北条時宗とは、2001年に放送された第40作目のNHK大河ドラマである。
概要
元寇を扱った唯一の大河ドラマであり、源平合戦を扱った作品を除くと、鎌倉時代を扱った大河ドラマとしては「太平記」に続いて2作目となる。元(蒙古)と戦うために生まれてきたとも言われる鎌倉幕府の執権・北条時宗の生涯を中心に、鎌倉幕府の動乱やモンゴル帝国(元)の繁栄を壮大なスケールで描いた作品となっている。
前半は渡辺謙が演じる時宗の父・北条時頼が実質上の主人公であり、「独眼竜政宗」「炎立つ」に続いて圧倒的な存在感を見せた。特に毒を盛られて死の床についた時頼が、時宗に「時輔を殺せ」と遺言を残す最期の場面は、渡辺の迫真の演技と毒の影響で土気色になった特殊メイクが相まってかなり怖ろしく、歴代大河ドラマにおけるトラウマシーンのひとつである。
本作では、時宗と対立して粛清される異母兄・北条時輔がもう一人の主人公という立ち位置となっている。長兄ながら母親が時頼の側室(庶長子)であるため、弟・時宗の臣下になる宿命を定められ、反時頼・時宗派に担ぎ上げられる危険が生じたことから、上述の通り父・時頼から命を狙われることとなる。時頼が危険視した通り、鎌倉幕府の内乱に巻き込まれていくこととなり、遂に二月騒動によって時宗に討伐される。史実ではこの事件で死亡するが、ドラマでは重傷を負いながらも生き残り、元に渡ってクビライを目撃したり、元寇で独自に和睦交渉を計るなど、実質上のオリジナルキャラクターとして行動をするようになる。再登場後の姿から、ネットなどでは赤マフラーと呼ばれるようになった。
本作の登場人物は主人公である時宗を含め、20~30代の若さで病没する人物が多いが、ドラマではその多くが不自然死にされた。先述の通り、時頼は毒を盛られて命を落とし、跡を継いだ北条長時は朝廷に内通したことから平頼綱に暗殺され、その長時の子で時輔を討伐するもひそかにこれを見逃した北条義宗はこの件を苦に自害、時宗の弟・北条宗政は元寇で戦死といった具合である。こうした改変もあって、鎌倉幕府の描写は、一族同士の抗争劇も加わって、かなりドロドロしたものになっている。
これに対して、博多や元が舞台となる場面は、大掛かりなロケを駆使し、異国情緒あふれたオリエンタルな雰囲気を醸し出した。クビライ・カアン(フビライ・ハン)を演じた俳優・バーサンジャブは、後に映画「レッドクリフ」で関羽を演じたことでも知られている。物語前半では、鉢木のエピソードで知られる時頼の廻国伝説で、時頼が幼い時宗を連れて博多に赴き(当然フィクションであるが)、後半は執権の立場上鎌倉を離れられない時宗に代わって、兄の時輔と弟の宗政がそれぞれ博多に向かい、もう一つの舞台で活躍を見せた。
本編のシナリオが賛否両論分かれるのに対して、ドラマのオープニングテーマは現在でも人気が高い。冒頭から高いサウンドでインパクトを当てる独唱は、オルティンドーと呼ばれるモンゴル独自の歌唱法で、ニコニコ動画でもこの曲が流れると「あああああ」と弾幕が大量に流れる。映像も当時最先端のCGを駆使し、モンゴルの大草原や、モンゴル帝国が征服した世界各地を巡りながら、最後は宇宙まで飛び出すという、歴代大河OPの中でもトップクラスのスケールを誇る。
原作とドラマの相違点
原作は高橋克彦の小説「時宗」だが、この原作はドラマのための書き下ろしであるが、その内容はドラマ本編とかなり異なっている。歴史物なのでストーリー自体はほぼ同じだが、大きく違うのは登場人物の描写である。具体的には以下の通りである。
- 前半は時頼の活躍に比重が置かれ、全4巻の中で時頼が亡くなるのは2巻の最後となる。
- 時頼は毒殺ではなく、史実通り病死である(最期は家臣や一族を集め、看取られながら息を引き取る)。
- 時宗と時輔の仲が良好。時輔は、自ら時宗の手足となって各地を駆け回り、元寇では鎌倉軍に加わって蒙古軍と戦う。
- 二月騒動が、時輔が時宗や義宗と示し合わせた狂言。わざと殺されたふりをして、時輔は京を離れ、元の動向を時宗に知らせる密命を受けて渡海する。
- 博多商人・謝国明の息子、謝太郎が全編通してあらゆる場面に登場し、時頼・時宗・時輔を助けて超人的な活躍を見せる(九条道家の暗殺、日蓮の救助、佐志房と共に元軍と戦う)。ドラマでは、謝国明がこれに近いポジションを担うが、原作の謝国明はほとんど出番が無い(逆に、ドラマの謝太郎の活躍は控えめ)。
- 桐子の立ち位置が大きく違う。ドラマでは幼い頃に出会った時宗の初恋相手となるが、原作では後半になってから登場し、京を離れた時輔と意気投合し結婚する(ドラマでも、後編から時輔と同行するが、あくまで同志に留まる)。
- 佐志房が史実通り、文永の役で戦死する(ドラマでは、クビライの暗殺を試み元に渡るが失敗して殺される)。桐子がその後を引き継ぎ、弘安の役で戦うが、奮戦した末に討ち死にする(ドラマでは最後まで生存)。
- 前半は時頼、後半は時輔の出番が中心のため、主人公であるはずの時宗の影が薄く、主人公(笑)となってしまっている。
また、原作と同時期にはさいとう・たかをの漫画版も発売された。原作に準じた内容だが、こちらはフビライ・ハンの活躍にも比重が置かれている。合計6巻だが、時頼が亡くなるのは4巻であるため、タイトルとは裏腹にさらに時宗の影が薄くなっている。
本自体は絶版になってしまったが、Kindel版が購入できるので、興味のある人は是非ともお薦めしたい。なお、出版社は違うが、さいとう・たかをはマンガ日本の古典(中公文庫)で「太平記」も執筆したため、併せて読むのも一興である。
スタッフ
- 脚本:井上由美子
- 原作:高橋克彦「時宗」
- 音楽:栗山和樹
- 時代考証:奥富敬之、杉山正明
- 建築考証:平井聖
- 風俗考証:二木謙一
- 衣装考証:小泉清子
- 所作指導:西川箕之助
- 殺陣武術指導:林邦史朗
- 馬術指導:日馬伸
- 制作統括:阿部康彦
- 演出:吉村芳之
キャスト
しばしば誤解されがちだが、和泉元彌が狂言のダブルブッキングなどでスキャンダルを多発するようになったのは、大河ドラマ終了後の2002年になってからである。
この作品では、北村一輝や(俳優としての)宮迫博之がブレイクするきっかけとなった。特に北村が演じる平頼綱は、時宗には崇拝に近い絶大な忠義を尽くすが、安達泰盛をはじめとする同僚の御家人には残忍で冷酷な部分を露わにする二重人格的な怪演を見せた(この際の、表情の切り替えの早さも見物である)。
また、普段のテレビでは女性姿のピーター(池畑慎之介)が、本編では一貫して男性の鎌倉武士役(後半では髭も生やしている)だったことに新鮮さを感じた視聴者も多かったと思われる。
- 北条時宗:和泉元彌
- 北条時輔:渡部篤郎
- 北条時頼:渡辺謙
- 涼子(涼泉尼):浅野温子
- 安達泰盛:柳葉敏郎
- 桐子:木村佳乃
- 祝子:西田ひかる
- 北条実時:池畑慎之介
- 祥子:ともさかりえ
- 讃岐局:篠原涼子
- 梨子:牧瀬里穂
- 禎子:寺島しのぶ
- 謝太郎:松重豊
- 平頼綱(八郎):北村一輝
- 北条長時:川崎麻世
- 北条宗政:比留間由哲
- 北条顕時:山口馬木也
- 北条義宗:宮迫博之
- 北条時茂:羽賀研二
- 北条教時:鈴木祐二(現・神尾佑)
- 少弐資能:野口貴史
- 佐志勇:吉守京太
- 蓮華:神田うの
- 少年時代の時宗・北条高時(二役):浅利陽介
- 少年時代の時輔:崎本大海
- 少女時代の祥子:黒川芽衣
- 三浦泰村:津嘉山正種
- 三浦光村:遠藤憲一
- 安達義景:小野武彦
- 九条頼経:宇梶剛士
- 宰子:川原亜矢子
- 亀山天皇:松田洋治
- 近衛基平:宮内敦士
- 足利頼氏:尾美としのり
- 足利家時:内山昂輝
- 天野常世:宇崎竜童
- 波津:柏木由紀子
- 霊泉:岸田敏志
- 平盛綱:宗近晴見
- 二階堂行綱:青野武
- 浅川平八郎:庄司永建
- 平景隆:角田信朗
- 日田永基:ダンカン
- モンケ・カアン:デルゲル
- マルコ・ポーロ:ダリオ・ポニッスィ
- 桔梗:原田美枝子
- 足利義氏:西岡徳馬
- 高師氏:江原真二郎
- 北条義政:渡辺徹
- 宗尊親王:吹越満
- 少弐景資:川野太郎
- 竹崎季長:うじきつよし
- 菊地武則:小西博之
- 藩阜:錦野旦
- 藤子(藤泉尼):大谷直子
- 美岬:藤あや子
- 北条(名越)時章:白竜
- 一条実経:井上順
- 西園寺実氏:大木実
- 無学祖元:筒井康隆
- 趙良弼:修宗迪
- クビライ・カアン:バーサンジャブ
- 北条政村:伊東四朗
- 北条重時:平幹二朗
- 佐志房:藤竜也
- 日蓮:奥田瑛二
- 北条時広:石橋蓮司
- 服部正左衛門:室田日出男
- 如月:清川虹子
- 毛利季光:高橋英樹
- 松下禅尼:富司純子
- 謝国明:北大路欣也
- 覚山尼・語り:十朱幸代
関連動画
関連項目
- 0
- 0pt