ハーモニクス奏法(倍音奏法)とは、楽器の音に含まれる倍音を鳴らす事で元々の音より高い音を出す演奏法の事である。
概要
楽器の音には多かれ少なかれ基音(元の音)の周波数の整数倍の周波数を持つ倍音の成分が含まれている。これらの倍音成分の分布が楽器の音色の個性を決めているのだが、一部の楽器では基音ではなく倍音(ハーモニクス)自体を響かせる事で本来の音の整数倍の音を奏でる事ができる。このような倍音を用いて楽器を演奏する事をハーモニクス奏法と呼び、バイオリンなどではフラジオレットと呼び、管楽器ではオーバーブローとも呼ばれる。金管楽器で奏でられる音はほぼ全てこの奏法による音であるほか、裏声も倍音を用いて1オクターブ上の声を出す発声法である。
ハーモニクス奏法は高い音を出す目的や運指上の都合で使われるだけではなく、一般に純音(倍音を含まない正弦波)に近い透明感のある美しい音になるため、フレーズの中でアクセント的に使用されることも多い。
余談となるが、和音が人に心地よく響くのは倍音が対応しあう音同士だからである。例えば長調のドミソの和音は基音のドに対し3倍音のソと5倍音のミの(オクターブ違いの)音の組み合わせである。
ギターのハーモニクス奏法
ギターやベースはハーモニクス奏法の仕組みが分かりやすい楽器である。弦長の逆数が音の周波数に対応している事から、倍音を鳴らすには基音の弦長の1/2,1/3, 2/3, 1/4…の点に余った指で軽く触れた状態で打弦すればよい。低倍率の倍音を出すための位置(ハーモニクス・ポイント)はおおよそ特定のフレットの位置と対応しており、基音を開放弦の音とするならば、
基音 | 開放弦の音 | |
2倍音 | 1オクターブ上の音 | 12f |
3倍音 | 1オクターブと完全5度上の音 | 7f, 19f |
4倍音 | 2オクターブ上の音 | 5f |
5倍音 | 2オクターブと長3度上の音 | 4f, 9f, 16f |
となる。開放弦以外の音についても上記の位置を1フレットずつずらしていけばよく、こちらは人工ハーモニクス奏法と呼ばれる。
その他、上記のハーモニクス・ポイントを指で叩く(タッピングする)ことでハーモニクスを出すタッピング・ハーモニクスや、ピックで弦を弾いた直後にピックを持っている親指で弦に触れてハーモニクスを出すピッキング・ハーモニクスなどの奏法がある。
また、ギター・ベースのチューニングの際にもハーモニクス奏法は利用される。たとえばギターの6弦(一番太い弦)のチューニングがずれている時、6弦5フレットと5弦7フレットのハーモニクスを同時に鳴らして同じ音程になるようチューニングする。同時に鳴らした音のチューニングがずれていると音のうねりが発生するが、ハーモニクスは通常の奏法より音のうねりが非常にわかりやすい。同様に5弦と4弦、4弦と3弦、2弦と1弦の間でのチューニングが可能である。(3弦と2弦の間は音程差が違うので通常奏法の3弦4フレットと2弦解放で合わせたり、2弦解放と6弦7フレットのハーモニクスで合わせるなどする。)
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