概要
エマージェント・ゲームプレイ(Emergent gameplay)とは、プレイヤーの創発(Emergence)によるゲームプレイ、つまりはプレイヤーによって新しく編み出されるゲームの遊び方である。ゲーム開発者の予想を超えたゲームの解き方やテクニック、果てはプレイヤーが独自に思いついたゲームの遊び方を指す概念で、ニコニコ動画での有名なプレイ動画を例に解釈するならスーパーマリオ64での「奴が来る」がそんな感じ。
この「奴が来る」は、"残機数が増えるお得なアイテムから逃げ続けてステージをクリアする"という内容のプレイ動画で、本来のゲームの遊び方とは大きく異なっている。もちろん開発者が意図したものではなく、プレイヤーが独自に編み出した遊び方である。このマリオ64の例は「奴が来る」の投稿者個人が考案した特殊な一例というわけではなく、当人が(ゲーム発売当時の)小学生の頃に周りのみんなもそうやって遊んでいたと語っている。また、英語圏のコミュニティでも全く同じ遊び方が周知されており「Green Demon Challenge」と呼ばれている。この遊び方はプレイヤーたちの間で独自に編み出され定着したものだと言えるだろう。
この記事の初版を書いた2017年現在、「Emergent gameplay」という言葉にはこれといった日本語訳は定着していません。ここではとりあえずカタカナ表記したものを便宜上使用しています。 |
このエマージェント・ゲームプレイという概念をまとめた話は、2006年にフランスのゲーム関係のメディアに記載されたものがどうやら最初らしい。(ゲームにおける創発自体の話はもっと前からちらほらある)
先に紹介した例ではビデオゲームタイトルを挙げたが、この概念はチェスやTRPGなどのテーブルトップゲーム(アナログゲーム)も含んだゲーム全般に言えるものである。また、エマージェント・ゲームプレイとは新しい概念であり、その定義や解釈には曖昧な部分もあり、まだまだ議論の必要性があると該当記事では語られている。
ニコニコ大百科でのこの記事も初稿を書いている時点では日本語での参考文献がほぼ無い状態で、筆者の曖昧な読解力と解釈に基づいている部分も多々あるかもしれません…。決して、このように定義される!ってわけじゃなくて、そういう解釈もあるんだってよ…ふ~ん…?程度に読んでやってください。
エマージェント・ゲームプレイは大まかに分けて二種類あり、ひとつはプレイヤーによる自由な攻略方法が用意されているゲーム、すなわち開発者によって意図的にエマージェント・ゲームプレイが起こるようにゲームがデザインされたもののことで、これは”意図された創発”に分類できる。
意図された創発
これは攻略方法が無数にあり、プレイヤーに自由な解き方が出来るようにデザインされているゲームのこと。開発者がある程度に想定していた選択肢や組み合わせの範囲を超えて、開発者や他のプレイヤーが思いつかなかったような解き方が編み出されることもある。解法が無数にあるパズルゲームやプレイヤーが自由に遊び方を決めるサンドボックスはだいたいそんな感じ。クエストやパズルシーンの攻略方法が多く用意されているRPGも同様で、このようなゲームデザインは日本国内のコミュニティ間で、いわゆる"自由度"の一種として解釈されている。
入力した単語から様々なアイテムを生み出してパズルをクリアする「マックスウェルの不思議なノート(Scribblenauts)」。 ゲームの解法はまさに無数にある。開発者はプレイヤーが自由に解き方を考えられるゲームをデザインしたとはいえ、「死んだライオン」や「ミニ黒い寒い美しい鈍い何でも食べる胃」までは予想していなかっただろうよ。 |
プレイヤーが組み上げた攻城兵器でステージをクリアするゲーム「Besiege」。 ゲーム側のイメージにあるような中世の攻城兵器とはかけ離れた珍兵器パンジャンドラムを組み上げたりトランスフォーマーを組み上げる人もいる。ステージの攻略方法もまたプレイヤーによって多種多様である。このようなサンドボックス型のゲームはプレイヤーが解き方や遊び方を創造することを前提にしたゲームであるとも言える。 |
先のフランスのメディアの記事をぱっと見てもらうと分かるように、この意図されたエマージェント・ゲームプレイは「Deus Ex」というRPGのゲームデザインを例に解説されている。このゲームは強制的なパズルを出来る限り取り除いたゲームであり、例えば、扉を開けて先に進むには鍵が必要だという場面になったとき、プレイヤーは鍵を見つけなければならないということではなく、爆弾や強力な武器で破壊する、ピッキングやハッキングで開錠する、別の道を探す…といったようにいくつもの選択肢が用意されており、ゲーム全体がそのように設計されている。ストーリーラインと決められた個々のクリア目標があるゲームでありながらも、プレイヤーによって攻略方法は多種多様である。
比較的最近のゲームを例にするなら「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」がわかりやすいかもしれない。目的地への移動方法や物理演算を用いたダンジョンの攻略方法は無数にあり、このゲームもまたプレイスタイルはプレイヤーによって多種多様である。
自由な攻略方法といっても、裏技やバグ技を使ってゲームを解くことはゲームのシステムを逸脱した行為であり、流石にそれはゲームデザインの範囲外の話である。また、冒頭で紹介した「奴が来る」のようなゲームの仕組みを全く違う遊び方に転用してしまうことも当然開発者の意図の範囲外である。これらはもうひとつのエマージェント・ゲームプレイ、”意図されていない創発”に分類できる。
意図されていない創発
ビデオゲームにはバグは付き物である。バグとは不具合であり、ゲームのルールやゲームプレイを壊してしまうものでもある。バグを利用したゲームプレイは"意図されていない創発"ではあるが、エマージェント・ゲームプレイは肯定的な意味合いの概念であり、ゲームを壊してしまうものは「Gameplay Derailment(脱線したゲームプレイ)」という別の概念で解釈するのが適切らしい。
ただし、ゲームのルールを壊してしまうようなものでなければ、それらがプレイヤーの間でテクニックや競技、つまりルールのあるゲームプレイとして定着することもある。
スポーツ系やアリーナ系と呼ばれるFPSには自身の攻撃の爆発で飛距離を伸ばす「ロケットジャンプ」や、特殊な方向入力をすることで加速する「ストレイフジャンプ」というテクニックがある。実はこれらは元々開発者が意図したものではなく、プレイヤーによって独自に編み出されたものである。後者に至ってはプログラムのミスによるバグった挙動である。しかしながら、当時のオンライン対戦コミュニティ上で試合をより面白くさせるテクニックとして定着し、元々は意図されていないバグであったが、あえて修正されずに後年の続編や同じゲームエンジンのタイトルではゲームのシステムとして採用されることになった。これはプレイヤー側で独自に編み出された遊び方が正式にゲーム側で採用された一例である。
本来のゲームのシステムに基づいたゲームプレイであっても、それを利用してプレイヤーが独自に新しいルールやゲームを編み出して遊ばれることもある。記事冒頭で紹介した「奴が来る」がこれである。
FPS「CoD:BO2」のオンライン対戦で、誰も倒さず誰にも倒されないことを目的としたプレイ動画。放置しているわけではなくて、より多くの相手プレイヤーと遭遇するように積極的に激戦区に向かうルールでプレイされている。 |
ゲームのルールを知らないプレイヤーが手探りの中で独自の遊び方を編み出している例。 新作ゲームのテストプレイやデバッグプレイで、新しいゲームのルールを知らないテストプレイヤーが開発者が意図していたものとは異なるゲームプレイを始めてしまう…というのはよくある話。 |
そのほか、プレイヤーが通常のゲームプレイに独自のルールを追加する「縛りプレイ」、実際の試合が始まる前に行われるプレイヤー同士の駆け引き「メタゲーム」もまた、プレイヤー達によって独自に編み出されたエマージェント・ゲームプレイの一種であると言われている。
エマージェント・ゲームプレイの例
※スピードランやTAS関係、発生したバグで遊ぶのではなくバグらせること自体を目的としたチートバグ動画系、ゲームを作り変えてしまうハックロム、MODなど…は内容によりけりで、こちらの概念で解釈分類するよりも、各々の独立した概念で解釈した方が適切だと思います。
関連項目
つまり何なの?
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