戦後十年、日本の人々は「もはや戦後ではない」を合言葉のように、目覚ましい復興を遂げ、新しい生活への道を歩み始めていた。
ただし、そんな時代の波に乗りあぐねている者たちを残して……
鉄人28号(2004年版)とは、今川泰宏監督による、鉄人28号のTVアニメリメイク作品である。
過去のTVアニメ版(初代)を意識した演出こそあるが、その内容のほとんどは完全なオリジナルである。
他のバージョンと区別を付けるため、監督の名前にちなんで今川(版)鉄人と呼ばれることもある。
概要
横山光輝漫画のファンとして知られる今川泰宏が手がけた、横山光輝原作アニメ第二弾。
以前のジャイアントロボを彷彿とさせる演出こそあるが、中身は当たり前ながらも大きく異なる。
昭和30年代の世界観がこと細かく再現されており、OPには昭和の街並みを突き抜けたり、お化け煙突周辺を旋回する鉄人の姿などが描かれているのが印象的。
第一話のアバンタイトルシーンや、躍動感溢れる完成度の高いOPから純粋な娯楽作品と誤解されがちだが、この作品は突如戦争の遺物/究極の力を手に入れてしまい、同じ名前と父を持つもう一人の自分と向き合わなければならなくなった、一人の少年の苦悩の物語である。
よってロボットアニメでありながら、メインの鉄人はいくらかの見せ場こそあるが、アクションシーンは限られる。
かつてのジャイアントロボでもその傾向はあったが、ロボの活躍するシーンは非常に描きこまれていた。
しかし鉄人はジャイアントロボとは違い、制作環境があまり良くなかったことや、ケチで有名な大月俊倫の厳しい予算采配もあって、今川が理想とするロボットアニメに必要とする動画枚数が確保出来なかった。
このため、元々はロボット活劇にする予定だったが、方向転換してテーマの重い人間ドラマとなった。
後に劇場版の製作が発表されるも、その後数年間まったく音沙汰がなかった。
実写版鉄人28号の大失敗もあり、「お蔵入りした」とまで言われていたが、 公開予定から二年遅れた後、「鉄人28号 白昼の残月」として公開された。
スタッフ
- 原作:横山光輝
- 監督・シリーズ構成:今川泰宏
- キャラクターデザイン:なかむらたかし
- 美術監督:東潤一
- 色彩設計:菊地和子
- 撮影監督:土田栄司
- 編集:瀬山武司
- 音楽:千住明
- 音響監督:本田保則
- プロデューサー:田中渉、五郎丸洋介、森尻和明
- アニメーション制作: パルムスタジオ
- 制作:GENCO、ガンジス
- 製作:敷島重工
登場人物:キャスト
- 金田正太郎:くまいもとこ
父が開発した旧日本軍の最終兵器・鉄人28号の操縦者で、自分と同じ名を持つ鉄人の存在に苦悩する少年探偵。精神的未熟さを強調して描かれてはいるが、やはりそこらの大人よりも賢いところは賢い。 - 敷島博士:牛山茂
正太郎の父・金田博士の助手にして敷島重工の社長。善良な科学者に見えるが、実はマッドサイエンティスト。序盤から胡散臭い言動を繰り返し、中盤には自殺を遂げるという衝撃の展開から、視聴者からは良くも悪くも存在そのものをネタにされている。自作した27号が、師の開発した鉄人28号に破壊されるのを見てヘブン状態になる姿が有名。 - 大塚署長:稲葉実
正太郎の育ての親。人情に厚い好漢。物語後半にて署長を更迭されプーの大塚になるが、金田探偵事務所を勝手に作り、そこの所長の座に収まる。結局は元の職に復帰した。なお、巨大な手錠を召喚してカツ丼食わせたりはしない。 - 村雨健次:幹本雄之
元ギャング。兄と子分の死に加え、投獄されたことがキッカケで足を洗う。鉄人によって兄を奪われたと考えており、その後新聞記者となって鉄人を社会的に攻撃しようとする。自称「不死身」。銃は使わない主義で、武器はナイフ。 - 高見沢秘書:石塚理恵
大塚署長の秘書を務める女性。今作のオリキャラで原作には登場しないキャラクター。活発なお転婆娘であり、とかく陰鬱で色気の少ない本作における貴重なムードメーカー&セクシー要員である。劇中ではなんと彼女も鉄人を操作する場面があるのだが、その腕前は……お察し下さい - 官房長官:石森達幸
- 金田博士:飯塚昭三
- 関刑事:関智一
- 村雨竜作:若本規夫
- 不乱拳博士:鈴木泰明
- スリルサスペンス:秋元羊介
- スペンサー大佐:福田信昭
- ケリー/ジョンソン:原康義
- ドラグネット博士:有本欽隆
- ブラック博士:家弓家正
- 八木勝裕:矢島正明
- ブラックマスク:平田広明
- 有本博士:滝口順平
- 梅小路綾子:一城みゆ希
- ビッグファイア博士:中村正
- ベラネード:内海賢二
- クロロホルム:西村知道
- ナレーション:鈴木弘子
登場メカ
- 鉄人28号(正太郎)
- 26、27号
- モンスター
- ブラックオックス
- バッカス
- ギルバート
- ロビー
- VL-2号
- サターン
- カニロボット
- ギャロン
- ギド
- ファイアⅡ世/Ⅲ世
- ◯八一五
- B-89(OP映像にのみ登場)
余談
- 今作の声優も今川泰宏のお気に入り声優が数多く参加しており、ジャイアントロボを意識した面も見られる。
特に村雨健次はジャイアントロボに登場する不死身の村雨健二と同じ幹本雄之が演じ、二つ名も同じである。(ただし鉄人の場合はほぼ自称) - ジャイアントロボの策士・諸葛亮孔明の名台詞「だまらっしゃい!」を、同じく中村正演じるビッグファイア博士が言うシーンがある。
- 今作の28号とジャイアントロボのGR-1の起動音は同じであるが、元祖鉄人28号の起動音が使われてる部分もある。
- 第一作と同じくグリコがスポンサーである。元々ノリ気ではなかったグリコだが、第一話を見た後は「これはウチがスポンサーやらないと恥をかく」と好意的に。しかし、初代OPで挿入された「♪グリコ、グリコ、グ~リ~コ~」は入らなかった。
- 関刑事は、名探偵コナンで言うところの高木刑事・千葉刑事と同様、関智一の名前が由来。
- 高見沢秘書は本作品のオリジナルキャラクター。原作における大塚署長夫人「加代子」をモチーフにしている。
- テレ東規制が今よりも顕著な時代だったため、正太郎が拳銃を持つシーンは途中で物言いが入り、第一話におけるあの珍奇なバナナシーンが誕生した。DVDで修正されるという噂もあったが、そのままだった。
- 本放送では超人間ケリーの回でデヴィッド・ボウイの「Space Oddity」、京都編ではジャコモ・プッチーニ作曲の「私のお父さん」が使用されたが、DVDでは差し替えられている。ファンの中にはこれを残念に思う声もある。
- 敷島の自殺は下山事件を参考にしている。
- 放映中の2004年4月15日に原作者の横山光輝が急逝した為、次の放送回では追悼文が流れた。
劇場版 白昼の残月
2007年3月31日公開。今川泰宏初の劇場アニメ監督作品。単館上映でありその知名度はそれほど高くない。
TVアニメ版を元にしたパラレルワールド的な作品で、キャストは同じだが設定が変更されたキャラクターが多い。
特筆すべき変更点は、正太郎の義兄である新キャラクター『ショウタロウ』が登場する点。
TV版の語り部役の鈴木弘子は本作の重要な役に収まり、代わりにTV版でゲストキャラを担当した矢島正明が担当。
また、音楽はゴジラシリーズなど特撮音楽界の重鎮として有名な伊福部昭の楽曲を使用している。
TV版よりも作画クオリティが向上し、残酷描写も過激になるなどTV版とは雰囲気が異なる面も多い。
特にロボットの戦闘シーンは、尺こそ短いが重量感に満ちた迫力溢れるものになっている。
ちなみにショウタロウ役の粟野史浩は文学座の俳優で、後に真マジンガーにおいて鉄也役を演じている。
登場メカ
(なお、ブラックオックスは登場しない)
余談
- 2004年版オリジナルキャラである高見沢秘書は、警視庁ではなく村雨一家へと鞍替えしている。
(ただしOPで秘書のコスチュームを着る場面もある) - 予算がキツかったのかTVアニメ版からのシーン流用も多い。
- TV版では規制された正太郎の拳銃携帯が許可されており、発砲もしている。
関連動画
関連項目
ここに、1つの鉄の塊がある。
かつて鉄人28号と呼ばれたそれは、戦後十年の時を経て鉄の兵士として甦り、激動・混迷する時代の波の中、様々な戦争の癒えぬ傷と闘い続け、花咲ける日本の高度成長期を支えた礎にと、その姿を変えた。
そして、平成となった今も尚、この日本のどこかに人知れず身を隠し、その赤く黒い瞳で時代が産み落とした、抗うことの出来ない罪を見続けている。
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