直木賞とは、芥川賞とともに日本で一番有名な文学賞。大衆文学の新人に贈られる(建前上は)。
概要
正式名称は「直木三十五賞」。選考は1月と7月の年2回行われる。主宰は文藝春秋。現在(第144回以降)の選考委員は浅田次郎、阿刀田高、伊集院静、北方謙三、桐野夏生、林真理子、宮城谷昌光、宮部みゆき、渡辺淳一の9名。
一人の作家が二度以上受賞することはできない。また、芥川賞との重複受賞もできない。
元々は菊池寛が「文藝春秋」の売上が落ちる2月と8月に話題を作るために芥川賞とともに創設した賞。そのため文藝春秋社の作品が受賞しやすく、近年はその傾向がとりわけ顕著である(例として、第131~140回の受賞作12作品のうち9作品が文藝春秋社刊)。
名目上は「新人賞」であるが、受賞するのはデビューから何年も経過した中堅以上の作家であることが多い。選考委員よりキャリアの長い作家が候補になることもある(極端な例では、第142回でデビュー30年目の大ベテランである佐々木譲が受賞したなんてことも)。これは選考の際に「これから先も書き続けていけるかどうか」なども考慮されることや、初めて候補に選ばれた作家は好評でも「もう一作見たい」という常套句で落とされることがままあるため。
ベテランが候補になることもあるとはいえ、受賞していなければ誰でも候補になれるのかというとそうでもなく、コンスタントに候補になっては落とされる人はそのうちいつの間にか候補にならなくなり、かと思えばずっとスルーしていた作家を唐突に候補にしたり、過去に落としてから10年ぐらい放っておかれた作家が復活してくることもある。はっきり言って候補作の選定基準は謎である。
また、直木賞の受賞は既刊を含めた売上に直結するため、デビュー作で受賞してしまったりすると(『青春デンデケデケデケ』の芦原すなおや『GO』の金城一紀などの例がある)、売る本がそれしかないため本人にとっても書店にとっても美味しくなかったりする。
受賞のタイミングをよく外すことでも有名で、各作家の代表作に受賞しているとは言い難い。宮部みゆきが最高傑作と名高い『火車』で落とされ『理由』で受賞したり、浅田次郎が『蒼穹の昴』で落とされ『鉄道員(ぽっぽや)』で受賞したり、佐々木譲が『警官の血』で落とされ『廃墟に乞う』で受賞したことなどはその典型。このため、直木賞は「作品ではなく作家に与える賞」という側面がある。これは別に最近に限った話ではなく、例えば池波正太郎や藤沢周平もそんな感じで受賞しており、昔からの直木賞の性質である。
また一部の選考委員については「候補作を読んでいない」「他の選考委員からあらすじを教えてもらっている」などと言われており、大森望と豊崎由美は芥川賞や直木賞のトンチンカンな選評を『文学賞メッタ斬り!』シリーズで徹底的に弄り倒している。大長編(天童荒太『永遠の仔』やら福井晴敏『亡国のイージス』やら東野圭吾『白夜行』やら)や、SF・ファンタジーが受賞しないことも知られる。筒井康隆は小説『大いなる助走』で直木賞の選考過程を皮肉っている。
何度も候補に挙げられては落とされ続ける作家が多い。宮部みゆき、東野圭吾、北村薫などは5度落選し6度目で受賞している。道尾秀介は第140回の初ノミネートから5回連続候補入り(5回目で受賞、すなわち4回連続落選)という記録を作った。ちなみに最多落選回数は古川薫の9回(『漂泊者のアリア』で10回目にして受賞)。
かつては雑誌掲載の短編やノベルスが候補になり受賞することも多かったが、現在は候補作に選ばれるのはほぼ四六判単行本に限られている。第143回では万城目学の『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』が新書版の本としては30年ぶりぐらいに候補になった。
また第144回以降、芥川賞とともに受賞記者会見の模様がニコニコ生放送で中継されている。
大百科に項目のある受賞作家
- 山崎豊子 (第39回『花のれん』)
- 司馬遼太郎 (第42回『梟の城』)
- 池波正太郎 (第43回「錯乱」)
- 藤沢周平 (第69回「暗殺の年輪」)
- 宮城谷昌光 (第105回『夏姫春秋』)
- 大沢在昌 (第110回『新宿鮫 無間人形』)
- 宮部みゆき (第120回『理由』)
- なかにし礼 (第122回『長崎ぶらぶら節』)
- 石田衣良 (第129回『4TEEN』)
- 京極夏彦 (第130回『後巷説百物語』)
- 奥田英朗 (第131回『空中ブランコ』)
- 朱川湊人 (第133回『花まんま』)
- 東野圭吾 (第134回『容疑者Xの献身』)
- 桜庭一樹 (第138回『私の男』)
- 北村薫 (第141回『鷺と雪』)
- 道尾秀介 (第144回『月と蟹』)
大百科に項目のある候補作家
- 阿久悠 (第82回『瀬戸内少年野球団』ほか計3回)
- 伊坂幸太郎 (第129回『重力ピエロ』、第131回『チルドレン』ほか計5回)
- 歌野晶午 (第146回『春から夏、やがて冬』)
- 冲方丁 (第143回『天地明察』)
- 恩田陸 (第133回『ユージニア』、第134回『蒲公英草紙』、第140回『きのうの世界』、第146回『夢違』)
- 貴志祐介 (第144回『悪の教典』)
- 古処誠二 (第132回『七月七日』、第135回『遮断』、第138回『敵影』)
- 小松左京 (第50回「地には平和を」「お茶漬の味」)
- 島田荘司 (第92回『倫敦と漱石ミイラ殺人事件』、第94回『夏、19歳の肖像』)
- 真保裕一 (第122回『ボーダーライン』、第123回『ストロボ』、第125回『黄金の島』、第129回『繋がれた明日』)
- 筒井康隆 (第58回「ベトナム観光公社」、第59回「アフリカの爆弾」、第67回『家族八景』)
- 貫井徳郎 (第135回『愚行録』、第141回『乱反射』)
- 福井晴敏 (第122回『亡国のイージス』、第132回『6ステイン』)
- 星新一 (第44回「弱点」「生活維持省」「雨」「その子を殺すな!」「信用ある製品」「食事前の授業」)
- 万城目学 (第137回『鹿男あをによし』、第141回『プリンセス・トヨトミ』、第143回『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』)
- 三崎亜記 (第133回『となり町戦争』、第136回『失われた町』、第139回『鼓笛隊の襲来』)
- 宮脇俊三 (第93回『殺意の風景』)
- 森見登美彦 (第137回『夜は短し歩けよ乙女』)
- 横山秀夫 (第120回『陰の季節』、第124回『動機』、第128回『半落ち』)
- 隆慶一郎 (第95回『吉原御免状』、第101回『柳生非情剣』)
似たような文学賞
吉川英治文学新人賞
講談社が後援する、大衆文学の新鋭作家の作品に贈られる賞。新進作家の「出世作」的な作品に与えられることが多く、直木賞の前に獲っておきたい賞、というポジション。だが、意外と直木賞との重複受賞率は高くなく、第20回(1999年)の山本文緒以降では、直木賞を獲った受賞者は第31回(2010年)の池井戸潤しかいない。
直木賞と違い受賞自体が話題になることは少ないが、受賞作はベストセラーになる話題作であることが多い。
主な受賞作に、
- 岡嶋二人『99%の誘拐』(第10回)
- 大沢在昌『新宿鮫』(第12回)
- 中島らも『今夜、すべてのバーで』、宮部みゆき『本所深川ふしぎ草紙』(第13回)
- 浅田次郎『地下鉄に乗って』(第16回)
- 真保裕一『ホワイトアウト』、鈴木光司『らせん』(第17回)
- 馳星周『不夜城』(第18回)
- 山本文緒『恋愛中毒』(第20回)
- 野沢尚『深紅』(第22回)
- 福井晴敏『終戦のローレライ』(第24回)
- 伊坂幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』、垣根涼介『ワイルド・ソウル』(第25回)
- 恩田陸『夜のピクニック』(第26回)
- 今野敏『隠蔽捜査』(第27回)
- 佐藤多佳子『一瞬の風になれ』(第28回)
- 朝倉かすみ『田村はまだか』、柳広司『ジョーカー・ゲーム』(第30回)
- 池井戸潤『鉄の骨』、冲方丁『天地明察』(第31回)
- 辻村美月『ツナグ』(第32回)
など。最新の受賞作は西村健『地の底のヤマ』(第33回)。
ちなみに「新人」のつかない吉川英治文学賞の方は、功成り名を遂げたベテラン作家の力作に与える功労賞である。
山本周五郎賞
新潮社が後援する、物語性の優れた作品に贈られる賞。直木賞を獲ったあとに山本賞を受賞した例は無く、直木賞を獲れなかった(もしくは獲れなさそうな)作家の残念賞的なポジション(ただし両方を受賞している作家も結構いる)。直木賞では受賞の可能性が低いファンタジーなどにも割と理解がある。
主な受賞作に、
- 吉本ばなな『TSUGUMI』(第2回)
- 佐々木譲『エトロフ発緊急電』(第3回)
- 稲見一良『ダック・コール』(第4回)
- 船戸与一『砂のクロニクル』(第5回)
- 宮部みゆき『火車』(第6回)
- 帚木蓬生『閉鎖病棟』(第8回)
- 天童荒太『家族狩り』(第9回)
- 真保裕一『奪取』、篠田節子『ゴサインタン 神の座』(第10回)
- 梁石日『血と骨』(第11回)
- 重松清『エイジ』(第12回)
- 岩井志麻子『ぼっけえ、きょうてえ』(第13回)
- 吉田修一『パレード』、江國香織『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』(第15回)
- 京極夏彦『覘き小平次』(第16回)
- 荻原浩『明日の記憶』、垣根涼介『君たちに明日はない』(第18回)
- 宇月原晴明『安徳天皇漂海記』(第19回)
- 森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』、恩田陸『中庭の出来事』(第20回)
- 今野敏『果断 隠蔽捜査2』、伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』(第21回)
- 貫井徳郎『後悔と真実の色』、道尾秀介『光媒の花』(第23回)
など。最新の受賞作は窪美澄『ふがいない僕は空を見た』(第24回)。
ちなみに山本賞受賞作が直木賞候補になることもあるが(『火車』とか『安徳天皇漂海記』とか『夜は短し歩けよ乙女』とか)、ダブル受賞を果たしたのは2011年時点で熊谷達也『邂逅の森』(第17回)のみである。一方、第24回で落選した池井戸潤『下町ロケット』が第145回直木賞を受賞した例もある。
また吉川新人賞、山本賞、直木賞の三冠達成者は現在、船戸与一、宮部みゆきの2名のみ。
で、ぶっちゃけどう違うの?
直木賞は「獲ると売れる」賞、
吉川英治文学新人賞は「売れると獲れる」賞、
山本周五郎賞は「売れなくても獲れる」賞、と書くとわかりやすい。
なお、吉川新人賞、山本賞ともに、直木賞を既に獲っている作家は候補にならないという暗黙の了解がある。
余談だが、純文学の方でも芥川賞への対抗馬的な賞ととして、やはり講談社が後援する野間文芸新人賞と、新潮社が後援する三島由紀夫賞がある。
その他
2004年にスタートした書店員の投票で決定する本屋大賞は、直木賞に対するカウンター的な側面もあり、直木賞受賞作がノミネートされることもあるが1位を獲得したことはない。
2010年には角川書店が、文学性よりもエンターテイメント性の強い作品に与える賞として山田風太郎賞を創設、第1回は貴志祐介『悪の教典』が受賞した。『悪の教典』は第144回直木賞候補にもなったが落選。第2回でも第145回直木賞で落選した高野和明『ジェノサイド』が受賞し、直木賞との性質の違いを明確にしている。
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関連項目
http://dic.nicomoba.jp/k/a/%E7%9B%B4%E6%9C%A8%E8%B3%9E


ページ番号: 657976
リビジョン番号: 1525333
読み:ナオキショウ
初版作成日: 08/10/22 23:43 ◆ 最終更新日: 12/05/10 18:49
編集内容についての説明/コメント: 候補作家に真保裕一追加
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