クラッシュテストとは衝突時の安全性を確認する為の実験のこと。様々な分野でクラッシュテストは行われているが、一般的に知られているのは自動車のもの。 以下の説明も特記が無い限りは自動車を前提としてすすめる。
概要
走行を想定し、人体を模したダミー人形を乗車させた車両をなんらかの物体に衝突させる。この衝突における車両の破壊及び変形の具合、ダミー人形が検知した衝撃、エアバッグなど安全装置の作動状況などを映像及びデータ記録器に記録し、それに基づいて安全性が判断される。
試験方法
試験方法は以下に記すが、国及び試験機関によって方法は異なる。
フルラップ正面衝突
正面から衝突させる試験で、車体正面が全面的にぶつかるもの。今でも基本的な試験の一つであり、日本やアメリカなどの公的機関で行われている。但し、実際の事故では全面的にぶつかる事故は稀であるので、この試験のみでは安全性を計るものさしとしては不十分であり、現在ではオフセット衝突とあわせて判断されることが多い。
オフセット正面衝突
正面衝突だが、衝突面をオフセット(ずれ)させたもの。実際の事故に多い正面衝突を想定し、運転席側を衝突させる。無理な追い越しなどによる正面衝突を想定しており、フルラップよりも起こりやすい。衝突時のエネルギーが片面に集中する性質があり、よって片面が著しく変形しやすい。
スモールオーバーラップ正面衝突
英語で書くと"Small Overlap"で、スモールオフセットとも言う。2012年よりIIHSで始まったテスト。運転席側の正面、横幅の1/4程度をバリアに衝突させるもの。オフセットよりもさらに狭い範囲にエネルギーが集中するので、力の逃がし方なり変形を抑えるなりの対処が必要。
多くの正面衝突では車両は相互に回避機動を行う為、衝突する場合はスモールオーバーラップのようになりやすい。これを踏まえて行われることになったのがこのテストである。
側面衝突
車両を模した物体を車両側面に衝突させるもの。大抵の車は側面がドアになっているため構造的に開放された部分があり、また正面衝突とは違いエネルギーを吸収させやすい出っ張りが殆ど無いのが特徴。物体と乗員との距離も極端に短く、車体の変形及びガラスの破片、車内に侵入した物体で乗員に加わるエネルギーが大きくなりやすい。
ポール側面衝突
電柱を模した頑強な棒状の物体に、車体側面を衝突させるもの。走行中に安定性を失った車両が、スピンしながら電柱などにぶつかる状況を想定している。概ね運転席ドア付近を狙ってぶつける。エネルギーが狭い線上に集中するので、集中する部分の変形が酷くなりやすい。
後面衝突
車両を模した物体を、車両の後部に衝突させるもの。信号待ちや、路上での故障による停車中に後部から車両が衝突する状況を想定している。車体の変形や乗員への加害性を調べる点では正面衝突と共通しているが、後面衝突の特徴としては乗員頚部の受傷度合いや燃料漏れの恐れを調べる点がある。
被試験車両は衝突される際に押し出されて急加速するが、中に乗っている人間は慣性力で停止しつづけようとするため、背もたれに押される胴体と頭部で加速度に差が生じやすく、この時に頚部を損傷しやすい。 また多くの乗用車では後部座席の直下または直後に燃料タンクがあり、衝突の衝撃で燃料タンクが損壊し燃料漏れを起こすことがある。
低速衝突
低速で物体に自動車を衝突させ、どの程度部品が損壊するかを調べる試験。後述するアメリカのIIHS(高速安全保険協会)が実施しているもので、保険料率の算定基準になる。
対歩行者衝突
歩行者を模したダミー人形に車両がぶつかるもの。歩行者とぶつかる場合は車両の損壊は軽度の場合が多いが、一方で歩行者が重傷又は死亡することは多い。自動車の歩行者に対する加害性を調べる為に衝突させることで、バンパーやボンネット、フロントガラスなどの加害性を調べる。
鞭打ち試験
その車両の座席を加速器に設置しダミー人形を座らせ、前方に急加速させて鞭打ちの恐れを確認する試験。座席が身体を支えるだけでなく、ヘッドレストの形状や機能が頭部を支えることも重要である。
この試験は適切な姿勢で着座し、ヘッドレストも適切な位置に調節して実施するので、実際の走行において極端に背もたれを寝かせたりヘッドレストの高さがあっていないと、試験どおりの安全性は見込めない。
評価要素
評価要素は幾つかのものがあり、要素に基づいて被試験車両の総合的な安全性が判断される。実際の評価に置いては以下に示す要素の中で、移動量や衝撃などさらに細かい評価要素がある。
運転席乗員(大人)の危険性
運転手がどの程度の損害を受けるかの評価。損害を低くする為にはシートベルト及びエアバッグの適切な作動、運転装置の変形による加害性を低めること、乗員室の生存空間が衝突で縮小するのを出来る限り抑止すること、衝突時に運動エネルギーを適切に分散吸収させることが必要。
子供の危険性
後部座席にチャイルドシートを用いて座る子供へ危険性の評価。チャイルドシートを介して車両に乗車しているので、まずチャイルドシートと車両が適切に固定されるかが重要となる。この評価を高める為に近年はシートベルトのみで固定するだけでなく、車体とチャイルドシートを専用の固定金具を用いて連結することも増えた。
歩行者の危険性
対歩行者衝突試験によって計測される、歩行者への危険性評価。衝突時にバンパー、ボンネット、フロントガラスとぶつかっていく過程でエネルギーを車体側が受け止めないと、車体と重量差がある歩行者は重大な受傷に到る。
近年の自動車ではボンネット中央部が膨らんでいるものが多いが、これは衝突時に歩行者が頑丈なエンジンにぶつかり、重大な受傷をしないための措置。エンジンヘッド部とボンネットの間に大きめの隙間を設けることで、それを多少でも回避しているのである。
試験機関
衝突安全性を試験するのは行政、準公共、民間の試験機関に分かれる。行政は車両の生産と販売の為の審査を目的とし、準公共と民間は消費者や保険会社などへの情報提供という側面から行われることが多い。
行政の試験を通ればその国で販売を行えるものの、試験内容は準公共や民間の方が評価項目が多岐に渡って行われており、市場評価を高くするためには準公共や民間の試験で高評価を得ることが欠かせない。よって自動車先進国のメーカーは、殆どが準公共や民間の試験でも高評価を得ることを重視する。
NHTSA
アメリカ運輸省の機関。後述するNCAPを始めたところで、今日でも彼らがアメリカのNCAPを行っている。NCAP以外にも自動車のリコールを公表するなど、組織としての性質は日本の国土交通省自動車局に近い。
道路安全保険協会(IIHS)
米名はInsurance Institute for Highway Safety。アメリカの損害保険会社による団体で、民間の試験機関。先述の低速衝突試験を実施している。保険会社への情報提供を主目的とするが試験内容は一般にも公表されており、消費者に対する情報提供という役割も担う。NHTSAとの違いを言えば、こちらの方が新しく厳しい試験を先んじて始めることがあること。先述のスモールオーバーラップもその一つである。
Top Safety Picks
IIHSは被試験車両の中で安全性が高いと認められたものを、Top Safety Pick(TSP)として紹介している。TSPには現在は二段階の評価があり、衝突安全性が高いものにはTSPが、それに加えて予防安全性も高いものにはTSP+が与えられる。
TSP/TSP+は車両カテゴリ毎に紹介されているが、相対評価ではなく絶対評価であり、一定の基準さえ満たせば同一カテゴリ何車種でも選ばれる。例えば2016イヤーモデル(2015年販売車種)のSmall Carでは12車種、同Midsize moderately priced carsでは14車種に、TSP又はTSP+が与えられている。
過去の揉め事
2009年に公表された試験結果で、安全試験上位に入る車のうちトヨタ車が0になったことが分かった。元々この年の試験は横転を想定した屋根の強度基準が見直されたため、「安全な車」と評価されたものが去年の98車種から27車種へと激減するなど、トヨタだけが厳しい評価を受けたわけではないという背景がある。一方でトヨタはこれに反論。実際に試験を受けた車両が、北米で販売するトヨタ車38車種中3車種に過ぎないなど、そもそも試験自体が正確性を欠き、誤解が先行することに対して懸念を示している。
「安全な車」が最も多かったのはフォードの6車種、フォルクスワーゲンとスバルが5車種でこれに続いた。
産経ニュース 2009年11月19日:トヨタの「安全な車」ゼロ 米保険調査、神話揺らぐ?
自動車事故対策機構(NASVA)
NCAP(JNCAP)を実施している日本の評価機関。独立行政法人。この法人が行っているのは評価基準の決定、評価にかける車両の入手、試験結果に基づく評価と公表、などである。衝突試験そのものは一般財団法人 日本自動車研究所(JARI)が行っている。
前身となるのは特殊法人の自動車事故対策センターで、2003年に現在の組織になった。
JNCAPが事業仕分けに遭う
JNCAPを実施する上記法人が事業仕分けに遭い、危うく潰されるところだった。
平たく言うと、仕分け人は型式認定で行われる衝突安全試験とJNCAPの区別が全くついていないので、両方一緒にしちゃえばいいじゃないかと思った、ということ。彼らは当然ながら、試験の立ち位置が異なることも理解していない。仕分け人からは「メーカーに車両を提供させろ」と、冥王星がレギュラーに復帰するぐらいの天地がひっくり返ったことを言ったとあるが、そこからも仕分け人の無理解が伺える。
またソースのレスポンスの関連記事によると、仕分け人は同車種3台を調達して試験をやるのも無駄だと考えているらしい。つまり民主党の意向としては、同じ車の前や横をぶつけろって事?。今の車は衝撃吸収構造だから、例えば横をぶつければモノコック構造の部位全体で衝撃を分散しつつ生存空間の変形を抑えようとするわけだが、それを今度は正面衝突にも使うの?。このような構造になっているために、一度ぶつけたら廃車同然の状態になるけど?。各衝突試験でなるべく正確な測定をするために複数のサンプルが必要なわけだが、一度衝撃を受けて変形したサンプルが別の試験に使えるとでも?。
仕分けの結論としてはJNCAPは存続、法人は型式認定を実施している交通安全環境研究所に統合とのことだが、JNCAPそのものの廃止を訴える声もあったそうだ。
ソース:[事業仕分け]5人が自動車アセスメントの存在価値を認めず
JNCAPに限らず自動車アセスメントの目的は、消費者に自動車の安全性について情報を提供するとともに、自動車メーカーにより高い安全性の確保を求めるというもの。そうであるにもかかわらず、ルーピークソ野郎が「国民の生活第一」とか抜かしている民主党によって危うく潰されるところだった。これでは防衛庁(当時)の予算申請を精査した、片山さつき主計官以下だ。民主党の奴らは、ハニカムバリアに頭を55km/hオフセット衝突すれば良いのではないだろうか。
Euro NCAP実施機関
ヨーロッパの自動車安全アセスメントである、Euro NCAPの実施機関。複数の機関が名を連ねており、これらの試験設備を用いてEuro NCAPの様々な試験を行っている。
試験実施機関一覧
- ADAC Technik Zentrum (ADAC技術センター、独)
- BASt (連邦高速道路研究所、独)
- TNO Science and Industry Business Unit Automotive (オランダ応用科学研究機構 蘭)
- UTAC (車両技術組合 仏)
- IDIADA AT (イディアダ・オートモーティブ・テクノロジー 西)
- Thatcham Research (サッチャム研究所 英)
- CSI (科学捜査研究所 認定試験機構 伊)
Euro NCAPメンバー
Euro NCAPを影で牛耳る謎の組織。先述の機関は単に試験を実施する傀儡に過ぎず、メンバーこそがEuro NCAPの本丸である。彼らの真の目的はまだ明らかになっていないが、交通事故による死者を減らす意図があると言われている。またメンバーとなる機関が所属するのは、フリーメーソンの活動やビルダーバーグ会議への参加が確認されている国々である。
ヨーロッパで事故による死者が減るとき、必ず彼らの暗躍があるようだ。
組織名 | 説明 |
ドイツ自動車連盟 (ADAC) |
日本で言うところのJAF。 ロードサービスなど、JAFと同じような業務を行っている他、 ヘリコプターを使ったパラレスキューも行っている。 黄色い車体・機体を使っているのが特徴。 |
ドイツ連邦国土交通省 (BMVBS) |
ドイツ連邦の交通や都市開発を所管する役所 |
イギリス運輸省 (DfT) |
イギリスで自動車交通を所管する役所。 かつてTop Gearに刺客(捨て駒)としてステファン・レディマン大臣を送り込んだ。 |
オランダ国土交通省 (V&W) |
オランダの国土交通省。 |
ルクセンブルク交通省 (Département des Transports) |
ルクセンブルグの交通所管省庁。 |
カタルーニャ自治政府 (Generalitat de Catalunya) |
スペインのカタルーニャ自治領を統治する政府。 |
国際消費者連盟 (ICRT) |
40か国の消費者団体が加盟する組織。 |
国際自動車連盟 (FiA) |
世界中で行われる世界トップクラスの自動車レースを牛耳る組織。 F-1を世界最大級の商業イベントに伸し上げ、また放映権料など資金も豊富。 |
スウェーデン交通省 (Trafikverket) |
下スェーの交通所管省庁。 |
自動車修理費用調査機構 (Thatcham) |
イギリス保険協会が作った修理費用や耐久性を調査する団体。 通称のサッチャムはこの組織が置かれている街から。 |
フランス環境省 (MEDDE) |
環境を担当する役所で、交通関係も所管しているらしい。 |
イタリア自動車倶楽部 (ACI) |
イタリアの非営利法人で、自動車レースを掌握しているようだ。 多分JAFみたいなもんだと思う。 |
NCAP
アメリカから始まった自動車の衝突安全評価方法。新型車を集めて片っ端からぶつけて安全性を評価するもので、世界各国の公共機関や準公共機関でこの試験方法が実施されている。
動画視聴上の注意
ニコニコではyoutubeなどにうpされているクラッシュテストの動画が多数転載されている。それに対し「この車かてぇwww」「うわ、だせぇ」など、車の潰れ具合によって様々なコメントがされている。ただこれらの動画を視聴する上で注意すべきは、大抵の動画には、本来あるべき試験評価の詳細が記述されていないこと。クラッシュテストの動画というのは添付資料の一つに過ぎず、動画だけで車の安全性を評価することはできないのである。
自動車アセスメントではダミーの部位ごとの受傷判定、車体の変形量などを細かく調べ、各種試験及び評価要素に応じて評価が付けられる。そしてそれらを総合して車両の安全性評価が下されている。よって動画だけを見ると安全性が高いように見えた車種が、試験評価を見るとそうでもないということもあるのだ。
車種名は隠すが、ある車のIIHSスモールオーバーラップテスト動画の話。その動画を一見すると、Aピラーの変形が少なく生存空間が確保されているように見えていた。しかし実際はバルクヘッド下部(前輪の後ろあたり)の変形量が大きく、またダミー下肢に大きめの受傷判定がなされていた。結果、その某車のスモールオーバーラップ評価と下肢受傷度はMarginal(可)であり、変形量に至ってはPoor(不可)であった。これを素人が動画だけを見て判断するのは無理ってもんである。案の定、ニコニコに転載された動画のコメントを見ると「さすがBMWだ」「かてぇwww」といった趣旨のコメントが散見されることになった。
この事例からも分かる通り。動画だけを見て「かてぇ」「よえぇ」「中あったけぇ」などと評価するのは、勘の良い人か専門家でもなければ意味がない。かといって、添付資料の一つである動画に、詳細な評価を全部盛り込めというのも無理な話である。ではどうすればよいか。それは一人一人が評価機関の詳細な資料を見るのが一番だろう。これまで紹介して来た評価機関は、いずれも公式サイトで試験評価資料を無料で公開している。できればニコニコ視聴で済ますのではなく、そこで評価の詳細を見た方が良いと思う。
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50年で自動車の安全性は飛躍的に向上した。
こちらは航空機のクラッシュテスト。
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関連項目
外部リンク
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