概要
将棋は駒の特性上(前進できない駒はないが、後退ができない駒(歩兵,香車,桂馬)や前進と比べると能力が落ちる駒(銀将,金将,成金)が多い)、王将(玉将)が相手陣に入ると詰ますのが難しく、その結果両方の王将が入玉するケースがある。その際の決着をつける為に24点法、27点法、トライルールがある。24点法で双方が24点以上となった場合に持将棋となり引き分けとなる。
入玉の例(第2回電王戦第4局 塚田泰明九段(後手) 対 Puella α(先手)の139手目(▲9三玉))
先手玉が入玉(相手陣(自陣から見て奥3段以内)に到達)
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持ち駒
先手:金将2,桂馬1,歩兵8
後手:銀将1,桂馬2
点数
先手:38点
玉将(0点),龍王1(5点),龍馬2(10点),金将4(4点),銀将1(1点),成銀1(1点),桂馬1(1点),成桂1(1点),香車1(1点),歩兵14(14点)
後手:16点
王将(0点),龍王1(5点),銀将2(2点),桂馬2(2点),成香3(3点),歩兵2(2点),と金2(2点)
なお、プロ公式戦では24点法(電王戦含む)が、引き分けが発生すると困るようなケース(アマチュア棋戦など)では27点法が、またその分かりやすさから最近はトライルールを採用することもある。
24点法(27点法)
盤上と持ち駒で24点(王将0点,飛車(龍王)と角行(龍馬)5点,その他の駒1点)として数えて24点に到達していない方が負け、双方が24点に到達で引き分けとなる。27点法では先手番が28点到達で勝ち、後手番は27点到達で勝ちとなる(駒の合計点数が54点の為、必ず勝ち負けがつく)。
身近な所では81-Dojoが27点宣言法をアプリケーションに組み込んでおり、条件を満たした時に勝ち宣言ボタンを押すことで勝利となる(世界中からアクセスがあり、言葉が通じない事もある81-Dojoに向いていると言える)。
持将棋の例(塚田泰明九段 対 Puella α)双方が24点以上の状態で塚田泰明九段から持将棋の提案が行われ、Puella α(厳密にはPuella αに持将棋を受ける機能がなかった為、規定に基き開発者の伊藤英紀さんが提案を受け入れた)も同意し持将棋となった。
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持ち駒
先手:金将3,銀将1,歩兵1
後手:角行1,金将1,桂馬2,香車1,歩兵3
点数
先手:30点
玉将(0点),龍王1(5点),龍馬1(5点),金将3(3点),銀将2(2点),成銀1(1点),成桂2(2点),成香1(1点),歩兵5(5点),と金6(6点)
後手:24点
王将(0点),龍王1(5点),角行1(5点),金将1(1点),銀将1(1点),桂馬2(2点),香車1(1点),成香2(2点),歩兵3(3点),と金4(4点)
トライルール
王将が先手は5一(後手は5九)に相手の駒が効いていない状態で到達すれば勝ちとなるルール。
身近な所では将棋ウォーズが採用している(10分(3分)切れ負けルールの将棋ウォーズに向いていると言える)。
トライルールの例(先手は次に5一に飛び込めば勝ちとなるが、後手は5九に駒が効いているのでトライはできない)
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主な持将棋
1968年 第5期奨励会A組東西決戦 野本虎次三段 対 滝誠一郎三段(段位は当時)
当時の奨励会A組(現在で言う三段リーグ)は関東と関西に分かれての開催で、それぞれの優勝者が東西決戦1番勝負を行いその勝者が四段(プロ)となる規定であった。その大一番で持将棋模様になるも、野本三段の点数がどうしても足りない。野本三段は3回目(3期,4期(敗者決戦),5期)の決戦進出と言う事もあって投了しない。最後は当時奨励会幹事であった佐伯昌優六段(現九段)に促されて(その後も数手指したそうですが)投了した。
(詳しくは将棋世界1968年12月号に載っているそうですが、入手不可能な為Webから断片的な情報を集めて書きました。間違っていたらごめんなさい。)
なお、野本三段は次期の敗者決戦(前後期の決戦敗者による1番勝負)に勝ち四段となり、2006年まで現役として活躍されました(最終段位は八段)。野本虎次(日本将棋連盟)
1975年 第34期名人戦第7局 中原誠名人 対 大内延介八段(段位は当時)
(これは棋譜と色々な文献があるので誰か書いて>、<。)
2013年 第2回電王戦第4局 塚田泰明九段 対 Puella α
中盤でPuella αが有利になった所で塚田泰明九段が入玉に方向転換して入玉成功。塚田九段としては事前に提供された練習用ボンクラーズ(ボンクラーズはPuella αの旧名)が入玉しないので、この対局でも入玉後に攻める方針であったが、Puella αにも改良が施されていてPuella αも入玉する(139手目)。この段階で、前述の野本三段同様に明らかに点数不足な状況であり、普通の対局なら投了もやむなしの局面であった。しかし、対コンピュータであること、そして何より団体戦(塚田九段が負けるとプロ棋士側の負けが決定)と言う事もあって塚田九段も粘る粘る。一方Puella αは相入玉時の点数計算に対応するレベルまでは改良されておらず、おかしな手を指し始めた。そしてPuella αが入玉してから83手目の222手目に塚田九段も引き分けになる24点に到達する。そして230手で両者同意による引き分けとなった。見苦しいと言う批判もあるが、団体戦の重みが塚田九段にあそこまで指させたのかも知れない。
また、この対局だけを見ると電王戦以前からコンピュータ将棋ソフトは入玉が苦手な事が分かっていたのに、何故徹底的な対策が施されていなかったのかと言う疑問が湧くが、対局に占める持将棋比率は低く、そこに労力を注ぐぐらいなら通常時に労力を注いだ方が良い(強くなる)訳で、開発者を責める(又は入玉対策を急がせる)のは酷な話である(むしろそこまでしないとプロ棋士でも歯が立たなくなっている事に誇りをもって良いと思う。)。
以下にPuella α開発者の伊藤英紀さんの対局後のコメントを引用させて頂く。
まあ、「入玉局面でも正しく指すべき(指してほしい)」という気持ちはわかります。というか開発者だってできるもんならそうしたい。だけど、こっちも限られた時間とリソースの中でやりくりしてるわけですよ。何でもかんでもできるわけではない。「最小のコストで、最大限の効果を目指す」が当然だと思ってます。入玉局面でも正しく指すために莫大なコスト/時間をかけるのは、エンジニアリング的には正しい判断とは思えません。
伊藤英紀(Puella α開発者) 全文
相入玉時の点数計算にコンピュータが対応するのは、後述のSeleneを待つこととなる。
2018年 第31期竜王戦 6組ランキング戦3回戦
牧野光則五段 対 中尾敏之五段(段位は当時)
フリークラス陥落後の在籍上限となる10年目を迎えていた中尾は、当年度中に順位戦C級2組への再昇級を果たせなければ引退が決まる立場に追い込まれていた。年度末が迫る中で迎えた2018年2月27日午前10時、牧野の先手番で始まった対局は相入玉となるが、中尾の点数が1点足りない。現役続行に望みを繋ぎたい中尾がここから闘志を見せ、牧野のミスを誘って待望の1点をもぎ取り、日付変わって28日午前1時44分に持将棋が成立した。ここまでの手数は420手で、記録が残っている1954年以降の公式戦では史上最長手数となった。両対局者が激闘を演じた持将棋局は第45回(2017年度)将棋大賞・名局賞特別賞に選ばれた。
しかし、2人の勝負は決着させねばならない。竜王戦のランキング戦はトーナメント方式のため、即日指し直しとなった。先後を入れ替えて午前2時14分から開始した指し直し局は、午前4時50分、100手にて牧野が勝利した。前日午前10時から数えて、実に18時間50分に及ぶ死闘であった。
2020年 第5期叡王戦七番勝負 第2局・第3局
永瀬拓矢叡王 対 豊島将之竜王・名人 (肩書は当時)
開幕局(持ち時間5時間)で千日手指し直し(113手+115手)の激闘を繰り広げた両者。第2局(5時間)も222手という長手数の末、持将棋が成立した。一時は指し直し局の実施が告知されたが後日撤回され、第2局は引き分けとなった。
2週後に指された第3局(1時間)も207手にて持将棋が成立し、引き分けとなった。将棋界史上初めて、タイトル戦挑戦手合の同一シリーズにおいて持将棋が2回成立した。
入玉宣言法
点数の足りない側が負けを認めない場合に手順が延々と続く問題を解決すべく、2013年10月1日より暫定ルールとして導入。2019年10月1日に暫定ルールの一部追加・変更を行った。
以下の条件1~4を全て満たした上で勝ちまたは無勝負を「宣言」すれば、勝負が宣言者の勝ちまたは無勝負となる。
- 宣言側の玉が入玉(敵陣3段目以内に進入)している。
- 宣言側の玉に王手がかかっていない。
- 宣言側の敵陣3段目以内に、玉以外の駒が10枚以上存在する。
- 玉を除く宣言側の持駒と敵陣3段目以内に存在する宣言側の駒のみを対象とし、対象の駒の点数が
ただし、宣言した時点で上記1~4の条件を1つでも満たしていなかった場合は、宣言側の負けとなる。
2015年5月4日 第25回世界コンピュータ将棋選手権 2次予選
Selene 対 ひまわり
コンピュータによる入玉宣言法が適用された初の事例とされる。塚田九段対Puella α戦の後、コンピュータ側は対人戦からコンピュータ自身が生成した膨大な数の相入玉局面を教師として学習したり、学習におけるパラメータを増加させて実戦が少ない局面の評価能力を向上させた結果、コンピュータ将棋の入玉模様は大幅に向上した。そしてこの対局において、175手目で相入玉となった後、208手目に△2七銀をSeleneが打ったことで敵陣に駒を10枚送り込む条件を満たす。この時点でSeleneの点数は37点に達していたため(世界コンピュータ将棋選手権では先手28点、後手27点以上で勝利)、210手目で宣言勝利の条件を満たしたことを確認したSeleneが勝ちを宣言し、条件確認を経て勝利となった。この対局は同大会の独創賞を受賞しており、コンピュータが相入玉でも人間を上回ったことを示す事例となった。
2022年7月18日 第16期マイナビ女子オープン 予選7ブロック1回戦
野原未蘭女流初段 対 竹部さゆり女流四段
プロの公式戦で入玉宣言法が適用された初の事例とされる。対局は相入玉となり、野原が敵陣に駒を10枚送り込んでおり、なおかつ駒の点数が35点に達した。宣言勝利の条件を満たしたことを確認した野原が勝ちを宣言。連盟職員による条件確認を経て、野原の勝ちが決まった。(参照:対局中継ブログ、毎日新聞の記事)
500手ルール
2019年10月1日より暫定ルールとして導入。両対局者が合意に至らぬまま対局手数が500手に達した場合、双方の駒の点数に関係なく持将棋として勝負はすべて無勝負とし、持将棋指し直しとする。ただし500手目で王手がかかっている場合は、連続王手が途切れた段階で持将棋とする。
関連項目
関連リンク
- よくあるご質問(日本将棋連盟)の「持将棋の規定はどうなっていますか。」に説明あり
- 対局規定(抄録)の第3章第6条B.「持将棋」に持将棋と入玉宣言法の規定あり
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