空飛ぶ広報室とは有川浩原作の小説。2013年4月14日からTBS系列「日曜劇場」で、全11回の連続ドラマが放送された。
概要
航空自衛隊航空幕僚幹部総務部広報室を主たる舞台とし、航空自衛隊広報官の活動、そして広報活動を通じて空自の様々な部隊・職種について描いた作品。
原作者の有川浩が航空自衛隊を取材する為に空幕広報室に接しているうちに、「あれ?広報室を舞台にした方が面白いんじゃね?」と気づいたのが書くきっかけ。広報室の面々は名前などは架空のものであるが、モデルとなった実在の人物がいる。
小説は2010年から連載が始まり、当初は2011年に単行本を刊行予定だった。だが東日本大震災が発生を受け刊行を1年先延ばしになる。そして津波被害に遭った松島基地を描く「あの日の松島」を加筆し、2012年7月に刊行された。
ドラマ版は原作を踏まえつつ様々なエピソード・キャラクターを加えている。原作における「あの日の松島」のエピソードに向けて制作するという意図もあり、時代設定は放送当時ではない。1話~9話が2009(1話冒頭)~2010年8月頃、10話が2011年2月~3月11日午後2時46分、11話(最終回)のみが2013年になっている。
これまでも自衛隊の実戦部隊が度々メディアで取り上げられてきたが、広報室という完全に裏方の職業にスポットライトを当てた希少な作品。加えて自衛隊を物語の主軸にした連続ドラマというのは今のところこれだけであろう。
あらすじ
空井大祐2等空尉はF-15のパイロットでブルーインパルスへの転属が決まっていたが、交通事故に巻き込まれ右膝を負傷。パイロットとしては再起不能な傷害を負ったことでP免(パイロット罷免)になってしまう。空井の新たな任地は空幕広報室。航空自衛隊に関して国民の理解を得る為に、様々な広報活動を行う部署である。
そこで空井は、帝都テレビのディレクター・稲葉リカと出会う。二人は時にぶつかり合いながらも、異なった立場で自衛隊を社会に伝える為に働いていくことになる。
主な登場人物
主人公
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空井大祐2等空尉(1等空尉) - 綾野剛
- 空幕広報室に来て間もない新米広報官。航空学生出身。子供の頃に見たブルーインパルスに憧れて航空自衛隊のパイロットを志し、無事にF-15のパイロットになる。そして憧れのブルーインパルスに配属になる直前、交通事故によって受けた怪我が原因でP免になってしまう。不幸な事故で志を折られて惰性で生きていたが、稲葉と接していくことで広報官の仕事にやりがいを見出して行き、活き活きと仕事をするようになる。
- 話す順番がおかしく、稲ぴょんが無駄にドギマギ、視聴者が2828することも。一級フラグ建築士の資格があると思われる。
- 東日本大震災の後に松島基地に志願して異動。松島基地の広報官として、自衛隊の活動を知らせていく。ドラマ版最終回では1等空尉に昇進。一度は稲ぴょんとは別々の道を歩もうとしたが、2013年にブルーインパルスの取材に訪れた稲ぴょんと再会し、バーティカルキューピッドと詐欺師・鷺坂による既成事実化、阿久津守の既成事実拡散の甲斐あって稲ぴょんと結婚した。勤務地が離れているから遠距離婚ではあるが、空はつながっているから大丈夫。
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稲葉リカ- 新垣結衣
- 帝都テレビ情報局のディレクター。「帝都イブニング」という夕方の情報番組を担当している。元々は報道局の記者で警視庁記者クラブ付きだったが、事件の容疑者の家族にしつこく付きまとって取材をするという問題を起こす。しかもその容疑者が無実だったため、情報局に左遷されてしまった。不本意な立場で不本意な仕事をしていたが、航空自衛隊の取材を重ねていくうちにディレクターの仕事にやりがいを見出す。
- 空井が異動してからも心残りはあったが、彼の気持ちを汲んで自分は自分で歩いて行こうとしていた。しかし空井の項で述べたような詐欺師や仙人の活躍もあって空井と結婚する。
- 愛称は稲葉と因幡の白兎を引っ掛けた稲ぴょん。空幕広報室の者以外は使わない。
航空自衛隊
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鷺坂正司1等空佐- 柴田恭兵
- 影の主役とも呼べる存在。高射畑を歩んだ広報室長。営業マンのように言葉巧みな交渉術で有利な条件を引き出し、限られたリソースの中で最大限に航空自衛隊の活動を国民に認知して貰おうと務める。普段は飄々としているが職務には誠実。非常に部下思いで優しく接するのだが、間違ったことをした時には厳しく接する。理想の上司。阪神大震災の折、出動待機中に入院中の妻を亡くした。今でも愛妻家で独身を貫いている。
- 2011年3月5日をもって定年退職を拝命し、民間人の鷺坂さんになった。以後は被災した隊員家族の捜索、震災復興支援の手伝いを行っている。
- あだ名は詐欺師・鷺坂。知り合いになったオバサマ方からは「サギちゃん」と呼ばれている。相手を上手く丸め込んで仕事をしていくのが所以。
- 柚木典子3等空佐- 水野美紀
- 槙博巳3等空佐- 高橋努
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片山和宣1等空尉(3等空佐)- 要潤
- 本当の主役は彼ではなかろうか。広報班。かつて小松基地の広報担当だった時、比嘉1曹とPV撮影に協力したことがある。当時は小松の名コンビと呼ばれていた。民間の広告代理店で1年間の部外研修をした経験があり。原作では妻帯者だが、ドラマ版では独身。後者ではそれに加えて、アニメや漫画などヲタク文化に精通し、そこからパクったネタを広報に使おうとする残念なイケメン。パクりネタは初音ミクをパクった「初音ブブカ」や、けいおん!をパクった「くうおん!」など。
- 小学生の頃は漫画家に憧れており、そのためかイラストを描くのが得意(原作内の台詞にいわく「ポケモンならパーフェクト」だとか)仕事上でもその腕はCMの絵コンテ作成などに遺憾なく発揮される。……もしかして初音ブブカとかくうおんとか、自分で描いたんじゃなかろうな、片山。
- かつて一緒に仕事をし、自分より経験があって業務に精通していた比嘉1曹を尊敬しており、階級も能力も対等な立場でまた一緒に仕事をしたいと思っていた。だが数年経っても空幕広報室で再開した比嘉が1曹のままだったことから、「比嘉は気楽にやりたいだけ、向上心が無い」と思い距離を置くようになる。だがそれが誤解だと分かり、また空井の働きもあって比嘉と和解する。
- 最終回では3等空佐に昇進し、婚活に励んでいる。その甲斐もあってプロポーズに成功した。
- 作中では特に愛称はないが、ドラマ版9話の展開もあって視聴者からチョメ山と呼ばれるようになる。中の人曰く「誰がチョメ山だ」。
- 比嘉哲広1等空曹- ムロツヨシ
- 幹部選抜試験は合格間違いなしといわれているが、本人は毎年受けていない。だがそれは片山が思うような向上心の無さからではなく、あえて転勤が少ない空曹のままでいることで、広報の業務を後々まで引き継ごうという彼なりの哲学からである。
- 主要メンバーの中で唯一、2013年現在でも空幕広報室に残っている。
- 公式の愛称は特に無いが、ドラマのファンからはメレブと呼ばれている。顔芸もメレブっぽいと言われている。
- 小暮聡2等空佐- 岩寺真志
- 石橋栄治2等空曹- 大塚ヒロタ
- 浅野秀樹航空幕僚長(空将)- モト冬樹
帝都テレビ
- 阿久津守- 生瀬勝久
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藤枝敏生- 桐山漣
- ドラマ版オリジナルキャラ。帝都テレビのアナウンサーで、帝都イブニングの街角グルメなどを担当している。イケメンで稲ぴょんの同期のリア充。アナウンサーであるが、原稿を読むときに噛む癖がある。稲ぴょんとは仲は良いが恋愛関係は無い。チャラチャラした風貌で女癖も良くないが、常識や良識は稲ぴょんよりある。風貌に似合わず真面目で一生懸命仕事に取りくんでいる。但し噛む。
- 報道番組をやりたいという志からストレートニュースを担当したが、噛み癖連発で失態を演じて落ち込んだこともある。その時は珍しく、稲ぴょんから励まされた。
- 2013年には噛み癖も直っており、報道番組を任されていた。
- 愛称はチャラ男。当初はネット掲示板などでリアル視聴者がそう読んでいたが、話数が進むと劇中視聴者からもチャラ男と呼ばれていることが判明した。もちろん悪口である。
- 佐藤珠輝(じゅえる)- 大川藍
- 坂手はじめ- 渋川清彦
- 大津裕一- 前野朋哉
芸能人
レギュラー以外の登場人物
特定のエピソードの登場人物をここにあげる。ドラマ版ではゲスト出演のような形で俳優が出演することになるのだが、演じる俳優がその役に自然に合っていて「これって本物の人?」と思えることも多い。
- 帝都イブニングの放送中に副調整室にいたディレクター- 夙川アトム (ずきあかのちゃんねー)
- 古賀義正准空尉- 的場浩司 (ヤンキーの人)
- 岩崎千鶴- 石橋菜津美 (可愛い)
- 金谷2等空佐- 勝俣州和 (シャーッ!)
- 原田1等空尉- 金剛地武志 (エアギター)
- 陸幕広報室長- 八代英輝 (サンジャポの弁護士)
- 前園- 芋洗坂係長 (田口浩正の元相方)
- セラフィン- 釣りビット (リアル新人アイドル)
- 佐伯- 鈴木亮平 (変態仮面)
- 芳川秋恵空士長- 南明奈 (アッキーナ)
- 小日向耕三- 中村ゆうじ (パントマイム)
- 山本3等空佐- 富澤たけし(サンドウィッチマン)
- 神谷空士長- 高山侑子(レスキューウィングのパイロット)
ネタ
作中では様々な小ネタが入っている。幾つか挙げてみよう
ネタ | やった人 | 説明 |
「18%取ると言ったら刑事モノで、 『あぶ・・・』じゃなくて『はみ・・・』じゃなくて、『あ、相方?』」 |
鷺坂 | 「あぶ・・・」は「あぶない刑事」、 「はみ・・・」は「はみだし刑事情熱系」。 いずれも柴田恭兵が主演。 「相方」は「相棒」のことであり、 放送枠が「はみだし」と同じテレ朝水9。 |
「関係ないね」 | 鷺坂 | 柴田恭兵の持ちネタの一つ。 久々に見た。 |
「ちょ、ちょ待てよ」 | 片山 | 木村拓哉がドラマでよく言うセリフ。 最初は誰も気に止めていなかったが、 ホリがモノマネしたことで注目を浴びた。 片山はホリのモノマネをさらにマネした感じ。 |
「ダンディー鷺坂!セクシー鷺坂!」 「あぶない、あぶないです」 |
鷺坂 比嘉 |
送別会における「あぶない刑事」ネタ。 舘ひろし演じる鷹山刑事が「ダンディー鷹山」、 柴田演じる大下刑事が「セクシー大下」、 というニックネームをそれぞれ持っている。 比嘉の「あぶないです」という突っ込みは、 「ネタがあぶない」というダブルミーニング。 |
BGM 「探偵ガリレオ」 「vs. ~知覚と快楽の螺旋~」 |
片山 | 同じく送別会にて。 片山が今更な話を推理する時に流れた。 またフレミングの法則のポーズもとっている。 この場面をやるにあたっては、金田一少年、 古畑任三郎も候補に上がったらしい。 全部他局ネタである。 ソース |
本物の広報室と比べてどうか?
ドラマは自衛隊全面協力なのでかなりリアルに作られて入るが、ドラマゆえに現実との相違点もある。どういう点が一致していて、どういう点が異なるか。ざっと書くと。
- 机のレイアウトはドラマと本物はほぼ同じだが、部屋は本物の方が少し狭い。
- 本物の報道班の机はドラマに近く割と整頓されているが、本物の広報班は色んな資料が乗っかって結構ゴチャゴチャしている。前期教育なら机が逆さまになり、PCモニターがマウスパッドになり、資料が窓下に散乱してしまうレベル。
- ドラマで使われている小物類(模型とか)は本物が貸したのでそのまま。
- 本物の広報官の髪型は、俳優よりはるかに短いか全く無い。
空飛ぶ広報室が書かれるまで
ざっとこんな感じ。
- 有川浩が海自広報の人に、当時の空自広報室長(リアル鷺坂)を紹介してもらう
- 空自の小説を書く前提で取材が始まる
- 室長、なぜかテレビのプロデューサーなども有川に紹介。最初からドラマ化を狙っていたらしい
- 取材を進めていくうちに、有川は広報の部署そのものが面白いことに気づく
- 小説が連載され、後に追加エピソードを加えて単行本化
- 無事にドラマ化、当時の室長の狙い通り
つまり空飛ぶ広報室の裏側も、空飛ぶ広報室だったのである。
当時の室長もまた高射畑を歩んだ人で、辣腕室長であった。今は空将補に昇進して基地司令になっている。
ドラマの宣伝効果
ドラマの中で鷺坂室長は、帝都テレビのドラマ撮影協力による宣伝効果について「日9で3分、人気俳優キリーの高視聴率ドラマ、宣伝効果はざっと2億円」と言っていた。では日9で1クール、航空自衛隊が出ずっぱりのドラマ版「空飛ぶ広報室」は一体どれほどの宣伝効果があるか?
その答えはニコニコ超会議2で示された。リアル広報室の「AKAさん」こと赤田賢治3等空佐によれば、ドラマ化とそれに伴う取材の増加により、付随効果も含んだ全体で1500億円の宣伝効果があるとの試算が示されていた。空自の年間予算が1兆円程度なので、年間予算の15%程度の宣伝効果があることになる。スゲェ。
またこのドラマにより、航空祭ではリアル広報室も人気だという。比嘉1曹が空井に述べた「まずは取っ掛かり。その先に理解があります」という広報の意義は、十分に果たしていると思われる。
なぜ広報活動が必要か
作中で稲ぴょんは「売り上げも関係ない自衛隊が、なぜ広報を行わなければならないのか」と質問していた。これに対し鷺坂室長は「有事の際、例えば災害派遣において、国民の皆様の理解があればこそ出来ることがある」とし、広報を行いその活動を理解してもらうことが重要であると説明している。
これとほぼ同じ内容のことではあるが、広報室の赤田3佐もメディアの取材に対し述べている。
【広報インタビュー】赤田 賢司さん 防衛省 航空自衛隊 航空幕僚監部 広報室 広報班
それから、航空自衛隊にとても興味を持ってくださる飛行機マニアの方がいる一方で、自衛隊の存在そのものに反感をもたれている方もいる。また、大多数の方は、反感は持たないまでも無関心である。私たちが広報活動をしていく対象はこのような方々なんですね。
一般企業なら、反感を持っている方にはアプローチせず、無関心な方に関心を持ってもらう、というところから始めてもいいのかもしれません。でも、我々はそういうわけにはいきません。自衛隊の存在に賛成してくれる人も、反対している人も、すべてが国民であり、我々には守る義務がありますから。
― 反対される方の存在が問題となるのはどんなときでしょう?
その前に、まず広報官として肝に銘じておくべきは、自衛隊に反感を持つ人の存在は、自分たちの広報活動が行き届いていないことの表れだということです。自衛隊の活動を十分わかっていただけていないから、感情だけで動かれている部分が少なからずある。誤解が生まれるのは情報の不足、理解の不足によるところも大きいのです。
たとえば大きな災害が起きたとき、私たちは真っ先に被災地に出向きます。理解ある人たちの元へは支援物資を迅速に届けることができます。一方、反対される方に、「なぜ、ここを通るのか」あるいは、「自衛隊の物資は受け付けない」と言われてしまい身動きがとれないこともある。理解が得られなければ、国民を守るという任務そのものが遂行できなくなってしまうんです。
一般企業なら反感を持つ人を避けて広報することもアリだが、自衛隊は反感を持つ人にも理解して貰わないといけない。その人たちも守るべき対象であり、その人たちの理解があればこそより多くを助けることに繋がるから。もしかしたら「そんな奴放っておけよ、自衛隊の助けを受けずにそのまま死ね」と思う人もいるだろうが、自衛隊はそういうわけにいかないのである。有名なコピペにある「そういう人達も守るのが自衛隊です」そのままの考え方があり、これを達成する為に広報が必要ということである。
このことをドラマ版で考えてみよう。ドラマを見た視聴者には「自衛隊って、こういうこともやっているんだ」と知る機会を得た人もいるだろうし、無関心だった人で関心を持った人もいるだろう。自衛隊に反感を持っていた人も、ドラマだけで考えを変えるとは思えないが、将来的に意識が変わるきっかけになるかもしれない。そして将来に有事がおきた際、自衛隊に協力してくれたり、少なくとも邪魔はしなくなるだろう。それが広報である。
というわけで既に興味のある人も、この作品を通じて興味を持った人も、色々調べてみたり各種イベントに出かけてみてはどうだろうか。きっと新たな発見があるだろう。但し車を逆送させたり、自衛官に「俺を誰だと思っている!」とかケンカ売ったらダメだよ。
「広報」の物語として
物語の中心となるのが空幕広報室だけあって、広報活動をする様子が全編通じて描かれている。では広報の描き方としてはどうなのだろうか。この点を論じたブログを紹介したい。
ブログを書いているのはベンチャー・中小企業向けに広報・PRのコンサルタントをやっている会社。ブログの内容はドラマ版・空飛ぶ広報室の内容を踏まえ、描かれているものを一般的な広報・PRの話に置き換えてみるというもの。詳しくは当該ブログを読んでもらいたいが、まぁ「だいたいあってる」ということだと思う。
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