総統の顔(Der Fuehrer`s Face)とは、アメリカで製作されたディズニーの短編アニメーションである。
概要
製作を担当したのはウォルト・ディズニー・プロダクション。れっきとしたディズニー作品である。
主人公にドナルド・ダックを据え、今でも色褪せぬ高いクオリティを誇っている…のだが、この作品が公開されたのは1943年1月1日。第二次世界大戦真っ只中で、日独伊の枢軸国と米英ソ中の連合国が殴り合っていたのである。そんな時勢の中で製作されたため、内容はプロパガンダと枢軸国を風刺したものとなっている。家族向けの作品を作るディズニーも昔はプロパガンダ作品を作っていたのだ。
映画公開前は「ナチランドのドナルド」という題名だったが、オリバー・ウォーレスによって作曲された挿入歌「総統の顔」に改名。本作は第15回アカデミー賞のアカデミー短編アニメ賞を受賞している。
あらすじ
ナチランドというナチス式敬礼を模した物で溢れ返っている町に住むドナルド・ダック。起床と同時にヒトラー、昭和天皇、ムッソリーニに敬礼し、配給で配られたノコギリでないと切り分けられないほど粗悪なパンを朝飯とする。そして服に着替えると兵器工場で1日48時間の過酷な労働につく。
ドナルドは砲弾の生産を担当し、ベルトコンベアから流れてくる砲弾の弾頭を締める作業を行う。しかし規格が統一させておらず大から小まで締めさせられ、しかも何故か砲弾に混じってヒトラー総統の写真も流れてきて、そのたびにナチス式敬礼をしなければならないというギャグ(と皮肉)も描写されている。愚痴をこぼせば四方八方から銃剣を押し付けられて脅される。過酷な環境に耐えて作業を続けていると総統閣下の配慮で休憩が与えられた。しかしその休憩とは、手書きのアルプスの背景を僅か数分見るというものであった。短い休憩が終わると再び過酷な労働が始まる。過労により、ついに倒れたドナルドは砲弾が飛び交うおかしな世界を幻視する。
目が覚めると今までの事は夢だった。ドナルドはナチランドではなくアメリカの国民だった事に喜び、「アメリカ国民で良かった!」と言って物語は終わる。最後はヒトラー総統の顔に目掛けてトマトが投げつけられ、その飛沫がTHE ENDの文字となって終幕。
小話
- 1941年12月8日に行われた真珠湾攻撃がきっかけで、アメリカ兵500名がカリフォルニアのディズニースタジオに進駐。軍用車の修理と対空兵器の管理という名目で録音スタジオが占拠される事態になった。さらに駐車場には300万発の弾丸が置かれ、あっという間にスタジオは軍事施設と化した。このためディズニー側はアメリカ軍や政府の指示に従わざるを得なくなった。当時ディズニーのスタッフは若者が多く、徴兵されないようウォルトは軍の意向に沿ってアニメ製作を開始。「総統の顔」もその一環で作られた。
- 総統の顔を含む戦中の戦意高揚アニメは、軒並みドナルドが主人公である。これは「お行儀の良い」ミッキーマウスに(プロパガンダとは言え)汚れ役をさせる訳にはいかず、公式でチョイ悪キャラ設定のドナルドがおあつらえ向きだったからである。皮肉な事に、そういった戦意高揚アニメに出演した影響でミッキーマウスより出演作が多くなった。
- あまりにも政治色が強いからか、アメリカ本国ですら戦後長らく放送される事は無かった。2004年以降になってようやくDVDボックスに収録されたが、日本版はカットされてしまっている。
- なお最後のオチについてだが、一見アメリカを肯定する内容だが、ドナルドは自由の女神像をヒトラーのと勘違いしており、「どっちもどっち」「気を抜くとアメリカもこうなるぞ」ということを示している説もある。軍によって、自分の作りたい作品が作れなくなったディズニー側の抵抗とも取れる。
関連動画
関連項目
- 3
- 0pt