「岳飛」(ガク・ヒ 1103 ~ 1141)とは、南宋時代の武将であり、女真族に蹂躙される中国大陸で連戦連勝の後に非業の死を遂げた事から、中国最高の「英雄の中の英雄」といわれる人物である。
岳飛「文臣銭を愛せず、武将死を惜しまざれば、天下泰平たらん 」
字(あざな)は「鵬挙」。
三國志11 | 統率 | 武力 | 知力 | 政治 | 魅力 | 特技 | 槍兵 | 戟兵 | 弩兵 | 騎兵 | 兵器 | 水軍 |
岳飛 | 95 | 91 | 78 | 31 | 98 | 洞察 | S | A | A | A | B | A |
概要
水滸伝の舞台でもある宋代末期から、女真族の国「金」の侵略を受け続けて「皇帝が万里の長城より北に連行される」と言う屈辱的な滅亡をした宋(北宋)に代わり、皇族で唯一難を逃れていた高宗が立てた南宋の武将として活躍したのが岳飛である。
農民出身ながら文武両道で、当時は官軍ですら当たり前のように行っていた兵の略奪を許さなかった事や、文民統制と周辺国への配金主義による弱腰外交から、中国の歴史上でも最も弱い軍隊と呼ばれる程の宋に対して、中国の歴史上でも五指に入る屈強な軍であった金を相手に連戦連勝を重ね、中国大陸の南部にまで侵攻した金軍を北宋の首都であった開封(北京)にまで撤退された手腕から、農民等の平民層に大変な人気を博した人物であり、且つ、その最期が、無実の罪で投獄され、過酷な拷問に対しても屈せずに処刑されたという非業の死を遂げた事もあって、現在の中国においては「英雄」と聞かれればまず第一に「岳飛」の名があがった後に、四川では諸葛亮の名が、台湾では鄭成功の名があがるといった英雄の中の英雄的存在となっている。
商売の神様として世界各地のチャイナタウンに廟が建てられている関羽と比べて、日本では非常にマイナーな人物ではあるが、中国での大人気の理由としては、
- 農民出身である事。(文武両道で書の達人でもあった)
- 部下や兵士に略奪を許さなかった事(当時は最弱軍隊ゆえに正規軍でさえ当たり前のように略奪していた)
- 漢民族による国家の歴史が続いた中で、異民族の女真族に中国大陸の北半分を制圧されるという状況下で大活躍した事。(漢民族同士が相手だった楽毅や白起、関羽、尉遅恭らより一歩前を行く)
- その最期が絶頂期の途中で非業の死を遂げた事。且つそれが皇帝ではなく対金和平派官僚の手によるものである事。
(同じく異民族の侵攻を防ぎ続けながらも、最高権力者の皇帝の猜疑心により殺された袁崇煥は、儒教的道徳から岳飛ほど持ち上げ辛い。また、岳飛と同時期に活躍した宋の名将・韓世忠は天寿を全うしている) - 岳飛を「莫須有(有ったかもしれない)」と言う理由で謀反の罪を着せ、非業の死に追い込んだ秦檜が天寿を全うしている事。(所謂、判官贔屓)
といった点があげられる。
そして非業の死の後に無実であった事が証明されると、名誉回復されて「鄂王」に封じられた後は、西湖のほとりには岳飛と共に処刑された養子の岳雲と共に祀られている「岳王廟」が建てられ、現在も多くの中国人が訪れている。
※岳王廟の岳飛と岳雲の墓の前には、秦檜夫婦ら岳飛を無実の罪で殺害した者達五人が後ろでに縛られて正座させられている像が、鉄の檻に入れられた状態で設置されており、通る人が唾を吐きかけたり、ゴミを投げつけたりする等、中国の「死後も罪が許されない」宗教観がよく解る場所でもある。
尽 |
忠 |
報 |
国 |
岳飛誕生
相川湯陰(河南省湯陰県)の貧農であった岳和の子に生まれ、誕生時に、一羽の白鳥が飛んだ事から「岳飛」と命名された。その後、早くに父を亡くして母の由氏の手で育てられ、亡き父の
国に殉じて義の為に死ぬ
と言う訓戒を胸に、若年にして「春秋佐氏伝」や「孫子」「呉子」等の書物を読み、様々な武芸を身に着けて、左右いずれでも強弓を扱えると言う文武両道の青年に育ち、母の手により背中に
尽忠報国
その頃の中国は、宋朝が水滸伝にも登場する8代皇帝徽宗の政治を顧みない姿勢が悪臣を朝廷にはびこらせ、文民統制であったがゆえに軍隊も弱く、女真族の国家である金に対する約束の不履行で首都開封を陥とされて、9代皇帝欽宗や多くの官僚・女官らが万里の長城を越えて連れ去られ、所謂「北宋」は滅亡し、皇族で唯一難を逃れていた徽宗の9男の趙構が即位して高宗となり、宋朝復興を目指した南宋がたてられ、金の傀儡政権がおかれていた開封も南宋に従うと言う混沌とした状況だった。
精 |
忠 |
岳 |
飛 |
無敵岳家軍
開封の防衛を担当していた老将軍宗沢の義勇軍に参加した岳飛は、農民の出ながら文武両道で武芸にも長け、書の腕も一流という「お前の様な農民がいるか」と言うチートぶりから、周囲から一目置かれる存在だった。
名将の宋沢が健在の間はおとなしくしていた金軍だったが、宋沢が死ぬと完顔宗弼を総大将に10万の大軍で南下を開始し、金陵(南京)にいた高宗は、難を逃れようと南へと逃亡し、果てには海上に逃げる有様だったが、高宗の後を追う金軍は広徳県にて良く統率された私兵集団に散々に打ち負かされ、中国の歴史上でも五指に入る強さと言われる金軍が、6戦して6敗すると言う事態に陥った。この私兵集団を統率していたのが岳飛である。
敵の大軍の中にあっても綱紀粛正に務め、略奪を許さなかった岳飛は民衆の支持を受けて、撤退しようとした完顔宗弼は宋の名将「韓世忠」の攻撃を受けて10万の金軍が8000の南宋軍に40日間も足止めされ、完顔宗弼は命からがらなんとか突破して逃れると言う事態にまで発展し、決定的な活躍をした岳飛は女真族から岳爺爺と呼んで畏怖した。
金軍が去った後に海上から戻ってきた高宗は、岳飛を武昌開国公都督大元帥に封じ、岳飛が江西地方の平定に尽力した後は、
精忠岳飛
と書かれた軍旗を与えて、岳飛の功績を称えた。
岳飛の兵は、宋代の軍の弱さの原因のひとつであった文民統制下の正規軍と異なり、同郷の者達による私兵集団が軍閥化し、「岳家軍」と呼ばれるようになった。
しかしこの頃、後に岳飛に最大の災厄をもたらす男「秦檜」が、連れらされていた金国から妻を連れて脱出し、帰国早々に宰相に任命され、金国の主戦派が敗れて和平派と交渉の余地が生まれた事で、開封を含む河南地方一体を金に譲渡するという条件で和約を実現しようとしていた。
朝廷では屈辱的な和約が結ばれようとしている時に、岳飛は江南地方で反乱勢力の討伐に邁進していたが、金国内部も主戦派が主流に返り咲いた為、再び完顔宗弼が軍を率いて開封を陥とし南下して朱仙鎮に至ると、岳飛と韓世忠が迎え撃って大勝し、連戦連勝で開封奪還も可能かと思われたが、四度の北伐も兵站が限界に達した事で開封に至る事は出来なかった。
その後、金の指導者で完顔宗弼の兄の完顔宗幹が亡くなると、再度和平への道が広がり、高宗も和平に傾いていた事から、秦檜により和平が進められ、同時に和平の邪魔になりかねない軍閥を解体し、高宗から「中興の武功第一」と称えられた韓世忠は、兵を解散させられた後に隠居して悠々自適な暮らしを始めたが、岳飛は奪回目前の河南の地を与えるばかりか莫大な賠償金を毎年払うと言う、秦檜が提示した和平の条件が有利な状況で平身低頭する事だった為、和睦に反対した上に兵の解散に同意せず、高宗が1日に12回も召還の為の金字牌を送った事で、10年以上もの間、金軍と戦って負け無しの状況だった岳飛は、無念の慟哭の後に都に戻って兵を解散させた。
天 |
日 |
昭 |
昭 |
莫須有
農民出身で、連戦連勝で、兵の略奪を許さない人柄がうけて民衆の支持を岳飛が集めていた事は、逆に張俊ら他の軍閥や文民統制を旨としてきた官僚達からは不興を買い、南宋の主戦派筆頭の岳飛が絶大な人気を誇っていた事は、金との和平を目指す秦檜にとっては頭の痛い問題だった。
ある時、妻と暖炉を囲っていた秦檜は、妻の王氏が暖炉の灰に書いた
虎を捕らえるは易く、放つは難し
と言う文字から、秦檜は、岳飛と養子の岳雲そして岳家軍の幹部の張憲を謀反を企んだとして捕らえて投獄し、無実の罪で捕らえられた岳飛は、謀反を企てていたと嘘の自白を強要されて拷問を受けたが、筆を持たされた際に、
天日昭昭(天は全て知っている)
と書いて拷問に最後まで屈しなかった。
岳飛が謀反の罪で捕らえられたと知った韓世忠は、秦檜に対して謀反の証拠があるのかを問いただしたが、秦檜は、
莫須有(あったかもしれない)
と答え、韓世忠は
莫須有(あったかもしれない)などと言う理由で天下を納得させる事が出来るものか
と非難した。
謀反の証拠が莫須有(あったかもしれない)と言う前代未聞の理由で投獄された岳飛は、最後まで嘘の自白を拒否し、結果、秦檜の指示で岳雲らと共に縄で首を絞められて殺され、38年の生涯を閉じた(享年39歳)。
「莫須有、千古の冤罪」と呼ばれる事件はこうして英雄の無惨な死により終わりを告げ、秦檜がとりまとめた屈辱的の条件での南宋と金の和睦が成立し、南宋は復興を遂げて、金を滅亡させたモンゴル帝国に滅ぼされるまで繁栄を謳歌する事になった為、秦檜の和平重視の策は間違っていなかったのかもしれないが、秦檜自身は評価されず、岳飛らの活躍のおかげとする場合が多い。
秦檜が存命中は反逆者の汚名を着せられていた岳飛だったが、秦檜が天寿を全うして亡くなった後に冤罪である事が証明されて名誉回復がなされて鄂王に封ぜられ、喜んだ民衆の寄付により朱仙鎮に岳王廟が立てられ、モンゴル帝国そして元の支配の中で岳飛の名は漢民族の誇りとして語り継がれていった。
※その他「岳飛」の詳細についてはWikipediaの該当記事参照
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