概要
透明な体と左右の翼足、ちょこんと生えた頭部の角に、体内に透けて見える橙色の器官が美しいクリオネは、殻の退化した泳ぐ巻貝の一種である。
カタツムリやミミズと同じ雌雄同体。体長は約0.5~3cm程度。ただし北極に近い地域では約7~10cmと、非常に大きいものが見られる(後述)。
クリオネという言葉はギリシア神話の文芸の女神クレイオーに由来し、ハダカカメガイ科のハダカカメガイ属のことを指す。この属は北極海、南極海から、大洋の寒流域にかけて棲息し、海面近くから深海数百メートルまで幅広く見られる。日本ではオホーツク海や太平洋のものが有名である。稀に寒流に乗って南下することもあるようだ。
その日本近海に生息する種として、ハダカカメガイ(Clione limacina)が主に見られる…と言われてきたが、北海道蘭越町貝の館と北海道立オホーツク流氷科学センターの学芸員の研究[1]によって北極海・大西洋の巨大な種と太平洋やオホーツク海南部の種が遺伝的に区別できることが分かった為、2020年現在は日本近海のハダカカメガイの学名はClione elegantissimaになっている。
なお、Clione limacinaは北極海の種の学名になり、その大きさからダイオウハダカカメガイという和名が新しく付けられている。まさかの大王である。その際の論文では他にも新種ダルマハダカカメガイが記載されている(後述)。
寿命は約1~2年とされているが、生態については未だ詳しいことがわかっていない状態である。あと何故かスーパー玉出で売られていることがある。
英語でもsea angel(海の天使)と呼ばれているが、これはクリオネに限らず浮遊する巻貝全般を指す言葉である。
ちなみに殻を持つ(裸ではない)カメガイという生き物もちゃんといる。
捕食
ふわふわと泳ぐ愛らしい姿からは想像も出来ないが、実はクリオネは肉食であり、ミジンウキマイマイ(Limacina helicina)という浮遊性の巻貝のみを食する。海中でミジンウキマイマイを見つけると接近し、頭部に格納されている6本の触手「バッカルコーン(口円錐)」を展開し捕獲、その養分をゆっくりと吸い取る…という恐るべき触手プレイ。実は見る者を怖がらせる獰猛な生き物なのだ。
ミジンウキマイマイの安定した入手が難しいため水族館でもクリオネの長期的な飼育は難しい。一応、冷凍ミジンウキマイマイでも食べてくれる場合もあるようだ。また、その代わりに飢餓に強く一生に食べる獲物の数はとても少ないとも言われる。
クリオネの方の天敵はというと、単なる動物プランクトンとしてヒゲクジラなど様々な生物に捕食されているらしい。人間が食べても不味い(ガソリンのような味[2]とのこと)ので、もし入手できても食べるのは推奨されない。
クリオネの仲間たち
ハダカカメガイ属は4種が知られており、後述するように日本で更に新たな種が見つかっている。
- Clione elegantissima ハダカカメガイ
日本近海などに棲息する、メジャーなクリオネ。上述した通り、ダイオウハダカカメガイと別種とされたことにより学名がClione limacinaではなくなった。なお、オホーツク海南部では時期によってサイズ・出現場所の違う2タイプのクリオネが現れるが、どちらもこのハダカカメガイ種であることが判明している[3]。 - C. limacina ダイオウハダカカメガイ
北極海・北大西洋に棲息する隊長10cm以上になることもある巨大なクリオネ。200年以上ハダカカメガイと混同されてきたが、新しく大王の名を授かった。ちなみにlimacinaはラテン語でナメクジを意味する。 - C. antarctica ナンキョクハダカカメガイ
南極海に棲息するクリオネ。南極にはミジンウキマイマイがいないのでその仲間Limacina rangiiを捕食する。自身は捕食から逃れるため、ある種の化学物質を体内で合成している。要するに毒持ち。 - C. okhotensis ダルマハダカカメガイ
2017年の論文で新たに記載された、オホーツク海に棲息する体長8mmほどの小型のクリオネ。種小名はオホーツク海にちなむ。
その他、2017年[4]に富山湾でハダカカメガイ属の新たな種が見つかっている[5][6]。日本固有種とみられるが、2020年5月現在まだ論文は出ておらず、学名や和名は付けられていない。
番外編
ハダカカメガイ属ではない、クリオネの仲間たち(裸殻翼足類)もここで一部紹介する。もちろん全て肉食である。
- Pneumodermopsis ciliata トヨオカハダカカメガイ
ニュウモデルマ科Pneumodermopsis属に属する。体長1.5cmほど。長い鰓を合わせて3枚持ち、頭の触角も長い。吸盤腕を持ち、中でも頭部の吸盤の内の2つが非常に発達しているのが特徴。日本では最初に兵庫県豊岡市の海で見つかったため、城崎マリンワールドの飼育員によってこの和名が付けられた。 - Cliopsis krohni タルガタハダカカメガイ
クリオプシス科クリオプシス属に属し、各大洋の温帯に棲息している。体長2.5cmほどで、バッカルコーンや吸盤腕は持たないが長い吻で獲物を捕らえる[7]。危険を察知すると頭部と翼足を体に収納し、球状に変形して身を守る。名前通り樽型体型なので「デブオネ」という愛称(?)がある。 - Paedoclione doliiformis イクオハダカカメガイ
ハダカカメガイ科だが別の属に分類されており、太平洋の温帯から冷水域に棲息し体長5mmほど。この種もミジンウキマイマイや近縁種のLimacina retroversaしか食べないとされる。和名の由来は、初めて日本・北海道で本種の撮影をした水中写真家の中村征夫氏から。愛称も「イクオネ」。以前はイクオハダカカメガイ科(現在のニュウモデルマ科)に分類されていたらしく、この古い分類と名称が残っているWebサイトが多数ある。 - Thliptodon akatukai ヒョウタンハダカカメガイ
同じくハダカカメガイ科だが別の属。体長8mmほどで、1950年に新種として論文が発表されたがその後長らく見つかっておらず、2009年に静岡県沼津市で再発見された「幻のクリオネ」。和名はその時に付いたもの。触角がとても短くドラえもんひょうたんや雪だるまのような体型。バッカルコーンは持たない。
クリオネ父さん
ニコニコ動画の内外において、政治家の細田博之を「クリオネ」、または「クリオネ父さん」と呼ぶことがある。
一見すれば物腰穏やかで無害そうな外見だが、主に民主党やその議員を捕食、もとい追求する際には政界有数の切れ者としての本来の姿を現し、カミソリのような切れ味鋭い論述をバッカルコーンの如く展開するところに由来している。
関連動画
お子様や心臓の弱い方は、クリオネに関するニコニコ動画を見る際には特にご注意ください。
そして、これが政治家の方のクリオネの捕食行動を捕らえた貴重な映像である。
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関連リンク
- new species of Clione distinguished from sympatric C. limacina (Gastropoda: Gymnosomata) in the southern Okhotsk Sea, Japan, with remarks on the taxonomy of the genus | Journal of Molluscan Studies | Oxford Academic - ハダカカメガイとダイオウハダカカメガイを別種とし、ダルマハダカカメガイを記載した論文。
- うみうし通信PDF(一部公開中) | 水産無脊椎動物研究所 - わが国近海に見られる浮遊性巻貝類-VIIにて、日本産のクリオネの仲間(ハダカカメガイ科を含む裸殻翼足類)が解説されている。
関連項目
脚注
- *オホーツク海で、氷の妖精「クリオネ」の新種が約100年ぶりに発見! - ニュース | たびらい
- *業界初! クリオネを食べるバーチャルYouTuber月ノ美兎 (1/2) - ねとらぼ
- *オホーツク海南部で見られる小さなクリオネと大きなクリオネの謎を解明 ~地球温暖化による海洋環境変化に対する生物の応答解明に期待~│研究成果│国立極地研究所
- *採集されたのは2016年
- *クリオネの新種を富山湾内の広範囲で発見|教育・研究活動|富山大学
- *クリオネの新種、富山湾で発見 世界5種類目、固有種か:朝日新聞デジタル
- *美しい海の浮遊生物図鑑(若林 香織, 田中 祐志) p66
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