原子力工学単語

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原子力工学（Nuclear engineering）とは、核反応や放射線を利用するための総合的学問分野である。

概要

原子力工学には新型原子炉のような基礎研究から原子炉設計、核燃料開発、放射性廃棄物対策、放射線応用などが含まれる。原子力プラントを新設するのに核物理学、放射線化学、生態影響などの基礎領域から、機械、電気、材料、応用化学、土木、建築などの様々な工学技術を駆使することになる。そのため全システムを統括するのは容易ではないという欠点を持つ。また核兵器に応用可能な技術なだけに非常に扱いが慎重であるべき学問でもある。

機械工学、電気工学、材料工学、応用化学、生物学などを基礎とした学問なので、大学教育だけでは広く浅かならざるえない。旧帝国大学には原子力工学を学べる学科が存在する。スリーマイル島原発事故、チェルノブイリ原発事故以降、原子力という言葉のイメージが悪化、受験生離れを起こして原子力工学科から名称変更したところがほとんどである。物理工学科やエネルギー系の学科、または機械系や電気系の学科の一部になっている。

広範な学問なので独立専攻を設置しているところもある。学部段階で基礎となる学問を学んだ学生に原子力工学の足りない分野を適宜学びながら研究を行うというスタイルをとっている。特殊なところに東京大学の原子力専攻がある。ここは専門職大学院であり、原子力工学を衰退させないために技術の伝承を目的として設立された。原子力関連の現場で働いている社会人を主な対象にした原子力の専門技術者の養成所である。

福島原発事故を受け、安全性向上の研究の重要性が再認識されている。また工学系の学科・専攻以外でも物理系にて核融合などの基礎研究が行われていたり、農学系にて放射能と食物、医学系にて癌の粒子線治療などの放射線応用の研究がなされている。大学付属の原子力研究所ではこれらを包括的に扱っているところもある。

学問分野

大学で学ぶ分野の例を以下に示す。

原子核物理学・・・原子核の構造や性質、核反応現象について学ぶ。
原子炉工学・・・核燃料、熱サイクル、構造設計を学ぶ。
熱流動工学・・・原子炉設計のための気体・液体の流れや熱・物質移動を学ぶ。
計算工学・・・設計などで使用するコンピュータシミュレーション技術について学ぶ。
プラント制御工学・・・原子力発電所の制御方法を学ぶ。
核燃料工学・・・核燃料となる物質の特性とその使用法を学ぶ。
原子力バックエンド工学・・・核燃料サイクルや廃棄物の地層処分技術などを学ぶ。
プラズマ工学・・・プラズマの基礎やその生成、核融合反応などの応用法を学ぶ。
原子力耐震工学・・・原子力発電所の耐震設計について学ぶ。
エネルギー安全工学・・・人的ミスを防ぐ方法や原子力のリスク評価方法などについて学ぶ。
放射線化学・・・放射線を照射した物質の化学変化を学ぶ。
放射線生命科学・・・放射線の生命への影響を学ぶ。
放射線防護・・・放射線の計測や放射線管理について学ぶ。
放射線分析・・・放射線物質分析による年代測定や放射線を用いた工業製品の非破壊検査を学ぶ。
加速器工学・・・原子核の研究に不可欠な加速器の設計を学ぶ。
量子ビーム工学・・・加速器を利用し放射線を制御、その利用法を学ぶ。
医用原子力工学・・・CT、MRI、PETなどの医療応用について学ぶ。

略年表

1895年	独、X線の発見
1898年	独、X線撮影装置の開発
1931年	英、サイクロトロンの開発
1932年	中性子・陽電子・重水素の発見
1938年	独、ウランの核分裂の発見
1941年	米、プルトニウム239の発見
1942年	米、シンクロトロンの開発
1944年	米、原子炉での連鎖反応に成功
1945年 7月	米、原爆実験（プルトニウム爆弾）
1945年 8月6日	米、広島に原爆投下（ウラン爆弾）
1945年 8月9日	米、長崎に原爆投下（プルトニウム爆弾）
1952年 7月	米、水爆実験
1954年 4月	ソ連、発電用原子炉
1954年 9月	米、原子力潜水艦進水
1956年 10月	英、営業用原子力発電所
1957年	国連、国際原子力機関（IAEA）発足
1961年	米、陽子線による癌治療
1962年	英、高速実験炉
1968年	国連、核不拡散条約（NPT）可決
1972年	ソ連、高速原型炉
1973年	英、X線ＣＴの発明
1974年	米、高温ガス炉
1979年	米、スリーマイル島原子力発電所事故
1986年	ソ連、チェルノブイリ原子力発電所事故
1999年	日、東海村 JCO臨界事故
2003年	日、重粒子線による癌治療
2000年代後半	欧米を中心に原子力ルネッサンス
2011年3月11日	日、福島第一原子力発電所事故