夏に薄い本が出るなとは、直面した事象に対する絶望と諦念、そしてその先にある遠くない未来への昏い希望である。
概要
いわゆる、同人屋にとって「おいしい」と思わしきネタ、あるいはそれに群がる者達の香ばしい反応を見てそれを確信した時、我々はしばしばその腐った現実に呆れ、絶望する。
そして、何より他ならぬ自分がその「腐った現実」の一片である事を理解したその瞬間、絶望は救いようの無いものとなる。
…だが、絶望の奥底でふと気付く。
救いようが無いのならば抗う事を諦め、受け入れれば良いのだと。
己もまた「腐った現実」に属する存在なのだと認めた上でまず最初にすべき事は、そう遠くない未来に開かれる夏の祭典への希望と備えである。
きっと次の祭典は盛り上がるだろう、それは非常に喜ばしい未来だ。それゆえ、我々の心は昏く激しい喜びに包まれる。
そして、予定調和に組み込まれた我々は「腐った未来」に対する期待を込めて無意識にこう呟くのだ。
夏に薄い本が出るな。
猛暑の中、我々は手持ちの一万円札を無数の硬貨と千円札に換えるべく、滲む汗をぬぐいながら銀行に向かう。
いや、その前に、その元手となる一万円札を引き出すATMが正常に動いてくれることを祈るのである。
何、大丈夫だ。祭典までは時間がある。まだ慌てるような時間じゃない。
次の祭典も俺達と地獄につきあって貰う。おや? 今度は冬に薄い本が出るな…。
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