タビと道づれとは、たなかのかによる日本の漫画作品である。月刊コミックブレイドにて2006-2010年の間連載されていた。コミックスは全六巻。また、2009年にはドラマCDも製作されている。
概要
主人公「タビ」は、ある朝学校をサボって通学とは逆方向の電車に乗り、とても大切な人である「航ちゃん」に会いに「緒道」にやってくる。とっさの判断(逃避)で緒道に向かったためタビはそちら方面への切符を買っていなかったが、車掌は咎めることなく、「切符は行きたい場所へ行くものだから、手のひらも立派な切符になる」と言い彼女の手のひらにハンコを押した。不審がりながらもタビは、航ちゃんに会いたいという希望を胸に緒道に辿り着く。
ところがいざ着いてみると、そこでは不可思議な事態が発生していたことが明らかになる。街の中心部から外に出る道はことごとく超常的な力により通行不能で、さらに街全体がそれを認識しないままある一日を繰り返しているのである。このままでは帰ることも航ちゃんに会いに行くことも出来ないと知ったタビは、同じく街の異変に気付いている「ユキタ君」「ニシムラさん」と共に街を元の状態に戻すため行動を開始する。
聖地尾道を舞台にしたファンタジー系の漫画ではあるが、魔法じみた超常現象やバトルよりも人と人との繋がり、個々の人物の思考などの内面描写を優先している。タビの自己嫌悪的思考を筆頭に、登場人物たちの心理・回想などが緻密に描き込まれており、それらをもってリアルでグロテスクな因果関係を描き出している。タビのイジメ回想などネガティブな鬱要素も多数存在するが、それら全てをきちんとポジティブな要素で上塗りしきっているため、暗い印象はあまり受けない。
また、作品全体を通して登場人物たちの精神面での成長が描かれる漫画であり、序盤こそ年上が年下を諭す場面が多いが、後半には怒涛の勢いで年下が年上を説教するようになる。最初は自分のことばかりを考え打算的に行動していたユキタが徐々に大人の思考回路を手に入れていき、確固とした決意をもって年長者を説教するシーンなどは痛快の一言。
そしてこの作品を語る上で欠かせないのが、テンポ良い展開とあちこちに散りばめられた伏線の数々である。伏線を投げっぱなしにすることなく、ひとつひとつ丁寧に回収しながらも全体のテンポを損なわず、かつ次々と想定外のどんでん返しが発生するその練り込まれたストーリーは実に見事。ぜひ、未読の方には何も知らない状態で読んでほしい作品である。
最終巻の巻末作者コメントに「恥ずかしくて人には言えないようないろいろな考え」を描いた、とあるように、作中では少々クサい台詞が目立つ。しかし、それもまたこの作品の魅力のひとつであることは一度読んでもらえればわかって頂けるだろう。
登場人物
※CVはドラマCD編のもの。
※作者の意向に従い、「航ちゃん」が誰かは分からないようカタカナ名を示し本名は伏せてある。ドラッグで読めます。
- タビ(本多美苑)CV:釘宮理恵
- 概要の通り、学校をサボり「航ちゃん」に会いに緒道にやってきた15歳(高校一年生)の少女。まろ眉。
- かつて緒道に住んでいたが、親の都合により小学五年生の時に引っ越した。引っ越すまでの間、その独特の感性と引っ込み思案な面から同級生にイジメを受けていたことが原因で、思ったことを口にするのを恐れ、自分は変だから独りぼっちなんだ、と自らを嫌うようになる。現在は緒道よりは都会に住んでいるようだが、そこでも立場は決して良くはないようである。
- 非常におっとりした性格で、ユキタに裸を見られてもまったくうろたえない。またマイペースな一面もあり、自分の目的のために他の全てを差し置くことも。しかし対人関係のこととなると必要以上に慎重になってしまい、嫌われたくないという恐怖から結局何も行動できないことが多い。
- 緒道に来たばかりの時はろくに喋ることもできなかったが、ユキタやニシムラとの親交を深めているうちに言葉を用いて自分の考えを表せるようになっていく。
- ユキタ(幸田という苗字。名前は不明)CV:皆川純子
- 緒道に住む高校三年生の男の子。故郷を「何もない街」と嫌っており、上京し劇団員になるのが将来の夢。夢への第一歩として劇団員の試験を受けに上京しようとした日、異変に巻き込まれる。タビに「男か女かもわからない」と評される中性的な顔立ちをしている。
- 当初は自らの目的のためにタビを勝手に救世主に仕立て上げたり、無理矢理連れ回したりと自分勝手で打算的な行動が目立ったが、タビと過ごす日々を通して徐々に人間として成長していく。あれこれ考える前に行動あるのみ、というタビとは真逆の考えを持っている。
- ニシムラと共に街の異変に気付いており、なんとかこの状況を打破しようとしながらも何も出来ない、という時にタビが緒道へやってきた。
- ニシムラ(西村。名前は不明)CV:中村悠一
- 世界一潔いストーカーでドM緒道の交番に勤める警察官。三十歳。年齢の割りに外見が若々しく、にしむらさんじゅうごさいと言っても通用しそうなほど。
- 警察官らしく正義感が非常に強く、学校を抜け出すユキタやカノコを度々補導している。ユキタと最初に知り合ったのもユキタが学校をサボり補導された時だった。温厚な性格で基本的に笑顔を絶やさないが、きちんと芯の通った大人であり作中ではユキタやカノコを諭す場面が多く見られる。
- カノコ(渡会 可乃子)CV:阿澄佳奈
- 緒道に住む中学三年生の女の子。作中唯一広島弁を話す。髪は黒髪のツインテール。
- ユキタに好意を抱いており、繰り返す日々の中で毎朝ユキタが東京へ向かうのを阻止しに駅へやってくる。彼女もまた行動派で、言いたいことはハッキリと言う主義。それが高じて自分より倍も年上のニシムラを気色悪いおっさん呼ばわりしたり、初対面のタビに思いっきりビンタしたりする。
- トト CV:金田朋子
- ある日ニシムラが拾ってきた落し物のぬいぐるみ。変身魔法少女のアニメのマスコットキャラらしい。初登場時は右肩の部分がほつれて中から綿がはみ出しており、若干恐怖を抱かせる外見をしていた。
- ぬいぐるみの分際で喋るし動く。語尾には必ず「~なの」が付き、子供のように純粋で遊び好き。
- クロネ(黒根という苗字。名前は不明)CV:井上麻里奈
- 緒道に住む小学五年生の男の子。ユキタに負けず劣らず中性的な顔立ちをしている。
- 学業優秀・誰にでも平等といわゆる委員長タイプの人間。そのせいか、教師には好かれている。
- オズ先生(小津航一)CV:櫻井孝宏
- 緒道の小学校で教師をしている男性。眼鏡をかけている。
- 困ったような顔で笑うのが特徴の、誰にでも優しい先生。街のプラネタリウムの館長も務めており、星座にまつわる話を多く知っている。その知識を用いて生徒を諭したりもする。決して無理に自分の見解を押し付けたり、相手の悩みを無理矢理解決まで導いたりはせず、悩める人の気休めになれれば良いと考えている。その方針と的を射た発言から、生徒の人望は厚い。「航ちゃん」の正体。
- ツキコ(井澄陽子)
- 昔から緒道に住む女性。年齢は二十代前半と思われる。黒のロングヘアーが特徴の美人。
- オズ先生と交際(に近い関係?)をしているため、こちらも星座の話を多く知っている。彼氏に似たのか優しい人であり、丁寧な口調で話す。全てを悟っているような話しぶりをしたかと思えば、多少天然な一面を垣間見せることも。
用語
※この項目はネタバレ要素を含みます!原作未読の方はドラッグなんてしちゃダメだよ!
- 路
- ニシムラが名付けた、「通行不能な道」の総称。ここを通ろうとすると、突如地面が崩れ底の見えない暗闇に引き込まれたり、地面にズブズブと埋まっていったりする。
- それぞれの路は対応したテガタを持ったセキモリ、あるいはそのテガタを分けてもらった人間しか通れない。ちなみに、暗闇に落ちた者は「意識はあるのに動けず、ただまぶたを閉じている金縛りのような状態」になりどこかへ飛ばされる。落ちた者がどこへ飛ばされるかはその路のテガタを持つセキモリが決定できるようである。
- テガタ
- 緒道に向かう途中、電車内で車掌がタビの手のひらに押した謎のハンコ。
- 緒道の空に流れ星を見た者が「夢」の中で車掌にもらうハンコのこと。構成する三角形の数で一等星~五等星まで階級が分けられており、一等星がもっとも強力。等級は自分が流れ星を見た場所が「星のうまれる場所」にどれだけ近かったかで決定される。自分の持つテガタは他人に分け与えることができ、テガタを分け与えられた人間は緒道で起きている事態を認識できるようになり、そのテガタに対応する路を通れるようになる。
- セキモリ
- テガタを持つ人間の総称。
- セキモリは皆ある日に流れ星を見ており、その際自分の願いをひとつ叶えてもらっている。さらに、「星のうまれる場所」を目指しており、そこに最も早く辿り着いた者にはもうひとつ自らの願いを叶える権利が与えられる。そして、セキモリたちはその権利をすでに部分的に所有しているため、街の中でのみ念力で岩を動かしたりすることが可能である。その力で他のセキモリを妨害し、星のうまれる場所に自分が一番に辿り着くのがセキモリの目標。
- 星のうまれる場所
- セキモリたちが目指す目的地。
- ここに最も早く辿り着いたセキモリは、自らの願いをひとつ叶えることができる(クロネは「二人一緒に行けばふたつ叶えられる」というような台詞を言っていたが恐らく方便)。実際の場所は、街で一番高い場所でもある航一が館長を務めていたプラネタリウムであった。
関連動画
関連項目
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