日常の謎とは、推理小説のジャンルのひとつ。日常ミステリーとも言う。
概要
ミステリーといえば殺人事件を中心に、誘拐、脅迫など、なんらかの犯罪事件の真相を追うのが基本的な形である。それに対して、例えば
- 喫茶店の客が紅茶に砂糖を何杯も入れるのはなぜか? (北村薫「砂糖合戦」)
- 小学生たちが卒業研究として「サボテンの超能力」を研究し始めた理由とは? (宮部みゆき「サボテンの花」)
- 舞台への出演を渋っていた老優はなぜ新幹線の車内で急に気を変えたのか? (戸板康二「グリーン車の子供」)
- 夜中に差出人不明の偽電報が、数日おきに届く。いったいなぜ? (倉知淳「夜届く」)
といったように、犯罪の絡まない、日常生活の中に生じる謎を解き明かすのが、「日常の謎」ミステリーである。
殺人事件が絡まないということで「人の死なないミステリー」と言われることもあるが、誘拐ものや歴史ミステリーなどで人の死なないミステリーの作例は少なからずあるので、必ずしも「人の死なないミステリー」=「日常の謎」ではない。また、必ずしも犯罪が絡まないわけではなく、自転車泥棒のような軽犯罪や、謎自体には犯罪が関係ないものの真相の背後に何らかの犯罪が隠れている場合もある。
1989年に北村薫が『空飛ぶ馬』でデビューし、殺人事件が起こらなくても魅力的な謎と論理的な解決をもった本格ミステリは書けるということを広く知らしめた。その後、加納朋子を初めとした多数のフォロワーがデビューし、「日常の謎」というジャンルはミステリーの1ジャンルとして定着していった。ただし北村薫以前に「日常の謎」に当てはまるミステリーが全く存在しなかったわけではなく、戸板康二の中村雅楽シリーズがよく知られている(ただしシリーズ初期は殺人事件が中心)。
その性質上、特に学園ミステリー・青春ミステリーとの相性が良く、米澤穂信、似鳥鶏、坂木司、相沢沙呼などの作品群で広く親しまれている。また三上延『ビブリア古書堂の事件手帖』を初めとしたお仕事小説とも相性が良く、いわゆるライト文芸、キャラクター文芸の中の主要ジャンルのひとつを為している。
『金田一少年の事件簿』や『名探偵コナン』のように、警察関係者でもない素人探偵が何度も殺人事件に巻き込まれるミステリーは、現実的にはあり得ないというリアリティの問題がつきまとうが、「日常の謎」はシリーズ化してもそういうツッコミを回避できるという点も、青春ミステリーや学園ミステリー、お仕事ものとの相性がいい理由だろう。
殺人事件などに比べるとケレン味のある大きな謎や派手な展開を持ち出しにくいため、短編や短編連作になることが多いが、長編の作例もけっこうある。また、扱う謎が犯罪ではないことが多いため、探偵役に対して「なぜ、何のために謎を解くのか」という問題が問われる作品がわりとよく見られる(米澤穂信の〈小市民〉シリーズや、相沢沙呼の酉乃初シリーズなど)。
大百科に記事のある日常の謎ミステリ作品
- Q.E.D. 証明終了 (加藤元浩) ※殺人事件と日常の謎の両方入り
- 〈古典部〉シリーズ (米澤穂信)
- さよなら妖精 (米澤穂信)
- 〈小市民〉シリーズ (米澤穂信)
- ハルチカ〜ハルタとチカは青春する〜 (初野晴)
- ビブリア古書堂の事件手帖 (三上延)
大百科に記事のある日常の謎ミステリ作家
ほか、作風のメインではないが、記事のある作家では石持浅海、宮部みゆき、天藤真、田中啓文などにも日常の謎の作品はある。
関連動画
関連項目
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