ロングビーチとは。
- アメリカ合衆国、西海岸にある都市。人口50万人ぐらい。ロサンゼルス市の南方にある衛星都市。
- 第1次世界大戦中、ドイツから分捕って運用したアメリカ海軍の貨物船。
- タコマ級フリゲート、1943年就役。終戦間際にソ連に貸し出されたあと1953年、日本の海上自衛隊に貸し出され、護衛艦『しい』となる。1967年退役。
- 原子力ミサイル巡洋艦。本稿はこれについて述べる。
原子力ミサイル巡洋艦“ロングビーチ”
概要
原子力が夢のエネルギーとしてもてはやされた時代、アメリカ海軍が『ぼくがかんがえたさいきょうのじゅんようかん』を実現するために建造したスーパー巡洋艦。いやまじで。1961年就役。特徴として、
- 動力は原子炉+蒸気タービン。アメリカ海軍初の原子力動力『水上艦』である。
- ミサイル全部乗せ。当時最新のミサイルをたらふく搭載。
- それを制御するためにこちらもアメリカ海軍初のフェーズドアレイレーダーを搭載。
などが挙げられる。以下解説。
1、動力は原子炉+蒸気タービン
専用に設計されたウエスチングハウス社製C1W型原子炉を二基搭載。出力8万馬力を発生させる。
2、ミサイル全部乗せ
オールミサイル艦を目指したロングビーチはとにかくたくさんのミサイルを搭載した。
- 短距離対空ミサイル『テリア』
- 敵機には核で汚物は消毒だ! 長距離対空ミサイル『タロス』
- 巡航ミサイル『レギュラス』 ※計画のみ
- 弾道ミサイル『ポラリス』 ※計画のみ
- 対潜ロケット『アスロック』
- 対艦ミサイル『ハープーン』 ※後述の大改装後
- 巡航ミサイル『トマホーク』 ※後述の大改装後
さすがにやりすぎと感じたのか、当時の大統領J.F.ケネディが「せめて砲だけは積んでくれ」と言ったためレギュラスやポラリスの設置は中止となり、そのスペースに5インチ砲を搭載した。
3、初のフェーズドアレイレーダーを搭載
ロングビーチの最大の特徴は、その優美な巡洋艦船体の上にドカンと乗っかっている、どでかい箱のような艦橋である。これ、実はフェーズドアレイレーダー『SCANFAR』(以下スキャンファー)の設置スペースである。
ヘリコプター製造で知られるヒューズ社が開発したスキャンファーは縦長の追跡レーダー『SPS-32』と横長の監視レーダー『SPS-33』から成り立ち、監視距離は船を中心に半径200キロ以上。まさにイージスシステムのご先祖様である。余談だがこのスキャンファー、続いて建造された空母『エンタープライズ』にも搭載されている。
とまぁ、未来の戦闘艦を模索していた時代の、まさに夢の艦だったのである。
……うん、夢の艦だったんだ。
実際のところどうよ
人類には早すぎた。
※技術レベルの意味で。
- タロスがでかすぎて邪魔者扱い。後にテリア用ミサイルランチャーに搭載できる同程度の性能のスタンダードミサイルの配備が始まると真っ先に退場させられた。
- スキャンファーはまだLSIどころかトランジスターすらない時代なんで真空管をたっくさん使用してるのだが、こいつがパンパン割れて中の人は維持のため涙目。
- ついでにスキャンファーシステムの重さ、実に20トン。こんなもんを艦橋の上に積んでるもんだから急旋回すると思いっきり船が傾く。
- スキャンファーは後にトランジスタ化したけど、武人の蛮用には耐えられず最終的に撤去の憂き目に会う。
- 建造費がバカっ高い。一隻作るのに通常の3倍同性能の通常動力艦三隻分以上のコストがかかる。
当時は試行錯誤の時代で、ロングビーチは第二次大戦後の軍艦のあり方を模索するための尖兵としての役割をになっていたため仕方ないところはある。原子力艦はその後『ベインブリッジ』(一隻のみ)、『トラクスタン』(一隻のみ)、カリフォルニア級(二隻)、バージニア級(四隻)と細々と作られていたのだが、コストを下げるためかだんだんサイズが小さくなっていく。そして最終的に
という判断が下され、1980年就役のバージニア級『アーカンソー』を最後に作られなくなった。
ロングビーチはベトナム戦争では飛行機の管制をやったりうるさいミグを叩き落したりして活躍。1980年ごろから大改装が行われ、スキャンファーをおろして普通のレーダーに取り替え、タロスもおろしてその跡にハープーン、ついでトマホークを搭載する改装を行いその後も第一線を活躍し続け湾岸戦争にも参加。その艦歴は34年にも及ぶ。
湾岸戦争後「原子力水上艦は燃料交換コストが高いので空母以外廃止!」とということになり、1995年ロングビーチは退役。1999年には最後まで残っていたカリフォルニア級二隻がそろって退役し、アメリカ海軍から空母以外の原子力水上艦はすべて姿を消した。
余談
- スキャンファーそのものはどちらかというと大失敗の類になっちゃったのだが、このとき得られた知見は相当のもので、これの経験と同じく人類には早すぎた対空ミサイルシステム『タイフォン』の開発経験がイージスシステムとして結実している。『イージスの父』マイヤー提督ははっきりと「スキャンファーの経験がなかったらイージスは生まれなかった」と言っている。
- ロングビーチをイージス艦に改造するという計画もあったらしいが、改造費を見積もったら当時の価格で9億ドル以上、日本円換算で約2千億なんて金額が出てしまいご破算となっている。本当はマイヤー提督、原子力艦にイージスシステムを積みたかったらしい。
- 1995年に退役したロングビーチは2002年には艦橋と原子炉が取っ払われたのだが、その船体だけはぷかぷかとピュージェット・サウンド海軍工廠に浮かび続け、最終的にスクラップになったのは実に2012年のことだった。
- 巡洋艦船体を用いた正統派巡洋艦としては、アメリカ海軍最後の艦。
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関連項目
- 軍事 /巡洋艦/ 軍用艦艇の一覧
- イージスシステム
- USSエンタープライズ(CVN-65):スキャンファーはこちらにも搭載されている。
- ズムウォルト級ミサイル駆逐艦 全部乗せ→炎上の後輩。
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