マウス(独:Maus)とは、フェルディナンド・ポルシェ博士の開発による試作戦車である。
概要
重量188tにもおよぶ超重戦車であり(ちなみに同時期に活躍した戦車は重いものでも70t弱、現代でも60t前後が主流である)、実際に開発された戦車の中では最も重い[1]。
名前のMausは英語で言うmouseにあたり、日本語では「ねずみ(ハツカネズミ)」である。一説によれば、名前からどんな兵器か敵に推察されないよう、超重量戦車にはマウスと命名し、別の小型リモコン爆弾にはゴリアテ(神話の巨人ゴライアスのこと)と命名したらしい。
ソ連の新型戦車に怯えて夜も眠れないヒトラーが「現在最高の性能を持つ超重戦車を作れ」という命令を出したことにより、マウスは1942年より試作が行われ、135両の量産が計画されていた。しかし1944年末にマウスを含む全ての超重戦車の量産がキャンセルされ、結局ほぼ完成していた2両の車体と1基の砲塔のみが残された。
特徴は、圧倒的な大火力、重装甲、そして駆動方式である。
主砲として、ヤークトティーガー重駆逐戦車に搭載された55口径12.8cm戦車砲を旋回砲塔に搭載できるよう設計された。この砲はドイツ軍最強の戦車砲であり、距離2000mで148mmの装甲を貫通可能である。また、マウスは副砲として36.5口径75mm戦車砲も搭載している。画像などで主砲と比較すると副砲は豆鉄砲のようにも見えるが、砲身長と口径の数値だけで言うと、副砲でもM4シャーマンと同等の火力を持っていると推定できる。
装甲厚は最大240mmあり、上面(60mm)と底面(50mm)を除けば装甲厚が100mmを下回る部分は存在しない。装甲厚が垂直100mmのティーガー重戦車が無敵だった時代に、これはもはや無敵を通り越して神めいている。
しかし、高い攻撃力と防御力を得た代償として188tもの巨体となり、歯車を用いた通常の変速機ではこの重量を支えられない問題が発生した。これを解決する為にポルシェ博士の考案した歯車の要らない駆動方式が採用されており、ガス・エレクトリック駆動という。これはエンジンで発電した電力でモーターを駆動させるもので、大重量の戦車の泣き所である変速機が不要となる点である。ポルシェ博士はマウス以外にもティーガー(ポルシェ社設計案)やエレファント重駆逐戦車でこの方式を採用している。
また、この重量では橋を渡ることなど不可能なので、渡河する際には川底を走って渡ることとされ、マウスは完全防水設計となり専用シュノーケルが搭載された。しかし川底でエンジンをフル回転させることは出来ず、次のような手順で渡河することとなっていた。
- マウスの各所にパッキングで防水処理をし、シュノーケルを装着する
- もう1両のマウスを用意し、渡河するマウスに電力ケーブルを接続する
- 送電用のマウスが川辺で発電をし、その電力でマウスが川底を渡る
- 向こう岸に着いたら、送電と渡河を交代してもう1両のマウスも渡河する
このような困難な運用を必要とし、通常の走行ですら道路を破壊したり自重で沈み込んでしまうマウスは、ヒトラーの執拗な推しもむなしく量産がキャンセルされた。
量産キャンセル後、残った2両のうち1両は試験場で放置プレイを楽しんでいたところを侵攻してきたソ連軍によって鹵獲された。もう1両の方は完成した砲塔を載せ、実戦投入のため移動中に何らかの理由で力尽き[2]、鹵獲阻止のため車体を爆破された。こちらもソ連軍に鹵獲されている。ソ連は手に入れた2両の無事な部分を組み合わせ、完全な形のマウスを1両仕立てあげると本国へこれを輸送。ソ連本土でマウスの性能試験を行い、現在ではロシアのクビンカ戦車博物館で展示されている。
関連静画
関連項目
脚注
- *ペーパープラン上ならばマウスよりも更に一桁重たい戦車も検討されている。
- *どうせ燃料切れか、機械的故障か、深みにはまって動けなくなったかのどれかだろう。マウスの半分の重量も無いドイツ重戦車でもこういう理由で放棄された車両は枚挙にいとまがないし
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