シュールストレミング(Surströmming)とは、スウェーデンが生み出した「世界一臭い」食べ物である。
曖昧さ回避
- ニコニコ動画で活躍するMAD作者 - シュールストレミング(音MAD作者)を参照。
概要
ニシンを塩水漬けして発酵させ、発酵途中のまま殺菌することなく缶に入れることによってできる保存食。
つまりはニシンの塩水漬けなのだが、「発酵」と「腐敗」は紙一重と言われるように、あまりに進みすぎた発酵によって、凄まじいレベルの臭いを発するようになっている。その悪臭・刺激臭の強さにおいて、世界の食べ物の頂点に立っている。
基本的にはあくまでも「ニシンの塩水漬け」であり、缶の中には8~10cm程度の切り身が20枚ほどみっちり入っている。
しかし、缶を開けて最初に見えるのは、炎天下に放置した後のような切り身が、どろどろした桃色?の液に浮かんでいる様である。臭いの問題をさておいても、慣れない人間にはあまり食欲の沸く見た目ではない(ただし、鮮度のよいものは身や卵まで目視することができるだろう)。
そしてもちろん、上述したように凄まじい激臭がする。あまりに臭い臭いと言われ、バラエティ番組にもよく登場しているため、誇張が含まれているのではと思うかもしれないが、実際、冗談抜きに。
それも、食べ物としての、本来は食欲を誘ったであろう臭いが極端に強まってこうなっているというわけではなく、家畜小屋のような、放置しすぎた生ゴミのような、下水道のような、長い時間放置された公衆トイレのような、明らかに汚物然とした激臭である。
これはなぜかと言うと、シュールストレミングから発生しているガスの中には、生物が腐敗する際に出す成分が普通に含まれているからである。具体的には硫化水素(腐った卵の臭い)、酪酸(生物の腐敗臭)、酢酸(酸っぱい臭いのする牛乳の臭い)といったもの。つまり、れっきとした食物でありながら、生物の腐敗臭に近い臭いを発しているわけである。これに腐敗臭界の雄であるアンモニアやカダベリンが含まれていたら、近いどころか腐敗臭そのものであったことだろう。
これを、パンなどに、タマネギやトマトやサワークリームなどと共にのっけて食べるのが一般的。元が保存食のため塩気が非常に強く、鼻から抜ける臭いが強烈で「食べ物を食ってるようには思えない」味がするという。しかし、人によっては、塩辛の極端なもの、といった程度の味にも感じられ、意外にも食が進むという感想もある。
その痛烈な臭いと塩味を活かし、強いワインのつまみとして食べることもあるようだ(余談だが、臭いの強い珍味は、これに限らず、強い酒と共に楽しまれることが多い)。日本のバラエティ番組でも、例えば安田顕などは、「案外いい酒が飲めそう」と感想を述べている(もっともそれは鼻をつまんで食べた段階でのことであり、後にはリバースしてしまったが)。
ちなみに、お口直しは牛乳がベスト。食べる前にも、あまりにも臭気が強すぎる場合には、牛乳や、揮発作用の強いウォッカで洗われることがある。
「殺菌することなく」と書いたように、発酵を止める加工がなされずに缶に入れられるため、ずっと発酵が進む。放置しておくと、発酵で発生したガスによって膨らんでくる。この状態のシュールストレミングを開けてしまうと、バラエティ番組などでもお馴染みの光景である、激臭汁の噴出という結果が待っている。
これは、かなり発酵が進み内部の圧が大きくなった缶のみの現象なので、ほどほどにしておけば飛び出すことはない。「もやしもん」でも書かれていたように膨れた缶を開けるというのはパフォーマンス的な色彩が強い(そもそもシュールストレミングに限らず、缶詰が膨らむ=中身が駄目になってしまっていることを示す)。
そのため、バラエティ的な使い方ではなく本当に味わいたいのであれば、冷蔵庫で保管し発酵を抑え、好みで(?)常温発酵させるのがいいかもしれない。その際、十分に発酵した缶を開ける際は汁が飛ばないよう注意して開封するようにしたい。思わぬ損害を負うことになる。
また、缶(密封容器)の中で発酵するという性質上、気圧の変化で爆発する可能性があるため、一般に空輸が禁止されており、海路からの輸入が中心となる。このため日本でこれを扱う会社は1社しか存在しない(ちなみにこの会社のツイッターによると、シュールストレミングの仕入れ価格のうち7割が輸送費で、2割が関税であるという)。だが、検索をかければ、他にも輸入して販売しているところがあるので利用するとよい。ただし「軽い気持ちで」というのはやめた方がいい。他人に迷惑掛かるし、絶対に後悔する事になるから。
なお、一般的には頭部と内臓が取り除かれたニシンが用いられているが、本場スウェーデンの古強者の中には、わざと頭と内臓を残したまま漬け込んで発酵させたカオスなシュールストレミングを喫食する者が存在するという。真っ先に腐敗し腸内細菌の作用が働きそうな内臓が残ったまま漬けられて生じるその臭いは、とてもとても恐ろしいという。
なお、日本国内では食品衛生法やJAS法を始め、法律で缶詰の定義がされている(要約すると「缶詰や瓶詰は密封前or密封後に加熱殺菌をしていないといけない」)為、殺菌されていないコレは缶詰とは表記できない。
あまりに発酵が進んだものは食べ物ではなく凶器扱いになるらしく、スウェーデンでは爆発物処理班と缶詰の専門家が出動する騒ぎになった事がある。密閉容器が発酵で膨張し、いつ爆発するかわからない代物なんてもはやバイオテロである。
何故そこまで臭いのに食べられてきたのか
腐敗臭の発生理由は以上に述べたとおりだが、では、そもそもなぜこんな臭いがするものを食用にしているかというと、スウェーデンの酷寒な気候に関係がある。
イギリスよりも北にあるスカンディナヴィア半島に位置し、その国土の2/3が農業に適さない極寒のスウェーデンでは、古来より牧畜と漁業が栄えていた。かのヴァイキングの起源が、牧畜と漁業に従事していたスカンディナヴィア半島の者だったという説もあるほどだ。
こうした牧畜国家である以上、農閑期、つまり冬季は非常に困窮する。加えてスカンディナヴィア半島はその大部分が経済的にも貧しかった。そのため、獲れる時期に獲っておいたニシンなどを、樽の中で塩漬けにして長い冬季に備えることが常態化していた。
しかしスウェーデンは製塩に適した環境ではなく、多量の塩を得ることは難しかった。そのため、「塩漬け」と言っても塩そのものに漬けるのではなく、塩を節約するため、比較的濃度が低い塩水に漬ける方法が取られることになった。この方法では塩分濃度の低さから、漬けておいたニシンの発酵は止められず、悪臭を放ち始めることとなる。しかしそれでも貴重な食糧であり、冬の貴重な蛋白源として食されていった。
かくしてシュールストレミングは、スウェーデンでは保存食として、また伝統食品として今も食されているのである。
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関連項目
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