ジョルジュ・シフラ(仏: Georges Cziffra,1921-1994)とは、ハンガリー出身の作曲家・ピアニストである。
本名はハンガリー語でツィッフラ・ジェルジュ(Cziffra György)だが、フランスを拠点に活躍(47歳でフランス公民権取得)したため、フランス語名の方が世界的に広く通用している。
概要
超絶技巧を駆使した豪快な演奏と独創的な即興から、同郷の偉大な先人を擬して「リストの再来」と呼ばれる達人(ヴィルトゥオーソ)。
幼少の頃より聴衆を沸かせ、その報酬で生きるためにピアノを演奏してきた根っからのピアニストである。リストの高難度の曲を主なレパートリーとしており得意とした。編曲も多く手掛けており、「熊蜂の飛行」、「トリッチ・トラッチ・ポルカ」、「剣の舞」、「悲しみのワルツ」などが代表的である。演奏困難とも思える技巧のオンパレードで、どれも彼の即興演奏の特徴が強くあらわれており、「シフラ節」などと呼ばれることがある。
生涯
ハンガリー王国(摂政期。領土主張の為に王国と称してはいるが、ハプスブルク家への警戒のため王座が空位のまま摂政が国政を取り仕切っている)の首都ブダペシュトにて貧しいロマの家庭に生まれる。父ジェルジュはフランスのパリの盛り場でシンバロンを演奏するいわゆるボヘミアンだったが、第一次世界大戦によりフランス政府が敵国出身者の強制帰国を命じたため、シフラ一家は殆ど着の身着のままでブダペシュトの沼地上に建てられたワンルームの掘っ立て小屋に転居していた。
生まれつき身体が弱く家に籠りがちであったが、そんな中で上の姉のピアノ(姉が自分の稼ぎで買ったもの)の練習を見て拙い手付きで真似してみたのが演奏家人生の始まりである。しかし楽譜を買う余裕はなかったため、専ら両親が口遊む歌に合わせて繰り返し弾き続けるというものだった。
5歳の時に彼の演奏力に目を着けた巡業のサーカス団にスカウトされ、客のリクエストに応じて即興で演奏して大成功を収める。その後、僅か9歳という最年少でリスト音楽院に異例の飛び級入学する(規則では音楽学校で予備科目を全て修了する必要があった)が、すぐにマスタークラスへの編入が認められ、リストの愛弟子でありバルトークやドホナーニを指導したピアノの達人トマーン・イシュトヴァーン(Thomán István)の薫陶を受けた。下は13歳の頃の貴重な映像。
第二次世界大戦中、21歳の時にハンガリー軍に徴兵され、枢軸側として東部戦線に送られるが、従軍中に列車から飛び降りて脱走し、国境を抜けようとした所でソ連民兵に見つかり捕虜となる。2年後に収容所から脱走するが、今度はソ連兵に見つかり再び捕虜となり、今度は新生ハンガリー共産党軍(親ナチスの矢十字党の台頭によりソ連に亡命し、臨時国民政府を樹立していた)の戦車長として西部戦線に送られて終戦を迎える。
軍役が解除されたのは戦争が終わった翌年(25歳)のことで、しばらくはブダペシュトの場末の盛り場でピアノ演奏をして日銭を得ていた。祖国は名ばかりの王政を廃して第二共和政になっていたが、戦後2年で共産党がクーデターを起こして実権を掌握、2年後には人民共和国としてソ連の衛星国となってしまった。その1年後、シフラはバルトークのピアノ協奏曲第2番に導かれるように亡命を決意し、エジプト系の妻ショレイルカ(Soleilka)と軍役中に産まれた息子ジェルジュと共に実行したが失敗し、彼は投獄され3年間の強制労働を課せられる。だが3年後にハンガリー動乱に乗じて再び亡命を試み、今度は家族共々無事ウィーンに脱出する。
以降はフランスを主な拠点に欧米を中心に世界各地でリサイタルを開き、いずれもその類稀な絶技により大成功を収めるのだが、演奏の際には決まって右手首に大きな革の腕輪を着けていた。これは囚人時代に受けた拷問により伸びてしまった腕の靭帯をカバーすると同時に、理不尽な苦役を味わった屈辱を忘れないようにするという意味があったという(というかそんなハンデがあった上であの運指である)。また56歳の時には北フランスのワーズ県サンリス(Senlis)の聖フランブール礼拝所にシフラ基金を設立し、前途有望な後進の育成にも力を注いでいる。
ピアニストから指揮者へと転向した息子のツィッフラ・ジェルジュJr. はしばしば父のリサイタルやレコーディングで共演していたが、まだ40歳直前の若さでパリ郊外の自宅の火災で亡くなる(状況的に自殺の線が濃厚だが、遺書は無く事故の可能性も高い)。当時ちょうど還暦を迎えたばかりのシフラは愛息の死にこの上なく心を痛め、以降は決してオーケストラとの共演を行わなかったという。彼のピアノ演奏はこれを機に大きく質を下げたとも、より深みを増したとも評される。更に干支が一回りした時にサンリスで亡くなるが、死因は喫煙と飲酒が原因の肺癌からの合併症による心臓麻痺であった。享年72歳。
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せっかくなので、動くシフラを集めてみた。
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