セパン・インターナショナルサーキットとは、マレーシア・クアラルンプール近郊のセランゴール州セパンにあるサーキットである。
Sepang International Circuitの頭文字をとったSICがサーキットの略称となっている。
MotoGPのマレーシアGPが行われる。2017年まではF1のマレーシアGPが行われていた。
略歴
1981年から2003年まで長期にわたってマレーシア首相の座についていたのはマハティール・ビン・モハマドである。マハティール政権は、インフラを整備する公共事業の一環として1997年11月1日に本サーキットの工事を始め、1999年3月9日に本サーキットを開業させた。サーキットのデザインをしたのはヘルマン・ティルケである。
本サーキットは2021年現在も政府の影響を受けている。サーキットを運営する企業は、マレーシア財務省直属の政府系企業である。
ナイトレースの開催が可能となるような照明設備の設置を計画している、と報じられている(記事)。日中にとんでもない暑さになるサーキットなので、ナイトレースになることは選手たちにとって好ましいことだろう。
F1
1999年10月に初めてF1のマレーシアGPが開催され、2017年まで19年連続で開催を維持していた。
2018年からF1のマレーシアGPが開催されなくなった。2016年頃はチケットの売り上げの減少やマレーシア国内におけるテレビ視聴率の低下に苦しんでいたという(記事1、記事2)。
MotoGP
1999年4月に初めてMotoGPのマレーシアGPが開催された。1999年から2019年まで21年連続でMotoGPのマレーシアGPが開催されたが、2020年はコロナ禍の影響を受けて開催中止となった。
2010年頃からマレーシア人ライダーの活躍が目立つようになり、それに合わせて観客動員数が右肩上がりに上昇している。
SUPER GT(旧・全日本GT選手権)
2000年・2001年・2002年・2004年の全日本GT選手権と、2005年から2013年までのSUPER GTは、セパン・インターナショナルサーキットでの開催を年間スケジュールの中に組み入れていた。
2014年からSUPER GTのマレーシア開催が消滅したが、2018年11月10日に、「2020年から3年間、セパン・インターナショナルサーキットで、ナイトレースの形式にてSUPER GTを行う」との発表があった(記事)。ところが2020年はコロナ禍の影響を受けて開催が中止となり、2021年の開催予定からも外れてしまった。
CEO
アズハン・シャフリマン・ハニフ
本サーキットのCEOは、2020年4月8日からアズハン・シャフリマン・ハニフ(Azhan Shafriman Hanif)という人が務めている。国営企業のペトロナスに務めていた人物である(記事)。
ラズラン・ラザリ
2008年10月8日から2020年4月8日までCEOを務めていたのは、ラズラン・ラザリ(Razlan Razali)という人である。詳しくは当該記事を参照のこと。
立地
セパン・インターナショナルサーキットはこの場所にある。
空港に隣接し、ホテルが多い
クアラルンプール市街地から南に40km、行政機関が集中するプトラジャヤから南に20km離れたこの場所に位置する。
サーキットのすぐ隣にはクアラルンプール国際空港がある(航空写真)。マレーシアの玄関口であり、東南アジアを代表する巨大なハブ空港である。ヘリコプターの空撮で最終15コーナーから1コーナーの方角を向くと、空港の滑走路が見える(画像)。多いときは10機ほどの飛行機が留まっているのを確認できる。
空港内にはトランジットホテル(飛行機を乗り継ぐ客のためのホテル)が十分に確保されている。このため、「セパンサーキットは空港と多くのホテルの隣に位置していて非常に観戦しやすい」と言うことができる。日本の北海道や九州に住むレースファンにとっては、鈴鹿サーキットやツインリンクもてぎに行くよりも遠征しやすいサーキットではないだろうか。
本サーキットにおけるマレーシアGP(MotoGP)は、シーズン最終盤に行われることが恒例で、チャンピオンが決まったレースになりやすい。訪問しやすい場所でホテル確保も容易であるので、チャンピオンの家族がよくやってくる。2012年はサンドロ・コルテセそっくりの女性がいたし(画像)、2017年にはジョアン・ミルの親族が来ていた。
MotoGPの運営主であるドルナは、セパン・インターナショナルサーキットでレースをしたり合同テストをしたりする際、この場所にあるサマサマホテルを借り切ることが恒例である。
アブラヤシの農場
マレーシアはアブラヤシから採れるパーム油の輸出が多い国であり、アブラヤシの農場が同国の象徴の1つである。本サーキットの周辺にもアブラヤシの農場があり、サーキットすぐ北のこのあたりにアブラヤシが等間隔に植樹されている。
最寄りの病院
サーキットで事故が起こったら、ドクターヘリで患者を空輸し、サーキットから北に37km離れたこの場所にあるマレーシア国立大学医療施設に搬送する(記事)。Pusatが施設、Perubatanが医療、Kebangsaanが国立、という意味のマレー語である。
緊急性の低い患者は、サーキットから北に44km離れたこの場所にあるクアラルンプールスポーツ医療センターに行き、手術などの手当てをしてもらう(記事)。
緯度と気候
北緯2度45分のところにあって赤道直下に位置する。全ての月で平均最高気温が30度を超すという常夏(とこなつ)の土地である(資料)。
マレーシアに限らず熱帯の国に共通することだが、冷房を効かせることが富の象徴と考える風潮がある。空港などの施設の中は冷房がガンガンに効きまくっていて寒い。旅行の際にはジャケットを持っていきたい。
典型的な熱帯雨林気候で、年間を通して降水量が多く、植物がよく生い茂る土地である。クアラルンプールの年間の降水量は2427mmで、東京の年間降水量は1491mmであるから(資料)、クアラルンプールは東京の1.6倍ほどの雨が降ると表現できる。MotoGPを開催する11月がクアラルンプールにおいて最も雨の多い月で、287.8mmの降水量である。
ちょくちょくスコール(豪雨)が降り、バケツをひっくり返したような土砂降りの雨になる。このサーキットを多く訪れたジャーナリストの遠藤智さんによると、夕方の午後4時に決まってスコールが降るという。
マレーシアは気温が高く雨も多いので、色んな生物がいる。セパンサーキットから北西に40km離れたこの場所に存在したシャー・アラム・サーキットに2mほどのトカゲや孔雀が出没したという目撃談がある。セパンサーキットにも大きめのトカゲが出てきたことがある(動画)。
海岸線から17km離れた場所にあり、海風の影響は少ない。地形図を見てみると、サーキットの東側に大きい山が連なっていることがわかる。そういう土地は強風が吹き荒れる可能性がやや低い。
サーキットの施設
屋根
スコール対策のため、大きな屋根を設けてある。観衆の大歓声がその屋根に反響して、よく響く。
バックストレート前とメインストレート前のスタンドにはバナナの葉を模した屋根がずらっと並んでいる。最終15コーナーにはマレーシア国花のハイビスカスを模した丸い屋根がそびえ立っている。
こうした巨大な屋根を映すのがテレビ中継の定番である(動画)。車載動画でも屋根がよく見える(動画1、動画2)。
マレーシア名物の凄まじいスコールをさんざん浴びたため、建造されてから12年後の2010年頃には屋根が老朽化していて、いくつかの部分で雨漏りがしていたという(記事)。
トンネル2ヶ所
4コーナー付近のこの場所に地下道があり、それを通ってパドックにトラックで進入することができる。その地下道の前には入場門があり(ストリートビュー)、入ってくるトラックを管理している。
12コーナー付近のこの場所に地下道があり、転倒したライダーはここを通ってピットに戻る。
1コーナーコース脇のペイント
2015年までは1~2コーナーの内側にマレーシア国旗の4色(赤白黄青)を塗っていた(画像)。上空からの映像を見ると、かなり広い範囲に塗装していたことが分かる(画像1、画像2)。
このペイントの部分にマシンが転がり込んでもペイントが崩れない(動画)。人工芝か何かに塗装していたようである(動画)。
2016年と2017年は、1コーナーのコース脇にごく普通のグラベル(砂)が敷かれるようになり、四色ペイントが行われなくなった。
3コーナーの外側の丘
3コーナーの外側に丘があり(航空写真)、マレーシア国旗をペイントしている(動画、画像)。丘の斜面のペイントなのでライダー目線でも目立って見える(動画)。
その他
バックストレートとメインストレートの間は空間があり(航空写真)、Mall Area(モール・エリア)と呼ばれる広場になっている。レースが開催されるときには各メーカーのブースや売店が設置される。
サーキット内にヤシの木を植えて南国気分を盛り上げている。2コーナー、3コーナー、4コーナー、7~8コーナー、10~11コーナー、13~14コーナーの外側に、ヤシの木がずらっと並んでいる。
最終コーナーの外側に「H」と書かれたヘリポートが3ヶ所あり(航空写真)、駐機しているヘリコプターが映ることがある(画像)。
2016年の大改修
2016年2月から5月にかけてサーキットが閉鎖され、改修工事が行われた。
改修を計画したのはヤルノ・ザッフェッリ率いるドローモ社である。同社はアウトドローモ・テルマスデリオオンドの改修を手がけたことで知られている。
この改修で、ドローモ社の提案を受けて実際に路面を敷いたのが日本道路である。日本道路は1929年創業の道路舗装企業で、セパン・インターナショナルサーキットと契約を結んでいる会社である。
路面の全面舗装 排水性が悪くなった
路面が全面的に張り直され、長年の使用で発生した轍(わだち)やバンプ(隆起)やギャップ(割れ目)がなくなった。また、それまでのセパンサーキットの路面は白っぽい路面だったが、灰色の路面になった。
「排水性の向上を目指した」とサーキット側は説明していたが(記事)、実際には排水性が悪くなっており、路面がすぐに乾かないサーキットになった(記事1、記事2、記事3)。
最終15コーナーのイン側が1m盛り上がった
最終15コーナーのイン側が約1m盛り上げられ、正真正銘の逆バンクコーナーになった(動画)。これにより、高速コーナーリングが難しくなり、トリッキーなコーナーになった。
F1ドライバーたちの評価は「あまり楽しいコーナーとは言えない」「意地悪」「いい感じではない」「不自然」「ヘンな感じ、奇妙な感じ」となっていて(記事)、いまいち評判がよくないようである。
この最終15コーナーの改修は安全のためバックストレートとメインストレートの速度を下げるためで、その目的自体は達成され、2016年以降のラップタイムは下がった。
メインストレートに2種類の路面が混在する
先述のように、路面の舗装を行ったのは日本道路である。この日本道路が道路に使うコンパウンド(化合物の意味。ここではアスファルトのこと)をうっかり間違えてしまったらしく、メインストレートに2種類のコンパウンドが混在することになった。
間違いに気付いたのは工事終了の直前で、日本道路は「再舗装させてほしい」と言ったが、2016年5月14日と15日に予定されているスーパーバイク世界選手権の開催が迫っていたので、再舗装することができなかった(記事)。
このメインストレートの状態が2018年11月もそのままになっていた。メインストレートの左側は水に濡れた黒いウェットパッチがあり、メインストレートの右側は完全に乾いている、という状態である(画像1、画像2)。
乾いた状態でも、メインストレートにおける路面の違いがはっきりと分かる(画像)。
コース紹介(MotoGP)
概要
コース全長は5543mで、2018年~2019年にMotoGPが開催された19ヶ所のサーキットの中で上から2番目の大型サーキットである。コーナー数は15ヶ所で、2018年~2019年にMotoGPが開催された19ヶ所のサーキットの中で上から7番目である。
長い直線2本と中低速コーナーで構成される。
まずは、なにはともあれ、長い直線の後にしっかりハードブレーキングできる車体を作る。そのあとは9コーナーから14コーナーまでの高速区間をリズム良く走りきるようにマシンのセッティングを変えていく。これがセパンにおけるセッティングの流れだという。
色んなところでアップダウンがあるサーキットである。F1のサーキット紹介動画では高低差を視覚表示してくれている。3コーナーが最底辺だと分かる。また、Googleアースで路面にカーソルを合わせると右下に標高を表す数字が出るので、そうやって高低差を調べることもできる。
F1の開催を前提にして作られたサーキットであり、コース幅がかなり広い。このためライダーはラインの選択肢を広くとることができるが、最善のラインを選ぶのがかえって難しい。
2015年までは、路面に轍(わだち)やバンプ(隆起)やギャップ(割れ目)があるサーキットだった。F1が開催され、F1のハイパワーマシンによって路面が削られ、うねりや凹凸が多かった。
2016年の改修の直後は路面の凹凸が解消され、グリップの高いサーキットに生まれ変わっている。ただ、このサーキットは常夏の場所にあり冬季のテストに最適で二輪・四輪のテストに多用される。四輪の走行によって路面が痛むのは必然であり、路面の凹凸が増えるのは時間の問題であろう。
こちらがMotoGP公式サイトの使用ギア明示動画である。1速に落とすのは9コーナーのみとなっている。
主なパッシングポイントは、メインストレートエンドの1コーナー、4コーナー、9コーナー、14コーナーとなっている。
2015年まではバックストレートエンドの最終15コーナーもパッシングポイントだったが、2016年の改修によって最終15コーナーはパッシングしにくくなった。
青山博一が得意としていたサーキットであり、2009年には見事な勝利を収め、250ccクラスチャンピオン争いで大きく前進した。
スコール(豪雨)
雨が降り出すととんでもない量の雨が降る。ただし高温なので、晴れ間が広がると早いテンポで乾いていく。
このサーキットはいくつかの場所でアップダウンがある。先に乾くのはそういう起伏のある場所である。起伏のあるところのほうが風が当たりやすく、乾きやすい。
2015年までのセパンの路面は白っぽく、乾いているときも濡れているときも白っぽく、乾いているのか濡れているのか判断しにくかった。
2016年の改修の後は灰色の路面になった。乾いた路面が灰色、濡れた部分が黒く見えるようになり、判断しやすくなった。
サーキットの路面は、多くのマシンがスリックタイヤで走ることで路面の砂埃が掃除され、さらに黒いラバー(ゴムのこと。ブラックマークとも言う)がベッタリと糊のように路面の上に付着し、グリップがどんどん良くなっていく。
しかしながら雨が降ると、そうした黒いラバー(ブラックマーク)が流され、雨が空気中の塵埃を拾って路面に付着させ、さらには路面のアスファルトの奥部に詰まっていた小さな塵埃が表面に浮き上がり、元通りの塵埃にまみれた汚い路面になってしまう。スコールが降った直後は路面のグリップが悪くなる。
また、豪雨によってコースの外から砂や土が流れ込むことがある。スコール後にコーナーのアウト側を目一杯使うライディングをすると、砂や土を踏んで滑ってしまう。
灼熱のサーキット
ほぼ赤道直下に位置するので、高温多湿で灼熱のサーキットになる。暑さがライダーの体力を奪い、タイヤをスリップさせ、エンジンを苦しめる。
詳しくは、猛暑(MotoGP)の記事を参照のこと。
1コーナー~4コーナー
メインストレートは、最終15コーナー立ち上がりからずっと同じ標高だが、1コーナーの進入部分で1mほどぐいっと上り勾配になっていて、ブレーキングしやすいようになっている。
メインストレートエンドの1コーナー進入部分はMotoGP有数のハードブレーキングポイントになっている。
1コーナーは平坦である。この1コーナーでマルク・マルケスが奇跡的な転倒回避をしたことがある(動画)。
1~2コーナーは右~左の切り返しであり、スタート直後の位置取りが注目される。1コーナーをアウト側から進入すると2コーナーではインを突くことができる。1コーナーをイン側から進入すると2コーナーではアウト側を回らされることになる。
左にぐるっとまわりこむ2コーナーはライダーが沈んでいくようにみえるほどの急な下り勾配になっている(動画)。Googleアースで見ても、短い距離で標高が一気に減っていくことが分かる。
2コーナーを立ち上がった後は、下り勾配の中でマシンを左から右へ切り返す(動画)。大きく右にカーブしながら下り勾配が続く3コーナーになり、アクセルを開けてパワーを掛けていく。
1コーナーの一番高いところと3コーナーの一番低いところの標高差は16mもあり、5階建てビルと同じぐらいである。
3コーナーの中間地点が本サーキットの最底辺となっている(動画)。
3コーナー中間地点を過ぎると急な上り勾配に転じる。3コーナーの一番低いところと4コーナーの中間の標高差は16mもある。5階建てビルと同じぐらいの高さを一気に駆け上がっていく(動画)。
4コーナーはパッシングの多い場所である。4コーナーを過ぎた後もしばらく上り勾配が続く。
5コーナー~8コーナー
5コーナーの進入まではジリジリと上り勾配だが、5コーナーの進入から一気の下りになっていて、左に旋回しつつ、わずかな距離で4mも駆け下っていく(画像1、画像2)。5コーナーではリアタイヤの荷重が抜けやすい。また、5コーナーでアクセルを開けていくことはかなり難しいこととされる。
5コーナーを映すテレビカメラに、サーキット外の公道344番線を行き交う車の姿が映ることがある(動画)。
ライダーたちは左に傾いたマシンを右に切り返して6コーナーに突入していくのだが、今度はグイッと上り勾配になっていて(動画)、わずかな距離で2mを駆け上がる。
上り勾配でアクセルを開けるのでリアタイヤの荷重が大きくなり、フロントタイヤの荷重が抜けやすい。走行ラインを少しでも外すと、スリップダウンの転倒やコースアウトの危険性が一気に高まってしまう。6コーナーでは丁寧なマシン操縦が要求される。
6コーナーのあたりにショートカットがあり(航空写真)、ここからピットに戻ることができる。そのショートカットの横にはヘリポートがある(Hを○で囲んである場所)。
7~8コーナーは鈴鹿サーキットのデグナーカーブに似た2連続コーナーになっている。パッシングは滅多に起こらない。また、上下の勾配がない場所である。
9コーナー~11コーナー
8コーナーから9コーナーの間は短い直線だが、僅かに左へ曲がっている。そして、長い距離をかけて5mほどを駆け下っていく。
9コーナーは非常にパッシングが多い(動画)。進入は下り勾配で、脱出は上り勾配となっている。
9コーナーから14コーナーの高速区間はライダーたちに重要視されているようであり、ここを速く走ってバックストレートの加速につなげることがラップタイム向上のため効果的らしい。
左の9コーナーを脱出して、そこから右に切り返して右の10コーナーに入っていくのだが、9コーナー脱出から一貫して上り勾配である。9コーナーの底辺から10コーナーの中間地点の高低差は8mもある。
緩い角度の10コーナーを過ぎて、キツイ角度の11コーナーへ入っていくが、そこでもまだ上り勾配であり、4mほどの高低差を駆け上がっていく必要がある。
本サーキットの設計者はヘルマン・ティルケであり、それを思い出させるのが9コーナー以降である。10~11コーナー、13~14コーナーがどちらもティルケお好みの『フの字形コーナー』になっている。
『フの字形コーナー』は、前半は緩やかな角度でコーナーリングスピードが高いのだが、後半はきつい角度になっておりコーナーリング速度を落とさざるを得ない。
前半は度胸を決めて勢い良くスピードを保ってコーナーに進入する、後半に向けて徐々にブレーキングして上手くマシンをコントロールする、この相反する技術を求められる。
11コーナー脱出~14コーナー
11コーナーの中間地点まで上り勾配で、11コーナーの脱出地点から下り勾配が始まる。
11コーナーの立ち上がりは、次の高速S字にできるだけ速い速度で進入しようと考えるあまり、焦ってアクセルを開けすぎてリアタイヤが制御不能になってハイサイド転倒することが多い。
12~13コーナーは下りの高速S字で、ここに飛び込んで行くライダーの姿は格好いい(動画)。
12~13コーナーはかなり急激な下り勾配を高速で飛び込んでさらに切り返す度胸試しのコーナーで、フロントタイヤの荷重が抜けやすく、フロントのチャタリングも出やすい。左の12コーナーの進入部分の標高は38mぐらいで、右の13コーナーの標高は32mぐらいである。
緩やかな角度の右13コーナーの次に、キツイ角度の右14コーナーが配置されており、『フの字形コーナー』になっている。13コーナーは平坦だが、14コーナーは短い距離で2mほど上り勾配になっている。
ロングストレートの前のコーナーではパッシングを仕掛けずに綺麗なラインを通りストレートでの加速に備える、という格言があるが、14コーナーはかなりの低速コーナーなので、その格言を破ってパッシングするライダーもいる。
14コーナーは各ライダーが同じようなラインを通るので、ラインを外れた外側は埃が積もっている。また先述のようにスコールでコース脇の土砂が流れ込む影響もあり、コーナー外側に砂埃が多い。14コーナーのラインを外れた外側は非常にdusty(塵が多い)でdirty(汚い)である。
14コーナーは左右のカント(傾斜)が付いていないフラットなコーナーなので、タイヤへの荷重が抜けやすく、転倒しやすい。
2015年にはこの14コーナーでヴァレンティーノ・ロッシとマルク・マルケスの接触事件が発生した。いわゆるセパン・クラッシュという事件である(動画1、動画2)。コーナーの外側に押し出されたマルク・マルケスが転倒し、ヴァレンティーノ・ロッシはレース後にペナルティポイントを課せられた。
バックストレート~最終コーナー
14コーナーは上り勾配だが、バックストレートは一貫して平坦である。
バックストレートの横にはsupport paddockがあり、ピットとして使用できる。ただ、MotoGPでは使用されない。
バックストレートで先行ライダーがスリップストリームを嫌いマシンを左右に振る姿がたまに見られる。
後続のライダーが背後に付いてスリップストリームを使って加速してくると、先行のライダーは後ろに引っ張られるような感じになり、車速が落ちてしまう。なぜそうなるのか原理は解明し切れてないが、ライダーの感覚でもデータ上でも明らかに車速が落ちる。
それゆえ先行のライダーは後続のライダーにスリップストリームを使われないように努力する。背後に付かれてスリップストリームを使われるのを防ぐには、耳を澄まして、後ろの車が右か左かどちらから来るか判断する。経験があれば判断することができる。右から来られたら左に、左から来られたら右に車体を振るのである。
2015年までは最終15コーナーが最後の勝負所となっていて、ここを無理に走るあまり悲劇的な転倒を喫するケースも多かった。
2016年の改修で最終15コーナーのイン側が1m盛り上げられ(動画)、正真正銘の逆バンクコーナーになった。これにより、攻めたいけれども攻め過ぎるとアウトに膨らんでしまうコーナーとなり、走りづらいコーナーになった。
各ライダーの走行ラインもまさしくバラバラで、大回りするライダーもいるしイン側を小回りするライダーもいるという、統一的なラインが存在しないコーナーになっている(動画1、動画2)。
最終15コーナーの立ち上がりはそこだけアウト側に舗装が広がっていて(画像)、他の直線部分に比べコース幅が広い。
2月のセパンテスト(MotoGP)
毎年2月の初旬に、セパン・インターナショナルサーキットでMotoGP最大排気量クラスの各チームが合同でテストを行う。これをセパンテストという。
前年11月初旬にMotoGPが終わってから3ヶ月ぶりに行われるMotoGPの大規模イベントである。MotoGPファンにとっては「新年の始まり」「正月元旦」といった感じの催しとなる。
ライダーは3ヶ月の休み中にもモトクロスなどのオートバイにまたがってトレーニングを積んでいるのだが、そうしたマシンはパワーが弱く、手の皮膚が鍛えられない。久しぶりにMotoGP最大排気量クラスの4スト1000ccマシンに乗ったライダーたちは、手にマメを作ってしまうことが多い(記事、画像)
「本サーキットは直線が長いのでエンジンパワーを検査するのに最適である」と思われがちだが、実際はあまりエンジンパワーの検査に向かない。本サーキットは暑く、エンジンが高温になりがちで、エンジンパワーが低くなりがちである。「セパンテストでちょうどいいエンジンパワーだと思ったが、他の涼しいサーキットにいくとエンジンパワーが強すぎることが発覚した」ということがありうる。そうなってしまったのが2015年のレプソルホンダであり、この年のレプソルホンダは強すぎるエンジンに手こずった。マルク・マルケスも「セパンのコンディションは独特なんだ。本当に暖かい。15年にも、セパン(のオフィシャルテスト)ではすごく速く走れたのに、他のサーキットではものすごく苦労したことを覚えている」と語っている(記事)。
「セパンテストで一番時計になってしまうと、その年のチャンピオンになれない」という嫌なジンクスがある(記事)。暑すぎる環境で行われるセパンテストはとても特殊な状況下で行われるテストであるから、シーズンを占うものにはならない、という考えが成立する。
すでに述べたように、セパンサーキットに照明を設置してナイトレースを開催する計画が進んでいる(記事)。その計画が実現したときは、セパンテストも夜に行われるようになるものと思われる。セパンテストの特殊性がいくぶん薄らいで、一年を占うことができるようなテストになるのかもしれない。
コース学習用動画
関連リンク
- セパン・インターナショナルサーキット公式ウェブサイト
- セパン・インターナショナルサーキット公式Twitter
- セパン・インターナショナルサーキット公式Instagram
- セパン・インターナショナルサーキット公式Facebook
- セパン・インターナショナルサーキット公式Youtube
関連項目
- マレーシアGP(MotoGP)
- ラズラン・ラザリ(2008年から2020年までCEOだった人物)
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