E-8 JSTARS (Joint Surveillance and Target Attack Radar System:ジョイント・スターズ)とは、アメリカ空軍が運用する航空機である。
概要
JSTARSはいかなる環境下でも敵の地上作戦行動を監視・追尾し目標とする。24時間態勢で運用され、常に空軍司令部や陸軍の地上局とデータリンクで繋がっており、得られた情報は航空機やミサイル基地、砲兵隊への命令を出すために使われる。[1]
E-8は胴体下部に長さ7.3mのカヌー型の膨らみがあり、中にノーダン社製のフェイズドアレイ・マルチモード・レーダーが収納されている。モードは3つあり、WAS/MTI(広域探査/移動目標指示)モードは512平方キロの地域において低速移動する標的の位置・識別を行う。SSM(区域探査モード)は20平方キロ程度の小さな地域で個々の車輌を分別でき、航空機が攻撃を行うための標的位置を正確に把握できる。SAR/FTI(合成開口レーダー/固定標的表示)は標的の詳細図を作るもので、橋や飛行場、停止している車両などを映し出せる。[2]
米軍は後継機を開発する計画を何度か立てたものの、いずれも実現には至らず、そのまま2023年に退役している。
開発
AWACSは空中における航空機の指揮管制機能を備えているが、そのレーダーはあくまでも空中を高速で移動する物体=航空機を対象としている。
では、AWACS同様に空中から地上を移動する車両を追跡することで、地上部隊の指揮を円滑にすることができるのではないだろうか? という発想が生まれた。もっとも技術的なハードルは高く、実現したのは1980年代末になってからである。
理由は簡単で、地上を移動する物体の速度の遅さがすべての原因だった。レーダーは電磁波の反射をとらえて目標の方位と距離を測るが、それを空中から地上に向ければ、関係のない地上や建物などから反射した電波(グラウンドクラッタ)も拾ってしまう。高速で移動する物体であれば、これらのノイズの中から移動しているものを選別することは容易なのだが、地上車両はせいぜい時速50km前後、どんなに速くても100kmは超えない。つまりノイズの中に埋没してしまう。これらの雑多な情報から必要な情報を切り分けるためには、特定範囲を精細に計測する解像度(分解能)の高いレーダーが必要だった。この問題をクリアするため航空機に搭載可能な合成開口レーダーの実用化を待つ必要があった。
通常レーダーとは電磁波の反射により測距する。目標をどれだけとらえるか、高解像度(分解能)をあげるためにはできるかぎり高い波長の周波数とアンテナの大きさが必要になる。(レーダーの性能の一つであるビームの指向性だが、これはλ(波長)/D(アンテナ直径)によってビーム指向性が求められる。極端に言えば波長が短ければ短いほど、アンテナが大きければ大きいほどよい。マイクロ波(cm単位)よりミリ波(mm単位)レーダーがより分解能を上げることができる。極端なことを言えば人間の目が高解像度なのも光の波長をとらえているから、ということになる。ただし波長が短ければ短くなるほど(つまり周波数が高くなればなるほど)、大気などで減衰しやすい。)
では遠距離からより精密に分解能を上げるためにはどうしたらよいのか。その答えが合成開口レーダーである。つまり移動しながら計測したい範囲に対して収束したマイクロ波を向けて送受信することで見た目上のアンテナ(開口)を広げてしまえばいいということで原理は簡単だが、実現には高いハードルがあった。移動しながら送受信をして、なおかつそのズレ(位相)を把握する必要がある。地表に設置された場合や移動軌道がはっきりしている衛星の地上観測用であればまだしも航空機に搭載するためには正確な航法装置と高速で大量のデータを処理できるだけのコンピュータが必要だった。またノイズの除去にもコンピューターの能力が必要になる。
つまりこれだけの設備を航空機に搭載できるまで時間を必要としたのである。
1980年代に入って実現に目途がついたこともあり、米空軍・陸軍共同の計画としてスタートした。Joint Surveillance and Target Attack Radar System = 統合警戒・目標攻撃レーダーシステムという味もそっけもないが頭文字をつなげるとJ-STARSという名前になるのもアメリカ軍お得意の語呂合わせというところだろう。
初飛行は1988年。中古のB-707(アメリカ空軍のAWACS E-3セントリーやE-6、はてはエアフォース・ワンにのベース機体としても有名)をベースに必要な機材を積み込んで初飛行に成功。試験を重ねていたところに湾岸戦争が勃発。あわてて当時の2機を送り込んだ。
砂漠地帯ということもあり彼我の陸上車両部隊の移動パターンを追跡しやすく、合成開口レーダーではなくビームを絞ったドップラーレーダー・モードにすることで特定目標を追跡しやすくすることも容易だったらしい。かなりの高い評価を得た(なんでも車両のタイプまで判別したという)。
現在、E-8Cに搭載されているAN/APY-7レーダーは地上移動目標モード(GTMI)、固定ターゲットモード(FTI)、合成開口レーダー・モード(SAR)の三つの機能を備え、それぞれ状況に応じて使い分けているとされている。
もっともレーダーでとらえた情報をいかにして地上部隊に伝達するのか、という点においては課題を残したと見えて、2000年代のRMAなどC4Iの向上を促す原因にもなったという。最新のE-8Cはこれらの情報をデータリンクで地上部隊に転送する能力を備える。
現有機体は17機。最初の2機がE-8Aとされ、新型機の開発が計画されたがキャンセル。中古のB-707をベースに搭載機材をアップデートしたE-8C(と、既存のE-8AがE-8C相当へと改造されたもの)がある。湾岸戦争以降、アメリカ軍が参加した戦闘のほとんどに参加。アフガニスタンでも警戒にあたっているが、目標が車両ではなく人間であるということもあって課題を残している。
後継機
米空軍は後継機としてE-10Aの開発を進めていたがこれは2007年にキャンセルされた。これを受けてE-8Cのエンジンを交換する計画を立てたが2012年に白紙化。2015年度よりE-8Cのミッション機器をより小型の機体に移植、あるいは新システムを開発する、JSTARS RECAP(Recapitlization:再構築)計画を開始した。[3]しかし、米空軍は2019年度予算にJSTARS RECAPの開発資金を含めず、計画は中止になっている。[4]
その他
1991年の湾岸戦争当時、水平距離で100キロメートルも離れた地点の上空から地上を見張ることができる航空機はこのE-8だけだった。その後「合成開口レーダー」の技術が航空機用の比較的軽量なシステムにも応用されるようになり、E-8のような大型機でなくても遠距離からの地上監視が行えるようになっている。例えば英空軍ではカナダ製の双発ビジネスジェットにAESAレーダーを搭載した対地偵察機「センチネル」を開発し、これを5機保有している。高度1万5000メートルを飛べば、水平に160キロメートルも離れた場所にいる敵歩兵の動きを探知できる。[5]
関連動画
関連リンク
関連項目
脚注
- *「Joint STARS:嵐の目」月刊エアコマンド 1993.3
- *「Joint STARS:嵐の目」
- *「E-8CジョイントSTARSとJSTARS RECAP」石川潤一 航空ファン2018年2月号
- *JSTARS recap is officially dead 2018.7.25
- *「兵頭二十八の防衛白書 2016」兵頭二十八 草思社 2016 p.322
- 2
- 0pt