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モルヌピラビル(Molnupiravir)とは、抗ウイルス薬である。商品名はラゲブリオ®。
概要
モルヌピラビルは、N4-ヒドロキシシチジン誘導体である。2000年代初頭にアメリカ合衆国のエモリー大学で発見され、当初はC型肝炎の治療薬として開発が進められたが、C型肝炎ウイルスだけでなくインフルエンザやエボラ出血熱のウイルスなど複数のRNAウイルスに対して抗ウイルス活性を示し、SARS-CoV、MERS-CoV、SARS-CoV-2などのコロナウイルスに対する抗ウイルス活性もある。2021年12月、SARS-CoV-2による感染症(COVID-19)の治療薬として特例承認された。SARS-CoV-2に対する抗ウイルス薬としては初の経口剤である。2022年8月、「ラゲブリオ®カプセル200mg」は薬価基準に収載され、1カプセル2,357.8円(40カプセル94,312円[1])となった。
モルヌピラビルは、β-D-N4-ヒドロキシシチジン(NHC)とイソ酪酸のエステルであり、NHCのプロドラッグである。ヌクレオシドと類似した構造をもつNHCは、核酸塩基と水素結合することでRNA複製においてエラーを発生させ、抗ウイルス作用を示す。また、レムデシビルに対する耐性を獲得したウイルスに対しても有効であることが示唆されている。ただし、変異原性や催奇形性について懸念がある。
モルヌピラビルが特例承認されるまで、SARS-CoV-2感染症(COVID-19)の治療に用いられている低分子量の抗ウイルス薬はレムデシビル(ベクルリー®)のみであった。これはCOVID-19治療薬として日本で初めて承認された医薬品であるが、注射剤のみで経口剤はない。また、軽症例に使用できる治療薬としてカシリビマブ/イムデビマブ(ロナプリーブ®)、ソトロビマブ(ゼビュディ®)が承認されているが、これらも注射剤のみで経口剤はない。経口投与可能な製剤としてデキサメタゾン(デカドロン®など)やバリシチニブ(オルミエント®)があるが、軽症の患者への投与は推奨されない。したがって、軽症の患者に処方できる経口の治療薬候補としてモルヌピラビルに注目が集まっていた。
抗SARS-CoV-2薬
SARS-CoV-2感染症(COVID-19)治療に用いられる抗ウイルス薬(抗体医薬を含む)を参考程度にまとめておく。実際にどの医薬品が推奨されるかは、患者の年齢や重症度、重症化リスク因子の有無、入院の要否、感染している変異株の種類などによって異なる。
販売名 | ベクルリー® | ロナプリーブ® | ゼビュディ® | ラゲブリオ® | パキロビッド® |
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一般名 | レムデシビル | カシリビマブ イムデビマブ |
ソトロビマブ | モルヌピラビル | ニルマトレルビル リトナビル |
承認 | 2020年5月 | 2021年7月 | 2021年9月 | 2021年12月 | 2022年2月 |
薬価 | 1バイアル63,342円 | 未収載 | 未収載 | 1カプセル2,357.8円 | 未収載 |
分類 | 低分子医薬 | 抗体医薬 | 抗体医薬 | 低分子医薬 | 低分子医薬 |
作用機序 | RNA合成酵素阻害によるウイルスRNA合成抑制 | スパイクタンパク質結合による細胞内侵入抑制 | スパイクタンパク質結合による細胞内侵入抑制 | RNA合成酵素阻害によるウイルスRNA合成抑制 | プロテアーゼ阻害によるウイルスタンパク質合成抑制 |
剤形 | 注射剤 | 注射剤 | 注射剤 | 経口剤 | 経口剤 |
適応 | 治療 | 治療・発症抑制 | 治療 | 治療 | 治療 |
用法用量 | 初日200mg 2日目以降100mg 1日1回3~10日間点滴静注 |
600mgずつ混合 単回点滴静注 or 単回皮下注 |
500mg 単回点滴静注 |
1回800mg (1回4カプセル) 1日2回5日間内服 |
NMV 300mg† RTV 100mg 1日2回5日間内服 |
小児 | 体重3.5kg以上なら投与可 (用量調節必要) |
12歳以上かつ体重40kg以上なら投与可 | 12歳以上かつ体重40kg以上なら投与可 | 小児投与不可 18歳以上のみ |
12歳以上かつ体重40kg以上なら投与可 |
妊婦 | 有益性投与‡ | 有益性投与‡ | 有益性投与‡ | 禁忌 (胎児毒性) |
有益性投与‡ |
備考 | 重症例に投与可。 COVID-19治療薬のうち最も使用経験が豊富。 |
オミクロン株に対しては中和活性が低下するおそれがある。 | オミクロン株に対しても中和活性が維持されると考えられる。 | 経口のCOVID-19治療薬としては併用禁忌薬が少ない。 | 腎機能や肝機能を考慮して投与する。† CYP3A阻害による薬物相互作用がある。 |
†中等度の腎機能低下(eGFR 30-60mL/min)例ではNMVを150mgに減量して投与。重度の腎機能障害患者への投与は非推奨。
‡有益性投与:治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与。
関連動画
関連リンク
- An orally bioavailable broad-spectrum antiviral inhibits SARS-CoV-2 in human airway epithelial cell cultures and multiple coronaviruses in mice
- Quest for a Cure: Potential Small-Molecule Treatments for COVID-19, Part 2
関連項目
脚注
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