仮面ライダーJとは、1994年に劇場公開された仮面ライダーシリーズのオリジナル映画作品である。
前年に公開された「仮面ライダーZO」に続く東映&バンダイ提携作品の第2弾でもある。
概要
前年公開された「東映スーパーヒーローフェア」の興行的な成功を受け、新たに制作されることになった「東映スーパーヒーローフェア'94」内のメインプログラムが本作である。
前年のフェアの目玉が久々の新作ライダーであった「仮面ライダーZO」と言うこともあり、仮面ライダーの新作映画をメインに据えることは早い段階から決定していたようで、当初は「ZO」の続編を制作するという案もあったようだが(監督の雨宮慶太氏が企画時に作成した、マフラーや変身ベルトを装着した「強化版ZO」と言うべきデザイン画も存在している)、最終的には新たな仮面ライダーを創造するという結果に落ち着いている。
主なスタッフは前作からそのまま続投する形になったが、新たに脚本担当として、円谷プロのウルトラシリーズでデビューし、黎明期のスーパー戦隊シリーズやメタルヒーローシリーズなどに参加、東映特撮ヒーロー作品を支えてきた大御所・上原正三が参加することとなった(ライダーシリーズには「仮面ライダーBLACK」に企画時から参加し、途中で離脱している)。
今回の新ライダー「J」に備えられることになった独自の特殊能力は「巨大化」である。前年に発売されたオリジナルビデオ「ウルトラマンVS仮面ライダー」において、仮面ライダー1号が巨大化して初代ウルトラマンと共に怪獣と戦うというシーンが盛り込まれていたが、これはあくまでお遊び的な要素であり、元来「等身大仮面ヒーロー」の一翼を担うヒーローとして存在し続けてきた仮面ライダーシリーズの主役ライダーとしては、極めて異例のことだった。
(もっとも第1作の2クールめ突入時期、つまり藤岡弘、の怪我による撮影現場からの離脱が発生した時期、番組強化策として「ライダーの巨大化」が提案された事例はある。)
これについてはスタッフ間でも賛否両論があったようで、中でも原作者である石ノ森章太郎は最後まで反対し続けていたと言われる。しかし最終的には「巨大化は常時使える能力ではなく、最後の最後、絶対の危機に際してのみ使用できる能力」であることと、「敵となる『悪』の存在は衰えることなく、むしろどんどん巨大になっていく。だからライダーも戦うために『巨大』にならなければならなかった」という解釈を当てはめることで了承した。
他のトピックスとしては、変身ベルトの存在、会話の出来るサポートキャラクター、より明確になった変身ポーズなど、前作「ZO」よりもわかりやすいヒーロー的要素が随所に盛り込まれ、メインターゲットたる児童層へのアピールが顕著になったことが挙げられる。その一方、ストーリー展開は基本的には前作を踏襲し、敵の存在が前作のネオ生命体単体から「フォッグ」という集団にこそ変わったものの、「敵に狙われる子供と、その子供を守るために戦う仮面ライダー」という、狭い世界での展開に終始した話となった。
当時のエコロジーブームを反映し、環境破壊について触れるシーンもそれとなく盛り込まれているが、元々「仮面ライダー」と言うヒーローは「自然を汚す『悪』と戦う力を持った大自然よりの使者」というテーゼを内包した存在でもあるため、これに関してはあながち今作独自の要素とは言い切れない部分がある。
だがやはり「仮面ライダーの巨大化」という一大要素があまりにも大きく、それが本作の評価を今に至るまで一定させない要因となっている。しかし要である巨大化のシーンそのものは、特撮担当・佛田洋監督渾身の演出により、徹頭徹尾巨大感が強調されたカメラワーク(等身大ヒーローであるライダーが巨大化したことを視覚的に強調するため)を始め、数々の魅力的なシーンが続出し、ハイレベルなものに仕上がっていることは明記しておきたい。
なお、本作の公開より5年後の1998年、原作者である石ノ森章太郎氏が逝去。本作は結果的に本人が直接制作に関わった最後の仮面ライダー作品となった。
ストーリー
世界中を異常気象が襲う最中、かつて恐竜を絶滅に追い込んだという怪人集団『フォッグ』が、宇宙の彼方から再び地球に現れた。
フォッグの長、フォッグ・マザーは無数の怪人たちを生み出す「大孵化」を行うための生贄として少女・加那を選び、幹部たちに彼女を連れてくるよう命じる。
カメラマン・瀬川耕司はそれを止めようとするが返り討ちにあい谷底へ突き落とされ死亡。しかし、彼はその自然を愛する心を地球の先住民『地空人』に認められ、彼らに蘇生手術を施され、精霊の力「Jパワー」の戦士・仮面ライダーJとして復活を果たす。
耕司は地球の大自然を守るため、そして加那を救うため、フォッグの怪人たちとたった1人の孤独な戦いを開始する。
Jパワーの戦士 仮面ライダーJ
フォッグの怪人に殺された青年・瀬川耕司が、地空人による蘇生改造手術を受けて誕生した改造人間。精霊の力・精霊エネルギーと称される神秘の力「Jパワー」を、自身の力の根源とする戦士であり、「仮面ライダー」の名は地空人が直接命名している。
自身が身につけているベルトのバックル部に、地空人より授かった「Jスピリット」が装着されており、これを用いてJパワーを全身に満たすことで、仮面ライダーの姿に変身することが出来る。基本的には本人の意思で自由に変身できるようだが、ガライとの決戦時には右手でJの字を構える(Jサイン)独特のポーズを取って変身を果たした。このJサインにはJパワーを高める効果があるとされ、必殺技を放つ直前や放った直後に構えることもある。
劇中で明言はされていないが、バッタをモチーフとした改造人間であり、同種の改造人間の例に漏れず脚力に優れているが、劇中では耕司が戦い慣れていないせいもあってか、通常の格闘戦ではキックより力任せのパンチ技をよく使用していた。パンチはアギトやズーといったフォッグの怪人を一撃で吹き飛ばすほどの威力があり、さらにアギトやマザー本体への止めの際にも使用されている。
ここぞと言う時には回し蹴りを始めとした蹴り技を使用しており、必殺技である「Jキック」は、フォッグの三怪人中最強であったガライへの止めの技として使用された(劇中では「ライダーキック」と呼称)。
Jが持つ最大の特殊能力は、Jパワーが極限まで高まった際にのみ使用することの出来る、全長約40メートルほどの大きさへの巨大化能力「ジャンボフォーメーション」である。これは基本的には自分個人の力のみで実行できるものではなく、Jが絶体絶命の窮地に追い込まれた際、大地に眠る精霊のエネルギーが高まり、その精霊たちから力を授かることで初めて可能となる「奇跡の能力」でもある。大自然の守護者たるJへの精霊たちからの支援という、言わば強化変身であり、劇中でJが巨大化した直後、彼を激励するかのように頭上を何羽もの鳥たちが舞っていたことからもそれが窺える。
その肉体を用いての格闘戦を戦闘スタイルとしている点は等身大時と変わりないが、すべての面で驚異的なパワーアップを遂げており、フォッグ・マザーからの様々な攻撃を受けながらもついに致命傷を被ることなく、種々の武装をことごとく破壊するパンチ、遥か彼方の上空にまで跳躍して放つ最大の必殺技「ジャンボライダーキック」で、フォッグ・マザーを圧倒した。
先述の通り戦い慣れていないためか、等身大での戦いではほとんどの場合で劣勢に追い込まれ、わずかな隙をついて逆転するという展開が多かった。そのため傷を負うことも多く、「傷だらけ」の印象を覚えやすいライダーでもある。
名前の「J」にはそのものズバリの「JUMBO」、または「JUSTICE」、そして「JUDGE(JUDGEMENT)」の意味が込められている。デザインは仮面ライダーZOの翻案と呼べるほどの相似ぶり。
ジェイクロッサー
J専用のバイクであり、瀬川耕司の常用バイクがJパワーを浴びることによって変形する。前作におけるZOの愛車・Zブリンガーのように、前面部にJの顔(つまりバッタ)を模した意匠が施されている点が特徴。
最高速度は時速1330キロであり、劇中ではスピードを生かして攻撃してくるズーと戦う際に使用、90メートルのジャンプ力を生かした空中からの体当たり攻撃「ジェイストライク」で、ズーを叩き落している(正確にはすれ違いざまのパンチ攻撃で)。
前作のZブリンガーほどに出番はなかったが、オープニングとエンディング映像では、かつてのTVシリーズを想起させるバイク走行シーンがふんだんに盛り込まれた。
登場人物
- 瀬川耕司/仮面ライダーJ(演:望月祐多、スーツアクター:岡元次郎)
- フリーのカメラマンで年齢は26歳。環境破壊の現状を調査・公表するために、全国各地を野営しつつ旅しており、その際に加那と知り合っている。当初は彼が生贄としてフォッグの選定にかけられていた。
- 生贄として加那をさらおうとするフォッグに殺されてしまうが、その自然を愛し、痛みを感じる優しい心を地空人に認められて蘇生改造手術を受け、Jパワーを扱える戦士としての力と「仮面ライダーJ」の名を与えられた。
- 自分に備わった力を十分に扱いきれていない部分もあったが、それでも加那を救うために奔走し、フォッグの怪人たちと交戦、さらにはジャンボフォーメーションによる巨大化を果たしてフォッグ・マザーを撃退した。
- パーソナリティは前作「ZO」の主人公・麻生勝に近いものがあり、普段は穏やかな性格だが、加那を救うためならフォッグのテリトリーと知りつつ果敢に突入するなど、猪突猛進の面もある。
- 木村加那(演:野村佑香)
- 本作のヒロインである9歳の少女。耕司がある湖の汚染について調査していた際に知り合った。
- 公害や開発などにより死んだ動物たちの墓を作り続ける心優しい性格の持ち主。野営中の耕司に差し入れを持ってきたところを、フォッグの大孵化のための生贄として誘拐されてしまう。
- 孵化を始めたフォッグ怪人たちの幼体に危うく食われそうになるが、巨大化したJによって無事に助け出された。なお劇中の描写を見る限り、耕司がライダーであることはもちろん、自分の身に降りかかった災難についても詳細は知らされていない模様。
- 地空人(演:内田修司、水野百合香)
- 大地の精霊と共に生きる、地底の奥深くに太古より住まう者たち。
- 劇中には男女1人ずつの地空人が登場し、男性型の地空人が耕司への蘇生改造手術を行い、女性型の地空人がJスピリットを授けることで、耕司を仮面ライダーJへと新生させた。
- 自身は太陽の光に弱く、また下半身が木のような形で大地に根付いており自力で動くことができないため、フォッグと戦う者として自然を愛し、自然の痛みを感じることの出来る人間を探していた。
- 精霊の力たるJパワーや、そのパワーを用いて戦う戦士・仮面ライダーJの宿命を耕司に諭し、フォッグ・マザーとの最終決戦ではジャンボフォーメーション発動のため、自分達の精霊エネルギーをJに託す。
- ベリー 声:愛河里花子
- 地空人のしもべで、全長30センチほどのミュータントバッタ。体色は白く、ショウリョウバッタのように細い頭をしている。
- 人語を話すことが出来、自力で動くことができない地空人の代わりとしてJ=耕司と共に行動し、彼をサポートする。
- 加那を救出しようとした際、ガライに叩き落されてしまい、そのまま命を落としてしまう。エピローグで体色が緑色のミュータントバッタが登場したが、これがベリーと同一の存在なのかは不明。
フォッグ
外宇宙から地球に攻めて来た怪人の集団。マザーと呼ばれる女帝と、彼女が産み落とした怪人たちによって構成される集団である。
千年に一度、産み落とした卵たちが一斉に孵る「大孵化」を行うが、その際に必要となる多量の餌を求めて地球に来臨した。6500万年前にも一度地球を訪れており、その際は恐竜を餌として喰らい、絶滅させてしまっている。
- フォッグ・マザー(声:佳山真梨穂)
- フォッグの怪人たちの生みの親にして母艦も兼ねる巨大機械生物。「機械獣母艦」の異名を持つ。
- 体内には儀式などを執り行う広間や無数の怪人の卵が安置されている部屋、またJを捕らえた消化器官にも似ている箇所などが存在しており、広間に掲げられた人間の顔状のオブジェから神託を発する。さらにこのオブジェが外壁に移動することで、戦闘母艦としての全戦力を稼動させることが可能になる。、を持ち、1000年に一度の大孵化を行うための生贄を探して地球へ降り立つ。
- 全長70メートルに重量1万2千トンと、仮面ライダーシリーズでも屈指の巨大さを誇り、多数の砲門や破壊光線などを駆使して進撃する。
- しかし巨大化したJには一切の攻撃が通用せず、ジャンボライダーキックを食らって満身創痍の状態に陥る。最後には母艦の最深部に眠る本体を露呈して、等身大に戻ったJを引きずり込み、Jを道連れにしようと画策したが、Jの渾身の一撃を食らってついに絶命した
- ちなみにマザーの本体に関しては、前作「ZO」における赤ドラスと同様、映画公開前はその存在が明らかにされていなかったが、公開前に発売されたサウンドトラックのライナーノーツにおけるプロデューサーのコメント内で、若干ネタバレされていた。
- ガライ/コブラ男(演:神威杏次、スーツアクター:日下秀昭)
- マザーから『王子』と呼ばれる怪人たちのリーダー。右の耳に付けている飾りを鳴らすことで、怪人態であるコブラ男に変身する。
- 他の二怪人と比較しても高い戦闘力を誇り、アギトやズーを吹き飛ばした威力を持つJのパンチを受けてもさほど動じることはなく、儀式の際に使用していた杖をJに逆用され、腹に突き立てられた時も、ほとんどダメージは受けていない様子だった。ムチ状に変わる光の剣や拳から三叉の爪を駆使してJを追い詰める。
- 終始優勢に戦いを進めていったが、最後にチャンスを見出したJ必殺のJキック(ライダーキック)を受け、ついに斃れた。
- ズー/ハチ女(演:万里洋子、スーツアクター:関誉枝恵)
- ガライに仕える戦士の一人。戦闘能力はさほど高くなく、生贄の選定やアギトの死を察知すると言った、精神感応的な部分で力を発揮する。
- 戦闘の際は幻術や飛行能力、手の平から発射する砲撃などでJを翻弄したが、ジェイクロッサーを使用したJによって地上に叩き落され、強烈なパンチ攻撃を食らって致命傷を負う。その後Jを抱きかかえたままフォッグ・マザー内に特攻。それでもJを倒すことが出来ず、ガライの名を呼びつつ消滅した。
- アギト/トカゲ男(演:栗原敏、スーツアクター:鶴山知之)
- ズーと同じくガライに仕える戦士。怪力と伸縮自在な尻尾、鋭い爪を使った攻撃を得意とする。強靭な顎を用いた噛み付き攻撃も強力で、噛み付いたJをそのまま振り回すことが出来るほど。
- 地球の機械類操作にも長けているようで、劇中では巨大トラックを運転して耕司を追い詰めた。初めての変身で戦い慣れていないJを苦しめるも、Jに右目をつぶされてしまい、遁走するところを頭部にパンチの一撃を食らい、絶命した。
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