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抗ウイルス薬とは、ウイルスによる感染症に用いられる薬である。
概要
自分自身で増殖するための機構を持っている細菌と異なり、ウイルスはDNAかRNAだけがタンパク質の殻に包まれているというシンプルな構造をしている。そのため細菌の構造を作る機構を阻害するなどして作用を示す抗菌薬と抗ウイルス薬は根本的にメカニズムが異なる。
ある程度性質が共通している細菌に比べてウイルスはそれぞれが独自の性質を持つため、1つの抗ウイルス薬で多くのウイルスを仕留めることは難しい。そのため抗ウイルス薬は特定のウイルスに特化した薬が多く作られている。
抗ヘルペスウイルス薬
DNAを持っているヘルペスウイルスは、人間の細胞が持つDNAポリメラーゼという酵素を利用して増殖している。抗ヘルペスウイルス薬はこのDNAポリメラーゼを阻害することでウイルスの増殖を阻害する。あくまでウイルスを「増やさない」薬なので、増殖した後の投与だとあまり効果がない。
医薬品名 (商品名) |
備考 |
アシクロビル (ゾビラックス) |
核酸に似た構造をしており、ウイルスが間違えてDNAに取り込むことでDNAポリメラーゼの作用が阻害される。リン酸化を受けることで作用を発揮するのだが、リン酸化はウイルス感染細胞でしか起こっていないため正常細胞ではDNA合成を阻害しない。またヒトはDNAの前駆体とアシクロビルを区別できるため悪影響が少ない。初めて作られた抗ウイルス薬であり、開発者のガートルード・エリオン(生涯に8つも医薬品を開発した薬理学界のバケモノみたいな人)はノーベル賞を受賞している。古い薬ゆえ効率が悪く、帯状疱疹に使う場合など一日に5回も飲まなければならない。 |
バラシクロビル (バルトレックス) |
アシクロビルにアミノ酸のバリンをくっつけたのでバラシクロビル。人間はアミノ酸などを優先的に取り込む機構が腸に備わっており、バラシクロビルはこれを利用することでアシクロビルの吸収効率を改善している。体内に入るとバリンは切り離され、アシクロビルとして作用を発揮する。このように体内で目的とするものに変化する薬を「プロドラッグ」と呼ぶ。「バトルレックス」ではない。 |
ビダラビン (アラセナA) |
構造が核酸に似ており、糖部分がアラビノースというものに置き換わっている。元は医師の処方箋がないと買えない医療用医薬品だったが、医師の処方箋がなくても買えるOTCとしても流通している。このように医療用医薬品からOTCとしても販売されるようになった薬を「スイッチOTC」と呼ぶ。 |
ホスカルネット (ホスカビル) |
ギ酸にリン酸が置換した構造を持つ。DNAポリメラーゼに直接作用して阻害する。ヘルペスウイルスの中でも特にサイトメガロウイルス感染症に用いられる。 |
ガンシクロビル (デノシン) |
アシクロビルはCH2OHの構造が1つだけだが、それをもう1つ追加して水酸基が2つになったもの。サイトメガロウイルスの産物であるキナーゼによりリン酸化されるとDNAポリメラーゼの作用を阻害する。経口だと吸収効率が極めて悪いため、点滴薬として使用される。主にサイトメガロウイルス感染症に用いられる。 |
バルガンシクロビル (バリキサ) |
ガンシクロビルにアミノ酸のバリンをくっつけたのでバルガンシクロビル。要するにアシクロビルとバラシクロビルの関係と同じである。 |
抗インフルエンザウイルス薬
インフルエンザウイルスはRNAがタンパクの殻に二重に包まれており、外殻(M1タンパク)に細胞侵入用のヘマグルチニンという糖蛋白、増殖後に細胞から脱出するためのノイラミニダーゼという酵素を持つ。
いろいろな意味でメジャーなタミフルを始め、ノイラミニダーゼを阻害することでウイルスを細胞内で言わば「飼い殺し」にする薬が抗インフルエンザ薬として主に使われている。ノイラミニダーゼ阻害剤はその性質上、発症後48時間以内に投与する必要がある。
医薬品名 (商品名) |
備考 |
オセルタミビル (タミフル) |
未成年者の異常行動という不名誉なイメージでお馴染みのタミフル。実際は異常行動とあまり関係ないという調査結果もあるが、悪いイメージはあまり払拭されていない。通常は1日2回5日間服用するが、予防に用いる場合は1日1回10日間服用する。 |
ザナミビル (リレンザ) |
粉末の吸入剤で、タミフルより副作用が少ないとされる。しかしこっちも未成年者の異常行動が報告されており、注意が必要。通常時、予防時ともにオセルタミビルと用法は同じ。 |
ラニナミビル (イナビル) |
こちらも粉末の吸入剤。患部に長く留まるよう改良されており、1回の吸入(2キット分)で治療が完了する。予防投与の場合は1キットずつ2日間使用する。 |
アマンタジン (シンメトレル) |
M2イオンチャネルを阻害し、脱殻(ウイルスが殻を脱いでRNAが細胞核へ侵入できるようにすること)を阻害する。A型インフルエンザにしか効かず、耐性ウイルスも増えたため現在はほぼ使われない。ドパミン遊離を促進するためパーキンソン病治療にも用いられる。 |
抗HIV薬
AIDSを引き起こすHIVは非常に変異しやすいため、複数の抗ウイルス薬を一生併用して毎日飲みつづけるART(Anti-retroviral therapy)を行う。
HIVはRNAと、RNAをDNAに変換する逆転写酵素をもつレトロウイルスという種類に属する。自身のRNAを逆転写酵素でDNAに変換し、ヒトのDNAに組み込むことで自分の身体(タンパク質)を人間の細胞に合成させている。
抗HIV薬には逆転写酵素を阻害する薬(核酸系、非核酸系)とタンパク質合成酵素のHIVプロテアーゼを阻害する薬があり、核酸系から2剤(バックボーン)+非核酸系かHIVプロテアーゼ阻害剤から1剤(キードラッグ)の合計3剤を併用する。
その他にもHIV由来のDNAがヒトDNAに組み込まれる頃を阻害するHIVインテグラーゼ阻害剤、HIVの感染に関わるCCR5というケモカイン受容体を阻害する薬もある。
抗肝炎ウイルス薬
肝炎ウイルスはA~E型まで5種類あり、肝炎が慢性化しやすいB型、C型が主に問題になる。
以前は細胞の免疫作用を高めるインターフェロンという注射薬がメインだったが、徐々にウイルスを直接攻撃する薬剤が開発されつつある。
医薬品名 (商品名) |
備考 |
ペグインターフェロンα2-a (ペガシス) |
病原微生物に感染した時に生体が放出する免疫賦活物質「インターフェロン」を注射することで、未感染細胞がウイルスに感染しにくくする。通常のインターフェロンはすぐ分解されてしまうため何度も注射する必要があったが、ポリエチレングリコール(PEG)を結合させて分解しづらくさせることで週一回の注射で効果を発揮するよう工夫されている。 |
リバビリン (コペガス) |
単剤では効果を示さず、インターフェロンと併用で用いる。構造が核酸と似ており、代わりにRNAへ取り込まれることでRNAの合成を阻害する。主にC型肝炎治療に使われる。催奇形性があるため避妊を要する。 |
エンテカビル (バラクルード) |
核酸と似た構造をしており、ウイルスが間違えてDNAに取り込むことでB型肝炎ウイルスのDNAポリメラーゼを阻害する。食事の影響を受けやすいため空腹時に服用する。 |
テラプレビル (テラビック) |
C型肝炎ウイルスの複製に必要なプロテアーゼを阻害する。ペグインターフェロンとリバビリンに加えて三剤併用で用いることでより効果を発揮する |
関連動画
関連項目
- ニコニコ大百科:医学記事一覧
- タミフル
- リレンザ
- ラニナミビル
- バロキサビルマルボキシル
- ファビピラビル
- レムデシビル
- モルヌピラビル
- ニルマトレルビル
- エンシトレルビル
- カシリビマブ・イムデビマブ
- ソトロビマブ
- チキサゲビマブ・シルガビマブ
- アマンタジン
- 医学
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- 抗真菌薬
- 抗菌薬
- 抗原虫薬
- 抗寄生虫薬
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