ級巡洋艦の1番艦から5番艦は「ベースライン0/ベースライン1」で、ミサイルランチャーMk.41VLSではなく、2発撃つごとに装填する必要のあるMk.26ランチャーだった。この5隻は就役から20年あまりで退役している。ベースライン2以降はMk.41VLSが搭載されており、退役したはない。[3]

ベースライン7では情報処理装置がCOTS(商用オフシェルフ。専用のハードウェア開発せず、民生品を利用する。)になり、システムアップグレードが容易になった。一方、共同交戦(CEC:Cooperative Engagement Capability)が当初より付与された。

ベースライン8では既存ベースライン2などに対しての修としてオープンアーキテクチャ化及びベースライン7相当のを付与される形となった。

最新のベースライン9では、これにあわせて従来まで修によりBMDを付与していたものから、MMSPと呼ばれる新しいシグナル・プロセッサ導入、AN/SPY-1D(V)の導入、対空ミサイルとしてRIM-174 ERAM(スタンダードERAM、あるいはSM-6とも)の組み合わせによって、全にシステムとしてBMD及び防を両立したIAMD(Integrated Air and Missile Defense)を獲得。従来までBMD対応中の防が不安視され、実際にBMD/防任務を複数艦で分担していたが、これにより対防御、弾道ミサイル防衛、巡航ミサイル防御において一隻によるすべての同時対応が可になった。

さらにベースライン9系列では従来のイージスシステム導入艦に対するバックフィット(既存修)を可にした9A/9Cがある。

CEC(Cooperative Engagement Capability)

これは従来までの艦同士を結ぶ戦術データリンク(Link11/Link16)より、艦の見通し距離内という制限があるものの高速・大容量のデータリンクを可にするDDS、正確な位置を取り込む情報処理システムCEPにより成り立つもので、従来まで難しかった「イージス艦A、Bと期警機が相互にレーダー取得情報をやり取りし、上期警機のレーダー知内に侵入した標に対して、(1) Aが感知できない位置でもAEWのレーダー情報を元に攻撃できる。 (2)Bが線封止状態・レーダー未発信状態でも攻撃できる」ということが可になった。

海上自衛隊のイージス艦では、まや型護衛艦の2隻に搭載されている。[4]

イージス・アショア

イージス・アショア(陸上配備型イージス・システム)

各国のイージス艦

アメリカ
タイコンデロガ級
世界初のイージスシステム搭載ミサイル巡洋艦。ただし予算やらなにやらの都合上でスプルーアンス級駆逐艦体をベースに建造されたため、上部構造物が大きくトップヘビーな感がある。27隻(米海軍巡洋艦としては最多)建造されたが、VLSを採用していない初期5隻(ベースライン1搭載)は既に退役している。他はベースライン2、3、4を搭載。4搭載は5・フェーズ3相当へとアップデートされていたが、現在ベースライン2搭載艦はベースライン8へ、それ以外は9A(ただしBMDはなし)のバックフィット化による近代装が進められている。上部構造物の大きさからイージスシステムのプラットフォームとして優秀であり、防や戦術情報処理アーレイ・バーク級ぐという摘もある。
アーレイ・バーク級
イージスシステム搭載ミサイル駆逐艦DDG)。アメリカ海軍駆逐艦として70隻あまりが建造されるという標準艦艇となった。日本および韓国のイージス艦のベースともなっている。ベースラインは4~7(建造時期によって異なる)。こちらも同様にベースライン9C(近代装に伴うバックフィット導入)、9D(新造艦導入)でベースライン9化が進められている。
体は「フライト」と呼ばれるバージョンがあり、フライトIが基本。装備を一部良したのがフライIIヘリ搭載・運用を付加したのがフライII-Aとなる。
コンスレーション
イージスシステム搭載ミサイルフリゲート(FFG)。世界情勢(特に中国・人民解放海軍の増大)の変化に伴うLCSの減勢に伴って新造される。設計はイタリアフィンカンティエーリ社で合同で整備されたFREMMフリゲートベースにした体にイージスシステムはベースライン10を使用する。予定では10隻が建造される予定。
日本
こんごう型
アメリカ海軍以外に最初にイージスシステムを導入した艦で 4隻が建造された。部機を持たせたため、ベースとなったアーレイ・バーク級より上部構造物が大化。タイコンデロガ級に匹敵する大きさに。イージスシステムのベースラインは「ちょうかい」を除いてベースライン4(ベースラインJ1とも)、「ちょうかい」のみベースライン5である。就役後、「こんごう」「みょうこう」以下順次弾道ミサイル防衛(BMDを付与する修を実施。2010年に終了した。
あたご型
こんごうよりさらに大化した艦として2隻建造。フライト2-Aに準じているがタイコンデロガ級えるほどの大きさとなっている。こんごうではなかったヘリの運用格納庫等)も付与された。ベースラインは最新の7.1J。弾道ミサイル追尾はできるが、迎撃任務には対応しておらず、平成24年度からBMDが追加される修が決定し進行中。
まや型
あたごより更に大化した艦として開発。建造時からBMDに対応するとともに前述のCECも備える。また、推進機関ガスタービンベース電気推進を組み込み、新対艦誘導弾の運用に対応するなど独自の機構も備える。2隻が就役。
スペイン
アルバロ・デ・バサン級
アーレイ・バーク級ベースにしたこんごうとは異なり、イージスシステムを搭載しつつも艦のレイアウトなどを見直し、一回り小さい体にまとめたイージス艦。ヘリの運用もあるが、トップヘビーでもあるという摘も受けている。6隻予定から1隻減らされた5隻が就役済み。ベースラインは7
ノルウェー
フリチョフ・ナンセン級
アルバロ・デ・バサン級ベースステルス形状を導入。あわせて簡略化したイージスシステムを搭載。乗員も少なく抑えられている。イージスシステム搭載しつつステルス形状を持ち合わせた形は独特。5隻が建造されたが1隻が事故沈没した。
オーストラリア
バート級
アルバロ・デ・バサン級ベースラインは7.1a。2隻が就役、1隻が建造中。
ハンター
2018年6月に発表されたアンザックフリゲートの後継艦。イージス戦闘システムを搭載するが従来のイージス艦が装備していたSPY-1系列ではなくオーストラリア企業であるCEAテクノロジー開発した多機レーダーCEAR」を搭載する予定。2020年から10年かけて9隻を建造予定。
韓国
世宗大王級
こんごう、あたご同様アーレイ・バーク級ベースに建造された。ただし韓国海軍の他艦艇とのバランスもあってか、日のイージス艦にべるとかなりの重武装となっている(つまり、1隻に数多くの任務を持たせるしかないということの裏返し)またその装備もかなり寄せ集め感が強く、一部の電子装備や兵装が欧州系のものや産のミサイルなどで組み合わされている。ベースラインは7。
当初、3隻建造後追加で3隻の計6隻の建造を予定していたものの、後に計画変更。3隻のみで建造は終了することとなった。同艦は2番艦「」が2011年6月配備、3番艦「西厓成龍」が2012年8月に配備された。

関連動画

関連商品

関連コミュニティ

関連項目

脚注

  1. *「イージス・システム その発達と今後」山崎  世界の艦2016年9月
  2. *兵器最先端3 大洋艦隊」読売新聞社 1986 p.149
  3. *「知られざるイージス艦のすべて 新装版」 谷哲也 笠倉出版社 2019 pp.61-62
  4. *海自護衛艦「まや」進水 イージス艦7隻目、「共同交戦能力」初搭載 情報共有で屈指の防空能力 2018.7exit

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イージス艦

350 ななしのよっしん
2024/02/16(金) 00:30:03 ID: S020yreBng
MD担当艦を艦隊に組み込むのはやむを得ないにしても期警衛星レーダーサイト全に任せないとダメだ
飛来するミサイルの警監視までやらせるとSPYレーダーを適時停止できない
艦隊に敵機や対艦ミサイルを惹きつける電波灯台連れて動くはめになる
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351 ななしのよっしん
2024/02/17(土) 05:27:11 ID: My6hTBk3//
確かに艦隊の位置を叫び続けるレーダーってのは邪魔だわな
>>333の通りイージスシステムの分散連携には賛成
OTHレーダーサイトは性は確かだけど守るのは大変
自立稼働するドローンレーダー積むのが現状は妥当かなと思う
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352 ななしのよっしん
2024/03/20(水) 12:26:24 ID: S+202DNn8r
>>348
BMDは単純な迎撃性だけでなく長期展開も必要なので巨大化せざるを得ず、航行性が低下するため機動運用には向かない、故に専用艦となる
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353 ななしのよっしん
2024/03/20(水) 12:33:38 ID: 2aNK/5JaAV
今後、対艦弾道ミサイルの脅威が増していった場合、
個艦防としてのBMD
というのもめられるようになってくるんだろうか?
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354 ななしのよっしん
2024/03/20(水) 12:46:13 ID: S+202DNn8r
>>350
もともとBMD艦に期警などもたせる予定はないが
それはそれとして現代に闇に提理論は古すぎる
視野の広い合成開口レーダーの実用化と画像解析の高速化で、外洋に関してはニアリアルタイム船舶の動向を監視できるようになってるのだから、電波封止したところで隠れることはできない
レーダーリンクも切った状態で敵の攻撃を受けるリスクとはまるで見合わない
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355 ななしのよっしん
2024/03/21(木) 08:15:56 ID: My6hTBk3//
長期展開というが、どの程度の範囲をどの程度の時間に渡り継続展開するつもりなんだろ
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356 ななしのよっしん
2024/03/23(土) 19:01:25 ID: S+202DNn8r
そりゃ中の人しか知らんわな
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357 ななしのよっしん
2024/04/19(金) 06:50:33 ID: S020yreBng
衛星から全ての水上艦の位置をリアルタイム把握しているって盛りすぎじゃねと思うが
中国軍の監視がそのレベルにあるなら戦として計算できるのは潜水艦水上ドローンのような小舟艇ぐらいになるかね
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358 ななしのよっしん
2024/04/19(金) 06:57:42 ID: 2aNK/5JaAV
逆にリアルタイム把握されてんなら、それ前提にして常時防レーダー稼働させといてもOK
電波封止の必要なし。ってなるからそれはそれでありなのでは?
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359 ななしのよっしん
2024/04/19(金) 07:46:23 ID: My6hTBk3//
>>358
衛星からのリアルタイム把握を前提に常時レーダー稼働ですと?
お待ちください、これはです。そこで宇宙作戦群を活用せねば各宇宙軍の失笑を買いますぞ
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