ロガエスの書(Liber Loagaeth; MS. Sloane 3189)とは、16世紀に書かれた未解読の文書である。大英図書館スローン文庫所蔵
概要
本書は霊視者エドワード・ケリーEdward Kelleyと占星術師ジョン・ディーJohn Deeの共著で、エノク語と呼ばれる非自然言語(人工言語かは定かではない)によって書かれている。著者であるディーらはこの言葉を「天使語」や「神聖言語」などと称していた。
65枚のフォリオからなり、101の複雑な格子状魔法陣が記されている。内96は49×49の格子で、残り5は36×72の格子で構成されている。
◆別名『エノク書』(The Book of Enoch)と呼ばれるが旧約偽典に数えられる(エチオピア正教会では正典)エノク書とは別物である。
エノク魔術
本書はエノク魔術Enochian Magicと呼ばれる一連の魔術体系と深い関わりがあると言われる。それは著者であるディーがエノク魔術の創始者に他ならないからであり、彼自ら本書に書かれているエノク語は天使が人間のために記録した言葉であると明言していた。ディーはまた本書の内容について"我々の創造の神秘、数多の歳月に亙る時代、そして世界の結末"(The Mysterie of our Creation, The Age of many years, and the conclusion of the World)について記されていると述べている。
曰く本書を齎した天使の正体はウリエルで、それと交信する事に成功したケリーの発言などを書き留める形で記されたという。
エノク魔術はディーの死後息を潜めるが、19世紀以降魔術師マグレガー・メイザースとアレイスター・クロウリーによって再び世に出る事になる。クロウリーはロガエスの書を元にした校訂本Liber LXXXIV Vel Chanokh(こちらも『エノク書』と呼ばれることがある)を出版し、その内容についてクロウリーは'A brief abstract of the Symbolic representation of the Universe derived by Dr. John Dee through the Scrying of Sir Edward Kelly.'と説明している。
エノク魔術については『高等エノク魔術実践教本』に詳しく、日本語で読めるものとしてはこれがほぼ唯一無二のテキストであると考えられる。同書ではエノク魔術について次のように説明している。
エノクと呼ばれる魔術の分野は、近代においては、ジョン・ディー博士(1527~1608)によって明らかにされた。ディーは、数学、航海学、天文学、そして光学の権威だった。そして、またエリザベスⅠ世お抱えの占星術師でもあった。彼の魔術のパートナーであったエドワード・タルボットは(のちにケリーという名に変わる)4つの《物見の塔》と30の《アィテール》として知られる精妙な区域の記述の際に、彼を手伝った。これらの内容は、これらを支配する神々(deities)と共に、現在エノク魔術として知られる強力な魔術体系の中核を形成するものであった。
◆エノキアン・タロットと呼ばれるエノク魔術を元にしたタロットの流派が存在し、大アルカナに相当するカードが30枚と地、水、火、風の四つのスートの小アルカナ56枚の全部で86枚のカードが用いられる。
またメイザースが創立した魔術師団体「黄金の夜明け団」がディーの魔術をどのように理解していたかについては次のように記述する。
ディーの霊的研究は、19世紀の終わり頃にあるオカルティストと魔術師のグループがその《魔術》を取り上げるまで、ほとんど表には出てこなかった。《黄金の夜明け団》が、ディーのエノク魔術の儀式や文献から言葉や言い回しを借りて使用したのだ。しかし魔術師がアデプタス・マイヤーの位階に上がるまでは、この魔術体系の鍵は与えられなかった。《霊の幻視》のスクライング(魔術の過程では時々アストラル旅行と呼ばれている)のためのエノクの召喚がそれらの魔術作業の一部になっていた。しかし、ディーは何千年も前に不幸な運命をたどったアトランティスの人々に知られていた古代の体系を再発見したに過ぎない、と《黄金の夜明け団》では教えていた。エノクのアルファベットはアトランティスで使用されていたものに直接由来すると言われていたのだ。
このように「黄金の夜明け団」ではエノク語を先史文明の時代から伝わる文字が用いられた言語であると解し、またそうした趣旨の教育を行っていた事が窺える。
天使の鍵
ロガエスの書はディーらによって書かれた唯一のエノク語資料ではなく、「天使の鍵」(Claves Angelicae)と呼ばれる48詩節からなる英訳付きのテキストが今日に伝わっている。
この「天使の鍵」を元に構築したエノク語辞典も出版されており、そのカバーする範囲は基本語彙に留まってはいるが、その内容が真正のものであればロガエスの書を読み解く上で重要な手掛かりとなる事が期待出来る。
◆参考まで、以下に英語-エノク語辞典サイトによる単語の一部を掲載する(エノク文字は文字コードに含まれていないためラテン・アルファベットに転記したもので代用)。
sun= ror
heaven= madriax, madriiax, peripsax, peripsol, piripsol, piripson, piripson
god= ascha, iabes, iad, mad, oiad, piad
millstones= avini
out of him= geta
ソイヤの書
ディーはソイヤの書(Book of Soyga; Aldaraia)と呼ばれるラテン語で書かれた魔術書を所持していた。こちらはエノク語による記述ではないが暗号が用いられていると考えられている。大英図書館(Sloane MS. 8)およびボドリアン図書館(Bodley MS. 908)に所蔵されている。
Soygaとはギリシャ語でholyを意味するagiosを逆順にしたアナグラムであると考えられており、同書中には他にも同様の手順でアナグラムとして生成した単語が多く見られる傾向にあるという(Lapis→Sipalなど)。
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関連項目
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