黒髭(ブラックビアード/Blackbeard)とは、かつて実在したイギリスの海賊である。
名前の由来は彼が生やしていた見事な黒髭。
船を襲う際には麻の紐や火をつけた導火線を編み込んでいた事から、彼のトレードマークとなった。
概要
本名はエドワード・ティーチ(Edward Teach)。エドワード・サッチ(Edward Thatch)とも。
海賊になる以前の来歴は不明。
確かなのは1716年、西インド諸島で活動していた私掠船(国から権利を認められ、敵対国の船を襲う許可を得た海賊)の乗組員だったという記録からである。
折しもスペインの王位継承者を巡りヨーロッパで勃発した「スペイン継承戦争」により、フランスとイギリスの間では植民地である北米において局地戦、通称「アン女王戦争」が展開されていた。
黒髭はイギリスの私掠船船長ベンジャミン・ホーニゴールドの部下となり、1717年にフランスの奴隷船「ラ・コンコルド」を拿捕。ホーニゴールドから船長を任された黒髭はこの船に「アン女王の復讐号(クイーン・アンズ・リベンジ)」と名をつけた。その後ホーニゴールドは引退、実質的に黒髭が海賊団のリーダーとなる。
黒髭の海賊団は北米や西インド諸島で海賊行為を働き、その残忍さで一躍その名を知られるようになった。商船を襲撃して乗り込み、積み荷や食料を引き渡せばそれでよし、抵抗した場合には皆殺しにしたという。この行為により黒髭は「悪魔の落とし子」として恐れられた。
ティーチの拠点となったニュープロビデンス島とその一帯は海賊の支配下に置かれ、「海賊共和国」と呼ばれるようになる。当時のノースカロライナ州英総督チャールズ・エデンは海賊との共生関係を余儀なくされ、恩赦と引き換えに彼らの戦利品や自軍の船舶の安全を手に入れる始末だった。
しかしバハマ諸島の英総督に就任したウッズ・ロジャーズには通用しなかった。元は私掠船の船長だったロジャーズは海賊の殲滅を宣言、海賊団との全面抗争に突入する。黒髭は戦力を削がれ、拠点を放棄せざるを得なくなり、皮肉にも再び海賊行為は活性化した。
1718年11月22日、黒髭の海賊団はイギリス軍艦「パール」との戦闘に突入。この戦いで黒髭は奮戦したが多勢に無勢、暴れまわりながらも全身に銃弾や剣を受けて死んだ。その首はパール艦長ロバート・メイナードによって切り落とされ、船のマストに吊るされた。
補遺
記録されている黒髭の活動期間は僅かに2年だが、その悪名と圧倒的な存在感から「神話」として語り継がれる事となった。
「最後の戦いの直前に莫大な財宝を隠した」
「首を切り落とされ、体は海に投げ捨てられたが、『首を返せ』と言わんばかりに死体が船の周りを3周した」などなど。
気性の荒い危険人物としてのエピソードも伝わっている。
ある時部下と一緒に酒を飲んでいたが、不意にピストルを抜いて安全装置を外した。黒髭の性格を知っている部下は皆逃げたが、ある男だけは特に気に留めずに酒を飲み続けていた。
するといきなり黒髭はピストルをぶっ放し、弾は不運な部下の膝を撃ち抜いた。苦しみもだえる部下に対し、彼はこう言ったという。
「時々こうでもしねえと、俺が誰なのか忘れちまうだろう?」
一方で「地獄がどんな所か確かめよう」と、船倉に籠って硫黄を燃やし、硫黄の煙が充満して苦しむ部下をよそに「俺が一番地獄に耐えた!」と喜ぶなど、妙に子供っぽいエピソードも伝わっている。
また女子供には優しかったようで、稼業の関係上モテモテだった。立ち寄る港ごとに妻を持つこと14人、最後の妻は16歳の少女だったとか。
こうした豪放磊落な逸話も手伝い、死後も「黒髭」の人気は衰える事がない。
たとえば黒髭ゆかりの地バージニア州ハンプトンでは「黒髭祭り」が毎年行われている。18世紀当時の風俗を再現し、海賊に扮した男達が練り歩くのが恒例である。港では船による遊覧や、大砲(煙と音のみ)を派手に撃ち鳴らす一幕も。
「アン女王の復讐号」は最後の戦いの直前に座礁し、その後は行方不明となっていた。しかし1996年に沈没船として発見され、数千点にも及ぶ積み荷が引き上げられて話題となった。
内訳は財宝……ではなく日用品や医療用品が大半(梅毒治療用の尿道洗浄器なんてものも)だが、大砲や火炎瓶など貴重な物品も見つかっている。
後世の創作
後世の創作においても「黒髭」の存在は大きい。
小説『宝島』のジョン・シルバー、『ピーター・パン』のフック船長などのモデルとなったという説もある。
映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』では第4作目に登場、主人公ジャック・スパロウは自分の娘の元恋人だったという設定。自身に下された死の予言を回避するべく「生命の泉」を探し求める。
ゲーム『アサシンクリードIV ブラックフラッグ』では、「黒髭」としての名を轟かせる前の時代、「エドワード・サッチ」として登場。主人公のエドワード・ケンウェイとは古くからの知り合い。残忍な性格だが指揮官としての判断能力に長け、また情け深さも持ち合わせている。トレイラーでは部下達を相手にエドワードのすごさを解説している。
漫画『ONE PIECE』では白ひげ(エドワード・ニューゲート)、黒ひげ(マーシャル・D・ティーチ)、サッチと、黒髭をモデルとしたキャラクターが3人存在する。
ソーシャルゲーム『Fate/Grand Order』ではサーヴァント・ライダーとして登場。泣く子も黙る海賊様なのだが、何をどうしたのか「全方位オタク」という予想外の設定。時にギャグ、時にシリアスな活躍(?)を見せる。コメディリリーフとしての扱いが多いが、油断ならない危険人物としての一面も。
詳細はエドワード・ティーチ(Fate)を参照。
タカラトミーから1975年以降発売されているゲーム「黒ひげ危機一発」はとくに有名。現在でもモデルチェンジやコラボレーションを繰り返し、様々な商品が世に放たれている。
ちなみに四文字熟語の方は「危機一髪」だが、誤字ではない。
関連動画
関連項目
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