プロダクトプレースメント(product placement)とは、映画やアニメ、漫画やTV番組の中に、実在する商品やブランドロゴを挿入する広告手法である。
概要
劇中に登場する広告や商品、ブランドロゴによるタイアップ広告のこと。PP、PPMと略される事も。
起源は諸説あるが、最初にPPが使われたのは1951年、ハンフリー・ボガートが主演した『アフリカの女王』であるとの説がある。その後も『007』シリーズでのボンドカー(アストンマーチン、BMW)や『ティファニーで朝食を』のように、実在商品やブランドが映画に用いられているケースは枚挙に暇がないが、それらの宣伝ビジネスモデルがプロダクトプレースメントと呼ばれて一般化するのはそれよりかなり後になる。
最初にPPが用いられたスティーヴン・スピルバーグの代表作『E.T.(82年)』では、幼い兄妹がE.T.にハーシーズのお菓子をあげるシーンがあり、同社の月間売上を約65%も上昇させたという顕著な成功記録が残っている。
企業側がいくら魅力的なTVCMを製作・放映しても、DVDレコーダーにCMスキップ機能が搭載され、消費者からは何かと「テレビ局側に視聴を強いられる」広告(例:“正解はCMの後で”)が嫌われがちな昨今である。その一方で、映像制作会社は高騰する制作費やタレントの出演料に常に悩まされており、それらのコスト削減を図りたい製作側と、効果的な自社商品の宣伝を求める企業の思惑が合致したのがプロダクトプレースメントという新たな宣伝方法である。
映像作品だけでなく、スポーツ業界でもプロダクトプレースメントは用いられている。一流選手が使用するシューズやウェア等が、彼等と契約したブランドの商品である事は改めて言うまでもないだろう。
日本のプロダクトプレースメント
日本アニメ・特撮におけるプロダクトプレースメントの元祖と言えば、現クラシエに吸収されたハリス製菓がスポンサーを務めた『名犬リンチンチン(1956年)』、『宇宙エース(65年)』、『ハリスの旋風(66年)』の一連の作品が挙げられるだろう。現在では数少ない単独スポンサーによる大胆な作品介入のなされた作品群である。『ハリスの旋風』では題名はおろか、主人公の通う学園名はスポンサー名そのままのハリス学園。毎回主人公がガムを噛むシーンがある程の徹底ぶりである。当時はガムに対してあまり良いイメージが持たれておらず、更にガム市場を二分していたロッテとの競争もあってか、ハリス製菓はこうしたイメージアップの為のキャンペーンを大々的に行っていた。
また、60年の特撮『アラーの使者』では、スポンサーであるカバヤ食品の人気商品にちなんだキャラクターネーミングがされていたり、同年の『ナショナルキッド』ではタイトル及びタイトルロゴにそのままスポンサーのナショナル(松下電器、現パナソニック)が使われ、ナショナルキッドの使う武器「エロルヤ光線銃」のモデルが松下電器の懐中電灯だったりと、当時の大らかな気風を物語っている。
ほどなくアニメや特撮にも複数のスポンサーが付くようになったが、アニメならではの創造性を追求する製作側は、作品内のアイテムを玩具として現実に作り出し販売する「逆プロダクトプレースメント」を主な収入源とする玩具スポンサーのとの板挟みに悩まされるようになる。
逆に通常のPPはTV番組や映画等で行われるのが常となり、バブル景気も手伝って視聴者に様々なブランドを広めることとなった。その形態は景気が冷え込んだ後も変わらず、現在にまで受け継がれている。
しかしプロダクトプレースメントという概念が一般化していない時代から現在まで、アニメや漫画等で「実在商品や企業」がそのまま登場するケースはさほど多くない。作品内に実在商品やブランドを登場させる手段は物語にリアリティを持たせる有効手段だが、そういった意図で登場する商品や企業は一部分がぼかされ、似て非なるものになっている場合が多い。これは著作権や登録商標に関する不要なトラブルや手続きを避ける意味で浸透している手段である。
よく見ると、アニメ版はア「ソ」ヒ・スーパードライになっている。
企業側にとっても、一般的なドラマやバラエティ番組ならばともかく、アニメや漫画などをマーケット拡大の場として認識する機会は少なく「イメージダウンになるならば規制するし、運良くイメージアップになれば儲けもの」程度のファジィな認識で捕えていたものと思われる。
時代が進み、「オタク文化」は消費文化へとステップアップしたが、不況の波はアニメ業界をも飲み込みその体力を奪っていった。リスクヘッジの一環として製作委員会制度が生まれるものの、実質収入をDVDの売り上げに頼らざるを得ない現状を打破する為、ようやくアニメ業界にもプロダクトプレースメントが導入され始める。2007年『秘密結社鷹の爪・劇場版』、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』、2009年『サマーウォーズ』、2010年『涼宮ハルヒの消失』といった映画の成功を経て、2011年からは『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『TIGER&BUNNY』と深夜アニメ枠でPPが行われている。
とはいえ、これらのPPは「作品内での広告宣伝」に慣れていないアニメ視聴者層に対する実験段階に過ぎないのかもしれない。「大人の事情」に寛容な高年齢層にターゲットを絞り、日常に近い舞台設定の中で小道具として様々な商品やブランドを配置し、ストーリーを押しのけてまでそれらの宣伝要素が表に出ないように気遣われた、初歩的で良心的なPPの手法である。
しかし今後の景気変動や広告会社の意向によっては、現在以上にあからさまなPPが行われる可能性がないとも言い切れない。我々視聴者が「作品を楽しむ精神」と「広告に対する嫌悪感」の板挟みになる日が来ないとも限らないのだ。
海外でのプロダクトプレースメント
日本よりも先んじてビジネス化が図られたアメリカのPPはこれらと比べ物にならないほど強烈で、全編が企業CMと揶揄されるような映画もあれば、デジタル技術を駆使し、過去に作られた映像作品に現在の商品を置くという手法まで行われている。音楽PVに用いられるのは勿論、映像ばかりでなくシナリオにスポンサーが干渉し、商品名や企業を褒めそやす台詞を分刻みで加えたりとやりたい放題である。イギリスではPP規制法が存在するが、アメリカはヨーロッパ諸国と並んで法規制が緩く、その氾濫に拍車をかけている。韓国でも一時禁止されていたが、最近になって再び解禁・規制緩和された模様。
ドキュメンタリー映画『スーパーサイズ・ミー』で話題となったモーガン・スパーロック監督の新作、『POMワンダフル・プレゼンツ ザ・グレイテスト・ムービー・エバー・ソールド』ではこういった広告業界の実情が語られている。
プロダクトプレースメントの利点・欠点
利点
- 制作会社は広告費によるコスト削減を見込める。
- 作品のシーンやイメージ、登場人物等を利用したマス広告が可能である。
- 現代劇の場合、実在の企業や商品を小道具に用いる事で設定やストーリーにリアリティを持たせる事が出来る。
欠点
- ファンタジーや時代劇など、作品のジャンルによっては使えない。
- スポンサーの宣伝目的の介入によって、製作側のクリエイティビティが損なわれる可能性がある。
- 視聴者側の安易で一方的なレッテル貼りが容易になり、扱われる商品やブランドによって作品の評価が上下しかねない。
- スポンサーによっては再放送時の足枷になる事も。
関連動画
関連項目
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