フェアリー ロートダイン(Fairey Rotodyne)とは、妖精の国からやってきたヘリコプターの妖怪空飛ぶパンジャンドラム旅客用ヘリコプターである。
概要
イギリスの変態飛行機メーカー、フェアリー・アビエーションが開発した旅客用ヘリコプター。
「世界初のVTOL旅客機」という触れ込みでデビューした。
実用化に成功していれば「旅客48人を最小限の設備の空港からの発着で輸送できる」というある意味最強の旅客機になっていた。
かも知れない。
仕様
ロートダインは先述の通り旅客用ヘリコプターである。
が、そこは妖精さんの興した飛行機屋紳士の国。
妖精の航空力学とセンスに基づいて設計されているため並のヘリとは一味も二味も違う機体である。
まずローター(回転翼)であるが、離着陸時にしか使わない。
水平飛行中はニュートラル状態となり、前進中の風圧で回転して揚力の補助を行う(オートジャイロの回転翼のような状態だと思えばいい)。水平飛行中は両翼に装備されたターボプロップエンジンで推進する。
そしてローター。こいつがロートダインの最大の特徴である。このローター、実は機体内のエンジンで駆動されるものではない。っつーか「ローター駆動用エンジン」自体がついていない。
じゃあどうやって回しているのか?
なんとローターの先端に小さなジェットエンジンを付けて、その推進力で回転させている。あれ?確か第二次世界大戦中にイギリス軍がこんな兵器を作ったような…。
これは「チップジェット」という方式であり、見た目がおかしいだけで終わりのシステムでは決して無く、『トルク相殺用のテールローター(ヘリの尾翼にくっついているプロペラ)などのトルク打ち消し用の機構が不要になる』という利点もある、意外と便利なシステムである(ローターは機体と独立して回転している、という状態のため、機体に反トルクがかからない)。
チップジェットは別にロートダインの専売特許というわけではなく、海の向こうのドイツではジェット竹とんぼVTOL戦闘機「トリープフリューゲル」がチップジェット式ローターを使っていたりするし、アメリカでもかの発明王・エジソンが飛行機の構想として「チップジェット式のローターで浮上するヘリコプターの模型」なんてのを作っていたことがある。エジソンのはジェットエンジンじゃなくて火薬ロケットでローターを回す方式の上、リアル爆発オチ(模型が自爆して終了)となったが。
しかもこれで合計48名の旅客を乗せられるという予定だったとか。
妖精の考える飛行機は自分ら人類にはよーわからん
で、どうだったの?
大失敗。
失敗の理由はいくつかあるが、以下の点が致命的だったと言われている。
- 燃費が極悪
ロートダインは曲がりなりにもVTOL機である。結論から言えばこれが原因で燃費が極悪なものとなった。
一般の固定翼機は翼が生み出す揚力で機体を浮かせているため、エンジンパワーは機体の離陸重量よりずいぶん小さい値でも事足りる。
例えばジャンボジェットことボーイング747の場合、最大離陸重量は350t~450t程度となっているが、一方でエンジンの推力の合計は80~100tくらいしかない。普通の飛行機の場合、エンジンは「機体を前進させる」だけであり、「機体を浮上させる」までは考えなくていいのである。(ゲンコツを力を入れて重ねあわせても、横にずらすだけなら指一本でも動かせる…というあの実験を思い出せばいい。機体が重くても、「前=横に動かすだけ」ならそれほど力はいらない)
一方でVTOL機の場合、文字通り「重力に逆らって機体をエンジンパワーで無理やり浮上させる」ということが必要になる。もっと言えば、エンジンパワー>最大離陸重量にしなければいけない。
旅客48人+操縦士2人を乗せて浮上できるだけのエンジンともなればそれだけ高出力(=大型)なものが必要となるし、そんなエンジンだと重量もかさみ、それに打ち勝つだけのエンジンパワーで(ryと無限ループになってしまう。
このことは燃費の悪化に直結し、さらにそれは「運航コストが高くなる」ということにもつながる。 - 操縦が難しい
ロートダインは「操縦が難しい機体」との評を得ている。
これは専門家ではないド素人の編集者による推測に過ぎないが、ロートダインは「ヘリのようでヘリでない、固定翼機のようで固定翼機でない」という変な機体である。このことが原因で「ヘリでも固定翼機でもない特性」となってしまい操縦が難しくなったと思われる。 - うるさい
先述の通り「50人近い旅客を乗せて浮上できるだけのエンジン」を積んでいるロートダインはかなりの騒音を発するということくらいは、素人の編集者でも結構簡単に推測できる。
しかもロートダインのローターはチップジェット式、つまり「ローター先端のジェットエンジンの推進力で回す」という方式である。これは相当な騒音を発したと思われる。
厄介なことにロートダインが登場した時期は、騒音問題を含めた環境問題に関する議論が活発化した時代でもあった。 - 遅い
ロートダインは一応、複合ヘリコプター(ローターとは別に前進用のエンジンを持ったヘリ。STG『ケツイ』の自機みたいなもんだと思えばいい)に属する機体である。
複合ヘリコプターは普通の「ローターの角度を変えて水平飛行するヘリコプター」に比べれば高速飛行ができるが、速いと言っても340km/h程度であり、固定翼機と比べれば格段に遅い。
速度の遅さは意外とバカに出来ない問題である。
最近の例でも、エアバス社の大型旅客機・A340が巡航速度の遅さを理由に「A340専用航路」なんてものまで作らせる事態にまで発展してしまっている。
他の旅客機と比べてわずかに遅い(M0.8程度)だけのA340ですらこんな事態を巻き起こすのに、固定翼機とくらべて段違いで遅いロートダインを固定翼機と同じ航路で飛ばしたらどうなることか…。
以上の問題が発覚したために、試作機1機が作られただけで終わった。
次こそは妖精ではなく人間世界の航空力学とセンスを元に設計してください。
関連項目
- 1
- 0pt