囚人のジレンマとは、ゲーム理論で起きる事象のひとつ。
個々の最適な選択が、全体として最適な選択とはならない状況の例としてよく挙げられる問題である。
概要
問題
協力して犯罪をした二人が、警察に捕まりました
↓
しかし証拠がつかめないので、自白を引き出すために警官は捕まえた二人にこう言いました
↓
「もし相方の罪を証言すれば相方は懲役5年の罪にするが、お前は懲役1年にしてやる。逆も同じだ。」
「だが、二人とも証言したらお前達二人とも懲役3年だ。」
「もし、二人とも黙秘したら二人とも懲役2年だ。わかったな?」
↓
捕まった二人は別々に収容されているため、相談が出来ません。
この時、二人の犯人はどのような行動にでるのでしょう?
解説
犯人を犯人A・犯人Bと置いて考えると、刑の長さは以下の表のようにまとめられる。
(1, 5)はAの刑が1年、Bの刑が5年ということを表す。
B | |||
黙秘 | 証言 | ||
A | 黙秘 | (2, 2) | (5, 1) |
証言 | (1, 5) | (3, 3) |
このとき、Aは以下のように考える。
- 相方Bが証言したとすると、自分は黙秘したら5年の刑を受け、自分も証言すれば3年の刑で済む。だから、証言したほうがよさそう。
- 相方Bが黙秘したとすると、自分も黙秘したら2年の刑を受け、自分が証言すれば1年の刑で済む。だから、証言したほうがよさそう。
そんなわけで、どちらにしても自分が証言したほうが得なので、Aは「証言する」という結論を導き出す。
Bのほうでも同じ思考経路をたどった結果、「証言する」という結論になる。
結果として、どちらも3年の刑を受ける「二人とも証言」が選ばれる。
しかし、「二人とも黙秘」を選べば二人とも2年で済むのだから、A・Bどちらもこの選択のほうが得するはずである。
(こういう、完全な上位互換になる選択が他に存在する選択のことを、経済学では「パレート最適」でないと言う)
かくして、AとBはわざわざ二人とも損になる選択肢を選んでしまったことになる。
囚人のジレンマとは、このように各々は自分にとって最適な答えを選んだのに、全体を見たとき明らかに最適でない結果が出てしまうというものである。
はたして二人は「二人にとって最適な答え」を導くことが出来るのか?
ようこそ、ジレンマの世界へ・・・
現実世界の囚人のジレンマ
現実世界でも囚人のジレンマのような状況がが多く存在する。
例えば世界各国の軍事競争や環境問題
受験戦争、恋愛関係にも例えることが可能なのである。
囚人のジレンマの仮定と現実社会での協力
上述のように、囚人のジレンマの状況では合理的に行動すればするほど当事者の協力が困難になる。しかし、現実社会では必ずしも非協力が決定されているわけではない。現実と理論の乖離を理解するためには囚人のジレンマの仮定を理解しなければならない。
囚人のジレンマの仮定として、
- 当事者間のコミュニケーションが制限されていること
- 意思決定が一回限りであること
の2点が挙げられる。しかし、この両者は必ずしも一般的ではない。
たとえば1に関しては、軍拡競争に陥った場合に当事者同士が話し合いをすることで軍拡が抑制されることがある(軍縮会議)。
2に関しては「囚人たち」が犯罪組織に所属する者と仮定してみればよい。彼らは自白して3年後に出所しても、同様に収監されるかもしれない。「相方の信用を失っては犯罪組織が維持できない」と考えると、最初の収監でも容易に自白できなくなる。囚人のジレンマが繰り返された場合、一定条件下で協力が達成される(アクセルロッド『つきあい方の科学』参照)。
このように、現実社会では厳密な意味での囚人のジレンマの状況は限定されており、たとえ当事者が合理的に行動したとしても協力を達成することは可能である。
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関連項目
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