この記事では連結装置のうち、自動車で使用されるものについて述べる。鉄道車両のものは連結器の記事を参照。
概要
トラクター、トレーラー(被けん引車)及び連節バスの記事も参照。
この記事で言う連結装置とは、セミ/フルトラクターとトレーラー、農業用トラクターと作業機、連節バスなどで使われるもののこと。街中から高速道路まで走行可能で、連結される車両同士を安定して結節することを目的とした装置を意味する。自動車同士を結節するものとしては、故障時に用いる牽引フックと牽引ロープ、レッカー車のアームなどもあるが、ここでは取り扱わない。
第五輪とキングピン
第五輪とはセミトラクターや着脱式ドーリーに備わる連結部のこと。第五輪は英語でFifth Wheel (coupling)といい、これを和訳したものが第五輪となる。キングピンとはセミトレーラーに備わる連結部で、車体前部から垂直方向に伸びているピン。第五輪とキングピンは対を成して役割を果たす。第五輪は日本では「カプラ」とも呼ばれるが、これはカップリングを縮めた和製英語であり、また腐った意味はない。
第五輪の中央にはキングピンを差し込む穴があり、その周囲にはトレーラー前側を支える台の部分がついている。穴にはロック機構があり、解除レバーを引くまでキングピンが抜けないようになっている。分かりやすい例えがあるのだが、下ネタなので自重しておく(→どうしてもと言う人はだいしゅきホールド を参照)。こういった構造から第五輪にはトレーラーの荷重がかかるようになっており、また荷重の上限が定められている(第五輪荷重)。これは普通のトラックで言えば最大積載量に相当し、第五輪荷重を超えるセミトレーラーを連結・牽引することはできない。
自動車は曲がる運動をするので、第五輪もそこを関節として曲がるようになっている。第五輪における旋回中心はキングピンとそれが差し込まれる穴である。また、セミトラクターとトレーラーはバラバラにピッチング(前後傾斜)とローリング(左右傾斜)をするので、第五輪も上面部がトレーラーに合わせて可動するようになっている。どんなものでも最低でもピッチングには対応しており、悪路走行が想定される場合にはローリンングに対応した第五輪を使用する。
第五輪の起源
セミトラクターに備わる第五輪の源流となるのは、四輪馬車の前軸に備えつけられていた第五輪である。その役割は前軸が左右に旋回できるようにすることと、車体重量を受け止めること。その機能は、鉄道のボギー台車についている心皿に近い。
大まかな構造を言うと。まず、馬車は前後軸の上に車体が乗っかる構造をしており、車軸の上に車体重量がかかる。四輪馬車の場合は、前後の車軸が分散して車体重量を受け止めるわけだ。第五輪が付いているのは車体と前軸の間。これがあることで、前軸は車体を支えながら左右に転舵する事が可能となっている。そして前軸からは轅(ながえ、長柄とも)という二本の棒が前に付き出ており、これで馬を挟みこんで軛(くびき)という馬具で馬と連結される。こうすることで馬の牽引力は「軛→轅→前軸→第五輪→車体」という順番で伝わり、馬車は前後進することができる。また第五輪があることで、前軸は馬に追従して転舵し、馬車が滑らかに旋回する事もできるわけだ。自動車の第五輪はこれを応用したもので、「馬+前軸」の役目をセミトラクターに、「車体+後軸」の役目をセミトレーラーに、それぞれ置きかえるとだいたいあってる。
第五輪そのものは、馬車の部品として20世紀初期まで発展していった。これを自動車へ本格的に応用したのが、アメリカのトレーラー専業メーカーであるフルハーフ社。同社は元々は馬車屋兼鍛冶屋だったのだが、その時に顧客からの依頼でセミトラクター/トレーラーのデザインを生み出した。その経験に基づき、トレーラー専業メーカーとなったのである(詳細はフルハーフの記事で)。
ピントルフックとルネットアイ
フルトラクターとトレーラーや、セミトラクターとポールトレーラーなどで使われる方式。ピントルフックは通常はトラクターに備わるもので、名前の通りのフック状をしている。形状は、鉄道のネジ式連結器に似ている。ルネットアイは穴の開いた輪であり、トレーラーの車体や台車から伸びるドローバー(牽引棒)の先端についている。連結する時は、ピントルフックにルネットアイを引っ掛けて固定する。垂直方向の荷重(重さ)をあまり重視せず、水平方向の荷重(引っ張る力)を重視した構造になっている。
これが採用される車両は、連結装置にかかる荷重をあまり考えなくても良いものである。フルトラクター/フルトレーラーだと、フルトレーラーの車輪でその車重の殆どを支えられるので、セミトレーラーのようにトラクターに車重を分散する必要がない。またポールトレーラーは、貨物自体がセミトレーラーにおける車体の役割をし、重量をセミトラクターの後部車軸にかけている。よってポールトレーラーとセミトラクターを直接繋ぐ連結部には荷重がかからないので、ピントルフックとルネットアイが用いられている。
スイングドローバーと三点ヒッチ
主に農業用トラクターに備えられ、農作業機や農業用トレーラーを連結する為のもの。何れもトラクター後部に備わるもので、大抵のトラクターは両方がつけられている。スイングドローバー(首振り牽引棒)は、先に述べたピントルフックと似た形状の部品で、名前の通り左右に首振りする機能を持つ。三点ヒッチは三角形状に配置された三本の固定金具のこと。
農業用トラクターのスイングドローバーはピントルフックと違い、ある程度の垂直荷重を受け止める、つまり農作業機の重量を受け止めることを考慮されていること。また必ずしも単体で使われるとはかぎらず、三点ヒッチと併用して使われることもある。併用するほうが、単体よりも大きな垂直荷重に耐えられる。三点ヒッチは農作業機を持ち上げる機能を有しており、車輪を有していない作業機は、三点ヒッチを介してトラクターに完全に持ち上げられて作業を行う。また地面を耕す、種を撒くなどの作業に対応するため、三点ヒッチは作業内容に応じて高さを細かく調整する機能もある。
作業機側はその目的に応じて様々な種類と大きさのものがあり、故に連結器の形状や方法も一種類ではない。ルネットアイになっているもの、三点ヒッチに対応したもの、その両方など。例えば播種機(種撒き機)一つとっても、三点ヒッチに固定され抱えられる小型のものから、車軸を持ちドローバーと三点ヒッチを併用する大型のものまで幅広くある。
連節バス
連節バスの連結装置は、今まで述べたものとは全く異なる性質を持つ。まず、連節バスは前後の車両が半永久固定編成であり、これまで述べた車両のように自由に連結解除できるわけではない。連結解除がされるのは重整備や修理の為に工場でお風呂に入っている時ぐらいであり、連結装置も工具を用いなければ外すことができない。よって連節バスの連結装置は、鉄道車両で例えれば半永久連結器に性質が近い。
もう一つ重要なのは、現代的な連節バスは最後尾の車両にエンジンと駆動軸が備わっていること。つまりトラクターがトレーラーを引っ張るのではなく、最後尾の車両が作り出した推進力で編成全体が進んでいく。こういう連節バスの場合、第五輪やピントルフックのように回転を抑制するものがない連結装置だと、バスが安定して直進するのは困難である。よって押す力で推進する連節バスにあっては、関節部に曲がる力を抑制する装置が必要となる。
日本における法的定義と保安基準
そのあたりのことを細々と語る前に、まずは参考資料として、日本の保安基準の細目で定められている連節バスの構造要件を引用しよう。
1.適用範囲
この構造要件は、連節バス(連節部により結合された2つの堅ろうな車室 で構成され、車体が屈折する特殊な構造を有し、前車室と後車室の連結及び 切り離しが路上等作業設備のない場所で行えない構造の自動車であって、旅 客が前後の車室間を自由に移動できる構造のもの)であって、車掌を乗務さ せないで運行される乗車定員 11 人以上の旅客自動車運送事業用自動車に適 用する。2.用語の定義
2.1. 「連節部」とは、前車室と後車室をつなぐ幌、ターンテーブル、ター ンテーブル下の連結装置等から構成される部分全体をいう。
2.2. 「連結部」とは、連節部のうち、ターンテーブル下の部分をいう。
2.3. 「ターンテーブル」とは、方向転換のために使用する回転台をいう。3.2. 連結部
3.2.1. 連結部の可動部分は、水平軸(幅方向)及び鉛直軸まわりの回転運 動が可能であること。なお、この両軸は、連結部の中心で交差し車両の中心軸に対して直角であること。
3.2.2. 前車室と後車室とのなす鉛直軸まわりの角度が安全な運行に支障 をきたす状態にならないような装置を備えること。なお、安全な運行に支 障をきたすおそれが生じた場合に、運転者にその旨を警告する装置を備え ること。
適用範囲に書かれている括弧内が、連節バス自体の定義と言ってもよい。車体が屈折す構造で、作業設備のない場所で切りは無しができず、前後に人が移動できるのが連節バスということ。簡単に解除できるのはトレーラーバスとなり、関節が付いている点では同じと言えるが、連節バスとは別の乗り物である。連結部は左右方向へ曲がり、また上下の曲げにも対応しろと書いてある。人間の手首のような動きはしてくれということだろう。またそれらの回転軸は連結部の中心で交わっており、オフセットしてはならないとある。オフセットしていると、右曲がりのダンディになるからではなかろうか。
連結部の構造
そんな連結部はどんな形をしているかと言うと…言葉で説明しても1/3も伝わらないと思うので、とりあえず連結装置メーカーのカタログを見て欲しい。リンク先の12ページと13ページね。えらくゴツい部品が出てきたが、それが幌が有る場所の床下に収まっている。
HNGK19.5とHNG15.3は、回転部を挟みこむように2本のダンパーが付いている。またSKD420は統合型関節減衰機構が備わっていると書かれている。これらは現代的な連節バス、つまり後部の車両が編成全体を押して進むものに対応するため。連結部の曲がろうとする動きを抑制し、常に真っ直ぐになるような力を働かせており、それによってバスは安定して直進することができる。
HNG17.0にはそういったものがついていないが、説明には『For puller vehicle』、つまり牽引式用となっている。これは昔ながらの前部車両にエンジンが搭載され、編成全体を牽引しながら進んでいくバスに使われるもの。この場合は前部車両がトラクターの、後部車両がトレーラーの役割になるので、連節装置も単純なものになっている。
また、カタログにはElectric Articulation Control(電子制御関節)とか、Dynamic Adjustable Damping(能動的減衰調整)とあるので、運転操作に応じて連結部を能動的に制御するはず。
関連項目
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