ゲム・カモフ(GM Camouf.)とは、ジムに酷似したジオン公国軍のモビルスーツである。ジムをドイツ語読みした「ゲム」+「カモフ」ラージュ(偽装)が由来。
概要
味方をも欺く魔弾の射手
OVA『機動戦士ガンダムMS IGLOO』に登場する(はずだった)モビルスーツ。実際に登場エピソード回の脚本も作られたが、映像化されず没になり、MEIMU氏が執筆した漫画版『機動戦士ガンダムMS IGLOO 603』1巻に収録された「蝙蝠はソロモンにはばたく」でようやく陽の目を見た幻の機体。メカニックデザインは柳瀬敬之氏。ゲテモノ揃いの『MS IGLOO』の中では珍しくMSの体を成した試作兵器でもある。
一年戦争末期、敗色濃厚となったジオン軍は後方撹乱を企図した特殊作戦用モビルスーツの開発に着手。自軍のMSをベースに魔改造を施し、地球連邦軍の量産型MSジムにそっくりなゲム・カモフを試作した。その姿は細部こそ違えどジムそのものであり、味方を装って連邦軍の艦艇に接近、敵が油断したところを一気に仕留めるのである。仮に敵味方識別の信号を求められた場合は「故障」等の理由で誤魔化す。先述の通りジオン製のMSを使っているが原型を留めないほどの魔改造を受けた影響で元の機体を判別するのは不可能。強いて言うなら胴体や腰回りはヅダに近く、動力パイプらしき物が確認出来るバックパックはザクに近い。
連邦軍艦隊への接近や潜入、後方撹乱などを目論む極めて特殊な機体のため、配備先や戦果は公式には記録される事が無く、僅かな存在する資料から生産数も少なかったと予想される。また公式記録は全て破棄され、開発番号、機体登録番号、形式番号すら存在しない。『MS IGLOO』では歴史の闇に葬られた機体が多数登場するが、ゲム・カモフはその中でも念入りに抹消された存在と言えるだろう。
つまり国力が衰退の一途を辿るジオン軍は、敵の目を欺くだけの、このような兵器に頼らざるを得ないほど追いつめられていたのである。アルベルト・シャハト技術少将はこの機体を「張子の虎」と称している。
ジムとの誤認率を高めるため各種武装や名称も連邦軍のものに似せ(作中では使われなかったが、設定上では120mmマシンガンとハイパーバズーカに似せたバズーカ砲を持つ)、偽装の邪魔となる装甲は取り払われている。装甲を除いた事で機動力は向上したが、対弾性能は正規MSより遥かに劣っているため、パイロットの生存率も低い。本機のパイロットには地球市民でありながらジオン軍に志願した義勇兵が充てられており、ジオン軍上層部がアースノイドを暗に蔑視しているのが分かる。機体自体の評価は極めて低く、第603技術試験体に配備された時も名目上は「機体の評価試験」ではなく、高速弾を使用する特殊な携行火器(135mm対艦ライフル)のみが評価対象とされていた。ちなみにチェーンマインやシュツルムファウストといったジオン製兵装も使用する。
ゲム・カモフ自体生産数が非常に少ない機体のため、作戦機の不足を補う目的で、鹵獲したジムに「ゲファンゲナー・ゲム(Gefangener GM)」の公式名称を与え、ゲム・カモフと小隊を組ませて協同で作戦行動を取らせている。勿論ゲファンゲナー・ゲムのパイロットも地球市民である。
原作では宇宙でしか運用されていないが、『戦場の絆』や『バトルオペレーション2』に出演した際に宇宙・地上ともに運用可能なのが判明。ジムの汎用性もコピーしたのだろうか?
蝙蝠はソロモンにはばたく
一年戦争も終わりに近づいた12月上旬、第603技術試験隊に地球市民でありながらジオン側についた義勇軍の一団が着任。彼らを率いるのは大変珍しい女性パイロットエンマ・ライヒ中尉。義勇兵たちは技術本部からゲム・カモフと数機のゲファンゲナー・ゲムを受領し、早速作戦行動を開始。
とある宙域にてルナツーから出港してきた連邦軍のコロンブス級補給艦に接近。目論見通り味方だと誤認・油断したコロンブス級に、すかさずゲム・カモフがチェーンマインを叩きつけて撃沈。初陣を戦果で飾る事に成功した。しかしアースノイドの彼女らに対する感情は様々で、モニク・キャディラック特務大尉が嫌悪感を示す一方、プロホノウ艦長は「軍属の自分より彼女らの方が信用できるのでは」とモニクに返している。
ジオン軍上層部も義勇兵であるエンマ中尉らを捨て駒のように扱っていた。第603技術試験隊に来る前はパプア級輸送艦を母艦としていたが、あてがわれた機体は整備もままならない旧ザクのみであり、整備不良が原因で2名が戦死する事態まで発生。そんな過酷な環境に身を置いていたエンマ中尉たちにゲム・カモフとゲファンゲナー・ゲムが与えられた。経緯はどうあれ、ようやく自分たち専用の機体を受領出来た事で彼女たちの士気は上がった。故にエンマ中尉は「味方からの誤射も否定できない戦場の狂気そのもの」と評しながらもゲム・カモフを気に入っていた。
次の作戦はゲム・カモフとゲファンゲナー・ゲム3機を投入し、603の搭載MSであるヅダと戦うふりをしながら救難信号を発信、罠とも知らずに釣り出されたサラミス級を135mm対艦ライフルで撃沈するという、より危険なものだった。偽の救難信号を聞きつけたサラミス級からジム3機が出撃したところまでは良かったが、そのジムパイロットとの会話でエンマ中尉が適切な回答が出来ず、正体を暴かれて瞬く間にゲファンゲナー・ゲム2機が撃墜されてしまう。慌ててヅダが救援に向かうが、対弾性に大きく劣るゲム・カモフではジムでも荷が重すぎる相手であった。そんな中、突如としてエンマ中尉が悲鳴を上げる。
「こうするしか方法が無かったんです」
そう言い放つとサラミスに近づきながら助けを乞う。元々彼女は地球市民。いつ連邦軍に寝返ってもおかしくなかった。離反とも言うべきエンマ中尉の行動にヨーツンヘイムの艦橋は凍り付く。義勇兵を信じていなかったモニクは観測機で戦場に出ていたオリヴァー・マイ技術中尉に撃墜命令を出すも、出撃前に行った会話で彼女の真意に触れていたマイは、撃墜をためらう。
「両の手が血で濡れたのなら 肘まで血まみれになる覚悟で地球を捨てたはず」
「その時私はそう自分に戒めた たとえ今度は元恋人をこの手で撃つことになろうとも」
サラミスの砲塔がゲムに向けられるとエンマ中尉は対艦ライフルでヅダを射撃。いよいよ実弾発射の暴挙にまで出る。誰もが固唾を呑んで戦況を見守る中――。
「この距離なら!!」
ゲム・カモフのモノアイが光る。彼女が対艦ライフルを発射した相手は油断したサラミスだった。至近距離から135mm弾を喰らったサラミスは一撃でスクラップと化す。なんと先ほどのやり取りはサラミスを討ち取るための「演技」で、敵も味方も彼女にまんまと騙された訳である。こうして嫌疑を晴らしたエンマ中尉は達成感に満たされていたが…。
宙域を切り裂く二条のビームがゲム・カモフを貫いて爆散させた。そのビームを放ったのは友軍のはずのムサイ。ゲム・カモフは敵味方識別信号を持っていなかった事、形状がジムに酷似していた事が祟り、敵だけではなく味方にまで誤認されてしまったのだ。皮肉にもエンマ中尉の懸念は的中したと言える。この兵器の評価試験を担当したオリヴァー・マイ技術中尉は「誤認率が高い故、同士討ちが起こる危険性も高確率で発生する」とし、「このような兵器の開発の意義を問う」と締めくくっている。
エンマ機のゲム・カモフにはコウモリをあしらったエンブレムが描かれており、「ソロモンに蝙蝠ははばたく」の由来となっている。このエンブレムは連邦を裏切ってジオンに加担した自分たち義勇兵をイソップ寓話の「卑怯なコウモリ」に喩えた皮肉に由来する。
主要兵装
- 120mmマシンガン
ジムが使用する90mmマシンガンに似せて造られた兵装。120mmという口径はザク・マシンガン(M-120A1)と同じであるため、これの改造と思われる。劇中ではゲファンゲナー・ゲムしか携行しなかった。
- バズーカ
正式名称不明。連邦軍のハイパーバズーカに似せて造られている。こちらもゲファンゲナー・ゲムのみが携行。一度も実弾を発射していないため威力も不明。
- シールド
ジムが持つシールドを模したもの。よく見ると裏側にはザクⅡのスパイクシールドが仕込まれており、一定の防御力を持たせると同時に近接戦闘も考慮している。
- 135mm対艦ライフル
ゲム・カモフの主力火器。放たれる高速弾はサラミス級の装甲さえも易々と貫く。実は試作兵器で、ゲム・カモフともどもヨーツンヘイムに運び込まれていた。
- チェーンマイン
爆弾もしくは機雷を複数を繋いだジオン製の兵装。劇中ではゲム・カモフが使用、コロンブス級補給艦を撃沈する戦果を挙げた。
余談
余談だが、『MS IGLOO』を映像化する際に最後まで候補に残っていたのがゲム・カモフ回である。しかし惜しくも映像化は見送られてしまった。『IGLOO』唯一の女性パイロットが主人公だけあって、製作陣も残念がっていた。
単行本2巻の巻末によると、1回目の会議中に最初のラフを描いてそのまま大体の方向性が決定。このため一番ラフ画が少ない機体となっている。ゲムの部分はデザイン担当の出渕裕氏が、カモフの部分は今西隆志監督が名付け親と本編とは裏腹に豪華な生まれである。武装の135mm対艦ライフルはドイツ軍の対戦車ライフルがモチーフで、柳瀬氏は今西監督からたくさん資料を貰ったらしい。
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関連項目
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