Sd.Kfz.231とは、第二次世界大戦の前にドイツで開発された重装甲偵察車である。
当記事では6輪型(6-Rad)および8輪型(8-Rad)、ならびに無線装備などの追加装備が施されたタイプについてもバリエーションの一種として記述する。
"Rad"はドイツ語で「車輪」を意味する単語であり、読みは「ラート」である。
概要
6輪装甲車(6-Rad)
第一次世界大戦の敗戦で課せられたヴェルサイユ条約によって新兵器の開発を禁じられてしまったドイツだが、かのI号戦車と同様に装甲車も秘密裏に開発を進めることになり、1920年後半よりダイムラー・ベンツ、ビュッシング-NAG、マギルスの3社に依頼を行った。
当初はビュッシング社で浮航能力を持つ10輪車、ダイムラーとマギルスで8輪の装甲車がそれぞれ試作され、ラパッロ条約でソ連から得たカザンの秘密実験場でデータ収集を行ってきた。開発が本格化し始めた1928年は世界恐慌が起きた年だったが、来たるべきドイツ軍の再建のために開発を取りやめる訳にはいかなかったため、新たに民間用の1.5tの6輪トラックのシャーシを用いた6輪装甲車の開発を3社に発注した。
1931年にダイムラーで開発が完了し、「Sd.Kfz.231」の特殊車両番号が与えられ生産が開始された。続いてビュッシング社でも1933年に、マギルス社は1934年に開発を終えそれぞれ生産に入った。
8輪装甲車(8-Rad)
6輪装甲車の生産は無事スタートしたものの、民間用トラックのシャーシでは不整地走行に不安があるとドイツは考えていた。この頃にはナチスが政権を握り、再軍備へ大きく動き出していた。そこで新たに、十分な踏破能力を備えた8輪装甲車の開発命令が出された。開発を行ったのは10輪装甲車の試作実績を持つビュッシング社で、1936年末より生産が開始された。
「6輪装甲車の直系の後継車両」という意図から、特殊車両番号は6輪装甲車と同様に「Sd.Kfz.231」が与えられた。しかし6輪装甲車も生産されたばかりで暫くは現役となるため、区別として特殊車両番号の後に何輪型であるかを示す言葉が付け加えられた。6輪装甲車には「6-Rad(ゼクスラート)」、8輪装甲車には「8-Rad(アハトラート)」と呼称された。
実戦
同時期に開発・生産された4輪装甲車のSd.Kfz.222系列よりも大きな車体を持つ本車は、より多くの弾薬と乗員そして拡張性を備えた。これらは特に威力偵察任務で強さを発揮し、偵察部隊の主軸となった。
初期に作られた6輪装甲車はフランス戦まで第一線で活躍し、8輪装甲車は後継のSd.Kfz.234が配備された後も大戦を通して最前線で活躍した。
バリエーション
6輪装甲車系列
一番最初に開発された型で、前述の通り民間用6輪トラックのシャーシに装甲を施したタイプ。
そのため不整地踏破性に難があり直ちに8輪装甲車へシフトする事となったが、既にこの段階で「傾斜した装甲を溶接で組む」というデザインが完成されていた。このデザインは当時の他国の装甲車と比べて洗練されており、以降のドイツ軍装甲車の車体デザインにも影響を与えた。
前2輪がステアリング、ダブルタイヤとなっている後部4輪で駆動する。また威力偵察任務で使用する事を前提とした設計であるため、Sd.Kfz.222と同様に後部にも操縦席が設けられ急速後退が可能であった。
2cm KwK30戦車砲1門と7.92mm MG34機銃1挺を同軸装備した砲塔を持つが、Sd.Kfz.222系列のように格子状の天板を持つものではなく、初期のII号戦車のようにハッチが上面についているタイプであった。
Sd.Kfz.231(6-Rad)(重装甲偵察車(6輪))
最初の生産型。前述の通り、開発した会社によってシャーシ形状の違いによるホイールベース(最遠軸距、前輪と後輪の軸間の最長間隔)、そして搭載するエンジンが異なる。しかし装甲車体はドイツ製鋼所の共通品が用いられたため車体サイズに違いはなく、特殊車両番号も全て同一のものが使われている。
以下に仕様を列挙する。なお生産数については後述する「無線装備型」も含まれ、全て1930年から1936年にかけて生産された。
- ダイムラー・ベンツ社製「G3a型シャーシ」
- ホイールベースは3m、ダイムラー・ベンツM509エンジンを搭載。
- 最高速度は65km/h、航続距離は350km。30両程度生産された。
- ビュッシング-NAG社製「G31p型シャーシ」
- ホイールベースは2.71m、ビュッシング-NAGタイプGエンジンを搭載。
- 最高速度は65km/h、航続距離は350km。50両程度が生産された。
- マギルス社製「M206p型シャーシ」
- ホイールベースは2.5m、マギルスS88エンジンを搭載。
- 最高速度は60km/h、航続距離は300km。40両程度が生産された。
Sd.Kfz.232(6-Rad)(重装甲偵察車(6輪)・中距離無線装備型)
短距離無線機を装備するSd.Kfz.231(6-Rad)と共に行動し、司令部との通信を行うため中距離無線機Fu.11を新たに装備したタイプ。車体の半分を覆う大型のフレームアンテナを上部に搭載しているが、砲塔についている支柱の軸は可動するようになっているため、360度全周への攻撃が可能である。
追加された無線機装備以外に変更はなく、Sd.Kfz.231(6-Rad)と同時期に並行して生産された。
Sd.Kfz.263(6-Rad)(重装甲偵察車(6輪)・長距離無線指揮車型)
Sd.Kfz.232(6-Rad)は武装をそのままに無線設備を搭載できたものの、車内の狭さから指揮官用としては使い勝手が悪いという課題が生まれた。そこで問題点を克服すべく、指揮専用型として新たに製作されたものがこのタイプである。
主砲の2cm KwK30戦車砲を撤去し、更に砲塔を固定式にすることで余剰スペースを確保した。フレームアンテナを装備する点は変わらないが砲塔の支柱が固定式となっており、さらに長距離通信用に折り畳み式のマストアンテナも追加装備している。砲塔周り以外では外観にも大きな変更はない。
乗員は無線手が増えて5名となっている。28両が生産された。
8輪装甲車系列
6輪装甲車系列は民間用トラックを用いた「暫定的な車両」であるのに対し、8輪装甲車系列は当初から「本格的な車両」として設計・開発された経緯がある。そのため6輪装甲車の欠点であった不整地踏破能力の弱さを十分克服できるようになっている。
シングルタイヤの8輪全てが独立懸架で駆動しステアリングも行えるという凝った構造であり、6輪装甲車と比べて格段に機動力が上がった。しかしその複雑さ故に、生産や整備は難しいものであった。
砲塔は形状が少し変更され、前方に行くにつれて絞られていくような形状から台形のような形状となり、下部が完全にフラットとなっている。また同軸装備の機関砲と機銃の位置関係が左右逆となっている。さらに車内容積の増加によって砲塔バスケットも搭載され、戦闘能力が向上した。装備する機銃は7.92mm MG34に強化され、機関砲も当初は2cm KwK30戦車砲だったが後に2cm KwK38戦車砲に強化された。
生産は1936年の末からスタートしたが、前線から装甲強化の要望が相次いだため1942年5月の生産分より前面装甲を30mmに強化、並行して主砲が改良品となった「後期型」が登場、従来のものは「前期型」と呼ばれた。1943年9月までに「無線装備型」を含めて607両が生産された。
なお1937年には、無線機のないものに「Sd.Kfz.233」、あるものに「Sd.Kfz.234」の特殊車両番号が与えられたが、先述の通り「6輪装甲車の後継」としての立ち位置であったため1939年10月にそれぞれ「Sd.Kfz.231(8-Rad)」、「Sd.Kfz.232(8-Rad)」に改称された。ちなみに最初に与えられた特殊車両番号のうち前者は後述する「火力支援型」、後者は「8輪装甲車自身の」後継にあたる車両へ引き継がれた。
Sd.Kfz.232(8-Rad)(重装甲偵察車(8輪)・中距離無線装備型)
Sd.Kfz.232(6-Rad)と同様に、新たに中距離無線機Fu.12を装備したタイプ。フレームアンテナと砲塔支柱の仕様も同じだが、後期型より星形(シュテルン)アンテナ変更されている。
Sd.Kfz.231(8-Rad)と同時期に並行して生産された。
Sd.Kfz.263(8-Rad)(重装甲偵察車(8輪)・長距離無線指揮車型)
Sd.Kfz.263(6-Rad)の後継として開発されたタイプだが、その外観は大きく異なっている。
当初から砲塔を搭載せず、車体上部に固定式の戦闘室を取り付けたものとなっている。Fu.G.m.Pz.Fu.Tr.a(mot)と呼ばれる独自の無線機を装備しているが、詳細は明らかになっていない。また車内には作戦会議用の小型机も備えている。武装は前面の7.92mm MG34機銃のみとなっている。
Sd.Kfz.263(6-Rad)と同様に、乗員は無線手が増えて5名となっている。
1938年4月から1943年3月にかけて、ドイッチュ・ヴェルケ社とシッヒャウ社で240両が生産された。
Sd.Kfz.233(重装甲偵察車・火力支援型)
それまで機関砲しか装備していなかった装甲偵察車部隊の火力を補うために開発されたタイプ。
砲塔を撤去してオープントップの固定式戦闘室を搭載し、そこへIII号突撃砲の主砲である7.5cm StuK突撃加農砲を装備した。
生産は1942年10月からシッヒャウ社のみで開始され、最初に10両がSd.Kfz.231(8-Rad)からの改造により完成、その後は同年11月から1943年いっぱいにかけて109両が新造され合計119両が生産された。
Ballistik-Messfahrzeug auf schwere Panzerspähwagen(重装甲偵察車・弾着観測型)
Sd.Kfz.231(8-Rad)を改造して制作したと思われる、砲兵部隊向けの弾着観測用の車両。
外観は民間用トラックにそのまま装甲板を取り付けたようなもので、かなり武骨な印象がある。
当該車両の資料が少ないため、生産年月や生産数、各種スペックは不明である。
スペック一覧
Sd.Kfz.231 系列 |
Sd.Kfz.231(6-Rad) (6輪装甲車) |
Sd.Kfz.231(8-Rad) (8輪装甲車) |
Sd.Kfz.263(8-Rad) (8輪装甲車・ 無線指揮車型) |
Sd.Kfz.233 (8輪装甲車・ 火力支援型) |
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全長 | 5.57m | 5.85m | ||
全幅 | 1.82m | 2.20m | ||
全高 | 2.25m | 2.35m | 2.90m | 2.25m |
重量 | 5.35~6.0t | 8.3t | 8.7t | |
乗員 | 4名(車長、砲手、操縦手、後部操縦手) | 5名(車長、砲手、操縦手、後部操縦手、無線手) | 3名(車長、砲手、操縦手) | |
最高速度 | 60~65km/h | 90km/h | 85km/h | |
航続距離 | 300~350km | 300km | ||
武装 | 2cm KwK30戦車砲×1 7.92mm MG13機銃×1 (対空用に1挺と 銃架を備えていた とする資料もあり) |
2cm KwK30戦車砲×1 (後期型はKwK38戦車砲) 7.92mm MG34機銃×1 |
7.92mm MG34機銃×1 | 7.5cm StuK37突撃加農砲×1 |
携行弾数 | KwK30:200発(20発入り弾倉×10) MG13:1500発(25発入り弾倉×60) |
2cm戦車砲:180発(20発入り弾倉×9) MG34:2100発(25発入り弾倉×84、Sd.Kfz.232は半分) |
1050発(25発入り弾倉×42) | 32発 |
装甲圧 | 5.5~8mm | 5.5~14.5(後期型は30)mm | 5.5~18mm | 5.5~18(後期型では30)mm |
関連動画
Sd.Kfz.231に関するニコニコ動画の動画を紹介してください。
模型紹介
価格は全て税抜の本体価格である。
- イタレリ ドイツ6輪装甲車 Sd.Kfz.231 (1/35スケール)
- イタリアの模型メーカーとタミヤとの提携によって生まれた「タミヤイタレリシリーズ」の1つで、シリーズ番号は24(ITEM 37024)。
- 家電量販店などでも入手が可能で、価格は3300円である。
- イタレリ製のSd.Kfz.232(6-Rad)のキットをリニューアルした内容となっている。フレームアンテナ関係のパーツを省略し、新たに対空銃架と発煙装置をパーツ化、アルミ削り出し製の機関砲砲身も付属する。また車体中央部の溶接ラインの表現や各パーツの合いなどが強化・改良され、精度と作りやすさがアップしている。指揮官のフィギュアが付属し、帽子が3種から選択できる。マーキングはフランス戦とドイツ国内の2種からチョイス可能である。
- なお注意書きにもある通り無線装備型のSd.Kfz.232(6-Rad)は本キットで作れないが、元となったイタレリのキットそのものは古い模型を扱う模型店などで入手できる可能性があり、およそ3000円程度で入手できる。
- タミヤ ドイツ8輪重装甲車 Sd.Kfz.232"アフリカ軍団"(1/35スケール)
- タミヤから発売されたSd.Kfz.232(8-Rad)のキットで、シリーズ番号は297(ITEM 35297)。
- 家電量販店などでも入手が可能で、価格は3400円である。
- 立体感溢れる外観だが部品点数は抑えめになっており組み立てやすい。さらにアルミ削り出し製の砲身やエッチングパーツが付属し精度もバッチリである。製品名にもある通り北アフリカ戦線の車両を再現したものとなっており、付属する将校と指揮官のフィギュアも熱帯服を着用している。ただマーキングは北アフリカ戦線に加えてバルカン戦やクルスク戦の計4種から選べるため、東部戦線のジャーマングレイ色に仕上げる事も可能である。
- ちなみにこのキットは1974年3月に発売されたキット(シリーズ番号36(ITEM35036))のリニューアル品であり、元となったキットも古い模型を扱う模型店などで入手できる可能性があり、およそ3000円程度で入手できる。
- AFVモデル ドイツ 偵察用8輪重装甲車 Sd.Kfz.231 初期型(1/35スケール)
- (※都合により上記画像はSd.Kfz.232(8-Rad)となっている)
- 台湾の模型メーカーから発売されたSd.Kfz.231(8-Rad)のキットで、シリーズ番号はAF35231。
- 家電量販店などでも入手が可能で、価格は4000円である。
- 実車取材によって得られた豊富なデータを基に作られており、複雑な足回りから車内に至るまで徹底的に再現されている。さらに各種ハッチは全て可動式となっているため、完成後もハッチ越しに車内を覗く事も可能である。その分パーツ数は増えているので完成まで根気が必要である。タミヤ製のキットに慣れておくのがオススメ。
- 同社からはSd.Kfz.232(8-Rad)やSd.Kfz.263(8-Rad)も発売されている。
関連コミュニティ
関連静画
関連項目
ナチス・ドイツ軍の装甲戦闘車両 | |
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軽戦車 | I号戦車 / II号戦車 / 35(t)戦車 / 38(t)戦車 |
中戦車 | III号戦車 / IV号戦車 / パンター |
重戦車 | ティーガー |
ハーフトラック | Sd.Kfz.251 |
装輪装甲車 | Sd.Kfz.222 / Sd.Kfz.231 |
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