スイスドローとは、大会の運営方式の一種である。スイス式トーナメントという場合もある。
※ 本記事は、1対1(1チーム対1チーム)で行うゲーム・競技を前提にしています。
概要
シングル・エリミネーション(通常の勝ち抜きトーナメント戦)は、1回負けたら終わりなので、運の要素が絡むゲームでは余り適さない。
また、最初の方で負けてしまうとそれ以降はする事が無くなってしまうため、大会が盛り上がりづらい。
総当りリーグ戦では1回負けても終わりではなく、かつ全ての参加者が最後までゲームをする事が出来るが、単純に時間がかかりすぎるため大会の運営に支障をきたす場合が多い。
相反するこれら2つのトーナメント方式のいい所を組み合わせようと言うのがスイスドロー方式である。
チェスなどのボードゲームやTCGなどのカードゲームで採用されることが多い。
メリット・デメリット
一言で言うなら「勝ち抜き戦と総当たり戦のいい所を寄せ集めた方式」だが、もちろん欠点もある。
ルール
スイスドローは、基本的には以下の3つの繰り返しである。
- そこまでの対戦結果(勝ち点)を元に組み合わせを作成する。
- 組み合わせに従って対戦を行う。
- 対戦結果に従って勝ち点の付与・集計を行う。
- 勝ち点
勝った人に3点、引き分けた人たちに各1点を与える。
チェスなどでは勝った場合の勝ち点を2としているルールもあるが、カードゲームでは勝利を勝ち点3とするのが主流。
ここでの点数は加算・比較するだけなので、「比」のみが意味を持つ。たとえば、「勝ち2点・引き分け1点」と「勝ち1点・引き分け0.5点」はまったく同じ大会進行になる。さらに、引き分けのないゲームでは、与えられる点が何点でも進行は同じである。
勝者への点数が1点のとき、単位として「点」の代わりに「勝」を使うことがある(引き分けがあれば0.5勝などとする)。 - 組み合わせ
第1回戦は全員が勝ち点0のはずなので、全ての参加者の中でランダムに組み合わせる。参加者が奇数だった場合、余った1人は不戦勝。
第2回戦以降は各参加者で持っている勝ち点の数が違うはずなので、「勝ち点が同じ参加者同士」の中でランダムに組み合わせる。原則として勝ち点が多い方から組み合わせを行っていき、同じ勝ち点ラインの中で組み合わせを行った結果1人余った場合、1つ下の勝ち点ラインの人と組み合わせる。全てのラインの組み合わせを終えて1人余った場合、その人は不戦勝。
ただしここで対戦相手を選ぶ場合の制約として、通常、同じ対戦相手とは2回戦わない。また、チェスなどでは、なるべく各プレイヤーが先後を交互に受け持つようにする(完全にはそうできないこともある)。 - これらの組み合わせ時に、対戦相手をランダムとしないこともある。1回戦でレーティングや前大会成績を使ったり、2回戦以降で後述する同点プレイヤーの順位付けを使い、実力の近いもの同士であったり、または実力の高いものと低いものが対戦するようにする。
- 対戦結果
3本1セットのようなゲームである場合、2-0で勝ったのか2-1で勝ったのかも同時に記録しておく事が望ましい。(後述)
これを規定の回数繰り返し、勝ち点が最も多かった参加者が優勝となる。
何回戦やるのか
1人の優勝者を選ぶ場合、具体的に第何回戦(第何ラウンド)までやるのかは、大会の参加人数によって決まる。
毎ラウンド、全勝者同士が戦うので、全勝者は約半分になる。参加者数が端数の発生しない2の冪 ( 2 ^ n ) の場合、n ラウンドで全勝者が1人になる。
参加者数 | 対戦数 |
2人 | 1回戦 |
3~4人 | 2回戦 |
5~6人 | 2~3回戦 |
7~8人 | 3回戦 |
9~14人 | 3~4回戦 |
15~16人 | 4回戦 |
17~30人 | 4~5回戦 |
11~32人 | 5回戦 |
33~62人 | 5~6回戦 |
63~64人 | 6回戦 |
65~126人 | 6~7回戦 |
127~128人 | 7回戦 |
129~254人 | 7~8回戦 |
255~256人 | 8回戦 |
この表にある回数だけラウンドを行えば、必ず全勝者が1人になり、優勝が決定可能になる。
しかし、全勝者が1人になった時点で優勝確定では、優勝者の決定方法はシングル・エリミネーション(毎ラウンド再抽選)と変わらず、運の要素が大きい。
よって、重要で大規模な大会では、余分なラウンドを行い、1敗しても優勝できる可能性を残すことも多い。
表よりも多いラウンドを行った場合、全勝者が以降の対戦で負けてしまい、最高成績の参加者が複数になってしまう可能性がある。
こうなった場合、計算で順位を付ける事は可能だが、やや煩雑である。そのため、スイス式以外の方法で決勝を行う場合がある。
たとえば、TCGのMagic: the Gatheringのプロツアー予選では、参加者が1000人前後なため9~10回戦で全勝者が1人になるが、
15回戦も行ったうえに、更にその上位者八名で決勝トーナメントを行って順位を決定するという方式が行われている。
ただし、こうした方式は煩雑かつ大規模になってしまう為、個人で行うのは大変かもしれない。
表よりも少ないラウンドしか行わなかった場合、全勝者が1人に絞られないため、優勝者が決まらない。
ただし、例えば2日間に渡る大規模大会の1日目の足切りを行うのが目的だとか、より上位の大会の参加権をかけての選手権大会だとかで、必ずしもスイスドローだけで優勝者を決める必要が無く、上位○位までが分かりさえすれば良い・・・と言う場合はこの限りではない。
例1:参加者30人、スイスドローで直接優勝者を決める大会の場合・・・5回戦行えばOK
例2:参加者50人、上位8人が決まればよい大会の場合・・・最低3回戦 ~6回戦程度でOK
実際には何回戦やるのか
上述の通り、Magic: the Gatheringのトーナメントでは上位者で決勝トーナメントを行うのだが、その際の指針として、以下の内容が与えられている。チーム戦の場合、「人数」は「チーム数」に読み替えること。
人数 | スイスドロー | シングルエリミネーション |
---|---|---|
4-7(チーム戦のみ) | 行わない | 全チームで行う |
8 | 行わない | 8人全員で行う |
9-16 | 4回戦(リミテッドでシングルエリミネーションでブースタードラフトをする場合) 5回戦(それ以外) |
トップ8 トップ4 |
17-32 | 5回戦 | トップ8 |
33-64 | 6回戦 | トップ8 |
65-128 | 7回戦 | トップ8 |
129-226 | 8回戦 | トップ8 |
227-409 | 9回戦 | トップ8 |
410以上 | 10回戦 | トップ8 |
10回戦でも10時間かかる(1回戦が50分かかり、マッチング時間などを考慮すると1ラウンド1時間かかるから)が、もっと大きな大会となると、当然だがもっと大量にやる必要があるため2日がかりになる。その場合、1日目にまず8回戦を行い勝ち点17以下の人間は1日目9回戦目、および2日目に進めないようにして大量の人間を2日間拘束することがないようにするなど工夫がされている。
不戦勝
参加者の中で明らかに実力に差があると分かっている大会の場合、事前に不戦勝(シード)を設定する事がある。
この場合の不戦勝とは、上記の組み合わせの項にある「組み合わせで余った人」に与えられるものとは別で、最初から強豪だと分かっている人を序盤を無条件で勝ち扱いにする事。
メリット・デメリットの項目にある通り、実力の近い人同士が対戦しやすいのがスイスドローの特徴の一つだが、序盤(特に第1回戦)は本当にランダムで組み合わせられるため、いきなり全一クラスのプレイヤーと始めたばかりの初心者が当たってしまう事もあり得る。
そういう組み合わせが発生した場合、初心者の方は一方的にボコられるだけでつまらないだろうし、上級者側は上級者側でつまらないとまで行かなくとも、初心者レイプをしているような格好になってしまって気まずくなる。
参加者の面子的にそう言う事態が予想される場合に、強い人に最初の方の試合の参加をご遠慮願うのが不戦勝(シード)のシステムである。
不戦勝を設定する場合、参加者の総人数および何回戦までやるのかの設定をよく考慮する必要がある。
まず「何回戦まで不戦勝にするのか」についてだが、これは総ラウンド数の1/3程度、多くても半分までが良い。
極端な話スイスドロー6回戦で5回戦まで不戦勝、では優勝者と行うエキシビジョンマッチと変わらないのであまりに不公平。
6回戦なら多くても3回戦シードで十分。不戦勝によって途中から参加するプレイヤーはそこまでを全勝しているとして扱うため、3回戦シードで4回戦から参加する人が対戦する相手は、当然3戦全勝している人。そこまで来れば全一クラスであっても流石にレイプ状態になる心配は少ない。
Magic: the Gatheringでもシードは3回戦程度が一般的である。
そして次に、「シード選手を設定する事による総ラウンド数の設定し直し」がある。
例えば参加者50人のスイスドロー6回戦を行うに際して、50人のうち4人に「3回戦シード」を与えるとする。
通常の50人スイスドローなら3回戦終了時では全勝者が6~7人になるはずなので、あと3回戦やれば全勝者が一人になる計算になる。
しかし3回戦シード選手が4人いた場合、3回戦終了時点での全勝者が10~11人いる計算になってしまうため、あと3回戦では優勝者が決まらない。
具体的に何ラウンド増やせばいいのかは以下の表に基づいて「理論上の総参加人数」を割り出し、それに従って総ラウンド数を決定すればよい。
1回戦だけシード | シード1人あたり総参加人数に+1 |
2回戦までシード | シード1人あたり総参加人数に+3 |
3回戦までシード | シード1人あたり総参加人数に+7 |
4回戦までシード | シード1人あたり総参加人数に+15 |
上記の例で行けば、50人中に3回戦シードが4人いるので、50+(7×4)=78となり、全部で7回戦すれば良い。
同位タイが出た時
時には、上位グループが全員5勝1敗で並んでしまったとか、上位8人を決めるのに8位タイに3人いるとか言う事態が発生する事がある。
そんな時は、以下の計算によって順位を決める。(色々な方式があるが、一般的なものを紹介する)
オポネント・マッチ・ウィン・パーセンテージ
勝ち点で並んだ参加者がいた場合、最初に比較される数値。チェスでは「ソルコフ」という名前で呼ばれる。
簡単に言えば、「同じ勝ち点なら強い人と戦ってきた方が上」と言うもの。
極端な例では、同じ1勝5敗の人でも、その1勝が「その後全勝して5勝1敗で上位に食い込んだ人に付けた唯一の黒星」である人と、「その後全敗して0勝6敗で最下位になった人に対して勝っただけの1勝」である人では、前者の方が1勝の価値が高いという考え。
または、同じ5勝1敗でもその1敗が「全勝優勝した人に負けた1敗」である人と、「その後全敗して1勝5敗で終わった人に初戦で負けた1敗」である人では、後者の方が痛い敗北であるという考え。
上位8人まで予選通過、と言うような形式のスイスドローの場合、8位はこれで決まる事が多い。
具体的な計算方法としては、まず比較する2人がそれぞれ対戦してきた相手を全てピックアップする。
それらの各対戦相手の最終的な勝ち点を「参加したラウンド数×3」の値で割り、その値の平均をとる。
この値を、同位タイの人同士で比較し、高い方が上位となる。
1回戦の相手 | 2回戦の相手 | 3回戦の相手 | 4回戦の相手 | 5回戦の相手 | 6回戦の相手 | |
Aさん | ○ 1勝5敗 (勝ち点3) |
○ 2勝2敗2分 (勝ち点8) |
× 4勝2敗 (勝ち点12) |
○ 3勝2敗1分 (勝ち点10) |
× 3勝3敗 (勝ち点9) |
○ 3勝3敗 (勝ち点9) |
Bさん | × 2勝4敗 (勝ち点6) |
○ 1勝2敗 (勝ち点3) (途中棄権) |
○ 2勝3敗1分 (勝ち点7) |
× 6勝0敗 (勝ち点18) |
○ 4勝0敗2分 (勝ち点14) |
○ 3勝3敗 (勝ち点9) |
Aさんの各対戦相手の「勝ち点 ÷ (参加したラウンド数 × 3)」の値はそれぞれ、
0.167 ・ 0.444 ・ 0.667 ・ 0.556 ・ 0.5 ・ 0.5 なので、これらの平均は0.472となる。
同様にBさんの各対戦相手については
0.333 ・ 0.333 ・ 0.389 ・ 1 ・ 0.778 ・ 0.5 なので、これらの平均は0.555となる。
Bさんの方が高いので、順位はBさんの方が上という事になる。
- 対戦結果の中に「不戦勝」がある場合、そのラウンドは平均計算に入れられない。
- 「参加したラウンド数×3で割る」の「参加したラウンド数」と言う部分については、途中棄権を認めておらず、全員が最後まで試合をやっている大会においては省略しても良い。
同様に、×3の部分は引き分けが存在しなくて勝ち点を1としている、または勝敗数で直接カウントしている大会においては省略しても良い。また、勝ち点を3としている場合でも、「パーセンテージ」の名の通り百分率に直すための計算なので、比較をするだけならば無くても良い。
ゲーム・ウィン・パーセンテージ
オポネント・マッチ・ウィン・パーセンテージの値も全く同じだった場合、次に比較される数値。
簡単に言えば、「同じレベルの対戦相手と戦ってきているなら、より圧勝している方が強い」と言うもの。
言い換えれば「2-1での勝利より2-0での勝利の方が価値が高い」と言うもの。
「ルール」の項目の「対戦結果」の部分で、「2-1で勝ったのか2-0で勝ったのかも記録しておくのが望ましい」と書いてあるのは、これのため。
計算方法は、比較する各参加者の各試合において、「取った本数」に各ラウンドの勝敗引き分けと同様に「勝ち点」を付けていき、各ラウンドの勝ち点を「実際に行った本数×3」で割る。
こうして出された各ラウンドの数値の平均を取り、その平均を比較対象の参加者同士で比較する。
例:5勝1敗で、オポネント・マッチ・ウィン・パーセンテージも同じだったAさんとBさんを比較する場合・・・
1回戦 | 2回戦 | 3回戦 | 4回戦 | 5回戦 | 6回戦 | |
Aさん | 2-1 | 2-0 | 2-0 | 2-0 | 1-2 | 2-1 |
Bさん | 2-0 | 1-0-1 | 2-1 | 2-0 | 0-2 | 2-1 |
Aさんは (6÷9 + 6÷6 + 6÷6 + 6÷6 + 3÷9 + 6÷9)÷6=0.777
Bさんは (6÷6 + 4÷6 + 6÷9 + 6÷6 + 0 + 6÷9)÷6=0.667
従って、Aさんの方が順位が上。
- 対戦結果の中に「不戦勝」がある場合、そこは平均計算に入れられない。
- 「実際に行った本数×3で割る」の×3の部分は、「パーセンテージ」の名の通り百分率に直すための計算なので、タイの人を比較するだけなら省略してもいい。あると直感的に「勝率○%」と分かりやすいというだけ。
オポネント・ゲーム・ウィン・パーセンテージ
ゲーム・ウィン・パーセンテージまでもが一致した同位タイの人がいた場合に、最後に比較される数値。
これすらも一致してしまった場合、それらの人は同位タイという事で最終結果になる。
上位8人を決める必要がある大会の8位タイ等でこれが起こった場合、どうするかは主催者の判断に任せられる。
ただしこの値を比較しなければならないような事態が発生する事は滅多に無い。国際大会常連クラスの選手でも「こんなのもある」程度にしか覚えていない人が少なくないほど。(国際大会クラスの主催者側は流石にきちんと計算方法を知っておかないとダメだが)
簡単に言えば「同じ勝ち点で、同じレベルの相手と戦っていて、それらの相手に対する勝率も同じなら、『相手により圧勝してきている人』と戦っている方が強い」と言う考え。
計算方法は、比較する対象の参加者が対戦してきた各対戦相手の「ゲーム・ウィン・パーセンテージ」を全て計算する。
それらの平均を出し、その値の高い方が順位が上となる。
- 「対戦相手の対戦相手」まで調べて計算する必要があるため、すんごい面倒くさい。
相応に大規模で、スタッフも十分な人手が確保されている大会なら頑張って計算するべきだ(と思う)が、そうでないのならゲーム・ウィン・パーセンテージまで一致した時点で同位タイとして最終結果にしてしまっても良い。
その他
チェスや一部の競技では、直接対決での結果を参照する方式や、自分が勝利した相手のみの勝ち点合計を比較する方式もある。なお、チェスの場合、たとえば以下の4形式が存在する。
- 簡易パフォーマンス法(対戦相手のレーティング合計を用いる。Byeがある場合そこの部分は自分のレーティングを用いる。体系的なレーティングを管理している場合に有用)
- ソルコフ(対戦相手の勝ち点合計。チェスの場合、勝ち点は勝ち1、引き分け1/2、負け0である)
- ソルコフ中取(ソルコフに従うが、相手の中で最上位の人間を除外して計算)
- 直接比較(直接対決の比較)
また、囲碁でスイスドローを採用する場合、SOS(ソルコフ)が同点の場合、SOSOS(すべての対戦相手のSOSの合計)を比較することがあるようだ。
関連項目
- 21
- 0pt