ワグネリアンとは、2015年生まれの日本の競走馬である。栗東・友道康夫厩舎所属、馬主は金子真人ホールディングス。馬名は「リヒャルト・ワーグナー(ドイツの作曲家)のファン」。決してWUGer(ワグナー)ではない。
当時ダービーを勝てなかった福永祐一に初勝利をもたらし、彼と共に競走馬人生を駆け抜けた。
勝ち鞍
2歳:野路菊ステークス(OP)、東京スポーツ杯2歳ステークス(G3)、3歳:東京優駿(G1)・神戸新聞杯(G2)
概要
父は三冠馬・ディープインパクト、母はミスアンコール、母の父はダービー馬・キングカメハメハ。母の母は鬼脚・ブロードアピール。
さて、ここまで書いて、ピンと来た方は競馬通。そう、父も、母も、母の父も、さらには母の母もすべてワグネリアンと同じ馬主さんの持ち馬なのである(現役時の馬主名義は違えど)。
2017年(2歳)
7月の中京・芝2000mでデビュー。以後主戦となる福永祐一騎手を鞍上に最後の直線、一番人気馬と馬体をびっしり合わせての追い比べをハナ差競り落としデビュー勝ち。この時のワグネリアンの上がり3F(ゴールまで残り600mの走破時計)が32.6秒と、G1でもまずお目にかかれない破格の時計を叩き出す。
9月の阪神・野路菊ステークス(OP)でもこの脚をまざまざと見せつける。道中を後方2番手で進み、最後の直線で大外に持ち出しムチを2発入れると、雨がじゃんじゃんと降る重馬場の中を祖母・ブロードアピールばりの脚でスイスイと伸び、またしても上がり3F33.0秒の末脚で快勝する。
11月の東京・東京スポーツ杯2歳ステークスでも後方に位置取り、最後の直線はその切れ味を遺憾なく発揮。並ぶ間もなく上がり3F34.6秒で駆け抜け、2着に3馬身差の無傷の3連勝。
この3戦の内容から、ワグネリアンは一躍クラシック候補、とりわけその勝ち方から馬場が広い府中向き、ダービー候補と目されるようになる。3戦とも手綱を取った福永祐一は最大のチャンスを得ようとしていた。
2018年(3歳)
3月の中山・弥生賞から始動、2歳王者・ダノンプレミアムとの無敗馬対決となりトライアルレースから盛り上がることに。メンバー最速の上がり3F33.7秒を繰り出すも、先行するダノンを捉えきれずに2着。
4月の皐月賞では前走勝ちのダノンプレミアムが出走を回避し、混戦の中1番人気に支持される。も、1枠2番がアダとなりなんとか外に出すも、今度は稍重馬場が響き、最後は他馬と脚色が同じになり7着に敗れる。
5月の東京優駿(日本ダービー)。今度は大外8枠17番となり、近年この枠番での勝ち馬がいないこと、当日の馬場傾向から前に行った馬が止まらないことなどから、事前の戦法なども加味されて5番人気で本番を迎えることになった。
スタートして福永はこれまでとは違う作戦を取る。1角通過時に5番手と前に付けたのである。この位置を維持して最後の直線。内で詰まるダノンを尻目に、コズミックフォース・エポカドーロを府中の長い直線で上がり3F34.3秒の脚で競り落とし真っ先にゴール板を通過。
デビュー23年目・福永祐一、日本ダービー19回目の挑戦で見事「平成最後のダービージョッキー」となった。なお3着には16番人気のコズミックフォースが飛び込み、3連単は285万馬券となっている。
「何が何だかわからなかった」とはレース直後、検量室前インタビューでの福永本人のゴール板通過直後の感想。ウイニングランではゴーグルしててもわかるほどに涙、涙。キングヘイロー、アサクサキングス、ワールドエース、エピファネイア、リアルスティールのことも頭によぎっていたのだろうか。スタンドからの大歓声には満面の笑みでガッツポーズ。勝利騎手インタビューではダービー勝利を「福永家の悲願」と称した。「天才」と称されるも不慮の落馬事故によりダービーを勝てずに引退した父・福永洋一元騎手。父の背中を見て育った息子・福永祐一には、並々ならぬ思いがあったに違いない。
そして、「ダービー馬からダービー馬へ」との格言がまた1つ現実となった。父:ディープインパクト、母父:キングカメハメハ。『ダービー血統』とも言えるこの血統でワグネリアンが東京優駿を勝った。馬主・金子真人ホールディングスはこれで日本ダービー4勝目(2004年キングカメハメハ・2005年ディープインパクト・2016年マカヒキ)。イギリス首相ウィンストン・チャーチルの「例の言葉」は後世の創作だが、にしたって「最も幸運な馬が勝つ」と称されるダービーに於いて、「THE金子血統」で4度もダービーを勝ってしまうって・・・。
夏を休養に当て馬体も一回り大きくなり、皐月賞馬との再戦となった9月の阪神・神戸新聞杯。2歳王者・タイムフライヤーも忘れないでください。
しかし、ここでワグネリアンは2つの『アクシデント』に見舞われる。平成30年北海道胆振東部地震において、母・ミスアンコールが亡くなったというのだ。夜間放牧中に脚を骨折しての安楽死であった。また一週間前には主戦・福永祐一が落馬し頭蓋骨骨折・気脳症と診断され騎乗不可となった。陣営はこれを受け、普段の調教パートナーである藤岡康太に白羽の矢を立てる。レースは3角でじわぁ~っと進出すると、逃げるメイショウテッコンを上がり3F34.2秒の脚でしっかりと差し切り、鞍上のJRA通算500勝に華を添える秋初戦となった。
その後は当初予定していたどおりに天皇賞(秋)向けて調整するも、神戸新聞杯後の回復が思わしくないことから、特別登録前に早々に回避してしまう。同時に神戸新聞杯が生涯最後の勝利となり、ここからダービー馬の苦難の道が始まる。
2019年(4歳)
復帰戦は2019年の大阪杯から復帰し内目を回ったが、アルアインが2017年の皐月賞以来の勝利の3着となった。続いては夏の札幌競馬場の札幌記念に出走したが落鉄の影響で4着となった。
秋になってぶっつけで天皇賞(秋)に出走したがアーモンドアイの4着。続いてのジャパンカップは主戦だった福永祐一が騎乗停止の制裁中で川田将雅に乗り替わり3着となった。
2020年(5歳)
5歳の初戦も大阪杯から復帰したが、取りたいポジションが取れず下げる形になってしまったと語り5着。宝塚記念では積極的にポジションを取ったが13着と大敗した。
レース後、福永祐一は「やりたいことはできたが調教から息遣いが気になった」と語っていた。
秋は天皇賞(秋)の見込みもあったようだが出走登録は無し。実は宝塚記念のあとに喉の疾患で手術をしたことを、10月28日Youtubeの番組でコントレイルの三冠達成の祝勝会に福永祐一がゲスト出演した際に、ワグネリアンの近況について質問があった際に語っていた。今後は走り方が変わってきたらしく長めの距離を狙うことから、有馬記念で復帰できればと語っていた…が結局有馬も回避してこの年を終える。
2021年(6歳)
喉の手術明けとなる始動戦は京都記念だが5着。春の目標は大阪杯となったが、コントレイルやグランアレグリア、レイパパレといった新星の前に存在感が霞み、5番人気ながらオッズ約50倍、結果も12着惨敗で休養入り。陣営はマイルへの転向を決め、秋始動戦は鞍上を福永に戻して富士ステークスとなった。本番ではソングラインやダノンザキッドといった他の人気馬と共に中段からレースを進めたが、マイルの流れについていけず6着に終わった。
次走は11月のジャパンカップ。シャフリヤール、コントレイル、マカヒキに加えワグネリアンも参戦を表明したため、同レースのダービー馬出走は4頭。世代闘争の大波をどう乗り切りるかが注目されたが、先行した後押しきれずに失速、シンガリ負け。有終の美を飾ったコントレイルを遠くから見届けた。年内はこれで休養となり、同時にこのJCが生涯最後のレースとなる。
2022年(7歳)
1月5日午後6時ごろ、栗東トレーニングセンター内の馬房で多臓器不全により死亡。肝臓の数値の悪化で療養中の中での最期で、病理解剖で胆石が判明された。東京優駿を勝った馬が現役中に死亡したのは、1965年の勝ち馬で、1967年に阪神大賞典で予後不良になったキーストン以来とのこと。
その翌日にはかつてダービーを共に勝ち取った福永も栗東を訪れ、天に旅立った彼を見届けた。
古馬になってからは苦難の道を歩み続け、志半ばでこの世を旅立ったダービー馬、ワグネリアン。鞍上の福永はその後コントレイル、シャフリヤールでダービーを連覇したが、そのきっかけを作ったのは紛れもなくワグネリアンである。
血統表
ディープインパクト 2002 鹿毛 |
*サンデーサイレンス 1986 青鹿毛 |
Halo | Hail to Reason |
Cosmah | |||
Wishing Well | Understanding | ||
Mountain Flower | |||
*ウインドインハーヘア 1991 鹿毛 |
Alzao | Lyphard | |
Lady Rebecca | |||
Burghclere | Busted | ||
Highclere | |||
ミスアンコール 2006 鹿毛 FNo.4-r |
キングカメハメハ 2001 鹿毛 |
Kingmambo | Mr. Prospector |
Miesque | |||
*マンファス | *ラストタイクーン | ||
Pilot Bird | |||
*ブロードアピール 1994 黒鹿毛 |
Broad Brush | Ack Ack | |
Hay Patcher | |||
Valid Allure | Valid Appeal | ||
Alluring Girl |
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関連項目
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