ポップ体(POP体、POP文字とも)とは、日本における書体の一種である。
概要
手書き由来の骨格と整理された線質を特徴とし、ところによって丸いラインを描くため明るい印象を与える。
店頭のPOP広告などに用いることによる販売促進を狙ったもので、同様の意図がなされていれば手書きされるものについてもポップ体と定義される。
由来について
よく誤解されることであるが、ポップ体の「ポップ」が表すのは購買時点広告(Point of purchase advertising)の略である「POP広告」のPOPであり、ポピュラー(popular)のことではない。
昔から、小売店の店頭においてはさまざまな手書き文字を用いてPOP広告を作成することによる購買意欲の促進が企図されてきた。またそれはPOP広告に限ったことではなく、広告の中でも明るい印象を与えるレタリングが用いられる事は多かった。日本では戦前の「図案文字」時代から顕著であるし、遡れば江戸時代の相撲文字や勘亭流などといった「江戸文字」もその源流といえよう。
そんな中、1973年に大谷デザイン研究所POP部が発売した「POP広告制作の基礎 売上げ促進に役立つレタリングと実例」では、マジックペンやサインペンなど何種類かの筆記具を用いた様々な「フリースタイル」と称された書体の実例が掲載されている。
また、学生運動などにおいて立て看板やビラで用いられたゲバ文字もそうした中でのポップ書体の一種とすることができるかもしれない。
これら近代の書体がそれまでの手書き書体と区別されるのは、完全にカリグラフィ的でない、ゴシック体などの活字の雰囲気が意識された点にある。これらの特徴は欧文のスクリプト系サンセリフ書体の特徴と紐づけて語られることがある。
そうしたPOPにおけるフェルトペン・マジックペンを用いた書体が「POP書体」として定義されたのは、荒木淳による「POP書体2700字」(1983年)や、株式会社POP研究所・マール社による「POP文字(書体とPOPのベスト50―新書体)」(1989年)などの影響があると考えられる。
POP研究所は他にも書籍を発売したほか、ニィス社主導のもと自社のPOP文字をNIS-POP書体(1992年)というデジタルフォントにしてリリースした。
創英企画の創英角ポップ体(1992年)やダイナコムウェアのDF POP1体(発表年不詳)、モトヤのモトヤバーチなどはPOP研究所書体に影響を受けているとみられる。
なお、POP研究所は創英角ポップ体を模倣として民事訴訟を行ったことがあるが、同社特有のものでないことなどを理由に棄却されている。
POP研究所の定義したような手書き風の骨格を持つ太いサンセリフ体は繰り返しの入力が可能な活字書体(フォント)としても、POPという名前こそ使われていないが写研のゴカール(1985年)、モリサワからリリースされたタイプラボのわんぱくゴシック(1984年)やハッピー(1989年)などといった写真植字用の仮名書体で既にリリースされている。
ゴカールはPOP研究所による書体と異なり起伏のない均一な線を持つ。漫画や看板などの書面に広く使われ、1997年に漢字書体の揃った総合書体となっている。ゴカールの特徴に追随するフォントとしては、他にフォントワークスのPopハッピネス(1997年)や日本リテラルのセイビ角ポップ体、ニィスのJTCウインクスSシリーズ、フリーフォントのモッチーポップなどがある。
今日までのポップ体には、POP研究所書体に代表される起伏を持つ書体とゴカールに代表される均質な書体の2潮流が存在している。
丸ポップ体・その他について
時期は不明ながら、看板文字の業界では骨格のラフな角書体を「ハタキ文字」と呼称している。
手書き風の骨格をもったサンセリフ書体でも、前項で述べたような四角い先端を持つものを角ポップ体、先端の丸いものを丸ポップ体と呼び区別することがある。
例として創英企画は創英角ポップ体に対し、手書き風丸ゴシック書体である創英丸ポップ体をリリースしている。idfontのあいでぃーぽっぷまるなどはこれに類似している。
また、日本リテラルのセイビミナトはセイビ角ポップ体を丸くしたものである。同書体はイワタではイワタ丸ポップ体、富士ソフトでは富士ポップという名前でOEM販売されている。
その他、フォントワークスのPopジョイなども同様の特徴を持っている。
現代ではフリーフォントとして手書きの骨格やマジックペンの線質を再現した書体がいくつかリリースされており、これらをポップ体と定義することもできる。例えば、たぬきフォントのたぬゴやたぬき油性マジックなどが挙げられる。
プロダクトとしてのポップ体 活用例
- 店舗看板
- まいばすけっと / 創英角ポップ体(ロゴ・看板)
- 映像作品
- 機動戦艦ナデシコ / DF POP1体 W7(本編・予告内での煽り文句表記)
- MUSASHI-GUN道- / HG創英角ポップ体(OP・EDでのスタッフ・キャスト表記、次回予告の一部)
- 乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった… / HG創英角ポップ体(第2期制作決定CM)
- 家庭用ゲーム
- 機動戦艦ナデシコ やっぱり最後は「愛が勝つ」? / DF POP1体 W12(ゲームUIの一部)
- Undertale / ハッピールイカ(一部キャラクターの台詞)
関連動画
関連静画
関連項目
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