横軽とは、国鉄・JR東日本信越本線にかつて存在した一部区間の通称である。
概要
群馬県と長野県の県境にある碓氷峠を越える区間の事である。ただし碓氷峠と言っただけでは国道18号線の事を指す事もあり、鉄路を指す場合は両端の駅(横川駅・軽井沢駅)の頭文字を取って横軽と呼ばれる事もあるので、本稿ではこの鉄路における碓氷峠の区間について述べる。ちなみに、北陸新幹線(長野新幹線)の場合は横川駅を経由しないので横軽と呼ばれる事はまず無い。
高崎~長野~直江津~新潟間を結んでいた信越本線の最後に開業した区間であり、当時は上越線も開業していなかったので東京と新潟・北陸へのメインルートであった。しかし碓氷峠には最大66.7‰(水平方向に1000m進んだ時に66.7mの高低差がある状態)という国鉄最大の急勾配があった為にアプト式という特殊な方法が用いられていた。アプト式とは2本のレールの間にノコギリ状の歯を付けたラックレールを敷きそれと噛み合う歯車を持った専用の機関車で牽引、推進して運行するという方法で、アプト式が用いられているのは国内では他に大井川鐵道があるのみである。
1912年には国鉄として初の電化(ただし1904年に私鉄の甲武鉄道が飯田町~中野間を電化し1906年に国鉄中央本線となった前例はある)がなされたが、更なる時間短縮を目的とし若干の経路変更をした上で1963年にはアプト式の採用は終了している。
それまでのアプト式用電気機関車のED42から横軽専用のEF63が使用されるようになり、この電気機関車が廃線まで使用される事となった。ただしEF63の動力のみで66.7‰を上り下りしていた為に気動車特急はくたかや、信越本線初の電車特急であるあさまを初めとした列車は最長8両編成に押さえられていた。
しかしアプト式終了5年後の1968年からは輸送力増強を目的としてEF63と協調運転(電気機関車の動力だけでなくその車両の動力も使用する運転方法)が可能なそれぞれ165系・483系・183系の改良型の169系・489系・189系が横軽用に開発されており、特急列車は最長12両編成に増強する事が出来た。更には機関車連結不要で碓氷峠を上り下り出来る専用車両の187系を開発する計画もあったのだが、諸般の事情により取りやめとなっている。この187系電車の種車として用意されたサロ181形は113系に編入され、東海道線・横須賀線の自由席グリーン車として使われた。
ところが1997年の北陸新幹線(長野新幹線)開業の際に横軽は路線ごと廃止となってしまった。横川駅以東の群馬県の区間はそのままJR東日本が、軽井沢駅以西の長野県の区間はしなの鉄道が管理する事となったが、横軽区間はそもそも県境を跨ぐので利用者が少なかった事や、その特殊な運行方法の為に維持費が他の区間に比べて膨大となるといった事が主な理由で、同区間はジェーアールバス関東へ移行する事となってしまった。所要時間は大幅に増加し、本数も減少している。さらに鉄道網が分断された影響で、付近の道路渋滞が慢性化しており、解決の糸口は見えず、鉄路復活を望む声も多いが、後述の理由によりその希望も潰えかけている。
廃線直後に発売されたMicrosoftのTrain Simulatorにおけるトワイライトエクスプレス社の発売したリアルアドオンシリーズ2は信越本線のこの区間のみを題材としたゲームの追加コンテンツとなっており、当時としては高品質なCGで同区間の車窓を愉しむ事が可能。但し、碓氷線をプレイできる数少ないパソコンゲームとあって現在はプレミア価格となっている。ちなみに、このソフトにはデフォルトでは、キハ31形も入っているほか、別のアドオンを入れていればこの路線での走行実績の無いキハ181系や583系の補機無し編成で碓氷峠に挑む、なんて事も可能である。
また、電車でGO!2・電車でGO!高速編・電車でGO!高速編3000番台・電車でGO!プロフェッショナル仕様では一定区間ノーコンティニューでプレイするとボーナスゲームでEF63と489系の連結を楽しめる。
映像作品で収録されることもあり、アニメRailWars!でここが舞台になる話があったり映画のきさらぎ駅で異世界側の舞台として撮影現場になったこともある。
碓氷峠鉄道文化むら
この区間の廃止後、EF63のねぐらだった横川機関区の跡地を利用し、「碓氷峠鉄道文化むら」がオープンした。
この施設は、碓氷峠で活躍していた車両を中心に、機関車、客車、気動車、電車、貨車などの各形式を、機関区の広大な敷地を活かして保存展示している施設である。
関門トンネルで活躍していたEF30のような、横軽に縁もゆかりもない車両も展示されている。これは、もともと高崎に計画されていた機関車博物館計画が頓挫し、そのために集められていた機関車がここに展示されることになったためである。
この施設の最大の特徴は、予約制の講習を受ければ本物のEF63形電気機関車を運転できる点である。
講習料金は3万円と安くはないが、自分で本物の大型電機を動かせるところは他になく、好評を博している。
本物の機関車を使っている性質上、車両が修理不能なほどに壊れてしまえば、この運転体験は終了せざるを得ないという。迷っているなら、できなくなる前にトライしたほうが後悔せずに済むだろう。
運転を経験するごとに複雑な操作に挑戦でき、中には50回以上参加している強者もいる。
このほかにも、園内を一周する蒸気機関車(またはディーゼル機関車)「あぷとくん」、詰所だった建物を利用した横軽の資料館、名物駅弁「峠の釜めし」売店など、一日思い切り鉄道の世界を楽しめる施設になっている。
ちなみに、この資料館内にはアーケード版「電車でGO!」「電車でGO!2 高速編」「電車でGO!2 高速編3000番台」「電車でGO!3 通勤編」が並んで設置されている。「電車でGO!2 高速編」「電車でGO!2 高速編3000番台」をプレイすると、ダイヤによっては横川駅のEF63連結ボーナスゲームがプレイできるので、聖地巡礼として遊んでみると良いだろう。
さらに、旧下り線を利用して、トロッコ列車が温泉施設「とうげのゆ」まで運転されている(施設は2013年7月の火災により休止していたが2015年に再開)。車窓に美しく蘇ったレンガ造りの旧丸山変電所を見ながら、往時の横軽の雰囲気をちょっとだけ味わうことができる。この先軽井沢までの延伸計画もあるにはあるのだが、残念ながらあまり進展が見られない。
それのみならず、軽井沢側は三菱地所によるリゾート開発計画により、旧信越本線線路跡及びホームなどの建造物が大きく剥がされており、2023年現在時点で、軽井沢への鉄路の道が完全に閉ざされるか否かの瀬戸際となっている。三菱側は将来的な鉄道復活計画については全く考慮しておらず、このまま計画が進めば2024年より本格的に工事が開始される予定。
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この様に軽井沢駅は整地されてしまっている。
開園間もない頃、展示車両部品の盗難騒ぎが起きた。ここにしかない車両もあるので、貴重な文化財をいつまでも残せるよう皆で協力しよう。
アプトの道
2001年に横川~碓氷第三橋梁(めがね橋)まで開通。2012年に旧熊ノ平信号場まで延長された。
横川駅から峠の湯付近までは新線の上り線を転用、アスファルトで舗装されているものの現役当時のレールも残されている。
峠の湯前で旧上り線と別れアプト時代の旧線を通る。レンガ造りのトンネルをくぐりながら碓氷湖、碓氷第三橋梁を経由して旧熊ノ平信号場まで至るルートとなっている。鉄道線路の跡なので勾配もゆるめであり、歩きやすい道である。
なお、熊ノ平から先と峠の湯~熊ノ平の新線は今のところ立入禁止となっているが、安中市が定期的に開催しているトンネルウォーキングに参加することで歩くこともできる。興味のある方はぜひ応募して参加してみよう。
おぎのやと峠の釜めし
牛蒡や筍、椎茸、杏など、山の幸がふんだんに使われている釜飯が、「横川駅 おぎのや」と彫られた益子焼の釜に収められている。
食べ終わった後は、1合分のご飯が炊ける。料理番組で使われたこともある。
横川駅では機関車の付け外しのため、停車時間に余裕があった。それを活かして、廃止までこの釜めしが立ち売りされていて、皆競って買いに走った。横軽廃止時に通いつめ、この釜が大量に手許に残っているファンも多いのでは?
横軽が廃止になった後も、おぎのやは横川駅前に本店を構え、無料で見学できる資料館も併設している。ちなみにここでは、駅弁のお供として今では珍しくなったプラスチック容器の「お茶」も販売している。
高崎駅などにも卸しているため、北陸新幹線の車中で味わうこともできる。
さらに、ドライブイン施設などの支店を周辺各地に出しており、特に上信越自動車道の上り横川SAでは、店内にJRから譲り受けたキハ58を利用し、横軽で活躍していたキハ57に見立てた飲食スペースを作る凝りようである。
末期の状況
使用車両
時刻表
廃止前に横軽を経由した定期列車の時刻表。上り横川駅発は軽井沢駅を経由した列車のみ記載(つまり横川駅始発普通は省略)。黒字は普通列車・青字は急行能登・赤字は特急あさま・緑字は特急白山。
下り(長野駅・金沢駅方面) | 上り(高崎駅・上野駅方面) | |||
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時 | 横川駅発 | 軽井沢駅着 | 軽井沢駅発 | 横川駅発 |
2 | 04福井 | 21福井 | ||
3 | 35上野 | |||
4 | 03上野 | |||
6 | 33高崎 | |||
7 | 48長野 | 27上野 | 00高崎 54上野 | |
8 | 38直江津 | 06長野 55直江津 | 00高崎 18上野 | 27高崎 44上野 |
9 | 37長野 | 54長野 | 11上野 39上野 | 38上野 |
10 | 05金沢 35長野 | 22金沢 52長野 | 37上野 52高崎 | 06上野 |
11 | 04長野 33長野 55長野 | 21長野 50長野 | 38上野 | 04上野 19高崎 |
12 | 36直江津 | 13長野 53直江津 | 07上野 37上野 | 04上野 34上野 |
13 | 07長野 30長野 | 24長野 47長野 | 38上野 | 03上野 |
14 | 35直江津 53長野 | 52直江津 | 23高崎 36上野 | 05上野 50高崎 |
15 | 34長野 | 11長野 51長野 | 18上野 48上野 | 03上野 45上野 |
16 | 37長野 54長野 | 54長野 | 17上野 46上野 | 15上野 43上野 |
17 | 04長野 37長野 | 11長野 21長野 54長野 | 01高崎 16上野 48上野 | 13上野 28高崎 43上野 |
18 | 05長野 34長野 | 22長野 51長野 | 18上野 | 14上野 45上野 |
19 | 18長野 38長野 | 35長野 55長野 | 15上野 28高崎 48上野 | 41上野 55高崎 |
20 | 38長野 | 55長野 | 54上野 | 14上野 |
21 | 25軽井沢 35長野 | 42軽井沢 52長野 | 08高崎 | 21上野 35高崎 |
22 | 33軽井沢 45長野 | 50軽井沢 | ||
23 | 02長野 |
施設一覧
一部を除き廃止時点の情報。ちなみに松井田町は2006年に安中市と合併して安中市になった。
路線名 | 優 等 列 車 |
普 通 列 車 |
施設名 | 横川駅 からの 営業 キロ |
■接続路線 ○備考 | 所在地 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
信 越 本 線 |
● | ● | 横川駅 Yokokawa |
0.0 | ■信越本線磯部駅・高崎駅方面 | 群 馬 県 |
碓氷郡 松井田町 |
| | | | 丸山信号場 Maruyama |
1.8 | ○1966年に廃止 | |||
| | | | 熊ノ平信号場 Kumanotaira |
6.1 | ○1966年に熊ノ平駅から熊ノ平信号場に降格 | |||
| | | | 矢ヶ崎信号場 Yagasaki |
10.4 | ○1966年に廃止 | 長 野 県 |
北佐久郡 軽井沢町 |
|
● | ● | 軽井沢駅 Karuizawa |
11.2 | ■信越本線長野駅・新潟駅方面 ○横軽間廃止後は北陸新幹線としなの鉄道線に接続 |
|||
路線名 | 優 等 列 車 |
普 通 列 車 |
施設名 | 横川駅 からの 営業 キロ |
■接続路線 ○備考 | 所在地 |
歴史
1893年4月 信越本線横川~軽井沢間がアプト式で開業。
設備は横川駅 - 熊ノ平信号場 - 軽井沢駅
1901年7月 横川駅と熊ノ平信号場の間に丸山信号場が、熊ノ平信号場と軽井沢駅の間に矢ヶ崎信号場が開設され、横川~丸山信号場間と矢ヶ崎信号場~軽井沢間が複線になる。
1961年10月 線内を経由する初の特急である白鳥が大阪~直江津~青森・上野間に設定される。
1966年7月 丸山信号場~矢ヶ崎信号場間も複線化され同時に両信号場を廃止。
1997年10月 北陸新幹線(長野新幹線)開業に伴い信越本線横川~軽井沢間廃止。
関連動画
関連項目
線内を経由した全特急列車及び一部の急行列車
その他
- 鉄道事業者・路線一覧
- 信越本線
- 日本国有鉄道・JR東日本
- 群馬県・長野県
- EF63・169系・489系・189系
- ● - 横軽対策済の車両番号の先頭に付けられていたマーク
- 廃線
- 信濃の国 - 6番でこの区間が歌われている
- 碓氷峠鉄道文化むら公式サイト(外部リンク)
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