概要
全9章からなる法律。この法律によって水道事業は厚労省管轄であることや、水道事業を営む者は基本的に水の給水契約を拒否する権利が存在しないこと、水道工事は専門の資格が必要であること等が規定されている。
いわゆる民営化について
第196回国会にてコンセッション方式による民間委託が話題となり、「水道民営化」などと報道された。しかしながら、民営化にも第196回国会で改正される以前からあった手法があるので、コンセッション方式と比較できるようメリット・デメリットを記す。なお、一部報道に「それまでもPFI法でコンセッション方式を採用することができた、大して変わらない」と言ったものがあるが、改正前の法律でコンセッション方式を導入しようとすれば自治体が水道事業認可を返上しなければならないという高いハードルを課していたので、「大して変わらない」「手続き上やりやすくしただけ」というのは間違いである(換言すると、コンセッション方式を導入するなら、それなりの覚悟を持ってやれというメッセージだったのだ)。
指定管理者制度方式
施設は公共が建設し、設備の修繕や更新工事も公共が行うが、維持管理だけは民間企業が行うこと。建前はともかく、実際は「公務員より民間企業のほうが人件費安い」という原理で導入される。市民ホールの維持管理や、保育園、ごみ収集委託などはこの手法でコスト圧縮できた。しかしながら、水道事業においては土木・機械・電気技術者が必要不可欠かつ、彼らは地方公務員より民間企業の方が高給取りであることも珍しくないため、この手法は水道事業ではあまり用いられていない。(一応、事務員とオペレーターは民間企業の方が安い)
DBO(Design Build Operation)方式
超ざっくり言うと「○○施設を設計して、建設して、XX年運営してね。水質は△△で、施設の能力は□□ね。施設の所有権は発注者のものだよ」と発注すること(性能発注)。水道事業者はXX年分の運営経費と、施設の設計・建設費用を支払う。費用は事業を決定するときに入札で決める。既に多くの自治体で導入実績がある。ちなみに、ごみ焼却工場の民間委託手法はほとんどこの方式である。
以下のメリットがある。
- 公営と比べて入札コスト・リスクが下がる(通常、公共工事というのは1年ごとの入札なので、入札そのものの事務的コストと、毎年入札で事業者が入れ替わるために監督員が施設を説明する手間が減る。)
- 事業者が下請け業者を選べる(公設ではこれができない。中小企業保護や機会均等の関係からよほど下請けがやらかさない限り質の悪い業者が入札に入り込んでしまうこともある。民間事業者はそんな縛りはないので質のいい事業者だけを使える)。
- 中間コストが下がる(設備メーカーが自ら・あるいは関連会社が運営も手がける場合に限る。
- 事務員やオペレーターの給料を安くできる(ただ、土木・機械・電気技術者は安くならないどころか、高くなる可能性さえある)。
- 委託費が入札時に決定するので、事業者間の競争は(談合していない限り)純粋なものである。例え事業者がその後「この委託費では赤字になる」と気づいても、契約の関係上途中で維持管理を放り出したりできない。このため、よく心配される「民間委託したから水道費があがった」という状況になりえない。自治体にとっても、発注仕様さえ決まればあとは委託費その他評価点を比較すればよいので、比較的簡単。
一方、以下のデメリットがある。
- 委託先が破たんすると、維持管理を委託できる他の委託先がすぐ見つからない限り、水道供給がストップしてしまう。
- 委託契約が終わった後、委託した地方公共団体に水道設備を維持管理できる技術職員がいないと、再委託時に足元を見られる可能性がある(が、大抵の地方公共団体は委託と同時に技術職員の採用を辞めてしまう)。
- 委託先が利益を最大化しようとすると人員削減に走りがちとなる。このため、水質に問題が発生したときや災害時の復旧対応等において、公営時代とは対応スピードが遅くなる可能性がある。
- 委託先が利益を最大化しようとすると、委託先にとっては「維持管理委託期間が過ぎるちょっと後に施設寿命が来る」程度に維持管理することがベストとなり、丁寧に維持管理した場合と比べて設備等の寿命が短くなっている可能性がある。
なお、特別目的会社(SPC)を作り、そこに借金させて、地方公共団体が委託費を支払う方式を取る場合がある。自治体が自ら借金したのでは、委託時に委託先をチェックする者が自治体しかないので、銀行にモニタリングさせようとする目的で用いられる。が、銀行に金利を払ってまでモニタリングが必要かと言われると…?
コンセッション方式
超ざっくり言うと「XX年水道を運営する権利を水道料金の決定権を含めて売るよ。でも水質は□□の基準を維持して、施設は○○の性能を満たすものを作ってね。水道料を上げるときは自治体の許可を得てね。作った施設は俺のもの。」と発注すること。
DBO方式の「5」以外のメリットを全て受けた上で、更に以下のメリットがある。
- 自治体にお金が入ってくる。コンセッション方式最大のメリットである。維持管理費用が出ていかないどころか、0円以上でその自治体の水道が維持されるのだから、運営権を落札した会社が適切であれば自治体にとっては願ったりかなったりである。
- 設計・建設・維持管理に加えて設備の更新まで委託できる。このため、設備の更新に関しても入札コストや中間コストが下がる。
一方、DBO方式のデメリットを全て受けた上で、更に以下のデメリットがある。
- 運営権の基準をいくらに設定すればいいかわからない(史上初めてのため)。通常、この手の話は専門家の意見を仰ぐが、その専門家すら誰を選べばいいかわからない。
- 運営会社が後々の値上げ込みで運営権を落札する可能性がある。このため、単純に運営権が高いほうを落札対象者とするわけにはいかず、事業者選びが非常に難しい。
- 運営会社が本当に経営が苦しくて値上げ申請するのか、維持管理や経営の怠慢によって値上げ申請するのかを自治体が見抜かなければならない(最終的に議会を通すのであろうが、水道の専門的知見がある市長や議員なんてほぼいない。となると、自治体職員頼みとなるが、自治体は水道を維持管理しないので水道に関する技術者がいない状態で運営会社の値上げが適正か見極める必要がある。)。
- 上記の懸念が現実となって、自治体がほぼ運営会社の言いなりになり水道料金が上がる可能性がある(海外でそのような事例多数)。
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