S・セレビシエとは、酵母の一種である。 出芽酵母の代表種。古典ラテン語読みではS・ケレウィシアエが正しいが、後述する「もやしもん」の影響もあり、最近は英語読みでセレビシエと呼ばれることが多い。
概要
【分類】サッカロマイセス目サッカロマイセス科サッカロマイセス属
【学名】Saccharomyces cerevisiae
(学名の由来)Saccharomyces→砂糖の+菌/cerevisiae→ビールの
イースト(yeast)とよばれることも多い。直径5-10μmの球形・単細胞で、出芽によってふえるので出芽酵母ともよばれる。アルコール発酵を行い、パンや酒を作るのに古くから用いられてきた。パン・ビール・ワインなどのそれぞれの用途に合わせて適した菌株が存在する。工業的なエタノール製造にも用いられる。
生物学においては、大腸菌とともに真核生物を代表するモデル生物として研究され、本種の研究から得られた重要な成果は数知れない。いくつか例を挙げると、パスツールは酵母によって発酵が起きることを発見し(1876年以前)、ハンセンは酵母の単離法を開発した(1888年)。1907年にノーベル化学賞を受賞したブフナーは無細胞アルコール発酵を発見したが、その研究は酵素の発見につながった。2001年にノーベル医学・生理学賞を受賞したハートウェルは本種を用いて細胞周期を研究し、それに関わる主要な因子(cdc28遺伝子)を発見した。また、真核生物として初めて全ゲノム塩基配列が決定したのは本種である(1996年)。
このように科学の進歩に大きく貢献してきたセレビシエだが、近年はその座をアフリカ出身の期待の新星、分裂酵母S・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)に譲りつつある。負けるなセレビシエ!
ニッポンの清酒酵母
日本で清酒をつくるのに用いられる酵母はS・サケ(Saccharomyces sake)と名づけられたが、古典的な遺伝学的手法では区別できなかったことや、当時は生化学的性質が今ほど分類上重視されなかったことなどを理由にS・セレビシエにまとめられてしまい、現在でもS・サケの学名は正式には認められていない。
しかし、日本人としては「日本酒の酵母は他の酵母と違う独自の性質があるんだ!」と言いたいところである。実際に、おおむねそのようなスタンスで研究が進められた結果、S・サケとS・セレビシエには生化学的に明確な違いが複数あることが判明した。肉眼的なレベルでも、例えば清酒の醸造でのみ泡(高泡)が形成されることが明らかになった。
S・サケ独自の性質として最も重要なのは、コウジカビ(A・オリゼー)の産生する抗生物質・イーストサイジンに耐えることである。日本酒作りはA・オリゼーとの協働作業なので、この性質が重要であることは明らかであるが、海外の人にはその重要性が理解しにくいのだろう。
「もやしもん」におけるS・セレビシエ
漫画「もやしもん」に登場する様々な菌たちの代表格としてもおなじみ。頭部にある瘤状の部分は、本種が出芽によって増殖することを示しており、実際に作中で出芽シーンが描かれている。おでこの部分に文字や数字が書かれたものは、協会酵母など人工的に純粋培養された菌株であることを表している。
A・オリゼーとともに「もやしもん」の顔といえるキャラクターであり、仲良く(?)隣り合って描かれることもあるが、上の章で述べた通り、A・オリゼーはS・セレビシエを死滅させるために抗生物質を生産しているのである。セレビシエ逃げてー!
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