AS-1 ブレイズ・レイヴンとは、大黒尚人執筆、賀東招二原案・監修のライトノベル『フルメタル・パニック!アナザー』に登場する人型陸戦兵器、アーム・スレイブの1機種である。
デザインは海老川兼武による。また、機体名称は読者からの一般公募により決定した。読者公募がなければサムライ・イレブンという名前になっていた……かも。
機体概要
名称 | AS-1 ブレイズ・レイヴン |
全高 | 8.6m |
基本重量 | 9.8t |
最高自走速度 | 180km/h(ブースト時350km/h以上) |
最大跳躍高 | 30m(ブースト時400m以上) |
最大作戦行動時間 | 70時間 |
動力源 | パラジウム・リアクター(常温核融合炉) 日立製作所 PRH-281 3400kW |
固定武装 | 無し |
備考 | アジャイル・スラスタ搭載機 |
搭乗者 | 市ノ瀬達哉(1号機) アデリーナ・アレクサンドロヴナ・ケレンスカヤ(2号機) |
防衛省の技術研究本部と恵比寿重工(EHI)他複数の国内メーカーにより開発された、日本初の第三世代AS。
デザイン的にはフルメタ本編の主人公機、ARX-7 アーバレストが忍者をイメージしたものであるのに対し、こちらは侍をモチーフとしている。
基本的にはM9 ガーンズバックやZy-99 シャドウと同様に第3世代に属するASであるが、後述する『アジャイル・スラスタ』により、従来機とは次元の異なる運動性を発揮する機体である。
作中で運用される機体は固定武装を装備しておらず、また、初期に登場した1号機と2号機は登場時点では電子兵装も必要最小限のものしか装備していなかったが、5巻にてECSが搭載された(ただし不可視モード機能はない)。
スペック上、最高自走速度や最大跳躍高、最大稼働時間などは飛び抜けて秀でているわけではない。むしろ既に実戦投入されている他の第三世代機と比較して劣る部分が多く、装甲防御力についても96式改に劣っている。具体的には、米軍仕様M9よりも最高自走速度は20km/h劣り、最大跳躍高は10m劣り、最大作戦行動時間に至っては設定が存在するASの中では3番目に短い(2番目は後述)。ちなみに最短はARX-8 レーバテインの30時間であり、ラムダ・ドライバ搭載機であるARX-7 アーバレスト(100時間)よりも短い。
その反面パラジウム・リアクターの出力はミスリル仕様M9よりも高くフレームは強靭という特徴を持ち、スペックノートだけを見る限りでは機体のコンセプトのはっきりしない、チグハグな設計の機体とも言える。
しかしこの一見奇妙な性能は『アジャイル・スラスタ』運用のためのものであり、それにより従来機では考えられなかった機動を取れる本機は、ASの戦術を覆しうる機体と言える。
ちなみに、高出力かつ強靭なフレームゆえにペイロードに余裕があることから、魔改造の余地があるとも評されており、ストーリーが進むにつれて多様なバリエーションが登場している。
尚、近年の第三世代AS運用のトレンドでは「作戦行動時間は二、三日程度で良い(その位で済むよう立案する)」という方向に行っている事から、最大作戦行動時間の短さについては問題視されなくなる可能性が高い。
開発から運用に至る経緯
元々本機は96式改に次ぐ陸上自衛隊の次期主力ASとして開発が進められ、当初の予定では11式主従機士として正式採用されるはずだった。 が、アナザー1巻において描写された新潟での96式改暴走事件により開発計画は凍結され、その損失を惜しんだ関係者(陸上自衛官や衆議院議員等)により試作1号機がD.O.M.S.に『重機』として引き渡される(武器輸出三原則を回避するため)。その際は電子兵装は最低限、ECSに至っては装備されていなかった。
D.O.M.S.に引き渡された目的としては、演習用のアグレッサー機として海外で運用することによるアピールの他、性能評価等。このため、予備パーツや専用装備品の整備要員がD.O.M.S.に出向した他、試作2号機も引き渡されている。
ちなみに、“ブレイズ・レイヴン”というペットネームは冒頭に記した通り、読者からの公募により決定したものだが、作中設定では、レイヴンは11式(イレブン)のアナグラムであり、ヤタガラスの意味も込められたものとされている。
また、危うく決まりかけたサムライ・イレブンというペットネームについても、2000年に配備されたF-2支援戦闘機が“バイパー・ゼロ”と非公式に呼ばれていることと絡めたものであり、(そのセンスはさておいて)そこまで荒唐無稽なネーミングというわけではない。
なお、地味に機体名が長いこともあり、小説の地の文では専ら《レイヴン》、もしくは1号機、2号機といった表記である。
5巻においては大きく物語が動き、その最中に1号機2号機共にジオトロン社製の最新鋭の電子兵装がECS(不可視モード無しだが)含め搭載された。さらに、7巻では追加生産された3号機と4号機が登場。それぞれ異なる装備を引っ提げて新生D.O.M.Sに配備された。
余談だが、本機が作中の仕様で開発されるに至ったそもそものきっかけは、『アナザー』から遡ること13年、フルメタ本編で言う所の『つづくオン・マイ・オウン』における調布でのASによる戦闘における“拾い物”であったとされる。
この西東京における大規模なテロ事件において、当初は4機のASの大破が確認されていたのだが、そのうち3機はいつの間にかいずこかに消え失せており、白いM9と思しきASの残骸のみが日本政府の手に渡ることとなった。
この時の日本は、第3世代ASの図面すら引いていない状況であり、中枢制御機器こそ失われていたものの、この白いM9を解析することで得られた技術が、本機にも反映されている。
具体的には、コクピット周辺のフレームに鋳込まれた結晶状の素子とそれらを統合制御する装置――TAROSであり、これは通常の操縦系統と切り離してはあるが、マンマシン・インターフェイスとしてアジャイル・スラスタの制御に用いられている。
ちなみに、このTAROSの使い方だが、白いASよりもむしろ、そのASが母艦としていた強襲揚陸潜水艦のそれに近い(ASよりはるかに巨大かつ複雑な艦を一人で制御可能なあちらに比べれば、極めて限定的なものではあるが)。
アジャイル・スラスタ
本機の両肩及び腰部に装備されるアークジェット推進システム。
大電力をかけてプラズマ化させた推進剤を噴射するもので、機体の急加速や方向転換に用いられる。この装備こそが本機の最大の肝であり、3次元的機動を脚部の跳躍力のみに頼る、従来機の基準ではありえない機動を取ることが出来る。
本来はごく弱い出力しか無いアークジェット推進を、短時間とはいえASという重量物の推進に使えるレベルで搭載した割には、製造コストはそれほど高くはないらしい。
先述した高出力のパラジウム・リアクターや強靭なフレームはこの装備を運用するために必要不可欠なものであり、これを運用することを前提として設計されていると言っても過言ではない(『魔改造の余地がある』というのも、本装備を搭載するための設計・仕様の副産物である)。
こういった特徴から、本機はいわゆる第3世代機とは一概に言い切れない部分もある。
ただし、従来機とは隔世の運動性をもたらす装備とはいえ、デメリットも複数挙げられる。
まず第一に、消費電力の大きさから連続使用は数十秒という制約がある。また、プラズマ化した推進剤は非常に目立つため、隠密性を重んじるASにおいては大きな欠点である。しかし、「どうせブーストを使う時は発見されたあと」「機動時の軌跡が綺麗なのできっと納税者受けはいいはずだ」「総合火力演習や隊員募集PVで使えば絶対ウケる」などの強引な理屈で押し切られた。
そして何よりも大きな問題として、これを扱う搭乗者の育成が挙げられる。機体それ自体はASの枠を越えるものではないが、これを併用しての戦闘機動は白紙の状態から始めなければならない。このため、作中、D.O.M.Sにおいて専属搭乗員を選出する際、ベテランを含めその操作に失敗するケースが多発した(むしろベテランであればある程、操縦に癖が付いて習熟し辛いという意見もある)。
尚、アジャイル・スラスタを構成する主要部品は、日本の下街の中小企業の職人芸によるものである。
また、その制御は視線誘導システムにより噴射方向をコントロールするという触れ込みだが、実際には先述の通り、『白いM9』を解析することで得られたマンマシンインターフェイス、TAROSが主となっている。
派生型
AS-1 一号機改 《ブレイズ・レイヴン》
名称 | ブレイズ・レイヴン |
全高 | 8.6m |
基本重量 | 9.8t(乾燥)/12.1t(基本装備時) |
最高自走速度 | 170km/h(ブースト時380km/h+) |
最大跳躍高 | 25m(ブースト時500m+) |
最大作戦行動時間 | 65時間 |
動力源 | パラジウム・リアクター(常温核融合炉) 日立製作所 PRH-281 3400kW |
固定武装 | 無し |
基本携帯火器 | EHI「ドラゴンフライ」近接格闘システム×2 東芝 10式単分子カッター×2 OTOメララ「ボクサー」57mm散弾砲 他 |
備考 | アジャイル・スラスタ搭載機 |
搭乗者 | 市ノ瀬達哉 |
ルーマニアにおいて多数のケントゥリアとの戦闘の末に大破した1号機を大改装した機体。
その改装コンセプトは『アジャイル・スラスタによる高速機動戦闘能力の向上』であり、単純な推力強化に留まらず、ブースト中の射撃や格闘戦における安定性の向上も図られている。
改装前後を比較するとやはり、アジャイル・スラスタが増設されていることが目に付く。
草擦状のメインスラスタは肩部から腰部側面に移設されているが、これは推進源を機体重心に近づけることで、より高い運動性を得るためのもの。肩部及びフロントスカート・リアスカートには姿勢制御・推力補助用の小型スラスタを備える。
この改装は機体の最大作戦行動時間をさらに縮め、設定が存在するASとしてはARX-8 レーバテインに次いで2番目に短い物となってしまっている。
ただし、スラスタの恩恵により得られる運動性は改装前の1号機の比ではない。
作中での仕様は左表にある通り達哉の搭乗を想定した近接戦闘仕様の物だが、それ以外の兵装を用いることは当然可能であり、これまで通り達哉以外でも操縦は可能。とはいえ、初登場時はモーションマネージャを含む機体調整が最低限のじゃじゃ馬状態であり、またアジャイル・スラスタを効果的に運用するためには搭乗者にTAROSの適性が求められることから、事実上彼の専用機となっている。
AS-1 二号機改 《ブラスト・レイヴン》
名称 | ブラスト・レイヴン |
全高 | 8.6m |
基本重量 | 13.5t(基本装備時) |
最高自走速度 | 130km/h |
最大跳躍高 | 20m |
最大作戦行動時間 | 70時間 |
動力源 | パラジウム・リアクター(常温核融合炉) 日立製作所 PRH-281 3400kW |
固定武装 | JSWおよびEHI 「ゴルゴン」155mm破砕砲 アライアント・テックシステムズ 「ブッシュマスター3」35mm機関砲 EHI 「リンドブルム」兵装システム |
基本携帯火器 | 無し |
搭乗者 | アデリーナ・アレクサンドロヴナ・ケレンスカヤ |
アデリーナ搭乗の2号機からアジャイル・スラスタを全て撤去し、その代わりに大量の重火器を装備させた火力支援型のバリエーション機。
元々アジャイル・スラスタ無しでは決して機動性に優れた機体ではないレイヴンに重武装を施しているため、その機動性はどうしても第三世代ASとしては見劣りする物となってしまっているが、それを補って余りある火力を誇る。
しかも、強靭なフレームと大出力のパラジウム・リアクターという、本来アジャイル・スラスタを運用するために要求された仕様のおかげで、同じく重火力型の第三世代機であるM9A1E1 アーセナル・ガーンズと同等の火力を得ながら、機動性では優位に立っている。
実際には本編に登場したものの他に、各種ミサイルやロケット、対物機関砲の類が多数用意されており、極めて柔軟に装備を変更することが可能となっている(とされる)。
なお、機体名は1号機の時と同じく、桐ケ谷議員により命名された。
AS-1 三号機 《ファントム・レイヴン》
AS-1のペイロードを指揮管制能力及び電子戦能力に割り当てたバリエーション機。
通常のASオペレータよりもより高度で専門的な知識が必要ながら、背部に大型の電子戦闘用装備を備え、AIサポートとデータリンク機能により大隊規模のAS部隊を管制可能となっている。また、1号機や2号機とは異なり不可視型ECSを備えることから、隠密性にも優れる。
機体自体のシルエットは背部を除けばごくシンプルなもので、肩部には何も装備せず、腰部ハードポイントに小型のアジャイル・スラスタを備えるに留める。
合計3機のレドームから発する指向性レーダー波を一点に収束させ、対象の電子兵装・機器を狂わせる事が可能。ただ、初使用時は調整不足からかその要求出力に機体が耐え切れず、システムダウンを起こしてしまった。同時納入された四号機と同じく日本でせっせとAS-1関係者が(手弁当かつノリノリで)組み上げたはいいが、十分なテストを行うことはできなかったようで、今後の活躍はテストと改修次第だろう。
AS-1 四号機 《イージス・レイヴン》
AS-1のペイロードを防御力に割り当てたバリエーション機。
M9A2 アーマード・ガーンズと同様に対AS戦よりはむしろ歩兵等の不意打ちに対処するための仕様で、全高こそ変わらないものの、肩部及び腰部に追加装甲を備えることから、より重厚なシルエットを持つ。TAROS制御による二対の副椀を装備し、各種武装を展開、保持する事が可能。
重量は嵩んだものの、AS-1の頑強なフレーム構造と高出力のジェネレータによるパワーにより、第三世代機として必要十分な機動性、俊敏性は保持している。頑強なフレームと高出力ジェネレータのバランスから来る操縦感覚は、重ASであるRk-02 <セプター>に近いと劇中で語られている。
兵装
- 東芝 10式単分子カッター
日本刀型の単分子カッター。刀身はM9等の機種で用いられるものよりも細長い。
本機専用装備というわけではなく、他機種でも使用可能。 - EHI 「ドラゴンフライ」近接戦闘システム
十文字槍型の単分子カッターとアジャイル・スラスタ、兵装マウントで構成される近接戦闘用装備。ドラゴンフライとはトンボの意だが、モチーフとしては天下三名槍の一つに数えられる『蜻蛉切』。決してフルメタ本編のアニヲタのM9に搭載されたAIとは関係ない……はず。
アジャイル・スラスタを装備していることから機動補助に用いることもでき、穂先部分は有線で射出可能。ワイヤーで敵機を絡め取り、動きを封じた所に多目的兵装マウントに装備した火器を叩きこむ、といった運用法も有り。登場時は試作型の57mm散弾砲を装備しているが、他の火器もマウント可能。
10式単分子カッターと同じく専用装備という訳ではなく、必要データさえ入力してあれば他機種でも運用可能でEHIは輸出に期待をかけて開発を進めているそうだが、クセのある装備のため伸び悩む可能性は否めない。 - ツーソン・インスツルメント M57 57mmハンドガン
4巻にてアデリーナ搭乗の2号機に装備された予備兵装。
中折れ式のリボルバーであり、装弾数は僅か4発。しかし相良宗介愛用の《ボクサー》57mm散弾砲と同口径ということもあり、予備兵装としては破格の威力を持つ。 - JSWおよびEHI 「ゴルゴン」 155mm破砕砲
ブラスト・レイヴンの右腰にマウントされる大口径の榴弾砲。
M9A1E1アーセナル・ガーンズにも採用されているデモリッションガンの製造元であるセワード・アーセナル社に対して、恵比寿重工がパテント料を支払って独自に改良したモデルであり、有効射程は制限されているものの、銃剣を備えることで近接戦闘においてもある程度の対処が可能となっている。
なお、現時点ではJSW(日本製鋼所)とEHIの製造上の役割分担については言及されていない。 - アライアント・テックシステムズ 「ブッシュマスター3」 35mm機関砲
ブラスト・レイヴンの左腰にマウントされるチェーンガン。実在する火器ではあるが、ASが運用するためかマニピュレーターで保持するためのグリップが備えられている。 - EHI 「リンドブルム」 兵装システム
ブレイズでアジャイル・スラスタが備えられていた両肩側面に装備される武装コンテナ。
AS用アサルトライフルを内蔵する他、面制圧用にロケットランチャーを搭載する。
ライフルはマニピュレーターで保持することも可能だが、内蔵状態でも射撃可能。また、この場合は背部ハードポイントに装着される弾倉から給弾する方式を取る。
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