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オートプシー・イメージング(Autopsy imaging)とは、死後画像診断である。以下、それぞれの単語の頭文字をとって 、「Ai(エーアイ)」と表記する。
概要
Autopsyとは剖検、imagingとは画像、直訳すると「画像解剖」となる。死因究明に不可欠な「死亡時医学検索」の手段はいままでは「解剖」しか存在しなかった。しかし、日本の年間死亡者約百万人に対し、総解剖数はわずか三万人である。解剖率…たったの3%か、ゴミめつまり、残りの97%の死者は、死因不明のまま弔われていることになる。この「死因不明社会」に対する特効薬が「Ai」なのである。その方法は「遺体の内部の画像を撮影する」たったこれだけ。これだけで、多くの死因を究明できるのである。
「死因不明社会」って?
死因不明社会とは、読んで字のごとく、「死因が分からない社会」のことである。「死因なんて分からなくても別にいいだろ 、死人が生き返る訳じゃねーし」なんて言ってると、下のような事になる。
- 親族の死因が確定されずに済まされ、医療ミスを見逃す、保険金の請求ができなくなるなどの問題が起こる。
- 昔の病気が再発したのか、それとも別の病気で死んだのかすらわからない。これでは治療の効果があったのかが分からず、効果的な治療法の確立が遅れてしまう上、医療統計をとることもできなくなる。
- 体表から見ただけで事件性の有無を決めている現状、解剖なしでは犯罪を見逃してしまう可能性が高まる。しかし、体表に目立った傷がなければ、強制力を持つ司法解剖は難しい。だからと言って、遺族の了承のいる承諾解剖はもっと難しい 。かくして、犯罪は見逃され、新たな被害者を生んでしまう。
つまり、死因不明社会は、医療の質の低下、治安の悪化に直結するわけだ。
Aiの施行
いよいよ本題、Aiについての話。Aiを実施すれば、前述の様々な問題を解決することができる。施行は簡単。今までは 検案→解剖となっていた死亡時医学検索。この間に検案→Ai→解剖と、Aiを間に挟んでやるだけでいい。ね、簡単でしょう? 遺体の撮像では、コンピュータ断層撮影(CT)や核磁気共鳴画像法(MRI)が主に用いられる(ちなみに日本には諸外国平均の6、7倍の数のCT・MRIが設置されており、Ai施行には充分過ぎるほどの環境が整っている)。CTでは30%、MRIでは60%程度の割合で死因を究明することができ(解剖では75%程度)、主に放射線専門医、それ以外では一般臨床医が診断する。Aiは、ずさんな死因究明制度に光を当て、死因不明社会への処方箋となるのだ。
Aiの利点
ここで一度、Aiの利点を整理してみる。
- 解剖の前に、その必要があるかないかを選別できる。国から出る予算は当然限られる上、解剖の費用は25万~50万円と非常に高額なため、無駄な解剖を避けることは極めて重要。無論、解剖をする場合でも、Ai情報の有無で精度は全く違ってくる。
- 遺族の承諾が得やすい。Aiは画像診断なので、遺体に傷一つ付けずに検査を行える。遺体を傷つける解剖は嫌だが、Aiならぜひやってほしいという遺族は多い。現に、Aiを拒否されるケースは限りなく少ない。
- Ai画像は、終了後にも客観的な状態を保ったままデータを取得できる。これは解剖にはない大きなメリットである(言うまでも無く、解剖した後は遺体はバラバラになってしまう)。
- 検査費用が安い。CTの費用は3~5万円、MRIでも5~7万円と、非常に経済的。
- 検査のスピードが速い。Aiは撮像に約1分、診断まで含めても1時間と、かなりの速さで結果が出せる。当然、遺族への説明が早めにできる上、医学情報を臨床現場に即座にフィードバック出来るようになる(解剖は結果が医療現場と遺族に伝えられるまでに1ヵ月~数年を要する)。
- 解剖承諾が得やすくなる。遺族にAi画像を見せながら説明することにより、医師は解剖の必要性をより明確に説明できるので、遺族も解剖の必要性を納得しやすくなる。
- 犯罪を見抜くことができる。体表に目立った異常がなければ、司法解剖の執行は難しい。また、仮にその症例が殺人事件で、さらに、遺族の中にその犯人がいたらどうだろう(保険金殺人など)。遺体を傷つけたくないという理由で承諾解剖も拒否されれば、間違いなく犯罪を見逃してしまう。しかし、Aiは遺体を傷つけないので、このような言い訳も通用しない。Aiは、犯罪監視システムとしての側面も持つのだ。
- 児童虐待も見抜くことができる。小児の死亡例は、特に遺族の抵抗が大きい。さらに項目7の問題も相まって、虐待死が見逃されやすい状況が作られている。同じ家庭で連続して起こった虐待事件など、第一の事件を見逃したばかりに第二、第三の事件が起きてしまったという、悲劇的なケースもある。しかし、小児死亡例の全てにAi実施を義務化すれば、このような悲劇は起こらなくなる。
- 大規模災害時の遺体の身元確認に役立つ。このような事態では遺体の発見が遅くなることが多く、そのような場合は往々にして遺体の状態が悪く、体表検案だけでは身元が分からない。ここでAiの出番である。過去の手術歴などがAiで簡単に分かるので、身元確認に効果的なのだ。最近では、オーストラリア・ビクトリア州での大規模山火事や、東北地方太平洋沖地震の被災地でも活躍した。
Aiの実施によって、これだけの恩恵が得られるのだ。しかも、画像情報の蓄積やCT・MRIの進歩によっては、さらなる飛躍が期待できるようになる。
Aiの問題点
このように素晴らしい検査方法であるAiだが、もちろん問題も抱えている。解決済みのものも含めて列挙してみよう。
病棟では死者が横たわったベッドに患者を寝かせますが、誰も文句言いませんね。 By 白鳥圭輔(ジェネラル・ルージュの凱旋 274ページより)
通常診断機器でAiを行うことが患者に対する配慮に欠けるならば、同じ理由で、死者が寝たことのあるベッドも変えなければならない。ベッドではシーツを替えているから清潔といっても、Aiでも遺体を滅菌布でくるんで検査するので、こちらも清潔そのものである。
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倫理面からの問題。新しい検査概念は、倫理審査委員会の判断を仰ぐことが現在の潮流である。Aiは、まだ社会から完全には受け入れられていないという批判が、倫理の専門家からは出ている。この問題も解決済みである。
解剖が社会のコンセンサスを得ているのに、なぜエーアイは得られないのか、ということを聞きたいんだ。遺体損壊を伴う解剖と、遺体に影響を与えないエーアイと、どちらが倫理的問題を含んでいると考えているのか? By 速水晃一(ジェネラル・ルージュの凱旋 262ページより)
遺体を損壊する解剖が社会に受容されている以上、非破壊検査であるAiが倫理的な問題をはらんでいるとは言えない。Aiに倫理問題があるならば、解剖も倫理委員会を通せという話になるだろう。ちなみに、現在は30道府県以上でAiが倫理審査委員会を通過している。よって、Aiは倫理問題なしと認定できる。
- 費用拠出の問題。現在はAiに費用を拠出する法的根拠がないため、費用はほぼ実施施設の負担ということになっている。本来は「国家」が「全額」を「医療費外」から拠出するのが当然とされている。警察の捜査にかかわる検査には拠出されてきているが、まだまだ不十分である。
以上の三点のうち、二点が解決済み、残りの一点の費用拠出問題をどう解決するかが今後の課題である。
Aiと解剖
こうした場合、「Aiと解剖って、どっちが優秀なん?」といった比較論になりがちだが、これは正直、どっちが優秀とかそうでないとか、一概には言えないのだ。Aiと解剖は次元の違う検査なので、比較が不可能なのである。むしろ、前に述べたとおり、Aiは解剖の良きパートナーなのである。Aiが導入されると解剖が不要になってしまうと考える人が少なからずいるが、Aiでも死因不明だった症例は解剖に回されることが多くなるので、むしろ解剖は増加が見込まれている。Ai情報によって、解剖情報の質はアップする。解剖は一部分に的を絞って検査することにかけては効果抜群なのだが、逆に全体をくまなく検査することが苦手という弱点がある。しかし、Aiは、その全体検査が大得意なのだ。さらに、Aiによって頭部の検査が簡単にできる。頭部の解剖は体幹部の解剖とは別に承諾を取るので、頭だけは解剖しないでくれという遺族も多かった。そのような症例でも、Aiなら非破壊検査だから大丈夫。対して、解剖がAiの助けになることもある。Aiで検出されなかった病変が解剖で検出されれば、Aiの診断能の限界を知ることができる。Aiと解剖は互いに互いの弱点を補っているのだ。
まとめ
ここまで読んでくれた人なら、Aiの有用性は理解できたと思う。Aiが普遍化すれば、必ず医療関係者・患者双方にとって役立つシステムになる。悪徳医師や悪徳法曹や犯罪者や虐待親は困るかもしれないが。まだ普遍的な導入までは至っていないが、市民がそれを望みさえすれば実現可能だ。これからのAi、そして医学の進歩に期待しよう。
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関連項目
- ニコニコ大百科:医学記事一覧
- 海堂尊(提唱者)
- 千葉大学(世界で初めてAiセンターを設置した大学)
- 解剖
- チーム・バチスタの栄光
- ナイチンゲールの沈黙
- ジェネラル・ルージュの凱旋
- イノセント・ゲリラの祝祭
- アリアドネの弾丸
関連リンク
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