カーデンロイド豆戦車とは、1920年代にイギリスで開発された豆戦車(タンケッテ)である。
概要
1920年代のイギリスでいくつか考案された豆戦車のうち、もっとも成功した車両である。戦間期の軍事費削減の流れの中、WW1型戦車の代替車として、また機甲師団編成の第一歩として世界各国に販売され、また一部の国においてはライセンス生産・設計変更等を経たこの車両の系譜に連なる車両が大々的に生産された。
開発の経緯
戦車開発史において1920年代のイギリスからはじまった流行というと多砲塔戦車。巨大な車体にいくつもの砲塔を積み、寄せ来る敵兵は幾条もの機関銃の射線で、近づく敵戦車や陣地は大砲で吹き飛ばすという中二病満載のステキな構想である。まあ、普通に考えてこの手の車両が高価になるのはいくら英国紳士でも誰でも予想できるため、戦艦に対する駆逐艦のように軽快さと数で多砲塔戦車を補完する小型の戦闘車両にニーズが発生すると見込まれたのである。
このニーズを埋めるべく1920年代にはいくつかの設計案が軍民あちこちから生まれることになる。その中のひとつが、サー・ジョン・カーデンとヴィヴィアン・ロイドによって考案された一連の車両。1926年から27年にかけて軍でテストが行われた結果、他に有力な候補もあったもののメーカー側が辞退したりといろいろあって、この車両が本格的に採用された次第。
とはいえ、多砲塔戦車は結局イギリス軍の装備としては採用されず、必然的にカーデンロイド豆戦車も「多砲塔戦車を補完する豆戦車」としてではなく「機関銃運搬車」としての採用だったのだけれど、とにかく採用は採用なのだ! 偵察車両としても小さすぎるって結論でこういう形での採用になったのだけれど、海外販売向けには知らん顔して「豆戦車」として売ってたりする。さすがは英国紳士である。
構造
英国兵器の例に漏れず採用後もあちこちをちまちま改良するたびにMkなんちゃらとバージョンが増えていくのだが、最終型であり最多量産型となったMkⅥを解説する。
エンジンはT型フォードのガソリンエンジンを採用。自動車としては既にモデル末期もええとこだったT型フォードだが、そのエンジンは武人の蛮用にも耐えうるタフな構造であり汎用エンジンとしてけっこう人気が高かった。そのぶん最大出力はわずか40馬力。今のNA軽自動車以下。
装甲は最大9mm。徹甲弾を用いれば、小銃等の個人携帯火器でも貫通しかねない域であり、もう本当に必要最小限のモノでしかない。その結果、重量も1.5トンからという超軽量となっている。また速度も路上で最大40km/h、1920年代後半の装軌式車両としては画期的な快速車両である。まあNA軽のエンジンで普通車走らせると思えば、読者の皆様も「こんなもん」だと想像つくかと思いますが。
武装も当然ながら多くは望めず、7.7mm機関銃が搭載できる程度である。もちろん砲塔なんてあるわけもなく、射界もたいして広くはない。撃ちたい方向に車体向けろってことです、軽くて操縦しやすいし。
生産と運用
1920年代としてすら必要最低限の機能しかもたないカーデンロイド豆戦車だが、それゆえに極めて安価であり、戦間期の装甲車両としては大ヒットとよべる部類の車両となった。イギリス軍では1927年から1935年まで生産され、300両強が配備されている。上述の通り「多砲塔戦車を補完する小型車両」「簡易な偵察戦車」としての採用ではなく機関銃運搬車としての採用であるため、主に牽引車として小火砲やいろんな荷物、変わったところでは煙幕発生装置を積んで煙幕展開に用いたりとさまざまな雑務をこなしている。まあそっちの任務に使うにしても小さすぎて、牽引車としての後継となったユニバーサルキャリアはずっと大型化してるんだけど。
これだけならよくある雑用装備ってことで終わりなのだが、特筆すべきは海外販売の成功である。WW1で世界に衝撃をもたらした革命的兵器である「戦車」を我が国に、というわけで中古のルノーFT17買った国やまだ買ってない国々が、大戦後の不況と財政緊縮の中でも数を揃えられる「装甲車両」としてカーデンロイド豆戦車に目をつけたのである。イギリス軍が装備する戦車は売らない英国紳士でも、この手の車両の販売についてはやぶさかではなく求められるままにホイホイ売りまくっており、直接販売したぶんだけでも400両以上が売れている。またライセンス生産やそののちの自国での改良(大概どこの国の改良メニューにも車体サイズの拡大とエンジン強化が入ってる)で生まれた以下の車両、
これらはWW2初期に至るまで実戦で用いられ、あるものは多大な損害を出し、あるものはより強大な国の本格的な戦車にたとえ敵わずとも立ち向かい、あるものはさまざまな資材を運んで縁の下の力持ちとして軍列を支えぬいた。質量鉄量こそが力という傾向が強い装甲車両の世界において、生まれ落ちたときから多大なハンデを背負った彼ら豆戦車たちも、また全力で与えられた生命を生かし切った、当時の軍隊には不可欠な存在だったのである。
え? ハーフトラックと軽戦車大量生産すりゃ済むだろって? 黙れアメリカ人、そんな芸当できたの世界でもおまえらだけだっつーの。
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