悪魔艦長とは、惑星連邦所属U.S.S.ヴォイジャー艦長キャスリン・ジェインウェイ大佐である。
俳優はケイト・マルグルー。日本語吹替版での声優は松岡洋子が演じている。
悪魔艦長の概要
スタートレックシリーズ第4作『スタートレック:ヴォイジャー』の主人公であり、シリーズ初の女性主人公。銀河系の反対側「デルタ宇宙域」へ転移させられるという非常事態に遭遇しながらも、中型探査船U.S.S.ヴォイジャー単独で窮地を切り抜け続け、最終的に惑星連邦で初めてデルタ宇宙域横断に成功した。その過程で最も多くの種族とのファーストコンタクトを果たした士官でもある。
宇宙艦隊でもっとも屈強な艦長として知られている一方、カークやピカードと言ったスタートレック歴代艦長が艦隊の誓いを厳守するのに対し、彼女はしばしば「規則は二の次」と言って気にも止めない事が多々見られる。また、部下に対しては時間規則(タイムパラドックスの阻止)の厳守を求めるが、自身は無視することが多い。
もちろん、そうした強引な面は単艦で補給や増援、増員が見込めないまま約七万光年を航海する過程においては仕方無い事ばかりであり、戦術、戦略眼は確かで科学知識も豊富、また色々な意味で個性豊かなクルーを完全に掌握している事から艦長としての実力は連邦でもトップクラスに入る。
これらの優れた実力と後述する恐るべき所業により、ファンからは悪魔艦長と畏れられ、讃えられている。
悪魔艦長の由来
単艦でデルタ宇宙域を放浪し始めて三年、艦長は重大な決断を迫られていた。ヴォイジャーは宇宙で最も危険な機械生命体ボーグと、それすらも滅ぼしかねないほど強力な生命体8472との戦場に突入してしまったのだ。艦の取るべき道は二つ。地球への帰還を諦めて他の惑星に移住するか、極めて危険なボーグの巣窟を強行突破するかであった。
一人思い悩む艦長はレオナルド・ダヴィンチ(のホログラム)に「神に答えを問いなさい」と諭されるが、逆に「神様じゃなくて……悪魔に縋ったら?」との啓示を得た彼女は、追い詰められたボーグと同盟を結び、生命体8472を倒す技術を提供する代わりに見逃してもらうという、前代未聞の作戦を実行する。ここに悪魔艦長が誕生した。
基本的に平和的な外交を好み、クルーや善良な異星人のために命を投げ出す事も厭わない高潔な人物ではあるのだが、話し合いの余地を持たない敵対的な相手には決して容赦しない。更に非常に頑固な面があり、副官や部下の発言を無視して突っ走ることも多い。
また、元ボーグのセブン・オブ・ナインを救出(というか同化)。ヴォイジャーの装備がボーグ・テクノロジーでどんどん強化されていくにつれて言動が強気になっていき、ボーグを狩り始める等、どちらが悪魔なのか分からなくなってしまった。
後述のキリアン人の再現ホログラム内で披露した黒手袋姿が異様に似合っていたのも原因の一つである。
悪魔艦長の台詞のほんの片鱗
「この際構わないわ……宇宙艦隊は、はるか銀河の彼方よ、ゴロツキに通せん坊されたくらいで15ヶ月も無駄にできないわ」:迂回するには広すぎる領域を持つ謎の異星人に遭遇した際に、会議室で悪魔艦長が放った台詞。ノリノリで領域侵犯を犯そうとしている悪魔艦長に対して、トゥヴォックが艦隊規約違反を指摘するものの、この台詞で一蹴される。すぐ後のカットであるトゥヴォックの(´・ω・`)顔に心を痛めたのは編者だけではないだろう。
「機械なら破壊するまでよ、テレパシーなら手術で脳波のパターンを変えて……やるわ」:幻覚によってクルーを活動不能に陥らせたボーサ人に対し放った台詞。結局ボーサ人の捕獲には至らなかったが、入ったら二度と戻って来れないと言われるボーサ領域を堂々と通過する事には成功した。
「決まってるでしょ。恐怖はやがて……消えていくの」:仮想現実において、人間の恐怖心を具現化したキャラクターがクルーを仮想現実内に監禁してしまった。恐怖心は仮想現実を存続させる為、人間を仮想現実内に残すよう要求。悪魔艦長は自身が人質に代わって仮想現実内に残ると宣言するが、それはホログラムを利用した偽装工作であった。崩壊する仮想現実の中で、恐怖心は悪魔艦長に恐怖しながら消滅する羽目になった。
「クロノワークスは終わりよ。私が潰して見せるわ」:29世紀の技術を悪用し、結果的に太陽系を滅亡させるIT企業クロノワークスの社長スターリングに向けて放った台詞。警告を無視したスターリングが光子魚雷で爆死したことは言うまでもない。なお、悪魔艦長も29世紀の技術を悪用して緊急用医療ホログラムの性能を向上させているが、特に罪の意識を抱いている気配はない。
「これが貴方達の実験の最高の成果よ。ここで最終データの収集を果たさせてあげるわ」:ある異星人が「悪魔艦長に過度のストレスを与え、攻撃的衝動を刺激する」という無謀な実験を行った結果、言い放った台詞。悪魔は異星人の支配を脱するべく、ヴォイジャーをバイナリーパルサー(連星の間にある超重力地帯)へと特攻させた。ヴォイジャーは辛くも超重力に耐えきったが、脱出しようとした異星人の艦が爆沈したことは言うまでもない。
「彼らのこの夢の世界を、悪夢に変えるだけ」:夢の世界を操って侵攻してくる異星人との戦闘中に発した台詞。このエピソードでは自らも夢を操り、反物質爆発やフェイザーの直撃にびくともしない悪夢艦長の姿を見ることも出来る。
「出来る事なら気晴らしにボーグ・キューブでも呼んできてあげたい気分よ」:何もない暗黒星域突入二ヶ月目にして飛び出た台詞。悪魔にとっては何も変化が無い事よりもウルフ359の戦いで宇宙艦39隻を全滅させた宇宙機動要塞との戦いのほうが好ましく感じるらしい。この後、異星人の襲撃を察知すると、生き生きとした様子でフェイザー・ライフルを担いで部屋を飛び出していったのは言うまでも無い。
「ゴミを燃やす時間よ」:暗黒星域において、放射線障害に苦しむ現地住民が居るにもかかわらず反物質廃棄物を捨てにくるマロン人輸送船に光子魚雷を撃ち込み爆沈させる前の台詞。汚物は消毒だ、と同等の意。
「これ以上、倫理の論争は続けたくないから」:未知の生命体に寄生された機関主任を救うべく、宇宙生物学の権威、モセットのホログラムを作成したドクター。しかし、モセットの研究成果は数千人の民間人を人体実験して得られたものだった。艦内では倫理問題を巡って議論が紛糾、患者本人すらモセットのデータ削除を望む中、延々と続く議論に苛立った艦長は正義や倫理よりも機関主任の生存を重視、モセットに手術させる悪魔的採決を強行した。
「悪魔がまだこの辺をうろついてるようだわ。それ、効くと良いわね」:上記の経緯で命を救われた機関主任だったが、精神的なダメージは大きく、鎮静効果と悪魔祓いのお香を焚いて静養していた。そこに現れた悪魔は自分の意向を手短に伝えるとすぐさま退散してしまった。こうかはばつぐんだ!
「いいから黙って聞きなさい……あと一回しか言わないわ。コーヒー、ブラック!」:亜空間層との接触によって艦がダメージを受け、レプリケーター(食料生成装置)も機能を停止し始めた。食堂で提供される料理も制限され、艦内の食生活は悲惨な状況に陥っていたのだが、病的なコーヒー中毒者である悪魔は躊躇う様子も無くコーヒーを注文。一度は調理長のニーリックスに断られたが、即座にこの台詞で彼を脅迫した。ニーリックスが全てを諦めたような表情でコーヒーを生成した事は言うまでもない。
「ガッカリさせて悪いけど、結婚は中止よ」:艦の機能を復旧させる為、ホロデッキプログラムで『蜘蛛人間族の女王アラクニア』を演じた悪魔艦長。妖艶な衣装に身を包んだ悪魔は宇宙最大のマッドサイエンティスト(という設定のキャラクター)ケオティカを手玉に取り、彼から「二人なら全宇宙を征服出来る。私の花嫁になれ」とまで評されるが、この台詞と共に容赦なく射殺した。直後、マイクのコードを鞭の用に振り回して部下に命令を下す姿はまさに「悪の女王」そのものであった。
「私に言わせればこんなに……ラッキーな日は無いわね」:偵察型ボーグ艦を光子魚雷転送という手法で沈め、ボーグを皆殺しにした後に放った台詞。特に罪悪感を感じた様子も無く、残骸からパーツや技術を毟り取る気満々な彼女の姿に、副長を始め、全員呆れていた(或いは戦慄していた)のは言うまでも無い。
「金鉱を掘り当てたわよ」:上と同じエピソードで、イオンストームにより損傷したボーグ・スフィアを見て笑いながら言った台詞。あのピカード艦長すら傀儡として操った機械生命体も、悪魔にとっては金鉱と同じである。この後、ボーグ・スフィアに襲撃を仕掛けて、お目当てのトランスワープ・コイルを奪取したのは言うまでもない。
「規則は二の次よ、かかって」:ボーグに察知されないようワープの痕跡を消す技術があると提案する機関主任。しかし、それは宇宙艦隊の規則では認められない方法(機関主任の経歴から察するにテロリストが使う非合法手段)だという……悪魔は迷う気配も見せず、即座にこう応えた。
「こっちから同化しに行ってもいい頃でしょ。ん?」:あらゆる種族に最も危険な敵と認識されているボーグを、逆に同化しに行くという悪魔の台詞。ボーグに手痛い目に遭わされたピカード艦長やシスコ司令が聞いたら悶絶ものである。
「破る?……一度も。曲げたことはあったけど」:艦隊の誓いを破ったことがあるか?と問われた際の返答。あまりにも平然とした口調と、柔軟な悪魔的理論の前に、全視聴者が絶句した瞬間である。
「そうよ、私は怒ってる!凄く怒ってる!!」:地球へ帰るためとはいえ、平和的な知的生命体を虐殺していたU.S.S.イクワノックスの艦長とクルーに対し、完全にブチ切れてしまった悪魔の宣言。こうなった彼女は誰にも止める事が出来ず、捕虜は拷問同然の扱いを受け、巻き込まれた善良な異星人はトラクタービームで強制的に拘束され、あまりの暴挙の連続に異議を申し立てた副長は解任される羽目になった。
「奥さんを削除」:悪魔艦長はホロデッキプログラム『フェアヘブン』の中で魅力的な男性キャラクター、マイケル・サリヴァンと出会った。悪魔はこのキャラクターを魔改造、性格を変更し、容姿を作り変え、トドメに彼の妻のデータを削除して、恋愛関係を楽しんだ。しかも、「ホログラム相手の恋愛なんてどうかしてる」と賢者タイムに陥ってマイケルを放置。終いには(医療用ホログラムの)ドクターに説教される羽目に。
「ソーナにボーグに、今度はロミュラン……易しい任務ばかりで羨ましい」:提督昇進後、上司としてピカード艦長に接した際の言葉。どれも惑星連邦に危機をもたらした種族にまつわる事件の話であり、通常なら冗談と考えるべきだろうが、対ボーグ戦経験がピカードよりも豊富で、デルタ宇宙域からの帰還という超高難度任務に成功した彼女の言葉であることを考えると、本音である可能性は高い。
悪魔艦長の帰還
地球への通信手段もある程度確立されてきたとはいえ、まだまだ先の長い航海を終わらせたのは未来からやってきた悪魔本人……ジェインウェイ提督である。もちろん、時間規則が二の次にされたことは言うまでもない。
その帰還手段はヴォイジャーを強化改造し、ボーグのトランスワープハブに突入するというもの。
未来技術によって魔改造を施されたヴォイジャーの前にはボーグ・キューブ艦隊と言えども敵ではなく、新装甲システムでキューブの攻撃をほぼ無力化、逆にヴォイジャーから放たれたトランスフェイズ魚雷は「一撃」でキューブを血祭りに上げていった。生き残ったキューブも、ヴォイジャーに恐れをなして逃げ出す有様である。
ヴォイジャーは小型の深宇宙調査船であり、対ボーグ戦用に建造されたソヴェリン級エンタープライズEやディファイアント級護衛艦のように高い戦闘能力を有した艦ではなく、それらの艦でも単独ではボーグ・キューブ一隻にすら歯が立たないあたり、魔改造ヴォイジャーのチート振りが窺える。
トランスワープハブを利用する事で意見の食い違いがあったものの、最終的には悪魔二人が手を結び、トランスワープハブを利用して、さらに破壊をするという離れ業をやってのけた。
これだけでもボーグ涙目なのに置き土産にジェインウェイ提督を媒介にボーグクイーンにウィルスを感染させる事に成功。トランスワープハブはぶっ壊されるわ、ボーグクイーンはやられるわ、ウィルスがボーグの集合体全体に感染するわで、被害甚大というか壊滅寸前に追い込まれた。ヴォイジャーが無事に帰還するという事は、未来からやってきた提督は存在しない事になるのか、それともパラレルワールド的扱いになるのか分からないが、時間軸的にはヴォイジャーが最後にあたるので以後のボーグの活動は不明。壊滅したのか生き残ったのか……とにかくヴォイジャーの戦果はシリーズ最大の物であることは間違い無い。
途中、船体が持たないと判断し、追ってきたボーグスフィアにわざと捕まり、アルファ宇宙域に到達したところで内部から「完全破壊」。ボーグ迎撃に来たパリス提督含む全宇宙艦クルーが呆然としていたのは言うまでも無い。
こうして多大な犠牲を払いながらも、ヴォイジャーは無事に故郷への帰還を果たした。
悪魔艦長のその後と犠牲
ヴォイジャーの帰還から一年後を描いた、映画版ネメシス/s.t.xにおいて現時間軸で提督に昇進した姿が見られ、ピカード艦長に進路変更を命じている。悪魔艦長から悪魔提督(アドミラル・デビル)に進化した彼女の前ではあのピカードですら気圧されるという貴重なシーンが見られるので是非見てほしい。
また、海外のアトラクション『スタートレック:ジ・エクスペリエンス』では、悪魔艦長によるボーグ征服を記念して、ボーグの挽肉を使ったハンバーガー……その名もハンボーガーが作られていた。
2409年を舞台とする『スタートレックオンライン』においてU.S.S.タッカーの艦長として大将に昇進している事が確認された。宇宙艦隊が悪魔の手により掌握されるまで後一歩である。
加えて『スタートレック:ディスカバリー』ではヴォイジャーの11代目にあたる後継艦U.S.S.ヴォイジャーJが32世紀に就航している事が明かされた。ついに艦隊旗艦U.S.S.エンタープライズと同等の扱いになってしまったらしい。『スタートレックオンライン』によると艦種はジェインウェイ級で、主力武装はドクターの妄想とばかり思われていた超兵器「光子砲」だという。
長き旅を終えたヴォイジャーだが、その道程では(結果的に)多くの命を奪い、破壊活動を繰り広げた。
そして、悪魔艦長とその仲間たちの所業は、アルファ、デルタ宇宙域において伝説として語り継がれている。
以下にそれらの主な犠牲者について記述する。
ヴォイジャーのクルー
そもそも、この航海の発端はオカンパ人の滅亡を防ぐべく、管理者のステーションを破壊したことだった。一民族を守るために犠牲的精神を発揮した悪魔艦長の決断は賞賛されるべきだが、長い航海の途中で犠牲になっていった多くの名無しクルー達は納得できるのだろうか?
彼らは犠牲になったのだ……悪魔艦長の犠牲にな……
29世紀の人類
ヴォイジャーの存在によって時空爆発が生じ、太陽系が消滅する為、29世紀の時間パトロール艦が食い止めにきた。パトロール艦はヴォイジャーを圧倒する程の戦力を有していたが、悪魔はこれを返り討ちにして20世紀の地球へと吹き飛ばしてしまった。
後に時空爆発の原因はヴォイジャーではないことが判明するが、パトロール艦が20世紀に飛ばされたことが原因の一つなので、やっぱりヴォイジャーが原因とも言えなくもない。
生命体8472
「弱きものは滅びるのだ」とか言っていた為に、ボーグとヴォイジャー同盟軍による攻撃を受け、撤退する羽目になった生命体8472だが、後にボーグよりは交渉の成り立つ、まともな種族だという事が発覚する。むしろ、ヴォイジャーを操る地球人の悪魔っぷりに恐怖を抱いた為に地球侵攻を計画していたとか……生命体8472と同盟を組んでボーグを滅ぼせばよかったのに。
ヒロージェン人
ヒロージェンは古代種族が開発した通信ステーションを利用し、デルタ宇宙域のみならず、アルファ宇宙域にまで及ぶ広大なネットワークを構築していた。ヴォイジャーはこれを無断使用した挙句、ステーションを崩壊させ、ヒロージェン艦を二隻消滅させた挙句、ネットワークを完全に破壊してしまう。
だが、皮肉なことにヒロージェンの苦境を救ったのも悪魔艦長であった……
キリアン人 ヴァスカン人
宇宙戦艦(!?)ヴォイジャーが両人種の住む惑星に訪れた際、ヴァスカン人との交渉に応じた悪魔艦長は、キリアン人の首都に対して細菌兵器を発射して約200万人のキリアンを虐殺し、反撃に来たキリアンの指導者テドランを、同化したボーグドローンを操って(!?)拘束、悪魔自ら射殺した。この一連の暴挙によって、キリアンはヴァスカンに支配され、その後、700年に渡って差別され続けることになる……
これはキリアンが学術資料を基に再現(捏造)したホログラムの内容であり、史実とは異なるとされる。
だが他のクルーはともかく、悪魔艦長の言動にはあまり違和感が無く、その後も悪魔が垣間見せる鬼畜振りから『これが悪魔艦長の真の姿ではないか』、『キリアン史観は正しかったのではないか』という意見も見られる。
関連項目
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