カストロプ動乱とは、「銀河英雄伝説」の事件・戦役の一つ、およびOVA「銀河英雄伝説」第5話、アニメ「銀河英雄伝説 Die Neue These」第8話の題名である。
銀河英雄伝説の戦闘 | |
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カストロプ動乱 | |
基本情報 | |
時期 : 帝国暦487年 初頭 - 5月頃 | |
地点 : 銀河帝国 カストロプ公領、マリーンドルフ伯領 | |
結果 : 銀河帝国軍(第三次討伐軍)の勝利 | |
詳細情報 | |
交戦勢力 | |
ゴールデンバウム朝銀河帝国 | カストロプ公爵家 |
指揮官 | |
シュムーデ提督(第一次) ジークフリード・キルヒアイス少将(第三次) |
マクシミリアン・フォン・カストロプ |
動員兵力 | |
第一次討伐軍 第二次討伐軍 第三次討伐軍 マリーンドルフ伯領警備隊 |
カストロプ公領警備隊 カストロプ家の私兵 |
前の戦闘 | 次の戦闘 |
アスターテ会戦 | 第七次イゼルローン要塞攻防戦 |
概要
帝国暦487年に発生した、カストロプ公爵家の叛乱独立運動と、対するゴールデンバウム朝銀河帝国軍による討伐戦の総称。カストロプの動乱、カストロプ星系における動乱、カストロプ星系動乱などとも称される。
カストロプ公爵家は二度にわたって討伐軍を撃破し、さらに支配領域をひろげる姿勢を示したが、第三次討伐軍の勝利により首謀者であるマクシミリアン・フォン・カストロプが殺害されたことで半年にわたる動乱は鎮定された。
経緯
カストロプ公爵家の当主であったオイゲン・フォン・カストロプ公爵は、かつて15年間にわたって財務尚書として閣議に列した朝廷の重臣であった。しかし、オイゲンは財務尚書としての職権をしばしば濫用し、疑獄事件に関与することも少なくなかった。当時の銀河帝国では貴族の犯罪は追求されにくいものではあったが、重臣による大々的な不正が体制への民衆の不満を拡大しかねないという問題もあって、オイゲンの不正は司法尚書をはじめとする他の門閥貴族からしても度をこえたものとみなされていた。しかしオイゲンは権力と財力を背景として利用しており、政府・司法省も手をつけかねる状況にあった。
その事態が急転したのは、帝国暦487年、自家用宇宙船の事故でオイゲンが死亡したためである。同様の不正を企図する他の貴族に対する牽制として、また国法の権威を保ち民衆からの信頼を回復するために、財務省がカストロプ公爵家を調査し、不正な蓄財を国庫へと回収することとなった。これには、膨大な額に上るであろう不正蓄財の回収により、国庫に一時的にでも余裕を持たせることができるというねらいも存在していた。
調査にさきだって、国務尚書クラウス・フォン・リヒテンラーデ侯爵によって公子マクシミリアンの相続手続きは一時停止され、資産の相続は財務省による調査の完了と不正蓄財分の国庫への回収を待つこととされた。しかし、これに反発したマクシミリアンは、財務省の調査官を二度にわたって追い払い、調査に協力しない姿勢を見せる。財務尚書であるゲルラッハ子爵は国務尚書リヒテンラーデ侯に要請してマクシミリアンを帝都オーディンへと召喚させたが、呼出状を受けたマクシミリアンは猜疑心による恐怖からこれも拒否し、カストロプ公領を動かなかった。
この事態を受けカストロプ公爵家の親族・姻戚たちが帝国政府との仲立ちをかってでたものの、マクシミリアンは耳を貸さず、領地を隣接する親族フランツ・フォン・マリーンドルフ伯爵が説得に訪れたところを監禁する暴挙におよぶ。事ここに及んで帝国政府へのカストロプ公爵家の対立姿勢は明確なものとなり、公領の警備隊をはじめとして見境なく私兵を集めだしたカストロプ家に対して帝国政府側は討伐軍の派遣を決定した。
動乱の経過
二度の討伐失敗と動乱の拡大
編成された第一次討伐軍は、アスターテ会戦と同時期にシュムーデ提督の指揮のもとオーディンを出撃した。しかしこの討伐軍はマクシミリアン軍をあなどっており、明確な作戦もないままに強引に着陸したところに奇襲を受けて敗北、シュムーデ提督が戦死するなど、討伐行は失敗に終わった。続いて第二次の討伐軍が派遣されたが、軍事的にはある程度の才を有していたマクシミリアンの前に、こちらも敗退を余儀なくされる。
二度にわたって帝国の討伐軍を退けたことに増長したマクシミリアンは、自身の支配領域を広げ帝国政府から半ば独立した地方王国を成立させようと考え、私兵をマリーンドルフ伯領の併合に向かわせた。これを迎え撃つ立場となったマリーンドルフ伯領警備隊は、当主を監禁されて欠く状況にもかかわらず防衛線を維持することに成功し、オーディンへと救援を要請した。
第三次討伐軍
以上のような状況で第三次となる討伐軍の指揮を委ねられたのは、宇宙艦隊副司令長官ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥麾下のジークフリード・キルヒアイス少将であった。これには、腹心であるキルヒアイス少将を元帥府のナンバー2とするために相応の功績を挙げさせる必要があったローエングラム元帥の画策によるもので、ローエングラム元帥の推挙を受けたリヒテンラーデ侯ははじめ難色を示したものの、結局はローエングラム元帥に恩を売るために受け入れ、キルヒアイス少将に討伐軍指揮官の勅命が下ることとなった。
この第三次討伐軍は、二重の陽動によってカストロプ軍を撃破することに成功した。キルヒアイス少将は、はじめマリーンドルフ伯領への救援を示唆しておきながら艦隊をカストロプ公領へと向かわせることでカストロプ軍を本拠地へと急ぎ撤退させ、さらに実際にはカストロプ公領を攻撃することなくマリーンドルフ伯領からの帰路でカストロプ軍を襲ったのである。カストロプ軍は焦りから後背を無防備にしていたため、小惑星帯に隠れていた討伐軍に後背への急襲をたやすく許し、一挙に潰滅した。
マクシミリアンは戦場を脱出することに成功したが、けっきょく帝国政府による問罪の危険を感じた部下の手で殺害され、カストロプ動乱は終結した。
結果
第三次討伐が事後処理まであわせてわずか10日間で完了したことは、ローエングラム元帥の副官であったキルヒアイス少将が単独での艦隊指揮にも高い能力を有していることを示すこととなった。カストロプ討伐の功績によってキルヒアイス少将は中将に昇進し、帝国宰相代理でもあるリヒテンラーデ侯より双頭鷲武勲章(ツアイトウイング・イーグル)を授与されている。
カストロプ公爵家の領地財産は財務省により処理されたが、その総計は金銭換算で5000億帝国マルクに上った。
メディアミックスにおける展開
石黒監督版OVA
石黒監督版OVAでは敗北した討伐行はシュムーデ提督率いる3000隻の一回のみとなったほか、マクシミリアンによるマリーンドルフ伯領への侵攻も行われなかった。その一方で、カストロプ公領の主星として設定されたラパートの衛星軌道上には戦闘衛星群「アルテミスの首飾り」が設置され、討伐軍を迎え撃つ強大な戦力となっている。これは同盟が首都ハイネセンの防衛システムとして開発した兵器であるが、同様のものをカストロプ公爵家がその財力によってフェザーン経由で購入したものとされる。
キルヒアイスの率いる討伐軍2000隻は、指向性ゼッフル粒子の使用によってこの“首飾り”をまとめて破壊。迎撃能力を失い狼狽しながらも逃亡を企てるマクシミリアンが、身代わりとして死ぬよう命じられた家臣の手で殺害されたことで動乱は終結した。なお、この討伐軍にはハンス・エドアルド・ベルゲングリューン大佐とフォルカー・アクセル・フォン・ビューロー大佐がキルヒアイスの部下として参加している。
Die Neue These
Die Neue Theseでは、キルヒアイス以前の討伐行については言及されず、マリーンドルフ伯領への侵攻もなかった。戦闘は原作通り艦隊戦となったが、戦闘の展開は大きく変更され、討伐軍は5000隻、カストロプ軍は1万隻となった。
戦闘では、キルヒアイスは自軍に発砲を許さず、防御に専念させながら艦列をのばして多数のカストロプ軍を包囲させた。マクシミリアンは包囲網の穴に艦隊を突撃させたが、これはキルヒアイスの罠であり、最後尾にあったマクシミリアンの乗艦<ダインスレイフ>が包囲を抜けようとする瞬間に穴は閉じた。キルヒアイスは孤立したマクシミリアンとカストロプ軍に降伏を勧告し、あくまでマクシミリアンを捕らえることが討伐行の目的であり、従った兵たちの命は奪わない、証拠にこれまで一切攻撃を加えていない、と宣言する。マクシミリアンは先行した艦隊に攻撃を命じたが、兵たちは誰も命令に従うことなく、マクシミリアンを射殺して降伏した。
石黒監督版OVA 第5話「カストロプ動乱」
ラインハルトからカストロプ星域での地方叛乱討伐をまかされたキルヒアイスは、 わずかな兵力で敵地におもむく。 次回、『銀河英雄伝説』第5話、「カストロプ動乱」。 銀河の歴史が、また1ページ。 |
カストロプ動乱じたいは、原作では本伝第一巻黎明篇第六章「それぞれの星」において、第七次イゼルローン要塞攻防戦の直後にそれ以前の出来事として簡潔に言及されるのみの事件である。石黒監督版OVAでは、第5話を「カストロプ動乱」として、まるまる一話かけて動乱を描いた。
ストーリー
「なにが帝国か。父上には文句のひとつも言えなんだくせに。
他の貴族へのみせしめにするつもりなのだろうがそうはいかぬ。予の力をおもいしらせてやる!」
職権を濫用して不正に資産を得ていたカストロプ公オイゲンの死を受け、帝国は不正蓄財の返還を求めた。しかし嫡子マクシミリアンはこれを拒否して帝国に対する叛乱の挙に及ぶ。しかし帝国から送られた討伐軍は、事態を憂慮して説得に訪れたマリーンドルフ伯の前で「アルテミスの首飾り」によって撃退された。いっぽう、元帥府を開いて新進気鋭の提督たちを集めたラインハルトは、キルヒアイスにカストロプ討伐の勅命を告げ、前回の討伐軍より少数の艦艇とともにオーディンを出立させる。
「たしかにローエングラム伯は名将だ。戦争の天才といってもいい。
しかし、その副官が名将である保証があるか。付録はしょせん、付録さ!」
しかし討伐軍旗艦の艦内では、幕僚であるベルゲングリューンが作戦の前途を悲観し酒に溺れていた。僚友ビューローがたしなめるのも聞かずキルヒアイスに詰め寄るベルゲングリューン。だが、キルヒアイスは意外な作戦案を示し、勝つための作戦であると答える。かくして、“指向性ゼッフル粒子”による「首飾り」の破壊が実行された。
「お若いな、だが……」「まことの名将か……」
「首飾り」の破壊と降伏勧告に動揺したマクシミリアンは、焦慮の末にフェザーンへの亡命を決意し、側近に身代わりとなるよう命じる。しかし当の側近、さらにまわりの家臣や侍女たちによってマクシミリアンは刺殺され、カストロプ動乱は終結する。報を受け、上陸部隊に掠奪暴行の厳禁徹底を命じるキルヒアイスに対し、ベルゲングリューンは改めて敬礼するのだった。
補足
展開の詳細は「マクシミリアン・フォン・カストロプ」も参照。
キルヒアイスの部下として初登場しているベルゲングリューンとビューローの両者は、原作ではもっと後に「かつてキルヒアイスの部下として肩を並べた」という経歴とともに登場したキャラクターである。OVAのこの回では、指揮能力では未知数のキルヒアイスをはじめ疑い、そしてその人格と能力を知り認める役割を担った。ほかにも、マリーンドルフ伯の娘ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフが原作に先行して登場している。同様に新兵器「指向性ゼッフル粒子」も原作より早い時期の登場となったが、この回に登場した帝国軍工作艦三隻によって牽引される巨大なゼッフル粒子発生装置の姿は、こののちアムリッツァ会戦と回廊の戦いでしか姿を見せないレア物である。ガレージキットも完全受注・最大20個限定生産のレア物。
また、カストロプ関連のデザインはすべて、西欧・ドイツ風の帝国内では明らかに異質な古代ギリシャ調のものとなっており、邸宅に至っては切り立った崖の上のアクロポリスがごとき様相である。また、マクシミリアンによる「お前見てまいれ。行って見てまいれというのだ(討伐軍が動かないのを見かねて家臣に)」「よし、おまえ身代わりになれ(「首飾り」を破壊され逃亡のため家臣に)」「焼身自殺にしろ。顔を焼いてしまえばしばらくごまかせるであろう。それはよいとして……(よくない)」などの迷言が妙な人気を博しているなど、序盤に妙な印象を残す回である。
最強の白兵戦部隊といわれる同盟軍“薔薇の騎士”連隊は、 いつうらぎるかわからぬ危険な集団といわれている。 ヤンは、みずからの第13艦隊にこの連隊をくわえ、イゼルローン攻略にむかう。 次回、『銀河英雄伝説』第6話、「薔薇の騎士」。 銀河の歴史が、また1ページ。 |
Die Neue These 第8話「カストロプ動乱」
「Die Neue These」では、第8話を「カストロプ動乱」とし、カストロプ動乱からオーベルシュタインの登用までを描いている。
ストーリー
財務省の調査に反発して叛乱をおこしたマクシミリアンを討伐すべく、ラインハルトの元帥府よりキルヒアイスの艦隊が送り込まれることとなった。倍する数のカストロプ軍に対し、応戦せず防御に徹し、カストロプ軍を包囲するよう命じるキルヒアイス。その様子を見たマクシミリアンは、何の気なしに部下に暴力をふるいながら、戦の定石を知らないおろかものと嘲笑していた。
包囲網の穴をみつけたマクシミリアンは、罠をおそれる部下を殴打してしりぞけ、穴めがけて艦隊を突撃させ、自身もゆうゆうと最後尾で脱出しようとした。しかしその瞬間、キルヒアイスの命令が飛んで穴は閉じられ、マクシミリアンの旗艦は孤立する。目的はマクシミリアンの追捕のみ、その証拠に兵たちには一切攻撃を加えていない、というキルヒアイスの降伏勧告を受け、マクシミリアンは艦隊に攻撃を命じたが、従うものはいなかった。結局マクシミリアンは、それまで殴ってきた兵たちから一斉に撃たれて息絶えた。
「臣下や民のため命をつくすのも、主君のつとめとぞんじます」
短時日に動乱をおさめてみせたキルヒアイスに、元帥府の諸将も認識をあらためた。やがてイゼルローン要塞陥落の報が届いて帝都を動揺させ、ラインハルトのもとをオーベルシュタインが訪れる。敵前逃亡を告発される身となった彼は王朝への憎悪をあかして保護と登用を求め、ラインハルトは参謀を得ることとなった。いっぽう宮廷では、国務尚書リヒテンラーデがラインハルトによる簒奪をおそれ、皇帝フリードリヒ4世に諫言する。しかし皇帝は臣下の危惧を意に介さず、無気力にこう答えるのだった。
「不死の人間がおらぬと同様、不滅の国家もない。
余の代で銀河帝国が絶えて悪い道理がなかろう。
どうせ滅びるなら、せいぜい華麗に滅びるがよいのだ……」
補足
展開の詳細は「マクシミリアン・フォン・カストロプ」も参照。
Die Neue Theseでは、部下にはばかりなく暴力をふるうマクシミリアンと、敵であっても主君に従っているだけの兵たちを傷つけずに降伏させるキルヒアイスの対比が中心におかれた。これによって、臣下は主君のため死ぬのがほまれと公言してはばからず、部下の進言を受け入れずに事態を自身に都合よく解釈しようとるマクシミリアン、ひいては門閥貴族そのもの暴力性と自己中心的傾向をしめすとともに、キルヒアイスの温和な人格を際立たせる回となった。
同時に、このように前半パートでキルヒアイスの篤実さを強調したのちの後半パートでオーベルシュタインの登用を描いたことで、丸腰のオーベルシュタインからの「撃てんだろう。貴官はそういう男だ」という台詞の通り、キルヒアイスのみを腹心とたのむことの限界、そしてオーベルシュタインのような「影」に立つ参謀を得る必要性が強調されるストーリー展開となっている。
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