概要
4ストロークエンジンへの移行
従来の中排気量クラスは250ccクラスと呼ばれ、2ストローク250ccエンジンを使っていた。2ストロークエンジンは環境負荷が大きいので、2009年シーズンをもって250ccクラスが終了した。
2010年からMoto2クラスが始まり、4ストローク直列4気筒600ccエンジンを使用するようになった。
2019年からのMoto2クラスは、4ストローク直列3気筒765ccエンジンを使用するようになった。
エンジンのワンメイク
エンジンは、1つのメーカーが製造するエンジンのワンメイクである。全てのチームに、同じ品質になるよう調整されたエンジンを抽選で配布する。3レースに1度の頻度で抽選会が行われる(記事)。抽選で渡されたエンジンは改造不可であり、3レースを使用し終えたら、レース主催者に返却する。
こういう均質なエンジンを各チームがオリジナルフレームに載せて参戦するという、2009年までとはかなり違った方式を採用している。
「エンジンを開発するとエンジン費用が高くなり参戦費用がかさんでしまう」というチーム側の苦情を察した運営が、エンジン開発費用がかからない制度を導入して、参戦の敷居を下げようとしたわけである。2010年当時は2008年リーマンショックの余波があり、世界各国が不景気だった。
ワンメイクエンジンの制度を実現するには、エンジンを均質に製造するだけでなく、チューニングを正確に行う必要がある。エンジンのチューニングを担当するのはエクスターンプロ(ExternPro)という会社で、スペインのモーターランド・アラゴンに本社がある。同社の技術監督はトレヴァー・モリスである。トレヴァー・モリス以外の人は地元民ばかりで、地元の雇用創出に貢献している(記事)。
4ストローク765cc 3気筒のトライアンフエンジン
2010年から2018年までのMoto2クラスはホンダCBR600RRエンジンを使っていたが、2019年からは英国のバイクメーカー・トライアンフのエンジンを使うことになった。排気量765ccの直列3気筒である。ちなみに、3気筒のことをトリプル(triple)と呼ぶことがある。
トライアンフエンジンの馬力は140馬力程度。2010年から2018年までのホンダCBR600RRエンジンは130馬力なので、馬力が増したことになる。
ライダーが口々に「トライアンフエンジンは以前のCBR600RRエンジンよりもはるかにトルクが強い」と語っている。トルクというのは静止状態からグイッと加速していく力のことを指す。コーナーの立ち上がりから直線で速いマシンということになる。
ルカ・マリーニは「以前のマシンはコーナリング速度を高める乗り方をしていたが、トライアンフエンジンのマシンではストップアンドゴーの乗り方になるだろう」とコメントしている(記事)。つまり、この画像のオレンジ色のマシンのように乗るべきだろう、と語っている。
シャヴィ・ヴィエルヘは「トライアンフエンジンのマシンはリアタイヤのグリップが非常に良く、ホンダエンジンのマシンのようなリアタイヤを滑らせる走りが難しい」と語っている(記事)。
2010年から2018年までのホンダCBR600RRエンジンは市販公道車のエンジンに近いものでパワーが弱く、2019年以降のトライアンフエンジンはプロトタイプ(レース専用車両)の高出力エンジンと表現してよいものだという。このため、2019年以降のトライアンフエンジンのほうがMotoGPクラスへの練習用エンジンとしてふさわしい、とライダーたちが語っている(記事)。
電子制御を導入
2010年から2018年までのホンダCBR600RRエンジンは、エンジンを電子制御することがほとんどできず、Moto3のマシンよりも電子制御を活用していないマシンだった。
2019年からのトライアンフエンジンでは、エンジンの電子制御が可能になる。最大排気量クラスでおなじみのマニエッティ・マレリ社がハードウェアとソフトウェアの両方をワンメイクで供給する。
電子制御の機能の1つは、コーナー入口でのエンジンブレーキ制御である。エンジンブレーキを利用して、以前よりも強いブレーキングが可能となる。
また、電子制御の機能の1つは、オートブリッピングである。これにより、シフトダウンするときにクラッチを握る必要が無くなった(記事)。コーナー入口でのライダーの負担が大きく軽減されることになる。
電子制御はMotoGPクラスのものと比べて簡素
MotoGPクラスの電子制御に比べると、Moto2クラスの電子制御はだいぶ簡素である。コーナリング最中のトラクションコントロールは一切無し。コーナー脱出時のアンチウィリーの機能も無し。
先述のように、コーナー入口でのエンジンブレーキ制御は可能である。ただし、コーナーごとにエンジンブレーキの効かせ方を設定することができない。MotoGPクラスではコーナーごとにエンジンブレーキの効かせ方を設定するのだが、そこまでのことができない。
タイヤ
タイヤはMoto3同様、2023年までダンロップのワンメイクで、2024年からピレリのワンメイクになっている。
ピレリはダンロップよりも柔らかいので、変形しやすく、路面との接触面積が大きくなりやすく、コーナーにおいて安定しやすく、コーナーリング速度が上がりやすく、一周のタイムが速くなりやすい。2024年カタールGPの予選においてピレリを履いた各マシンがダンロップ時代よりずっと速い周回タイムを出していて、ポールポジションのライダーの周回タイムが0.517秒も速くなった。
しかしピレリはダンロップよりも柔らかいので、消耗しやすく、レース後半においてタイムが落ちやすく、レース後半はグリップしないタイヤをどうにかして走らせるライディング技術が必要となる。2024年カタールGPにおいて、Moto2クラスでもMoto3クラスでもそういう傾向が見られた(記事)。
ピレリはダンロップよりも柔らかく、ミシュランに近いゴムだという。ダンロップを履いたMoto2マシンが走行した後にミシュランを履いたMotoGPクラスマシンが走行するとタイムが遅くなるという現象があり、そのことをタイヤゴム残存(MotoGP)と言っていた。しかしピレリを履いたMoto2マシンが走行した後にミシュランを履いたMotoGPクラスマシンが走行してもそんなにタイムが落ちないという(記事)。
レース展開
レース展開は、じわっじわっと差が開いていくとか、じりっじりっと差を縮めていくといったものが多い。レース終盤には各ライダーの距離が2秒以上開くことが多い。
ちなみに、ライダー同士の差というのは2秒差というのが大きな境界となっている。「2秒を切って差が1.8秒になると一気に差が縮まっていくことがある」などと有識者が語ることが多い。
ライダー同士の差が2秒を超えると、先行ライダーの耳に後続ライダーの音が届かないようになり、先行ライダーはライディングに集中できるようになり、安心できる。また、後続ライダーにとって先行ライダーの姿が小さくなり、追撃しようという気力もそれに応じて小さくなりがちで、心が折れそうになるのだという。
ライダー同士の差が2秒を切ると、先行ライダーの耳に後続ライダーの音が届くようになり、先行ライダーが焦るようになり、ライディングでミスをする可能性が高まっていく。また、後続ライダーにとって先行ライダーの姿が大きくなり、追撃しようという気力もそれに応じて大きくなり、気持ちのスイッチが入るのだという。
地味な展開だが難易度が高い
Moto2クラスは地味な展開になりやすいので「Moto2クラスはファンから軽視されている」といわれることがある。
しかし、走っているライダーにとっては難易度が高い。エンジンが完全にワンメイクなのでちょっとしたミスですぐに20位あたりまで落ちてしまうし、そうなったときの自信喪失を抑制するのが大変である。
ホルヘ・マルティンは「Moto2クラスは非常に複雑なカテゴリーなのになぜか軽視されている。その理由がよくわからない」とまで語っている(記事)。
シャーシ製造企業同士の競争
様々なシャーシ製造企業の参入
Moto2クラスはエンジンがワンメイクで、シャーシの出来映えを競争するカテゴリーである。
KALEXのようなレース専門企業がシャシーを作る例が多いのだが、KTMやMVアグスタといった市販車製造企業が参入することもある。
Moto2クラス初年度の2010年以降の成績表は以下の通りとなっている。背景が黄金であるのはその年にチャンピオンを輩出したメーカーである。2021年からSPEEDUPはBoscoscuro(ボスコスクーロ)に名称を変更している。
レース専門企業 | 市販車製造企業 | |
2010 | KALEX、SPEEDUP、Tech3、Suter、TSR、FTR、モリワキ、Bimota | |
2011 | KALEX、SPEEDUP、Tech3、Suter、TSR、FTR、モリワキ | |
2012 | KALEX、SPEEDUP、Tech3、Suter、TSR、FTR、モリワキ、Bimota | |
2013 | KALEX、SPEEDUP、Tech3、Suter、TSR、FTR、モリワキ | |
2014 | KALEX、SPEEDUP、Tech3、Suter、TSR | |
2015 | KALEX、SPEEDUP、Tech3、Suter | |
2016 | KALEX、SPEEDUP、Tech3、Suter | |
2017 | KALEX、SPEEDUP、Tech3、Suter | KTM |
2018 | KALEX、SPEEDUP、Tech3、Suter、NTS | KTM |
2019 | KALEX、SPEEDUP、NTS | KTM、MVアグスタ |
2020 | KALEX、SPEEDUP、NTS | MVアグスタ |
2021 | KALEX、Boscoscuro、NTS | MVアグスタ |
2022 | KALEX、Boscoscuro | MVアグスタ |
2023 | KALEX、Boscoscuro、Forward | |
2024 | KALEX、Boscoscuro、Forward |
2024年の勢力図は、KALEXを使用するライダーが24人、Boscoscuroを使用するライダーが4人、Forwardを使用するライダーが2人となっている。
最大手がKALEXで、Boscoscuroがそれを追撃しており、Forwardの戦闘力は低い。
KALEXとBoscoscuroの比較
KALEXとBoscoscuroの比較をごく簡単に述べると次のようになる。
KALEXは前から見たときの幅が広くて新幹線0系のようである(画像)。Boscoscuroは前から見たときの幅が狭くてシャープな形状で新幹線700系のようである(画像)。
KALEXはシャーシが柔らかいので、高速で走行するときの切り返しが遅いが、マシンが暴れたときに対処しやすい。Boscoscuroはシャーシが硬いので、高速で走行するときの切り返しが速いが、マシンが暴れたときに対処しにくい。
KALEXはブレーキングが強くて立ち上がりが遅い。Boscoscuroはブレーキングが弱くて立ち上がりが速い。
KALEXはカーボンスイングアームを使わず銀色のアルミニウムスイングアームを使うが、Boscoscuroは真っ黒なカーボンスイングアームを使う(画像)。Moto2クラスでカーボンスイングアームを使うのはBoscoscuroだけである(記事)。
Moto2クラスに参戦するチーム
2024年シーズンにMoto2クラスへ参戦するチームを挙げていく。チームの並びは2023年のチームランキング順で、チーム内におけるライダーの並びは2023年のライダーランキング順となっている。
- レッドブル・KTM・アジョ
- アキ・アジョ監督が率いる。本拠地はフィンランドのアカーと、スペインのバルセロナ郊外。
主なスポンサーはオーストリアのレッドブルと、同じくオーストリアのKTM。
2017年から2019年までMoto2におけるKTMワークスとして活動しており、KTMのシャーシを使用していた。2019年限りでKTMがMoto2クラスから撤退して2020年からKALEXを使うようになったが、相変わらずKTMの支援を受けており、KTMがチーム名に入っている。そして、KTMと縁があるライダーを起用している。
資金力に定評がある名門チームであり、キズがなさそうな部品でも万が一を考慮してすべて交換し、高価な部品も揃えてくれる(記事)。
2024年からKTM参加のサスペンションメーカーであるWPサスペンションを使うようになった。Moto2クラスはオーリンズが優勢であるが、2024年からアジョ・モータースポーツとCFMoto・アスパー・チームとリキモリ・ハスクヴァーナ・インタクトGPの3チームがWPサスペンションを使うようになった(記事)。
- 使用シャーシはKALEX。
# | 名前 | 国籍 | 出身地 | 身長・体重 | 誕生日 |
13 | チェレスティーノ・ヴィエッティ | チリエ | 172cm65kg | 2001年10月13日 | |
53 | デニス・オンジュ | アランヤ | 172cm61kg | 2003年7月26日 |
- スピードアップ・レーシング
- イタリアのシャーシ製造企業スピードアップが所有するチーム。2010年のMoto2初年度から参戦し続けている。イタリアのヴィチェンツァに本拠地がある。
チーム監督は元MotoGP250ccクラスライダーのルカ・ボスコスクーロ。チームLCRと同じように、レースごとにメインスポンサーを替える手法で小規模なスポンサーをかき集めている(画像1、画像2、画像3、画像4、画像5、画像6)。
スポンサーのCAGは機械加工の企業であり、どうやらレース用部品も作っているらしく(画像)、日本のヤマザキマザックの工作機械を使っている(画像)。MBコンベヤー(イタリアの工場向け運搬器具のメーカー)、ベータツールズ(イタリアの工具メーカー)、campetella(イタリアの製造業向け自動生産装置販売企業)、BOOST(イタリアの文房具製造企業)、+ego(イタリアの携帯電話アクセサリー販売企業sifarのブランド)、HDR(Heidrun Europlastic。イタリアの家庭向けプラスチック製品製造企業)、LighTech(イタリアのバイク用品製造企業)もスポンサーである。
使用シャーシはボスコスクーロ(スピードアップ)。2010年から2020年までスピードアップという名前で、2021年になってボスコスクーロという名前になった。ボスコスクーロはルカ・ボスコスクーロ監督の名前からとられている。
2010年のMoto2クラス初年度にはアプリリアがシャーシメーカーとして参戦する予定だったが、土壇場で参戦をとりやめた(記事)。「そのときのアプリリアの技術者を受け入れたのがスピードアップである」と言われているが(記事)、ルカ・ボスコスクーロはその噂を否定しており、「イギリスのシャーシ企業FTRの支援を受けてシャーシを作った」と語っている(記事)。
2022年シーズンの当初はロマーノ・フェナティを起用していたが成績不振のため第6戦を限りに無情の解雇となった。代わりに第7戦から加入したのがアロンソ・ロペスだが、シングルフィニッシュを連発して第12戦イギリスGPで2位表彰台に入り、ついには第14戦サンマリノGPでGP初優勝(Moto3時代を含めての初優勝)を遂げるなどの快進撃を見せている。
フェルミン・アルデゲルは2023年シーズンのラスト4戦で4連勝し、ただ者ではないことを満天下に示した。「2024年は最大排気量クラスのVR46に入るのではないか」とさんざん噂されたが、ルカ・ボスコスクーロがすでにフェルミン・アルデゲルと2024年の契約を結んでいて「契約を破ってMoto2クラスに移籍するのなら違約金40万ユーロ、最大排気量クラスに移籍するのなら違約金150万ユーロ」という条項を書き入れておいたのが功を奏して残留となった(記事)。ただし、最大排気量クラスのプラマックレーシングがフェルミン・アルデゲルに対して「2025年と2026年の契約を結ばないか」と誘っているのではないかと噂されている(記事)。
# | 名前 | 国籍 | 出身地 | 身長・体重 | 誕生日 |
54 | フェルミン・アルデゲル | ムルシア州ラ・ニョラ | 181cm69kg | 2005年4月5日 | |
21 | アロンソ・ロペス | マドリード | 181cm70kg | 2001年12月21日 |
- ELF・MarcVDS・レーシングチーム
- ベルギーに本拠地を持つ。
フィリップ・サラックのクルーチーフはジル・ビゴーである。
メインスポンサーのELFは、フランスの石油関連企業TOTALの潤滑油ブランド。
- 使用シャーシはKALEX。
# | 名前 | 国籍 | 出身地 | 身長・体重 | 誕生日 |
14 | トニー・アルボリーノ | ガルバニャーテ・ミラネーゼ | 171cm59kg | 2000年8月3日 | |
12 | フィリップ・サラック | ムラダー・ボレスラフ | 172cm66kg | 2001年12月12日 |
- イデミツ・ホンダ・チームアジア
- アジア圏ライダーを受け入れるために作られたチーム。2024年現在はアジアタレントカップというアジア圏ライダー育成選手権があり、スポンサーは出光、マシンはホンダのワンメイクである。アジアタレントカップを協賛する企業がそのままチームを作ってMotoGPに参戦している。チーム監督は2009年に250ccクラス世界チャンピオンを獲得した青山博一。
2022年シーズンは小椋藍がMoto3時代を含めてのGP初優勝を遂げて大きく成長。アジョ・モータースポーツのアウグスト・フェルナンデスと最終戦までタイトルを争ったが惜しくもランキング2位に終わっている。2023年シーズンは開幕前に小椋藍が舟状骨を骨折し、小椋藍がランキング9位に終わり、ソムキャット・チャントラが同6位になった。そして2023年の末に、チームアジアのMoto3クラス部門からマリオ・アジがMoto2クラス部門に昇格することになり、小椋藍がホンダの支援を受けつつ他チームに移籍することになった。
2023年までスポンサーの1つにイタリアの食品物流企業のイタルトランスの名があった。
Moto2クラス部門のマシンはフロントカウルが金色であり(画像)、Moto3クラス部門のマシンはフロントカウルが銀色である(画像)。
- 使用シャーシはKALEX。
# | 名前 | 国籍 | 出身地 | 身長・体重 | 誕生日 |
35 | ソムキャット・チャントラ | チョンブリー | 171cm63kg | 1998年12月15日 | |
34 | マリオ・アジ | マディウン | 171cm67kg | 2004年3月6日 |
- MTヘルメッツ・MSi
- このチームは2024年に新規参戦を始めたチームであるので本来は最後尾に書くべきだが、スタッフの多くがポンス・レーシングの元スタッフであり、2023年にチームランキング5位となったポンス・レーシングの後継ともいうべきチームなので、この場所で紹介する。
1992年以来の歴史を誇る名門チームであるポンス・レーシングだったが、シト・ポンス監督が引退することになり解散した。そのスタッフをまるごと引き受けて、MTヘルメッツ・MSiがMoto2クラス部門を新規に設立した。ちなみに、ポンス・レーシングで長年クルーチーフを務めたサンティ・ムレロもシト・ポンスとともに引退した(記事)。
チームを運営するのはテオ・マルティンという人物である(記事)。
スポンサーはスペインのヘルメット企業のMTヘルメッツ。ただし、ホンダの支援を受けて2024年にこのチームに移籍した小椋藍は、2023年以前から使っていたAraiのヘルメットを使うことを許されている。
- 使用シャーシはBoscoscuro。
# | 名前 | 国籍 | 出身地 | 身長・体重 | 誕生日 |
79 | 小椋藍 | 埼玉県 | 169cm60kg | 2001年1月26日 | |
3 | セルヒオ・ガルシア | ボリアナ | 167cm60kg | 2003年3月22日 |
- CFMOTO・アスパー・チーム
- スペイン・バレンシアに拠点を持つチーム。チームオーナーはバレンシア出身で125ccクラスや80ccクラスで合計4度の世界チャンピオンに輝いたホルヘ・マルチネス。バレンシア出身で2011年にこのチームに所属して125ccクラスチャンピオンに輝いたニコラス・テロルがチーム監督である。ちなみに2022年までチーム監督を務めていたジーノ・ボルゾイは、MotoGPクラスのプラマックレーシングの監督に引き抜かれた。
チーム名のアスパーというのはホルヘ・マルチネスの愛称である。2017年夏に急逝したアンヘル・ニエト(13回の世界チャンピオンに輝いたスペインの英雄的MotoGPライダー。13という数字を不吉として嫌い、12+1というステッカーを好んでいた)に敬意を表し、2018年と2019年はチーム名をアンヘル・ニエト・チームに改めていた。2019年11月にホルヘ・マルチネスがMotoGP殿堂入りしたのをきっかけに(記事)、2020年から再びチーム名をチーム・アスパーに戻した。
スポンサーはインデ(スペイン・バレンシア州の通販業者)、ソルニオン(スペイン・マドリードの金融企業)、ガヴィオタ(スペイン・アリカンテ州の建設業界向けメーカー。ブラインドなどの日光防止部品に強み。社名の由来はカモメのスペイン語名gaviotas)。そして2024年からCFMotoというKTM傘下の中国のオートバイメーカーがメインスポンサーになった。
- 使用マシンはKALEX。
# | 名前 | 国籍 | 出身地 | 身長・体重 | 誕生日 |
96 | ジェイク・ディクソン | ドーヴァー | 178cm63kg | 1996年1月15日 | |
28 | イサン・ゲヴァラ | パルマ・デ・マヨルカ | 173cm54kg | 2004年6月28日 |
- QJMOTOR・グレッシーニ・Moto2
- イタリアの125ccクラス世界チャンピオンのファウスト・グレッシーニ監督が設立した名門チーム。イタリアのファエンツァに本社を持ち、ミサノサーキットすぐそばのサン・クレメンテに工場がある。
Moto2クラス部門のチーム監督はファウスト・グレッシーニの息子のルカ・グレッシーニ(記事)。
2024年からトニ・エリアスがMoto2クラス部門のライダーコーチになる(記事)。トニはこのチームに所属して2010年のMoto2クラス初代チャンピオンになっている。
スポンサーはQJMOTORで、中国最大のバイク企業である。
- 使用シャーシはKALEX。
# | 名前 | 国籍 | 出身地 | 身長・体重 | 誕生日 |
18 | マニュエル・ゴンザレス | マドリッド | 171cm64kg | 2002年8月4日 | |
75 | アルベルト・アレナス | ジローナ | 169cm63kg | 1996年12月11日 |
- ヤマハ・VR46・マスターキャンプ・チーム
- ヤマハがVR46と手を組んで結成したチーム。ヴァレンティーノ・ロッシが2021年を限りに引退し、VR46が最大排気量クラス部門でドゥカティと契約したので、ヤマハとヴァレンティーノ・ロッシが手切れになったかのように見えたが、このチームでまだ縁が続くことになった。
ヤマハは2016年からヴァレンティーノ・ロッシと提携してマスターキャンプという企画を始めている。若手を育成し、特に優れたものはヴァレンティーノ・ロッシの練習場のヴァレ・ランチやミサノサーキットに招待して1週間ほど練習させることを年に2回行うというものである(ヤマハ公式サイト、動画1、動画2、Twitter)。
チーム監督はヘレート・ニエト(記事)。軽量級で13回のチャンピオンを獲得したのがアンヘル・ニエトで、その長男がヘレーテ・ニエトであり、次男がパブロ・ニエト(VR46最大排気量クラス部門の監督)であり、甥がフォンシ・ニエト(プラマックレーシングのスポーティングディレクター)である。
ヤマハの企業色である青色と、ヴァレンティーノ・ロッシやVR46のイメージカラーである蛍光黄色を組み合わせたカラーリングがマシンを彩る。 - 使用シャーシはKALEX。
# | 名前 | 国籍 | 出身地 | 身長・体重 | 誕生日 |
52 | ジェレミー・アルコバ | トルトサ | 177cm70kg | 2001年11月15日 | |
22 | 佐々木歩夢 | 神奈川県横須賀市 | 164cm60kg | 2000年10月4日 |
- イタルトランス・レーシングチーム
- イタリアの食品業界向け物流企業イタルトランスが所有するチーム。
2023年までジョヴァンニ・サンディという名物技術者がチーム全般に指導をしていた。また、選手との契約にもチームの代表者として顔を出していた(記事)。ただし2024年のチーム決起集会の写真の中でジョヴァンニの姿が見られない。
2024年はリヴィオ・スッポが相談役としてチームに関わり、ダヴィデ・ブリヴィオの弟のロベルト・ブリヴィオ(この写真の一番左)もチームに参加する(記事)。この2人はどちらもスズキワークスの残党のイタリア人である。2人とも2024年の決起集会に顔を出している(画像)。 - 使用シャーシはKALEX。
# | 名前 | 国籍 | 出身地 | 身長・体重 | 誕生日 |
71 | デニス・フォッジャ | ローマ | 164cm57kg | 2001年1月7日 | |
10 | ディオゴ・モレイラ | サンパウロ | 170cm58kg | 2004年4月23日 |
- ファンティック・レーシング
- 2023年からFanticというイタリア・ヴェネト州のバイクメーカーがチームを持つようになった。2022年までのVR46・Moto2クラス部門のスタッフなどを引き継いでいる(画像)。チームの本拠地はヴェネト州のヴェネツィアにある(記事)。
FanticのCEOはマリアノ・ロマンという人である(画像1、画像2)
チーム監督はステファノ・ベドンで、少し前までMoto3クラスのスナイパーズ・レーシングの監督をしていた人物である。チームの契約の場面にも登場する(画像の一番右の人)。
チームオーナーはクラウディオ・ジョヴァナルディ(Claudio Giovanardi)という人物で、2023年オーストリアGPの表彰式に登場した。チームの契約の場面にも登場する(画像の一番左の人)。この人は上田昇が1994年と1995年に所属していたGIVIレーシングのチームオーナーだった。
2024年からチームの技術監督として元125ccクラスチャンピオンのロベルト・ロカテリを起用した(画像)。
使用シャーシはKALEX。Fanticの名前を冠しているのに使用するシャーシはKALEXである。
# | 名前 | 国籍 | 出身地 | 身長・体重 | 誕生日 |
44 | アロン・カネット | バレンシア州コルベラ | 170cm67kg | 1999年9月30日 | |
20 | シャヴィ・カルデルス | アンドラ・ラ・ヴェッリャ | 175cm63kg | 1998年5月15日 |
- RWレーシング・GP
- このチームはオランダに拠点を持っている。オランダのナショナルカラーはオレンジ色なので(画像)、このチームもオレンジ色を好んで使っている。
このチームの前身はアリー・モレナー・レーシングといい、1994年から2010年までMotoGPで活動したオランダのチームである。オーナーはアリー・モレナー。しばしば日本人ライダーを受け入れており、1995年と1996年には青木治親を出走させ、2年連続125ccクラス世界チャンピオンに輝かせた。
チームオーナーはルロフ・ヴァニフェ(Roelof Waninge)で、オランダの資産家。2011年にアリー・モレナー・レーシングを買い取り、RWレーシングという名前に改称させた。RWはルロフ・ヴァニフェの頭文字である。1947年7月5日にドウィンゲロープに生まれ、若い頃からKNMV(オランダバイク協会)に所属するなどしてモータースポーツに関わっていた。家業はセント・ヴァニフェ運輸という物流企業である(記事)。
チーム監督はヤーノ・ヤンセンで、元・MotoGPライダー。現役時代にルロフ・ヴァニフェの支援を受けている。
長年在籍していたクルーチーフはハンス・スパーンで、1989年と1990年の2年連続でMotoGP125ccクラスランキング2位になったオランダ人ライダーである。特に1990年のチャンピオン争いは熾烈で、最終戦に大騒動になったほど。そのことはロリス・カピロッシの日本語版Wikipediaに記されている。引退後はメカニックとなり、青木治親のクルーチーフとしてチャンピオン連覇を支えた。長年このチームに在籍していたが、2019年を限りに退団した(記事)。
スポンサーはフィーテンオリーで、オランダのガソリンスタンド企業である。
ライダーの1人のゾンタ・ファン・デン・グールベルグは、2000年代初期にMotoGP最大排気量クラスに出走したオランダ人ライダーユルゲン・ファン・デン・グールベルクの息子である(記事)。
- 使用シャーシはKALEX。
# | 名前 | 国籍 | 出身地 | 身長・体重 | 誕生日 |
7 | バリー・バルタス | ナミュール | 179cm70kg | 2004年5月3日 | |
84 | ゾンタ・ファン・デン・グールベルグ | モナコ公国 | 178cm60kg | 2005年12月1日 |
- オンリーファンズ・アメリカン・レーシング
- カリフォルニア州に住むイスラエル系(ユダヤ系)アメリカ人のエイタン・ブットプルが所有するチーム。アメリカ合衆国の国旗色の青・赤・白が鮮やかに塗装されている。APEXという企業がスポンサーに付いているが(画像)、この企業はエイタン・ブットプルが経営するスポーツ選手管理企業である(記事)。エイタン・ブットプルは米国西海岸における不動産投資を本業としているようであり(記事)、不動産王(Real estate mogul)と表現されている(記事)。
アメリカ人のジョン・ホプキンスが2020年からライダーコーチとして帯同している。ジョンは最大排気量クラスでワークスライダーを長く務めた(記事)。
スポンサーの1つはOnlyFansで、イギリスのソーシャルメディアである。
このチームはCGBM・エボリューションというチームを引き継いだ。オーナーはフレッド・コルミンブフ。金欠で悪名高く、270万ユーロの負債を積み重ね、マシンを供給したKTMにお金を支払えなかったばかりか、2017年や2018年の所属ライダーに給与を支払うことができなかった(記事1、記事2)。エイタン・ブットプルは、そうした負債の返済を迫られて、負債の返済をしている。このため、アメリカン・レーシングの財政事情は好ましくないとされる(記事)。
- 使用シャーシはKALEX。
# | 名前 | 国籍 | 出身地 | 身長・体重 | 誕生日 |
16 | ジョー・ロバーツ | マリブ | 180cm69kg | 1997年6月16日 | |
24 | マルコス・ラミレス | コニル・デ・ラ・フロンテーラ | 179cm63kg | 1997年12月16日 |
- リキモリ・ハスクバーナ・インタクトGP
- ドイツ・バイエルン州メミンゲンに本拠地を持つドイツチーム。ドイツ人ライダーやドイツ語圏ライダーを優先して雇う傾向がある。チーム名のIntactはドイツ語で「無傷」という意味。
チーム監督はユルゲン・リンクで、もともとサンドロ・コルテセのクルーチーフだった人である。1967年頃にケンプテン(アルゴイ)で生まれた人であり、休暇をアルプス山脈でのスキーに費やすような人である(記事)。風貌や「結果が出ていない。自分がもっとライダーにプレッシャーをかけるべきだったかもしれない」という発言から人柄を想像できる(記事)。
チームオーナーはステファン・ケッカイゼンと、ウルフガング・クーン。この記事にユルゲン・リンクを加えた3人が並んだ写真がある。
このチームはサンドロ・コルテセを走らせるため2013年に作られたチームである。2013年から2015年はサンドロの1人体制だったし、かつてはサンドロが同チームの25%を所有していた(記事)。2017年をかぎりにサンドロはMoto2クラスから去っていったが、2018年以降もチームが続いている。
上田昇さんは現役時代の頃からユルゲン・リンクと付き合いがあるので、しばしばユルゲン・リンクと連絡を取っている。電話で話しているとユルゲン・リンクから「今、うちのライダーがいるから、喋るかい?」などと言われるので、ライダーと情報交換するのだという。上田昇さんがG+の解説で「この前、インタクトに所属するマルセル・シュロッターと話をしたんですが~」などと喋ることがしばしば見られるのは、このためである。
Moto3クラス部門からMoto2クラス部門への移籍がありうるチームであり、実際に2023年は佐々木歩夢に対して「うちのMoto2クラス部門で走らないか」と熱心に勧誘したが、佐々木歩夢は「ヤマハさんからお誘いがあったので」と言ってマスターキャンプの方へ移籍してしまった(記事)。
たまに風洞施設を借りてチューリッヒ応用科学大学(ZHAW)の技術者とともに空力の追求をする(記事)。
メインスポンサーのリキモリは、ドイツのウルムに本社がある潤滑油メーカーで、二硫化モリブデンを使った潤滑油の特許を持っているので「モリ」の名前を名乗った。また、ダイナヴォルト(中国のバッテリーメーカー)もスポンサーである。
2023年からはスウェーデンのKTM傘下バイク企業ハスクヴァーナと組むようになり、Moto3クラス部門を持つようになった。これでMoto2クラスのなかでも財政的に安定しているチームの1つになった(記事)。Moto3クラス部門の監督はピーター・エッテルである。ちなみにハスクヴァーナはちなみにハスクヴァーナは蛍光黄色が好きな企業で、ホイールなどがその色になる(画像)。
ライダーの1人のセナ・エージスはMIE Racingというモリワキ所有の三重県のチームに所属して全日本を走った経験がある(記事)。
使用シャーシはKALEX。ちなみにKALEXはドイツ・バイエルン州に本社がある。
# | 名前 | 国籍 | 出身地 | 身長・体重 | 誕生日 |
15 | ダリン・ビンダー | ポチェフストルーム | 175cm63kg | 1998年1月21日 | |
81 | セナ・エージス | リヴァプール | 2005年6月9日 |
- プルタミナ・マンダリカ・ガスアップ・チーム
- スペイン・カタルーニャ州バルセロナのサバデルに本拠地を持つ。2023年までのチームの名称はストップアンドゴー(Stop And Go)であり、その頭文字をとったSAGであった。2024年からガスアップ(GAS UP)というチーム名に変わった。GASはスペインなどのヨーロッパの俗語で「アクセルを回してエンジンにガソリンが混じった混合気を送り込む」という意味である。
チームオーナーはエディ・ペラレス。
2021年からインドネシアのマンダリカ・チームと提携した。インドネシアのロンボク島のこの場所に建設されたマンダリカ・インターナショナルストリートサーキットが作った若手育成用のチームである。
メインスポンサーはプルタミナで、産油国インドネシアの国有企業であり、石油精製の分野で同国最大手である。
プルタミナからの支払いが遅れているなどの報道があり(記事)、財政的に厳しいとされる。「2020年シーズンの初めに2020年型KALEXマシンを買う余裕がなかった唯一のチーム」とも報道されているし(記事)、「多額の持参金が必要なチーム」とも報道されている(記事)。
所属ライダーのボー・ベンドスナイデルはオランダ人だが、祖先はインドネシアにルーツがある(記事)。オランダは第二次世界大戦までインドネシアを植民地にしていた。
使用シャーシはKALEX。
# | 名前 | 国籍 | 出身地 | 身長・体重 | 誕生日 |
64 | ボー・ベンドスナイデル | ロッテルダム | 184cm69kg | 1999年3月4日 | |
5 | ジャウメ・マシア | アルヘメシ | 165cm60kg | 2000年10月31日 |
- フォワード・チーム
- スイス・アニョに拠点を置くチーム。アニョはイタリアの大都市ミラノのすぐ隣にある街で、イタリアの影響が非常に強く、実質的にイタリアのチームと言っていい。
チームオーナーはジョヴァンニ・クーツァリ。アニョの隣町のルガーノに住んでいる。元ラリードライバーで、広告代理店Media Actionを経営してMotoGPの各チームに「こんなスポンサーがいますよ」と売り込む仕事をしていた。脱税と資金浄化で2015年にスイス当局に逮捕され、2017年に有罪判決を受けている(記事1、記事2)。ドルナのブラックリストに入っているが、しかし、平気でパドックに出入りするという強心臓を見せつけている。また、チームの決起式に涼しい顔でやってきている。
2008年シーズンを限りに撤退したカワサキワークスの残党が、2009年にハヤテ・レーシングを結成した。2010年からは先述のジョヴァンニ・クーツァリ率いる広告代理店Media Actionがやってきて、ハヤテ・レーシングからフォワード・レーシングと名前を変え、Moto2クラスへ参戦するようになった。
あまり評判が良いチームではなく、「ホスピタリティ(チームが所有する移動型レストラン)だけは豪華だが、それ以外は・・・」などとライダーに批判される。ジャック・ミラーの記事には、このチームに関して涙を誘うような記述がある。ステファン・ブラドルには「空約束ばかりで金を出そうとしないチームで、物資が足らない。前任者のアレイシ・エスパルガロも同じ経験をしたそうだ」と評価されている(記事)。
- 使用シャーシはForward。スイスのシャーシ製造企業スッターが実際のシャーシ製造を担当している(記事)。シャーシの形式は鋼管トレリスフレームである。鋼管トレリスフレームについては、KTMワークスの記事も参照のこと。戦闘力の低いマシンだが、ミサノサーキットやバレンシアサーキットのような低速コーナーの多いサーキットで成績が上がる傾向を持つ。そういうサーキットでは最大排気量クラスにおいてKTMワークスの成績も良い。
2019年から2022年までは、スッターが作った鋼管トレリスフレームのシャーシを「MVアグスタ」として登録していた。MVアグスタは1970年代までジャコモ・アゴスティーニと共にMotoGPを席巻していたイタリアの名門企業で、ジョヴァンニ・カスティリオーニという1981年生まれの若手社長がいたが、2018年12月に1982年生まれのロシアの実業家ティムール・サルダロフが会社を買収している。
# | 名前 | 国籍 | 出身地 | 身長・体重 | 誕生日 |
11 | アレックス・エスクリグ | バレンシア | 184cm66kg | 2004年2月21日 | |
43 | シャヴィエル・アルティガス | バルセロナ | 180cm61kg | 2003年5月27日 |
関連リンク
関連項目
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